新しい嫁探し?バツイチお父さんは娘の為に霊界で伝説になる。

ふなむし

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うちの子は贔屓目無しで一番可愛い

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5月中旬土曜日

時計で時間を何度も確認しながら天童康成てんどうやすなりは走っていた。

昔は野球部に所属、市の駅伝大会に出たこともあり体力に自信はあった。

だが康成はもう26歳である。昔は昔だ。

田舎ならでは消防団の飲み会、煙草、平日の暇な休みの日はパチンコ… 

大人になり悪い遊びを覚えてからは運動はからっきしだ

この歳での全力疾走はなかなか切ないのである。



「ハァハァ… あと何分だ?…」


時計は午前10時30分まであと5分


「ハアハア……あと5分…いけるか?」


今日は康成の娘、天童彩愛てんどうあやめの保育園生活発表会である。



「夜勤明け定時であがれてたらこんなに走る必要なかったぞ!クソ!」



康成は全力疾走した


「煙草やめるか?無理だ!ニコチンを体が欲してる!」



やめるやめると過去に何度も決意したが成功した試しがない。


「はぁー煙草吸いたい…」

一旦立ち止まり煙草に手を伸ばす。


しかし康成は頭の中で娘の生活発表会と煙草を天秤にかけていた


…………………………………………



康成は全力疾走した…







「ギリギリついた…」


HPの赤点滅の康成は保育園のホールへ向かい入り口側の隅に場所をとった



するとママ友やパパ友をかき分け1人の女性が隣りに並んだ



「お疲れ、夜勤明けなのに大変だったね。汗凄いよ」



40代前半程の女性はタオルを差し出すと康成は顔を拭いた



「ありがと母ちゃん、彩ちゃんの発表は?」



女性は天童棗てんどうなつめ康成の母である



「もうちょいかしら?3歳児クラスは確か……

ほらっ!来たわよ」


舞台袖から名前を呼ばれた園児が次々と出てくる


天童彩愛てんどうあやめさん!」


「はい!」


元気よく娘が舞台袖から出てきた



「母ちゃん!彩ちゃん出てきたよ!ビデオは!?カメラも!!」


「はいはい、パパはビデオをお願い私はカメラを担当するからさ」



ビデオカメラを渡された康成は背伸びをしながら娘の映る最高のポジションを探している



パパやママ達をものともせず前へ前へと進む

全ては娘を最高の状態でビデオにおさめるため


……………………………




「いやーやばいでしょう娘!最初出てきたとき一瞬あれっ?天使かな?って思ったわぁやばいわぁ」



無事に生活発表会も終わりお昼を少し過ぎた時間に康成は棗、彩愛と帰路についていた。



「パパ!あやちゃんね今日ね、でんぐりんがえしに体操頑張ったよ!先生もねみんな頑張ったねだって!」



「そうだね、彩ちゃんお遊戯頑張ってたもんね。えらいえらい。」



パパとばばと手をつなぎ彩愛は終始ご機嫌だった



「そういえば康成は今日どうする?蔵の片づけてをする予定だったろ?夜勤明けだし仮眠してからにするかい?」



「そうだな、軽く寝るかな、2時くらいから片づけてしまうかな明るいうちに済ませておきたいし

片づけてから彩ちゃんと風呂に入ってご飯食べてぐーすかぴーだわ」


「わかったよ。それじゃあ昼ご飯をちゃちゃっと作っちゃうな」


「うーい」


……………………………





軽食を済ませ康成は蔵の前に立ち煙草をふかしていた


「やっぱ食後の煙草は旨いわぁ

さてっ娘も昼寝中だしちゃちゃっと済ませましょうかね」


天童家には昔からある古い蔵がある

田舎の家にはまだ古い蔵がたくさんあり定期的に掃除をして風通しをしなければすぐにカビ臭くなり先祖代々からの物品が悪くなってしまう



蔵には古くからのものもあれば普段は使わないバーベキューセットや空気を抜いた浮き輪、スキーなどが所狭しと置かれている


「あー毎回片づけるたびに思うけど入り口側にぽいぽい物を置くと一度出さなきゃいけないし、しまうたびにちゃんと片づけておけば風通しするだけで良さそうなんだけどなぁ」


康成は片づけながら思うがどうしてもやる気スイッチが入らず

今度まとめて片づければよいでしょと考えてしまう。


「この段ボールはなんだ?おぉ!親父のエロ本こんなところにあったか

これはこっちの影になる場所に隠してと…

なんか古いエロ本ってカビ臭いけど隠れて呼んでる感があってなかなか良い物だ」


康成はエロ本でさえ最高の状態で読みたいのだ



片づけもあらかた終わり時間も午後4時を過ぎようとしていた。


「んーようやく片づいたかな?

