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第17話:シャルトル
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パリ→シャルトル → ル・マン → レンヌ →カンペール→ ドゥアルネネ湾
約600キロの旅程だ…今度もずいぶん遠い。
徒歩で計算すると約130時間だ…マジか。
「ペトロナさん、短縮する方法…なんか有りませんか?」
俺はいきなり挫折した。というか時間が掛かりすぎてアリスたちのことが心配だ。
ペトロナは頬に人差し指を当てて考えるそぶりを見せるが、最後は首を横に振った。
いっそ俺が全員抱えて走ろうかと言ったら。
皆して俺を見て首を振った。
一番小さい俺が、女性とはいえ、3人抱えられるはずはないという意思表示だ。
俺は意地になって、やってみなければ……とやってみたが…
「痛い痛い」
「重いです」
「無理です無理です」
と言われ、瓦解し、4人して手と膝を地につけたorz。
「では、こうしましょう。
イングランド軍の馬を徴収しましょう」とペトロナが提案した。
ようは盗む、奪うという意味だ。
俺はジャンネットを見る。俺を見返すと首を縦に振った…
ジャンネット的に、その行為はイングランドに対する抵抗運動にあたり問題ないとのことだった。ただ、なるべく盗むみたいなのは無しでと言われた。
***
俺たちは獲物、コホン。もとい、イングランド軍弱体のための作戦に出ることにした。
街道哨戒中の8名のイングランド兵が正面から来るのを認めると街道脇に隠れる。
気づかれぬように俺たちは後をつけると、暫くして小川の有る広場に差し掛かる。イングランド兵は馬を川に連れて行き、兵士たちも小休止するようだ。干し肉などをかじり始めている。
俺が、詠唱を始めると、晴天にゴロゴロという嫌な音を伴う黒い雲が広がり始めた。
局所的に熱を奪った寒気と熱で膨張させた上昇気流を作り出し、水と寒気で生成した氷の粒を上昇気流で摩擦させ雷を生成させる。
馬は耳を立て落ち着かなくなり、いななき始める。
兵士たちは、急いで馬に戻ってなだめようとするもの、中には十字を切っているものもいた。
俺はそこで、詠唱を完了させる。小声で《サンダー》。
指向的に正電荷を誘導した雷を地表へと向ける。
近すぎず遠すぎず、だが足元に響くような轟雷を伴った雷を落とす。
馬が暴れ始め、兵士の制御もままならず、兵士の手を離れて街道へと全ての馬が同じ方向に逃げ出した。
「やった」
俺たちは、頷きあった。
俺は、バシリアを抱き上げ馬を追う。
馬の横に追いつくと先ずバシリアを馬に飛び乗らせる。俺も他の馬に飛び乗る。
「どうどう…」
暴れる馬に翻弄されるが。俺は力任せに従わせ。首を撫でて落ち着かせる。
「アニェス様。上手くいきましたね」
「おうよ」
バシリアも上手く手懐けたようだ。
兵士たちに出会わないように迂回し、ジャンネット、ペトロナの下へと戻った。
これで、二頭の馬に分乗し旅を始められる。
「ジャンネット。馬を“助けて”きたよ」
と盗みでないことを強調して言うと、クスリと「そうですね」と笑われた。
***
神の声を聞いたジャンネット―ジャンヌ・ダルク―は、シャルルに会うためにヴォクルールからシノンまでの約500キロを、11日で踏破したらしい。
シャルル王の妃マリー・ダンジューの母でアンジュー公ルイ2世妃のヨランド・ダラゴンの支援があったらしいが、馬を乗り継ぎ、夜通し走らせた強行軍だったらしい。
俺とバシリアの旅も色々あったが、ルーアンへ20日程度で着いたから、ドゥアルネネ湾へはその間くらいでなんとかしたい。
もうアリスとサラには無事でいてくれと願うだけだ。
ペトロナと俺、バシリアとジャンネットで分乗し、馬を走らせる。
疲れたら交代する。馬は場合によっては、先ほどと同じことを繰り返し行う予定だ。馬も走り疲れると動けなくなる。あまり可哀想なことはしたくはない。
「今後の問題は食料ですね」
ペトロナが心配そうに呟く。
ルーアン以降、俺たちは着の身着のままな感じで旅を続けている。
