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第08話:イル=ド=フランス
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道がゆるやかに登り、丘の稜線へ馬を進めたとき――
灰色の空を裂くように、二本の塔が突き出していた。
「アニェス様、パリが見えました」
「……あれが、パリ」
パリの城壁は、他の都市とは違った。
巨大な弧を描き、視界の端から端まで石の防壁が続いている。
その向こうには尖塔の森。
ノートルダム大聖堂の二つの塔が、冬の空に黒々と浮かび上がり、まるで街全体が祈りの手を空へ突き上げているようだった。
街を囲むセーヌ川は濁流となり、木製の橋で城門へ繋がっている。
橋の上には隊商、騎士、修道士、農民、行商の列が蛇のように続き、兵がひとりひとりを検めていた。
アリスの立てた旅程はこうなっている。
ヴォージュ→シャテル=シュル=モセル→トロア→パリ→ルーアン
ヴォージュで火炙りにされ、シャテルでルティエに襲われ、トロア手前でシャルル王に会い、トロアで掴まった…
「波乱万丈ですね」
「そんなの求めていない」
「たぶんそういう運命なのだと思います」
「…否定できないのが辛い。なあ、バシリア」
「なんでしょう」
「パリに寄るのやめないか?」
バシリアが俺の目を見る…
「......」
「......」
「お嫌なのですね」
「お嫌なのです…嫌な予感しかしない」
バシリアが口元に指を当て考えるように瞑目する。
「たいへん申し訳ありません…パリで人に会う約束がありまして…」と申し訳なさそうに頭を下げる。
「人?」
「はい、結社の方です」
「……そうか…わかった。行こうパリへ」
オロオロと申し訳なさそうにするバシリアが居た堪れなかった。
道を進む俺とバシリアは、濃い外套と帽子を深くかぶり、正体を悟られぬように馬を引いて歩く。
トロアでの騒動を思い返し、俺は胸元に手を当てた。
「……今回は、目立つわけにはいかない」
「ええ。アニェス様は“目立ちすぎる”のですから」
「誰のせいだよ」
「天使のように光ったアニェス様のせいです」
「やめて…」
バシリアが無表情のまま言うので、俺は顔をそむけた。
1431年パリ
戦乱の最中とはいえ、パリは大都市だった。
城壁は厚く、塔が林立し、門の前には荷車、修道士、旅商人で列が続いている。
だが、緊張は重い。
イングランド支配下となり、フランス王党派が潜んでいるとみなされる者への取り締まりが厳しくなっていた。
「検問、厳しそうだな……」
俺の言葉に、 バシリアが列を見て呟く。
「でもトロアほどじゃなさそうです。ここは“金の流れる街”。行商人のふりをすれば通れます」
そして俺たちの番が来た。
兵士が外套姿の俺たちを見て、手短に言う。
「荷物の中身を。身分は?」
「トロアからの旅商いです。布と香辛料をパリで売る予定で」
俺は、バシリアが用意してくれた革袋を差し出す。開けば、羊皮紙に包んだ香草の束と布切れ。
兵士は鼻を近づけ、内容を確認し、淡々とうなずいた。
「ふむ……怪しい者ではないな。入れ」
俺たちは顔を見合わせた。
(……通れた)
トロアの地獄のような検査を思い出すと、これが夢のようだった。
***
門を越えると、空気が変わった。
パンを焼く香り、教会の鐘、商人の叫び声、子どもの笑い声。
だが同時に、路地裏からは憲兵の怒号、異端審問の黒衣、重苦しい緊張も漂っていた。
「誰に会うんだ?」
「アリス様のお仲間……ジャンヌ・ド・ブリグ様です」
「何者なんだ」
「今を知る魔女です」
「今?」
「はい」
いまいち要領を得ないので小首を傾げる。
「セーヌ北側の、昔は修道院だった廃教会に身を潜めているはずです」
アリスが残してくれた地図を頼りに、俺たちは薄暗い路地を歩いた。
廃教会は、かつての祈りの場の面影をかすかに残していた。
ステンドグラスは半ば割れ、風が吹けば瓦礫がかすかに鳴く。
しかし中には――
ゆらりと揺れる燭台の光と、人影がひとつ。
灰色の髪。
バシリアの話によると、パリで1391年に魔女裁判にかけられ、火刑にあったはずの女。
だが不思議と、幼いとも老いているともつかない、時間の外にある雰囲気。
「……アリスの子?」
「ご無沙汰しております」
「んー、バシリアね、サラは一緒じゃないの」
「別件で動いております」
