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第06話:シャルル・ド・ヴァロワ7世
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シャテル=シュル=モセルを数日前に後にした俺たちは
トロアへと近づいていた。
「トロアは丁度中間地点にあたると思います。抜ければパリへと続きますが…」
ゆるやかな丘陵地帯が続く道を、俺とバシリアの二人は淡々と馬を進めていた。
春の風は冷たく、空は広く澄んでいる。
だが、風に紛れて、ときおり 焦げたような金属の匂い がするのが気にかかっていた。
「……戦の匂いですね」
バシリアが馬上で目を細める。
「この辺り、そんなに治安悪いのか?」
「フランス軍とブルゴーニュ軍の小競り合いが年中起きます。今は特に――」
バシリアが言い終える前に、風切り音 が聞こえた。
次の瞬間。
丘の向こうから、怒号と金属音が爆発するように響いた。
「何だ!?」
「戦闘です!」
馬を止めるより早く、丘上から馬が一頭、無茶な角度で滑り降りてきた。
冑や紋章をつけていない。護衛らしき兵も五、六名。
その後ろを、弓兵と槍兵が追ってくる。
「やべぇ……本物の戦だ!」
「アニェス様、追っているのはイングランド兵のようです」バシリアにイングランド兵と呼ばれた一団は30名程度に見えた。
また、逃げる者には一人だけ身なりの良い人物がいて守られているようだ。
明らかに“普通の貴族”ではない雰囲気を放っていた。だが、荒い息で、髪は乱れ、ひどく疲労しているように見える。
そして俺たちを見つけると、護衛のひとりが怒鳴った。
「そこな者! 退避せよ! ここは――」
だが言葉は最後まで続かなかった。
イングランド兵の矢が護衛の喉を射抜いた。
「っ……!」
倒れる護衛。その背後から迫る数名の敵兵。
身なりの良い男の馬も射られ、馬はフライング土下座のように倒れこみ投げ出されている。
そして、標的を失わぬように、槍を構えた一兵が 身なりの良い男へと突進していく。
「バシリア!」
「わかっています!」
バシリアが|馬<<オンブル>>を跳ばす。
俺は地面に跳び降りると同時に、胸元のタガーを抜く。降りた方が馬より早く動けるからだ。
投げ出された男が、首を振りつつ起き上がる。無事のようだ…だが、イングランド兵が迫っている。
槍兵が男を突こうとした瞬間――
俺は横合いから、槍の柄を下から思い切り叩き上げた。
「ぐっ!?」
体勢が崩れた敵兵の首へ、バシリアが迷いなく一閃。
血飛沫が春風に散った。
ほかの兵も襲いかかってくるが、バシリアを捉えることが出来ないでいる。
低い姿勢で、兵士の剣や槍を躱し、すれ違いざまに、喉、肘、膝を一瞬で切り裂き、動けなくしていく。
呆然と立ち尽くす身なりの良い男。
身なりの良い男が、地にいるため、双方が下馬しイングランド兵が取り囲むような隊形をとる。
また、突然現れ邪魔をした俺たちに対しては、二人かと思い油断してはいるようだが…少し様子がおかしい。
なんか仲間内で話し始めている。
「なんだあの服装は」
「当然現れたぞ」
「魔女?」
「天使かもしれない」
恐れと戸惑いが見える。
「どうしますか」とバシリアが近づき耳元で囁く。
「貴方たちはいったい…誰だ」
包囲という形になり、間が空いたため、身なりの良い男が誰何してきた。
イングランド兵ではないが…俺の一瞬の動きなど目で追えるものではない、この男にも突然現れたように見えたことだろう。この時代だ、神か悪魔かとでも思われるに違いない。衣装も性別も小っちゃさも疑念の余地がなかろう…つっと、汗が頬を伝う…
「お困りのようでしたので、ご助力いたします」
「貴方たち…」
「ご助力いたします」
「あな…」
「ご助力いたします」
「…」
おお、バシリアが押し切った。
この隙に俺は、チャンスとイングランド兵へと突進する。余計なことを聞かれる前にことを片づける。