路銀はあるのだが、街や村でもイングランドの目が厳しく、物資の購入がままならなくなっていた。
それにしても…この白いゴシックドレス…全然汚れず驚きの白さを維持している。汚れたのはトロアからの脱出で泥天使になった時くらいだ。
バシリアの黒のゴスロリメイド服も綺麗なままで、驚くことにペトロナの破れていたゴスロリメイド服も直ってきているように見える。
聞けば、魔女の…ってどうせ言われるし、それも悔しいから聞かないことにしている。
「このまま進み、出来れば明日中にシャルトルに着きたいと思っています。
シャルトルは宗教都市であり、交易都市です。
それに、シャルトルはフランスの勢力圏になっていて、治安維持は司教領があったているため、穏やかで治安のよい街のはずです」
「宗教都市?この格好でも大丈夫か?」
「………き、きっと…」
自信ないんですね…
***
翌日、馬を休ませつつ仮眠をとった後、馬を進めること数時間、シャルトルはまだ彼方だというのに、平野に突き立つように尖塔が見えてきた。
春の靄の中で青い光を抱くように立ち、
遠くからでもただならぬ気配を放っている。
「シャルトル大聖堂です」
ペトロナがささやく。
黒いメイド服の袖口が、馬上で静かに揺れる。
俺が生まれた時代より、600年も前の建築物だというのだから驚かされる。さらに建築が始まったのは1145年というからおよそ900年前だ。
隣の馬では、バシリアが目を細めて空を見ていた。
「光が……青く見えますね。聖母の息、みたいです」
ジャンネットは、バシリアの背に腕を回したまま黙って塔を見つめている。
城壁が近づくにつれ、街のざわめきが風にのって届いてきた。
パンの焼ける香り、染物の湿った匂い、
聖歌のような鐘の音が、丘の上から微かに降りてくる。
やがて城門前の広場が見えた。
検問の列はあるが、空気は張りつめていない。
兵士たちの視線はどこか倦んでおり、
通行人は怯えることなく順番を待っている。
トロアのような刺々しさは、ここには無い。
ただ――
俺たち四人の服装が列から少し浮いているのは、自覚している。
純白ゴシックドレスの俺。
黒のゴスロリメイド服のバシリアとペトロナ。
そして旅路の塵をまとったまま、静かに佇むジャンネット。
どこからどう見ても、普通の巡礼者には見えない。
「アニェス様、堂々としていてください」
ペトロナが小声で言う。
「この地はまだ、異端審問の目が薄い土地です。
服装だけで難癖をつけてくる者はいません」
「……信じるぞ」
ぼそりと“たぶん”という小さな声が聞こえた。
列が進み、俺たちの番になる。
槍を持った兵士が、俺の純白のゴシックドレスとバシリアたちの黒衣のゴスロリメイド服を一瞥し、
微妙に言葉を選びながら声をかけてきた。
「……ええと。諸君は、どういった――」
「巡礼です」
バシリアが即答した。
声は礼儀正しく、しかし落ち着き払っている。
「道中で同行者が増えました。
シャルトルで一泊し、カンペールへ向かいます」
兵士は俺を、ジャンネットを、ペトロナを順に見る。
奇妙な服装であることが、明らかに引っかかっている。
が――
俺たちの背に吊るされた荷や、奪った馬の少し旅慣れた姿が、
“危険ではない旅の一行”という印象を補強したらしい。
「荷を少し見せてもらえるか?」
ペトロナが鞍袋を開ける。
干し肉、パン、布。
武器になりそうなものはほとんど無い。
バシリアとジャンネットの携えた片手剣くらいだ。護身用と言って良い装備だ。
「……よし。通っていい。
ただし夜は気をつけろ。避難民も多く、盗みも増えている」
「ご忠告、感謝します」
バシリアが深々と頭を下げた。
俺たちは馬を進め、城門の陰へ入る。
影の冷たさが抜けると、陽光が一気に広がった。
シャルトルの街は、暖かな光に満ちていた。
パンを焼く匂いが漂い、商人が布を広げ、
道の端では子どもたちが木の剣を振り回して遊んでいる。
人々の顔に、怯えが無い。
それだけで街の治安がうかがえる。
「……ルーアンと、全然違うな」
俺がつぶやくと、ペトロナが小さく頷いた。
「戦が遠い土地は、空気が違います。
ここは“人が普通に暮らしている場所”なんですよ」