「そうなんだ、残念ね。でそちらが…」
柔らかい声が俺に向けられた。
俺は外套を脱ぎ、軽く頭を下げた。
「アニェス・ソレルと申します。あなたが、ジャンヌ・ド・ブリグ……?」
「昔はそう呼ばれていたわ。今は“ただの灰”よ」
彼女は薄く笑い、俺とバシリアを前に手招きした。
***
ジャンヌは椅子に腰を下ろし、俺たちを静かに見据える。
「ふぅん……聞きたいことは山ほどありそうね?」
「失礼ですが貴方は?」
「世界を見渡す目を持っているわ。あと、ちょっとした未来視の予言」
「…アリスとの違いって」
「彼女は過去から未来、多岐のアカシックレコードに触れるわ。私は現在の事象がメインなの」
「縦軸と横軸の違いみたいな?」
「んーまあ、そんな感じかな」
「ジャンヌ様、情勢をお聞かせください」
バシリアに頷くと簡易な地図を机に広げ、語りだした。
「んー。まずはこの街、パリね――とても不穏よ。
異端審問官が増え、人々は怯え、
“救いを求める声”が地下でうごめいている」
彼女は手のひらをかざし、空気に触れるようにして言った。
「ルーアンはもっとひどいわ。
火刑の煙が街を覆い、
フランス王党派を探して毎日誰かが引かれ、“あの娘”の影に怯えている」
俺は息を呑む。
「“あの娘”?……ジャンヌ・ダルク?」
「そう。彼らは聖女の影を恐れているの。
だからこそ、ポトン・ド・ザントライユのような男を捕らえて“仲間を炙り出そう”と思っているわ」
「ポトン・ド・ザントライユ!………誰それ?」
バシリアがコッソリ小さな声で教えてくれる。
「ジャンヌ・ダルクの狂信者です」
俺はポトン・ド・ザントライユの名を覚えようとするが、聞いたこともない人物なので、ピンとこない。
ジャンヌは、俺の目をじっと見つめる。
「あなたの力を感じてたわ……。
強さね、ただの戦いの力だけじゃない。
世界を変える力……。
だから、話をしようと思ったの」
俺はうなずく。
「そして、面白いように歴史を書き換えていく。
シャルル七世に会ったわよね…
犯罪者を倒し、被害を受けるはずだった者が生き続ける。ジャンヌの救出のこともそう」
彼女の言葉に吸い込まれる、流石魔女だ魅了してくれる。
ジャンヌは視線を街の方に向け、低くつぶやく。
「街はね、鎧と恐怖で縛られている。
でもあなたたちが来たことで、少し……希望が動いたかもしれない」
バシリアは俺の肩に小さく触れ、目配せする。
“ここでの行動は慎重に”という意味です。
「俺は今、ジャンヌ・ダルクを助けるために動いている」
「ジャンヌは、死ぬことで永遠に歴史を変える人物。他の英雄や聖人を助けるのとでは歴史に対する影響度が圧倒的よ。わかってる?」
「貴方は、アリスの仲間なのですよね?」
ジャンヌはジッと俺を見て。そうねと言った。この件はアリスの身内でも色々な考えがあるようだ。
「では、話を続けましょうか……。」
ジャンヌは目を閉じた。
“見える”能力を使う時だ。
「一つ、聞かせてちょうだい。
アニェス……お前は何を探している?」
「……戻らなければならない場所への道です。
ですが…今は零れ落ちさせてはいけない命を護る事です」
ジャンヌは微笑む。
「よろしい。では、見てあげよう」
彼女の瞳がゆっくり開かれ、その奥にまったく別の光が宿った。
冷たい洞窟のようであり、星空のようでもある目。
「――見えたよ。
ジャンヌは…神の言葉に耳を傾けすぎるきらいがあるね…
普通に助けることは叶わなそうだ。アニエスあなたの言葉も届かないかもしれない」
「じゃあ力づくで…」
「それで解決するならいいけどね…」
「だめですか?」
「うん、だめだね」
「では、どうすれば?」
「ポトン・ド・ザントライユの言葉なら多少は聞くかもしれないね」
「先ほどのジャンヌの狂信者と言う人ですか?」
「まあ、間違ってはいないけど。本人の前では言わないようにね」
「…そうですね」
「…先ずはポトン・ド・ザントライユを助け一緒に行くと良いかもしれないね」
「将を射んとすれば先ずは馬からですね」
「…ま、まあ、そんな感じ?」
「わかりました、助けましょう」
「…ずいぶんと…即断だね…」
「…そうですね…なんか助けるなら時間がない気がして」
「ほう…流石だね。
ポトン・ド・ザントライユは……“まだ折れていない”。
だが時間はない。
お前はきっと救い出すだろうね。
天から落ちた白い火よ。」
(俺のことか? 天から落ちた……?)