行き成り、小柄で紐いっぱい、リボンいっぱい、フリルいっぱいの服を着た、美貌の少女がタガー片手に目に見えぬ速度で接近する様はいかほどか。イングランド兵が恐慌に陥るのに時間は掛からなかった。
イングランド兵の振り回す剣を避け、弾き。確実に刃を沈め倒していく。
数秒後には、包囲したイングランド兵は全て地面に転がっていた。
タガーを一振り、刃に付いた血を払うと胸元の鞘に納める。
追われていた者たちに目を向けると、イングランド兵と同様に、怯え恐れを抱く目を俺に向けていた。
「できれば。何も見なかったことにして欲しい」と言葉を投げかけ、バシリアに合図して去ろうとした。
「…待ってくれ」
身なりの良い男にかけられた声に振り向く。
(……強い)
武の強さではない。魔力の質でもない。
もっと別の、“集団を率いる者に備わる強さ”の匂い。
過去、“あの世界”で数多の王や将を見てきた。
その中でも、ほんの一握りしか持ち得なかったあの気配――。
俺はゆっくりと近づき、男を見上げた。
「なるほど。あなたが……シャルル七世、か」
ざあ、と森の風が揺れた。
護衛たちがどよめき、剣を半ば抜きかける。
「……なぜ、そう思う?」
シャルルが問う。声は静かだが、隠せぬ驚きがある。
しかし、その奥には“見抜かれた”と悟った者特有の諦観がある。
アニェスはわずかに肩をすくめた。
(理由?説明するのは難しいんだが……そうだな)
「王は貴方以外のどなたでもありません。“天啓”です」
本当は違う。
勇者として鍛えられた感覚――
個の強さではなく、国家の命運そのものを背負う“格”を読み取っただけだ。
だがこの時代でそんなことを言えば、また厄介な誤解を生む。
バシリアはアニェスの横にそっと寄り、周囲の警戒を続けながら小声で囁いた。
「アニェス様……言い方が完全がジャンヌです」
「……そ、そうなの?」
小さく漏らすと、シャルルは静かに微笑んだ。
「天啓、か。――ジャンヌも、初対面で同じことを言ったよ」
その名を聞いた瞬間、俺の全身の血が逆流したように熱くなる。
ジャンヌ・ダルク。
彼女を救うために、今俺はここを旅しているのだ。
「……あなたは、どうしてこんな場所に?王がこんな少人数で」
問いかけると、シャルルは数歩だけ進み、道の先を示した。
「場所を変えよう。ここでは話せない。君たちに……頼みたいことがある」
護衛からざわめきが起こる。俺も驚いている
王ともあろうものが俺に頭を下げているのだ。王が頭を下げるというのは、本来ありえない。
バシリアが俺の前に出る。
「アニェス様。軽々しく応じるのは危険です」
「大丈夫だ。分かるだろ?この人、悪人じゃない」
「……はい。ですが、周囲の者はそうとは限りません」
バシリアの鋭い視線を受けながら、男は小さく頷いた。
「あなたの従者も、こちらの事情はわからないでしょう。近くに廃教会があります。そこなら兵にも見られずに済む。束の間だが、安全です」
その声に、どこか切迫した焦りが混じる。
俺たちは頷き、王に続いた。
***
俺たちは、朽ちた古い教会跡へ案内された。
天井は崩れ、ステンドグラスは砕け、苔が石を覆っている。
しかし護衛が周囲を警戒しており、密談には格好の場所だった。
シャルルは外套を払い、石の祭壇に手をついた。
「我はフランス王シャルル。ジャンヌのお陰で“勝利王”とも呼ばれている」
「そなた、名は……?」
「アニェス、アニェス・ソレルだ。」
シャルルはその名に、一瞬だけ反応した。
(……聞いたことがある、という顔だな)
アリスが動いている以上、“アニェス”という名がどこかで出ても不思議ではない。
だが、今は追及してくる様子はない。
「アニェス殿、そして従者殿…この件、どうか……他言無用とされたい…」
シャルルは言葉に迷いながら、しかし静かに続けた。
「ジャンヌの件で、ブルゴーニュと極秘に交渉していた。だが宮廷には彼女を異端とする者、イングランドとの講和を叫ぶ者の声が大きくなり、私は公には動けん。身代金(1万リーブル)で彼女の開放もままならなかった。だから影武者をブルージュに置き、私が非公式に動いた」