ジャンネットが、青いステンドグラスの影を落とす大聖堂を見上げたまま、
ぽつりと呟く。
「煙が……上がってませんから」
彼女の言葉に、俺は思い出す。
ルーアンで見た人々を縛る“火”。そして審問官の悪意はまだ彼女の中に残っているようだ。
木骨の建物が肩を寄せ合う一角に、鉄鍋の看板を掲げる宿屋が見えた。
夕刻の鐘が鳴ったばかりで、往来には旅人がちらほら。
街の匂いは穏やかな麦と干草、そして遠くのパン窯の香りが混じっている。
「ここには馬を預ける場所もあるようです。ここに泊まりませんか、アニェス様」
バシリアが手綱を引き、黒髪を揺らす。
扉を押すと、暖炉の火がふっと揺れ、
乾いた薪の匂いが身体の芯にまで沁みこんでくる。
宿の奥では数人がパンをちぎり、
修道衣の老人が聖書をめくっていた。
俺たちが入った瞬間、視線が一斉にこちらへ集まる。
一様に目を丸くし、スプーンを落とすものまでいる。
だが、嫌悪はない。
興味が勝っているようだ。
暖炉の火を調整していた、宿の主人がこちらを振り向いた。
最初に俺の白いドレスを見て、次にバシリアとペトロナの黒衣を見て、眉根を寄せた。
「……えらく珍しい旅姿だな。お前さんたち…お貴族様か?」
ジャンネットが前に出て答えようとして、少し視線を泳がせる。
そこでバシリアが淡々と口を開いた。
「ただの巡礼者です」
「ずいぶん仕立ても生地も良さそうだったからな…で、馬は何頭だ?」
「二頭です。ずっと走らせたので、休ませてやりたいのですが」
主人は頷きつつ、奥に声を張った。
「おい、馬屋を開けとけ。今日は巡礼客で混んでるから気合い入れろよ」
どうやら忙しいらしいが、主人の顔は厳ついが敵意はない。
それだけで皆の肩から少しだけ緊張が抜けた。
「部屋は二つ空いてる。女なら構わんだろう、一つに二人ずつで」
「助かります」
ジャンネットが小さく頭を下げる。
「食事はすぐ出せるがどうする?」
「一旦部屋で休みます」
「わかった、食事を出せるのは火を落とすまでだ、食べるなら早めにな」
「はい」
階段を上り、あてがわれた部屋に入る。
窓からは、茜色に染まる大聖堂の塔が見えた。
影が青を抱きしめながら夜へ溶けていく。
旅のほこりを払うと、ようやく身体が軽くなった。
バシリアが荷物を置きながら言った。「シャルトルは、イングランドの支配が及ばない地域です……ただし、油断は禁物です」
俺は椅子に腰をおろし、
高い天井を見上げた。
「さっき兵士が言ってた“盗みが多い”ってやつか」
「それだけじゃないと思います」
ペトロナが窓を閉めながら振り返る。
「戦果を逃れ全てを失った者も多く流入しています。人は自分が生きるためなら何でもする者もいます。
噂を売る人、逃げてきた人、追われている人……」
バシリアが付け加える。
「今日はもう市が終わっているようです。明日、食料など必要なものを購入しましょう。この先のイングランドの様子も、シャルトルなら耳に入るかもしれません」
ジャンネットがベッドの端にちょこんと座り、
俺の白い袖をそっとつまんだ。
「ソレル様……今日、この時間に着けてよかったです」
「なぜ?」
「夜だとこの青が見れなかったと思いますから」
妙に癒される言い方だった。
旅の重さに潰されそうになっていた心に、ジャンネットの声が染みた。
人心地着いた後、食事のために俺たちは一階に降りる。
暖炉の上では豆の煮えた匂いがして、久しぶりに食事という人の楽しみを味わえるのかと、
腹の底に安心感が灯る。
主人が盆を抱えて俺たちが囲んだテーブルに運んでくれた。
「今日は、パンと煮物、それにワインだ。
旅の楽しみだろ、ゆっくり食ってくれ」
その言葉に誘われ、俺たちはようやく緊張を解いた。
ここだけは、しばし心を置ける場所だと信じられたからだ。
バシリアが少し柔らかい顔で言う。
「今日はしっかり休みましょう。
ここから先はイングランド勢力圏ですから……」
俺は頷いた。
***
俺の前で黒い女が玉座に座っている。
あの世界で最後に見た謁見の間だ。
床は血に塗れ、立つ足に血の波紋が生じる。
王も姫も騎士もあの時、俺が最後に見たまま横たわっている。