あとはこのスキーをどこにしまうかな?」


康成が周囲を見渡すと棚の上にちょうど良いスペースを見つける


「届くかな?よいしょいっと」


足場を探し棚の上に手を伸ばすと康成の不安定な足場が崩れだした


「!?うわっ!」

足場を失った康成は棚に掴まろうとすると棚も古く歪んでいたのか康成側へと倒れこんできた


ガッシャン!バターン!



棚から割れ物が落ち棚自体も倒れてしまった


「はい…やらかしたーどうすんのこれ?

あーやる気スイッチ切れたわーってか完全にやる気スイッチ壊れたわー

修理不可、カスタマーセンターに電話しても対応できませんよ」



やる気スイッチが切れた康成は死んだ魚のような眼で立ち尽くしていた



「あーいやー、もうやんだおら、ん?なんぞこれは?」



倒れた棚の奥には1メートル程の小さな扉があった


「うわっこれはジャパンホラー的にあかんやつだ、絶対あけたらなんか出てくるぞ。間違いないね、ホラー映画マイスターの私がいうのだから

確率でいったら洋画ホラーの最初にいちゃついてるカップルの死亡率くらいの高さだよ?」


ちらっ


そんなことをいっても康成は人間であり男の子である


いまだに中学校の同窓会に行くと「康成は変わったのは見た目だけで中身は全然成長してねーな」と中学校時代に一緒に悪戯や悪さをした久しぶりにあった智之に言われたくらいである



同窓会で先生はびっくりしていた

あの狂犬の智之が今では保育園の先生だ

しかも結婚していて子供が2人

奥さんは有名企業の社長令嬢だ


智之の変わり様は同窓会では同級生七不思議の一つになっている



智之の話は後日に持っていくとして



2回目だが康成は男の子である。

今、目の前の扉の中身が気になってしょうが無い



「さすがにお化けや幽霊はないだろ?

なんか家宝とかそんなもんだって

でも槍に刺された妖怪とかいたらどうしよ…

おらワクワクしてきたぞ」



康成は扉に手を伸ばしゆっくりと開けた


中は暗く蔵の中の電球だけでは見えなかった


康成は蔵の入り口に置いてある懐中電灯をつけ、再度中を確認すると





四角い形の蓋が閉まっている井戸があった。




………………………………




「んー井戸?……………………………やばいわ!!

ジャパンホラーの中でもナンバーワンのやばさだわ!

ぷんぷん危ない香りだわ!

違うし!危ない香りぷんぷんだわ 


でも…まぁ…」



康成は男である





木の蓋を開けると中には梯子がかかっていた


中を照らすと水は無く土が見えるだけだった



「まぁこんなもんでしょ…はぁ…がっかりさせやがって」


内心どきどきだったが蓋を開ければ何もなく拍子抜けした康成は井戸のふちに座り



「まぁまぁホラーマイスターの私的には80点は上げても良いでしょう

扉に井戸の二重演出、あとは少し幸の薄そうなヒロインでもいれば完璧でしたね

次回に期待しますよ。ホッホッホ」



フラグである


「さてっ、俺この片づけてが終わったら娘とお風呂に入るんだ」


フラグである




バキ!


「ん?」



唐突な浮遊感


井戸の木製の渕が壊れた音だった


井戸に座っていた康成はひっくり返るように井戸に落ちていった



「うわっーーー!!」


康成は突然のことに焦り目をつぶると走馬灯のように娘、同級生、消防団のおっちゃんたち、智之の顔が浮かんで来たのであった。




いくら時間が立ったのか数分か数瞬か



康成は若干の浮遊感と地に足がつく感触を感じていた


「ナイス着地?目をつぶってたからわかんなかったけどフラグ回収終了でしょ。

あー焦ったわー。よし!帰ろっと」


康成が梯子を使い井戸を上ると外は明るかった



蔵の中ではなかった


カビ臭い香りではなく爽やかな草木の香りが鼻をくすぐった



井戸を出ると蔵ではなかった


次に家でもなかった


井戸の周りは草原だった


「わーお…」








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