「……でも、イングランドに察知された?」
「その通りだ…いや…追手の中にブルゴーニュ兵もいた。最初から嵌められたようだ」
深く息をつき、自嘲するように目を閉じる。
シャルルは一瞬、先ほどの襲撃者の死体を思い返すように視線を落とした。
「あなた方がいなければ、私は今ごろ命を失っていた」
「で、俺たちに何を頼みたい?」
シャルルは真剣な目で俺を見つめる。
「彼女を救える者を……私は周囲に置けなかった。信用できる者が、もういない。だから自ら動いたが……この有り様だ」
護衛たちが悔しげに眉を下げる。
シャルルは俺へ歩み寄り、静かに言った。
「君たちを見て、決めた。――ジャンヌを救えるのは、君たちしかいない」
教会に、言葉が重く落ちた。
バシリアがこちらを見る。
“どうしますか?”と無言で問う視線。
…見た目少女で、どう考えても異端で不審な俺たちに重要な秘密を話し、頭を下げる。ジャンヌという前例があり、俺にも感じるものがあるのだろう。流石は人の上に立つものという事か。愚鈍ではない王には好感が持てる。
俺はしばらく、黙った。
「……俺たちに、その役目を?」
「これは、王としての命令ではない。シャルルとしてのお願いだ」
シャルルは片膝をつき、俺を見上げた。
「どうか――ジャンヌを救ってくれ」
沈黙が落ちる。
俺はシャルルへ向き直り、静かに言った。
「……ああ。状況は理解した。だがひとつだけ言っておく」
「何だ?」
「今からやるのは救出作戦じゃない。奪還だ。命がけのな」…下手するとルーアンがこの世から消えるという意味だがな。と心の中で思った
シャルルは数秒黙り、そして深く頷いた。
「……頼む」
廃教会の暗がりの中で、
歴史の影に隠れた“非公式の契約”が結ばれた瞬間だった。
シャルルの顔に、わずかな安堵が浮かぶ。
こうして――
アニェスとシャルル七世の運命的な出会いは
やがて歴史を揺るがす決断へとつながっていくのだった。
「アニェス様…それは二重契約です」バシリアのぼそっとした声が聞こえた…
トロアへと近づいていた。
「トロアは丁度中間地点にあたると思います。抜ければパリへと続きますが…」
ゆるやかな丘陵地帯が続く道を、俺とバシリアの二人は淡々と馬を進めていた。
春の風は冷たく、空は広く澄んでいる。
だが、風に紛れて、ときおり 焦げたような金属の匂い がするのが気にかかっていた。
「……戦の匂いですね」
バシリアが馬上で目を細める。
「この辺り、そんなに治安悪いのか?」
「フランス軍とブルゴーニュ軍の小競り合いが年中起きます。今は特に――」
バシリアが言い終える前に、風切り音 が聞こえた。
次の瞬間。
丘の向こうから、怒号と金属音が爆発するように響いた。
「何だ!?」
「戦闘です!」
馬を止めるより早く、丘上から馬が一頭、無茶な角度で滑り降りてきた。
冑や紋章をつけていない。護衛らしき兵も五、六名。
その後ろを、弓兵と槍兵が追ってくる。
「やべぇ……本物の戦だ!」
「アニェス様、追っているのはイングランド兵のようです」バシリアにイングランド兵と呼ばれた一団は30名程度に見えた。
また、逃げる者には一人だけ身なりの良い人物がいて守られているようだ。
明らかに“普通の貴族”ではない雰囲気を放っていた。だが、荒い息で、髪は乱れ、ひどく疲労しているように見える。
そして俺たちを見つけると、護衛のひとりが怒鳴った。
「そこな者! 退避せよ! ここは――」
だが言葉は最後まで続かなかった。
イングランド兵の矢が護衛の喉を射抜いた。
「っ……!」
倒れる護衛。その背後から迫る数名の敵兵。
身なりの良い男の馬も射られ、馬はフライング土下座のように倒れこみ投げ出されている。
そして、標的を失わぬように、槍を構えた一兵が 身なりの良い男へと突進していく。
「バシリア!」
「わかっています!」
バシリアが|馬<<オンブル>>を跳ばす。