ジャンヌは淡々と続けた。
「ポトン・ド・ザントライユは、ジャンヌ・ダルク救出に失敗しイングランドの手にある。丁度今はバスティーユで一時的に囚われている」
「バスティーユ?監獄ですか?」
「アニェス様、バスティーユは要塞です」
俺の知識では監獄だが、今は要塞らしい。
「バスティーユ内の見取り図を書いておいたから。役立ててね」
「それって、結構な軍事機密…」
「私が火刑にあった理由の一つだ、私の目は隠したいものも隠せないからね。不都合な人が多いんだ」
それとといって、ジャンヌは立ち上がり、俺に古い羊皮紙も渡した。
「パリを抜けるなら、この地下道を使いな。
昔、火刑の灰から逃げるために掘られた“生き残りの道”だ。
今でも一部は使える」
羊皮紙には、古い修道院から続く隠し通路の印が描かれていた。
「さあ、行きなさい。
ポトン・ド・ザントライユは――待っているよ。
あの男は、誰よりも強いが、誰よりも仲間を欲している」
アリスの仲間である魔女は、最後にそっと俺の手を取った。
「アニェス。
お前の道はひどく険しい。
だが……“光”はまだ消えていないよ」
俺は静かにうなずいた。
「行って来ます」
そういって、俺とバシリアは廃教会を後にする。
微かに見送るジャンヌの囁きが聞こえた気がした…
「…貴方がそのままジャンヌの役を引き継ぐという方法もあるんだよ」
灰色の空を裂くように、二本の塔が突き出していた。
「アニェス様、パリが見えました」
「……あれが、パリ」
パリの城壁は、他の都市とは違った。
巨大な弧を描き、視界の端から端まで石の防壁が続いている。
その向こうには尖塔の森。
ノートルダム大聖堂の二つの塔が、冬の空に黒々と浮かび上がり、まるで街全体が祈りの手を空へ突き上げているようだった。
街を囲むセーヌ川は濁流となり、木製の橋で城門へ繋がっている。
橋の上には隊商、騎士、修道士、農民、行商の列が蛇のように続き、兵がひとりひとりを検めていた。
アリスの立てた旅程はこうなっている。
ヴォージュ→シャテル=シュル=モセル→トロア→パリ→ルーアン
ヴォージュで火炙りにされ、シャテルでルティエに襲われ、トロア手前でシャルル王に会い、トロアで掴まった…
「波乱万丈ですね」
「そんなの求めていない」
「たぶんそういう運命なのだと思います」
「…否定できないのが辛い。なあ、バシリア」
「なんでしょう」
「パリに寄るのやめないか?」
バシリアが俺の目を見る…
「......」
「......」
「お嫌なのですね」
「お嫌なのです…嫌な予感しかしない」
バシリアが口元に指を当て考えるように瞑目する。
「たいへん申し訳ありません…パリで人に会う約束がありまして…」と申し訳なさそうに頭を下げる。
「人?」
「はい、結社の方です」
「……そうか…わかった。行こうパリへ」
オロオロと申し訳なさそうにするバシリアが居た堪れなかった。
道を進む俺とバシリアは、濃い外套と帽子を深くかぶり、正体を悟られぬように馬を引いて歩く。
トロアでの騒動を思い返し、俺は胸元に手を当てた。
「……今回は、目立つわけにはいかない」
「ええ。アニェス様は“目立ちすぎる”のですから」
「誰のせいだよ」
「天使のように光ったアニェス様のせいです」
「やめて…」
バシリアが無表情のまま言うので、俺は顔をそむけた。
1431年パリ
戦乱の最中とはいえ、パリは大都市だった。
城壁は厚く、塔が林立し、門の前には荷車、修道士、旅商人で列が続いている。
だが、緊張は重い。
イングランド支配下となり、フランス王党派が潜んでいるとみなされる者への取り締まりが厳しくなっていた。
「検問、厳しそうだな……」
俺の言葉に、 バシリアが列を見て呟く。
