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勝手に子供は育たない
しおりを挟む1時間もしないうちに広場には天狗族を中心に鬼人族が囲む形ができていた。
森からも子供や女性陣が戻って来ており、村や家の片付けに追われていた。
天狗族の前には甚平を先頭に華凛、康成が並んだ。
「まずは自己紹介をしましょうか?私はこの鬼人族の村の長をしています。甚平といいます」
「俺は父ちゃんの娘の華凛だ!」
「甚平さん?俺は何て紹介したら良いんだ?人族でいいか?」
「そうですね……彼はまだ……一応人族の康成君です」
「人をなんだと思ってるんだ!?」
「嘘だ!そんなデタラメな人族がいるか!」
康成に気絶させられ失禁してしまった天狗族の男は悪夢のような光景を思い出し納得のいかない顔で叫んだ。
「あっ!?捻るぞ?」
「すみませんっした!こいつには良く言っておきます!すみません!すみませんっす!」
ドゴッ!
天狗族の長と名乗る女の子は男の頭を地面に叩きつけ、男は再度意識を手放した。
「夜も遅いですし、そろそろあなた達の事をお話いただいてもよろしいでしょうか?」
「お騒がせして申し訳ないっす……始めに私の名前は天狗族長、羽歌うたと言うっす。この度は殺されても仕方がない私達の為に弁論する機会を頂けて感謝するっす……」
は、今回の鬼人族村の襲撃の理由について語りだした。
「私のお父さんが去年の春まで族長をしてたっす。北の山では畑や狩りが生活の基盤でした。ただ、その前の年から寒い日が多くなって、不作が続いて食べ物あまり取れなくなってしまったっす……山の天候も安定しなくて狩りもなかなかできず……」
「食料不足が原因でしたか……」
「それだけなら多分どうにかできたはずっす……でも……でも、里で流行り病が広がって若者がかかることは少なかったっすが……近所のおじいちゃんやおばあちゃんがどんどん病にかかって……お父さんもとうとう病気になってしまったっす……」
インフルエンザみたいなものか……
「抵抗力や体力のある若いのは多分感染しても自力で治してしまったんだろ。年寄りや栄養不足で体力の落ちた大人が一気に感染したんだな?」
「私達は心配しなくても良いから近寄らないで狩りに行きなさってよく言われたっす。獲物が少なくてとれない日は、よく木の実を食べてたっす……」
野菜のとれないことによるビタミン不足で尚更抵抗力が落ちたんだな……
コイツらは少ない木の実で腹を満たして、知らないうちにビタミンを摂取できていたのか……
「お父さんも病で辛いはずなのにずっと原因を考えていて、体を引きずってまで身寄りのいない病人を看病してたっす……でも、とうとう動けなくなって……最後は……」
「亡くなってしまったと……それでも何故あなたが族長を?他の大人は居なかったのですか?」
「もともと小さな村だったっす。大人達もどんどん倒れて……病が治まった時にはもう私達しか残って居なかったっす……」
天狗族を見ると確かに若い。
小さい子なら10代前半、年上でも20歳には届いていないといったところか?
「他の部族に助けを求めなかったのですか?」
「当然求めたっす!同じ天狗族に助けを求めたら、病がうつるから村に来るな!って断られたり、他にも不作はどこも同じでこれ以上分ける食料はないと断られたっす。」
「誰もあなた達を保護しようと思わなかったのですね……」
「それでもみんなを死なせる訳にはいかないっす。お父さんの代わりに私が族長としてみんなを守る必要があったっす……」
「それでここに?」
「本当は襲いたくなかったっす……でも、誰も私達を助けてくれない……みんな元気だし、病なんかになってないのにちょっと小汚ないっすけど……意地悪してるんだって思ったっす……ここに来たのも本当に最後だったっす。立派な森があって気候も穏やか、きっと沢山の食料があるはずだ。でも今までみたいにお願いしてもお金もない私達はきっと断られる。でも限界だったっす……今日、偵察で立派な猪を狩ったのを見て……」
「襲撃したと……」
「はい……っす……」
そこまで話すと口数も少なくなり周りの天狗族からもすすり泣く声が聞こえた。
まだまだ若い、社会も知らない彼女らは、急に大人が居なくなってしまい、不安だらけの中、1年近く自分たちで精一杯生きて行こうと考えて来たのだろう……
精一杯努力して……
精一杯考えて……
精一杯強がって……
これ以上家族を亡くすのは嫌だ。
みんなで生き残るんだ。
一致団結で頑張ろうなんて簡単な言葉では済まされない、彼女達の生きるための努力が見えた。
それも限界が来た。
子供は積み木で家を建てる。
建築の方法を知らないから。
子供は砂で料理を作る。
材料の調理方法がわからないから。
子供だけでは野菜は作れない。
子供だけでは大きな猪を狩ることはできない。
子供だけでは安心する場所を作れない。
子供には教える大人が必要だ。
大人が料理を教える。
大人が畑の耕しかたを教える。
大人が家を建てる。家族の為に。
それが大人と子供の違い。
子供の限界。
彼女達は指導者を失ってしまった。
生きる為に必要な事を教えてくれる指導者がいないのだ。
「最後にこの村を選んでくれて良かった。」
「えっ?」
「まだあなた達に教える事ができる。あなた達を導く事ができる。子供達の間違いを正し、指導するのは私達大人の仕事です」
「でも……私達はこの村の住人じゃないっす……それに沢山迷惑をかけたっす……」
「確かに怪我をした者もいます。しかし、誰も死んではいない。死人がいないのならそれは戦ではありません。ケンカです。子供の悪戯にしては少し度が過ぎますがね」
「でも……」
「それにあなた達には拒否権が存在しません。ケンカに勝ったのは私達なのですからね。皆さんはどうでしょうか?ここまで話を聞いてこの子達を追い出せと言う者はいますか?」
甚平が周りに声をかけると反論するものはいなかった。
「それではこの天狗族の子達を傘下に入れるのではなく村の子供として受け入れます。子供を立派に育てるのは私達大人です。皆さんよろしくお願いします。」
甚平が周りの鬼人族へ頭を下げると、「任せろ!」、「お前らは俺らの子供だ!」「立派な大人になるまで逃げるなよ!」と沢山の激励や賛同の声があがった。
羽歌は頭を下げると大粒の涙を流した。
「ありがとうございます……お父さん里を守れなくてごめんなさい……私達良い子にできなくてごめんなさい……これからみんなでがんばるっす……立派な大人になるっす……」
子供のように大声で泣く羽歌を甚平は涙が枯れるまで優しく抱き締め続けた。
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