周りは、兵士、騎士、女官、市民の亡骸を玩具にしている魔物が一重二重と犇めいていた。
黒い女がついと真紅の長い爪を上に向ける。
俺がそれを目で追うと、シャンデリアから伸びた縄に手を括り付けられた人が吊るされていた。
血に塗れ生死が解らぬその姿は…
「楓華!瑠璃!」
俺は、全ての枷を解き放つ。
俺の波動が周りの魔物を壁に吹き飛ばし、力の劣るものは、そのままトマトを押し付けたように潰れ壁の染みとなり。
そのまま壁も床も吹き飛ぶように崩壊し、染みになるのを免れた魔物も吹き飛ぶ。
ただ一人…黒い女だけが失った玉座も意にかえさず何もない空間に浮かんでいた。
俺は雄叫びをあげ、己の身体を刃とし、光の奔流となって黒い女に飛びかかる。
女の薄ら笑いが妙に目につく…
「......けて…」
微かな声が耳に届いた…
忘れられない声…聞きたかった声。微かな、掠れた声でも俺には解る…
視線を上に向けると楓華と目が合った…
俺は軌道を変えると、楓華と瑠璃を抱きかかえると王城を後にした。
去り際に見た黒い女は笑っているようだった…
約600キロの旅程だ…今度もずいぶん遠い。
徒歩で計算すると約130時間だ…マジか。
「ペトロナさん、短縮する方法…なんか有りませんか?」
俺はいきなり挫折した。というか時間が掛かりすぎてアリスたちのことが心配だ。
ペトロナは頬に人差し指を当てて考えるそぶりを見せるが、最後は首を横に振った。
いっそ俺が全員抱えて走ろうかと言ったら。
皆して俺を見て首を振った。
一番小さい俺が、女性とはいえ、3人抱えられるはずはないという意思表示だ。
俺は意地になって、やってみなければ……とやってみたが…
「痛い痛い」
「重いです」
「無理です無理です」
と言われ、瓦解し、4人して手と膝を地につけたorz。
「では、こうしましょう。
イングランド軍の馬を徴収しましょう」とペトロナが提案した。
ようは盗む、奪うという意味だ。
俺はジャンネットを見る。俺を見返すと首を縦に振った…
ジャンネット的に、その行為はイングランドに対する抵抗運動にあたり問題ないとのことだった。ただ、なるべく盗むみたいなのは無しでと言われた。
***
俺たちは獲物、コホン。もとい、イングランド軍弱体のための作戦に出ることにした。
街道哨戒中の8名のイングランド兵が正面から来るのを認めると街道脇に隠れる。
気づかれぬように俺たちは後をつけると、暫くして小川の有る広場に差し掛かる。イングランド兵は馬を川に連れて行き、兵士たちも小休止するようだ。干し肉などをかじり始めている。
俺が、詠唱を始めると、晴天にゴロゴロという嫌な音を伴う黒い雲が広がり始めた。
局所的に熱を奪った寒気と熱で膨張させた上昇気流を作り出し、水と寒気で生成した氷の粒を上昇気流で摩擦させ雷を生成させる。
馬は耳を立て落ち着かなくなり、いななき始める。
兵士たちは、急いで馬に戻ってなだめようとするもの、中には十字を切っているものもいた。
俺はそこで、詠唱を完了させる。小声で《サンダー》。
指向的に正電荷を誘導した雷を地表へと向ける。
近すぎず遠すぎず、だが足元に響くような轟雷を伴った雷を落とす。
馬が暴れ始め、兵士の制御もままならず、兵士の手を離れて街道へと全ての馬が同じ方向に逃げ出した。
「やった」
俺たちは、頷きあった。
俺は、バシリアを抱き上げ馬を追う。
馬の横に追いつくと先ずバシリアを馬に飛び乗らせる。俺も他の馬に飛び乗る。
「どうどう…」
暴れる馬に翻弄されるが。俺は力任せに従わせ。首を撫でて落ち着かせる。
「アニェス様。上手くいきましたね」
「おうよ」
バシリアも上手く手懐けたようだ。
兵士たちに出会わないように迂回し、ジャンネット、ペトロナの下へと戻った。
これで、二頭の馬に分乗し旅を始められる。
「ジャンネット。馬を“助けて”きたよ」
と盗みでないことを強調して言うと、クスリと「そうですね」と笑われた。
***
神の声を聞いたジャンネット―ジャンヌ・ダルク―は、シャルルに会うためにヴォクルールからシノンまでの約500キロを、11日で踏破したらしい。
シャルル王の妃マリー・ダンジューの母でアンジュー公ルイ2世妃のヨランド・ダラゴンの支援があったらしいが、馬を乗り継ぎ、夜通し走らせた強行軍だったらしい。
