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別つもの 2話
しおりを挟む食卓には豪勢な料理が並んだ。
鶏肉には凝ったソースが添えられ、牛肉は薄く削がれて皿の上で薔薇のように盛られている。野菜は色鮮やかで美しくカッティングされており、フォークで崩してしまうのが惜しいほどだった。
「箸で食えるものを出せ」
父親は渋い顔をするが、まんざらでもなさそうに舌鼓を打っている。
「ああそうだ、お前。確か鮎川からいいワインが届いただろう。あれを開けてくれ。今日はお前も飲むといい」
「まあ、いいの?嬉しいわ」
父親が言い終えるより早く席を立つのもまた、見慣れた光景だった。
食事がすすみ、フルボトルのワインが半分になった頃、八嶋は自分の今後について触れた。
「籍を置かせてもらっている東京の研究室を辞めることした。今後は生活基盤を沖縄に移したいと考えているんだ。なるべく早い段階で」
父親は手にしていたグラスに一度口をつけると、暫くその縁を見つめてからゆっくりと卓上に戻した。
「大学院大学か。一体どれくらいの期間過ごすつもりだ?」
「…いや。あそこもしっかりした収入源にはならないから、除籍希望を出してるんだ。今は沖縄で正規の雇用を探して、骨を埋めるつもりでいる」
この言葉に、母親が顔色を変えた。だが真意を聞く勇気がないのだろう。夫と息子の顔を交互に見ながら、彼らの様子を窺っている。
「数年をそこそこの研究室で過ごし、箔が付いてから八嶋製薬に入社する予定だっただろう」
「そういう道もあるかも、とは考えてたけれど、決定事項ではなかったよ」
「お前はこの家の跡取りだ」
「勿論、二人に何かあれば面倒はみる。だけど会社は別だ。八嶋製薬は世襲制じゃないんだから。…それから」
八嶋はここで居住まいを正した。
「八嶋製薬の入社と同じように口約束でしかなかったけど。――月子との婚約を正式に破棄したい。文書による取り決めはない筈だけど、そこはしっかりと区切りをつけたいんだ」
そこでもまた母親は息を呑んだ。瞬きも忘れて息子の顔を凝視しているのは、何が彼にこのような決断をさせたのかを知りたいからなのだろう。
長く生きてきた人たちだ。八嶋が答えずとも、父親は察したようだった。
「女か。羽目を外して妊娠でもさせたか」
八嶋は苦笑し、否定と肯定の両方をやってのけた。
「清い関係だ。残念ながらね。俺はこの関係をとても大切にしたいんだ。だからたとえ親同士の決めた軽い約束だとしても、月子との関係にけじめをつけてから次に進みたいと思っている」
父親は酒を煽り、大きく息を吐いた。
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