蝶たちの予感 **言葉より、キスより はじまりのストーリー**

深月 翠

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別つもの   1話

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 久しぶりの生家は、幼い頃から殆ど何も変わらない。白い門と小さな黄色い薔薇が絡まるアーチ。そこから玄関までの手入れの行き届いた道を歩くと、インターホンを押す前に連絡を受けいていた母親がドアを開けた。

「お帰りなさい、満さん」

 曇りのない笑顔。穏やかな声。部活帰りも、入試前で遅くなった塾の後も、大学のゼミの飲み会で帰りが深夜になろうとも、母は変わらずにこうやって八嶋を出迎えた。

 多少目尻の皺やほうれい線は目立ってきたものの、それでも同年代の女性と比べると若々しいと思う。美しい人だった。

 母親はいそいそと八嶋の手荷物を引き受けようとするが、重いからいいよと断った。

「まあ」

 何がおかしいのか母親は笑みを一層深め、

「満さんはいつも頼もしいのね」

 ひどく満足げに呟いた。

 一言断ってから、一旦自分の部屋に移動する。着替えを済ませ、あらかたの荷物を整理してからリビングに顔を出すと、母親がエプロン姿でお茶を用意していた。

「お父様がね、今夜は三人でゆっくりお食事しましょうって。いつものフレンチレストランでもよかったのだけれど、満さんが戻るのなんて久しぶりのことでしょう?だから今日は家で頂きましょうと言ったの。和食と洋食、どちらが食べたい?」

 八嶋はどちらでもという返事を呑み込んで、じゃあ洋食で頼むよ、と笑ってみせた。

『お母様ったら、あんなにお料理上手なのに、洋食の料理教室に通ってらっしゃるのよ。満さん、今度食べてあげて?とても喜ぶと思うわ』

 そんな近況が書かれたメールを送ったのは、幼なじみの月子だった。

 公共放送のドラマに出てくるような、絵に描いたような出来た母。塵一つ落ちていない廊下。リモコンや鍵、クッションなど、置き場所はいついかなる時でも決まっていて、花の絶えない家。

 この家に生まれ、育ち、長い時間を過ごしてきた筈なのに、何故か居心地が悪かった。
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