俺は地面に跳び降りると同時に、胸元のタガーを抜く。降りた方が馬より早く動けるからだ。
投げ出された男が、首を振りつつ起き上がる。無事のようだ…だが、イングランド兵が迫っている。
槍兵が男を突こうとした瞬間――
俺は横合いから、槍の柄を下から思い切り叩き上げた。
「ぐっ!?」
体勢が崩れた敵兵の首へ、バシリアが迷いなく一閃。
血飛沫が春風に散った。
ほかの兵も襲いかかってくるが、バシリアを捉えることが出来ないでいる。
低い姿勢で、兵士の剣や槍を躱し、すれ違いざまに、喉、肘、膝を一瞬で切り裂き、動けなくしていく。
呆然と立ち尽くす身なりの良い男。
身なりの良い男が、地にいるため、双方が下馬しイングランド兵が取り囲むような隊形をとる。
また、突然現れ邪魔をした俺たちに対しては、二人かと思い油断してはいるようだが…少し様子がおかしい。
なんか仲間内で話し始めている。
「なんだあの服装は」
「当然現れたぞ」
「魔女?」
「天使かもしれない」
恐れと戸惑いが見える。
「どうしますか」とバシリアが近づき耳元で囁く。
「貴方たちはいったい…誰だ」
包囲という形になり、間が空いたため、身なりの良い男が誰何してきた。
イングランド兵ではないが…俺の一瞬の動きなど目で追えるものではない、この男にも突然現れたように見えたことだろう。この時代だ、神か悪魔かとでも思われるに違いない。衣装も性別も小っちゃさも疑念の余地がなかろう…つっと、汗が頬を伝う…
「お困りのようでしたので、ご助力いたします」
「貴方たち…」
「ご助力いたします」
「あな…」
「ご助力いたします」
「…」
おお、バシリアが押し切った。
この隙に俺は、チャンスとイングランド兵へと突進する。余計なことを聞かれる前にことを片づける。
行き成り、小柄で紐いっぱい、リボンいっぱい、フリルいっぱいの服を着た、美貌の少女がタガー片手に目に見えぬ速度で接近する様はいかほどか。イングランド兵が恐慌に陥るのに時間は掛からなかった。
イングランド兵の振り回す剣を避け、弾き。確実に刃を沈め倒していく。
数秒後には、包囲したイングランド兵は全て地面に転がっていた。
タガーを一振り、刃に付いた血を払うと胸元の鞘に納める。
追われていた者たちに目を向けると、イングランド兵と同様に、怯え恐れを抱く目を俺に向けていた。
「できれば。何も見なかったことにして欲しい」と言葉を投げかけ、バシリアに合図して去ろうとした。
「…待ってくれ」
身なりの良い男にかけられた声に振り向く。
(……強い)
武の強さではない。魔力の質でもない。
もっと別の、“集団を率いる者に備わる強さ”の匂い。
過去、“あの世界”で数多の王や将を見てきた。
その中でも、ほんの一握りしか持ち得なかったあの気配――。
俺はゆっくりと近づき、男を見上げた。
「なるほど。あなたが……シャルル七世、か」
ざあ、と森の風が揺れた。
護衛たちがどよめき、剣を半ば抜きかける。
「……なぜ、そう思う?」
シャルルが問う。声は静かだが、隠せぬ驚きがある。
しかし、その奥には“見抜かれた”と悟った者特有の諦観がある。
アニェスはわずかに肩をすくめた。
(理由?説明するのは難しいんだが……そうだな)
「王は貴方以外のどなたでもありません。“天啓”です」
本当は違う。
勇者として鍛えられた感覚――
個の強さではなく、国家の命運そのものを背負う“格”を読み取っただけだ。
だがこの時代でそんなことを言えば、また厄介な誤解を生む。
バシリアはアニェスの横にそっと寄り、周囲の警戒を続けながら小声で囁いた。
「アニェス様……言い方が完全がジャンヌです」
「……そ、そうなの?」
小さく漏らすと、シャルルは静かに微笑んだ。
「天啓、か。――ジャンヌも、初対面で同じことを言ったよ」
その名を聞いた瞬間、俺の全身の血が逆流したように熱くなる。
ジャンヌ・ダルク。
彼女を救うために、今俺はここを旅しているのだ。
「……あなたは、どうしてこんな場所に?王がこんな少人数で」