「でもトロアほどじゃなさそうです。ここは“金の流れる街”。行商人のふりをすれば通れます」
そして俺たちの番が来た。
兵士が外套姿の俺たちを見て、手短に言う。
「荷物の中身を。身分は?」
「トロアからの旅商いです。布と香辛料をパリで売る予定で」
俺は、バシリアが用意してくれた革袋を差し出す。開けば、羊皮紙に包んだ香草の束と布切れ。
兵士は鼻を近づけ、内容を確認し、淡々とうなずいた。
「ふむ……怪しい者ではないな。入れ」
俺たちは顔を見合わせた。
(……通れた)
トロアの地獄のような検査を思い出すと、これが夢のようだった。
***
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パンを焼く香り、教会の鐘、商人の叫び声、子どもの笑い声。
だが同時に、路地裏からは憲兵の怒号、異端審問の黒衣、重苦しい緊張も漂っていた。
「誰に会うんだ?」
「アリス様のお仲間……ジャンヌ・ド・ブリグ様です」
「何者なんだ」
「今を知る魔女です」
「今?」
「はい」
いまいち要領を得ないので小首を傾げる。
「セーヌ北側の、昔は修道院だった廃教会に身を潜めているはずです」
アリスが残してくれた地図を頼りに、俺たちは薄暗い路地を歩いた。
廃教会は、かつての祈りの場の面影をかすかに残していた。
ステンドグラスは半ば割れ、風が吹けば瓦礫がかすかに鳴く。
しかし中には――
ゆらりと揺れる燭台の光と、人影がひとつ。
灰色の髪。
バシリアの話によると、パリで1391年に魔女裁判にかけられ、火刑にあったはずの女。
だが不思議と、幼いとも老いているともつかない、時間の外にある雰囲気。
「……アリスの子?」
「ご無沙汰しております」
「んー、バシリアね、サラは一緒じゃないの」
「別件で動いております」
「そうなんだ、残念ね。でそちらが…」
柔らかい声が俺に向けられた。
俺は外套を脱ぎ、軽く頭を下げた。
「アニェス・ソレルと申します。あなたが、ジャンヌ・ド・ブリグ……?」
「昔はそう呼ばれていたわ。今は“ただの灰”よ」
彼女は薄く笑い、俺とバシリアを前に手招きした。
***
ジャンヌは椅子に腰を下ろし、俺たちを静かに見据える。
「ふぅん……聞きたいことは山ほどありそうね?」
「失礼ですが貴方は?」
「世界を見渡す目を持っているわ。あと、ちょっとした未来視の予言」
「…アリスとの違いって」
「彼女は過去から未来、多岐のアカシックレコードに触れるわ。私は現在の事象がメインなの」
「縦軸と横軸の違いみたいな?」
「んーまあ、そんな感じかな」
「ジャンヌ様、情勢をお聞かせください」
バシリアに頷くと簡易な地図を机に広げ、語りだした。
「んー。まずはこの街、パリね――とても不穏よ。
異端審問官が増え、人々は怯え、
“救いを求める声”が地下でうごめいている」
彼女は手のひらをかざし、空気に触れるようにして言った。
「ルーアンはもっとひどいわ。
火刑の煙が街を覆い、
フランス王党派を探して毎日誰かが引かれ、“あの娘”の影に怯えている」
俺は息を呑む。
「“あの娘”?……ジャンヌ・ダルク?」
「そう。彼らは聖女の影を恐れているの。
だからこそ、ポトン・ド・ザントライユのような男を捕らえて“仲間を炙り出そう”と思っているわ」
「ポトン・ド・ザントライユ!………誰それ?」
バシリアがコッソリ小さな声で教えてくれる。
「ジャンヌ・ダルクの狂信者です」
俺はポトン・ド・ザントライユの名を覚えようとするが、聞いたこともない人物なので、ピンとこない。
ジャンヌは、俺の目をじっと見つめる。
「あなたの力を感じてたわ……。
強さね、ただの戦いの力だけじゃない。
世界を変える力……。
だから、話をしようと思ったの」
俺はうなずく。
「そして、面白いように歴史を書き換えていく。
シャルル七世に会ったわよね…
犯罪者を倒し、被害を受けるはずだった者が生き続ける。ジャンヌの救出のこともそう」
彼女の言葉に吸い込まれる、流石魔女だ魅了してくれる。
ジャンヌは視線を街の方に向け、低くつぶやく。
「街はね、鎧と恐怖で縛られている。
でもあなたたちが来たことで、少し……希望が動いたかもしれない」
バシリアは俺の肩に小さく触れ、目配せする。
“ここでの行動は慎重に”という意味です。
「俺は今、ジャンヌ・ダルクを助けるために動いている」
「ジャンヌは、死ぬことで永遠に歴史を変える人物。他の英雄や聖人を助けるのとでは歴史に対する影響度が圧倒的よ。わかってる?」
「貴方は、アリスの仲間なのですよね?」
ジャンヌはジッと俺を見て。そうねと言った。この件はアリスの身内でも色々な考えがあるようだ。
「では、話を続けましょうか……。」
ジャンヌは目を閉じた。
“見える”能力を使う時だ。
「一つ、聞かせてちょうだい。
アニェス……お前は何を探している?」
「……戻らなければならない場所への道です。
ですが…今は零れ落ちさせてはいけない命を護る事です」
ジャンヌは微笑む。
「よろしい。では、見てあげよう」
彼女の瞳がゆっくり開かれ、その奥にまったく別の光が宿った。
冷たい洞窟のようであり、星空のようでもある目。
「――見えたよ。
ジャンヌは…神の言葉に耳を傾けすぎるきらいがあるね…
普通に助けることは叶わなそうだ。アニエスあなたの言葉も届かないかもしれない」
「じゃあ力づくで…」
「それで解決するならいいけどね…」
「だめですか?」
「うん、だめだね」
「では、どうすれば?」
「ポトン・ド・ザントライユの言葉なら多少は聞くかもしれないね」
「先ほどのジャンヌの狂信者と言う人ですか?」
「まあ、間違ってはいないけど。本人の前では言わないようにね」
「…そうですね」
「…先ずはポトン・ド・ザントライユを助け一緒に行くと良いかもしれないね」
「将を射んとすれば先ずは馬からですね」
「…ま、まあ、そんな感じ?」
「わかりました、助けましょう」
「…ずいぶんと…即断だね…」
「…そうですね…なんか助けるなら時間がない気がして」
「ほう…流石だね。
ポトン・ド・ザントライユは……“まだ折れていない”。
だが時間はない。
お前はきっと救い出すだろうね。
天から落ちた白い火よ。」
(俺のことか? 天から落ちた……?)
ジャンヌは淡々と続けた。
「ポトン・ド・ザントライユは、ジャンヌ・ダルク救出に失敗しイングランドの手にある。丁度今はバスティーユで一時的に囚われている」
「バスティーユ?監獄ですか?」
「アニェス様、バスティーユは要塞です」
俺の知識では監獄だが、今は要塞らしい。
「バスティーユ内の見取り図を書いておいたから。役立ててね」
「それって、結構な軍事機密…」
「私が火刑にあった理由の一つだ、私の目は隠したいものも隠せないからね。不都合な人が多いんだ」
それとといって、ジャンヌは立ち上がり、俺に古い羊皮紙も渡した。
「パリを抜けるなら、この地下道を使いな。
昔、火刑の灰から逃げるために掘られた“生き残りの道”だ。
今でも一部は使える」
羊皮紙には、古い修道院から続く隠し通路の印が描かれていた。
「さあ、行きなさい。
ポトン・ド・ザントライユは――待っているよ。
あの男は、誰よりも強いが、誰よりも仲間を欲している」
アリスの仲間である魔女は、最後にそっと俺の手を取った。
「アニェス。
お前の道はひどく険しい。
だが……“光”はまだ消えていないよ」
俺は静かにうなずいた。
「行って来ます」
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