問いかけると、シャルルは数歩だけ進み、道の先を示した。
「場所を変えよう。ここでは話せない。君たちに……頼みたいことがある」
護衛からざわめきが起こる。俺も驚いている
王ともあろうものが俺に頭を下げているのだ。王が頭を下げるというのは、本来ありえない。
バシリアが俺の前に出る。
「アニェス様。軽々しく応じるのは危険です」
「大丈夫だ。分かるだろ?この人、悪人じゃない」
「……はい。ですが、周囲の者はそうとは限りません」
バシリアの鋭い視線を受けながら、男は小さく頷いた。
「あなたの従者も、こちらの事情はわからないでしょう。近くに廃教会があります。そこなら兵にも見られずに済む。束の間だが、安全です」
その声に、どこか切迫した焦りが混じる。
俺たちは頷き、王に続いた。
***
俺たちは、朽ちた古い教会跡へ案内された。
天井は崩れ、ステンドグラスは砕け、苔が石を覆っている。
しかし護衛が周囲を警戒しており、密談には格好の場所だった。
シャルルは外套を払い、石の祭壇に手をついた。
「我はフランス王シャルル。ジャンヌのお陰で“勝利王”とも呼ばれている」
「そなた、名は……?」
「アニェス、アニェス・ソレルだ。」
シャルルはその名に、一瞬だけ反応した。
(……聞いたことがある、という顔だな)
アリスが動いている以上、“アニェス”という名がどこかで出ても不思議ではない。
だが、今は追及してくる様子はない。
「アニェス殿、そして従者殿…この件、どうか……他言無用とされたい…」
シャルルは言葉に迷いながら、しかし静かに続けた。
「ジャンヌの件で、ブルゴーニュと極秘に交渉していた。だが宮廷には彼女を異端とする者、イングランドとの講和を叫ぶ者の声が大きくなり、私は公には動けん。身代金(1万リーブル)で彼女の開放もままならなかった。だから影武者をブルージュに置き、私が非公式に動いた」
「……でも、イングランドに察知された?」
「その通りだ…いや…追手の中にブルゴーニュ兵もいた。最初から嵌められたようだ」
深く息をつき、自嘲するように目を閉じる。
シャルルは一瞬、先ほどの襲撃者の死体を思い返すように視線を落とした。
「あなた方がいなければ、私は今ごろ命を失っていた」
「で、俺たちに何を頼みたい?」
シャルルは真剣な目で俺を見つめる。
「彼女を救える者を……私は周囲に置けなかった。信用できる者が、もういない。だから自ら動いたが……この有り様だ」
護衛たちが悔しげに眉を下げる。
シャルルは俺へ歩み寄り、静かに言った。
「君たちを見て、決めた。――ジャンヌを救えるのは、君たちしかいない」
教会に、言葉が重く落ちた。
バシリアがこちらを見る。
“どうしますか?”と無言で問う視線。
…見た目少女で、どう考えても異端で不審な俺たちに重要な秘密を話し、頭を下げる。ジャンヌという前例があり、俺にも感じるものがあるのだろう。流石は人の上に立つものという事か。愚鈍ではない王には好感が持てる。
俺はしばらく、黙った。
「……俺たちに、その役目を?」
「これは、王としての命令ではない。シャルルとしてのお願いだ」
シャルルは片膝をつき、俺を見上げた。
「どうか――ジャンヌを救ってくれ」
沈黙が落ちる。
俺はシャルルへ向き直り、静かに言った。
「……ああ。状況は理解した。だがひとつだけ言っておく」
「何だ?」
「今からやるのは救出作戦じゃない。奪還だ。命がけのな」…下手するとルーアンがこの世から消えるという意味だがな。と心の中で思った
シャルルは数秒黙り、そして深く頷いた。
「……頼む」
廃教会の暗がりの中で、
歴史の影に隠れた“非公式の契約”が結ばれた瞬間だった。
シャルルの顔に、わずかな安堵が浮かぶ。
こうして――
アニェスとシャルル七世の運命的な出会いは
やがて歴史を揺るがす決断へとつながっていくのだった。
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