俺とバシリアの旅も色々あったが、ルーアンへ20日程度で着いたから、ドゥアルネネ湾へはその間くらいでなんとかしたい。
もうアリスとサラには無事でいてくれと願うだけだ。
ペトロナと俺、バシリアとジャンネットで分乗し、馬を走らせる。
疲れたら交代する。馬は場合によっては、先ほどと同じことを繰り返し行う予定だ。馬も走り疲れると動けなくなる。あまり可哀想なことはしたくはない。
「今後の問題は食料ですね」
ペトロナが心配そうに呟く。
ルーアン以降、俺たちは着の身着のままな感じで旅を続けている。
路銀はあるのだが、街や村でもイングランドの目が厳しく、物資の購入がままならなくなっていた。
それにしても…この白いゴシックドレス…全然汚れず驚きの白さを維持している。汚れたのはトロアからの脱出で泥天使になった時くらいだ。
バシリアの黒のゴスロリメイド服も綺麗なままで、驚くことにペトロナの破れていたゴスロリメイド服も直ってきているように見える。
聞けば、魔女の…ってどうせ言われるし、それも悔しいから聞かないことにしている。
「このまま進み、出来れば明日中にシャルトルに着きたいと思っています。
シャルトルは宗教都市であり、交易都市です。
それに、シャルトルはフランスの勢力圏になっていて、治安維持は司教領があったているため、穏やかで治安のよい街のはずです」
「宗教都市?この格好でも大丈夫か?」
「………き、きっと…」
自信ないんですね…
***
翌日、馬を休ませつつ仮眠をとった後、馬を進めること数時間、シャルトルはまだ彼方だというのに、平野に突き立つように尖塔が見えてきた。
春の靄の中で青い光を抱くように立ち、
遠くからでもただならぬ気配を放っている。
「シャルトル大聖堂です」
ペトロナがささやく。
黒いメイド服の袖口が、馬上で静かに揺れる。
俺が生まれた時代より、600年も前の建築物だというのだから驚かされる。さらに建築が始まったのは1145年というからおよそ900年前だ。
隣の馬では、バシリアが目を細めて空を見ていた。
「光が……青く見えますね。聖母の息、みたいです」
ジャンネットは、バシリアの背に腕を回したまま黙って塔を見つめている。
城壁が近づくにつれ、街のざわめきが風にのって届いてきた。
パンの焼ける香り、染物の湿った匂い、
聖歌のような鐘の音が、丘の上から微かに降りてくる。
やがて城門前の広場が見えた。
検問の列はあるが、空気は張りつめていない。
兵士たちの視線はどこか倦んでおり、
通行人は怯えることなく順番を待っている。
トロアのような刺々しさは、ここには無い。
ただ――
俺たち四人の服装が列から少し浮いているのは、自覚している。
純白ゴシックドレスの俺。
黒のゴスロリメイド服のバシリアとペトロナ。
そして旅路の塵をまとったまま、静かに佇むジャンネット。
どこからどう見ても、普通の巡礼者には見えない。
「アニェス様、堂々としていてください」
ペトロナが小声で言う。
「この地はまだ、異端審問の目が薄い土地です。
服装だけで難癖をつけてくる者はいません」
「……信じるぞ」
ぼそりと“たぶん”という小さな声が聞こえた。
列が進み、俺たちの番になる。
槍を持った兵士が、俺の純白のゴシックドレスとバシリアたちの黒衣のゴスロリメイド服を一瞥し、
微妙に言葉を選びながら声をかけてきた。
「……ええと。諸君は、どういった――」
「巡礼です」
バシリアが即答した。
声は礼儀正しく、しかし落ち着き払っている。
「道中で同行者が増えました。
シャルトルで一泊し、カンペールへ向かいます」
兵士は俺を、ジャンネットを、ペトロナを順に見る。
奇妙な服装であることが、明らかに引っかかっている。
が――
俺たちの背に吊るされた荷や、奪った馬の少し旅慣れた姿が、
“危険ではない旅の一行”という印象を補強したらしい。
「荷を少し見せてもらえるか?」
ペトロナが鞍袋を開ける。
干し肉、パン、布。
武器になりそうなものはほとんど無い。
バシリアとジャンネットの携えた片手剣くらいだ。護身用と言って良い装備だ。
「……よし。通っていい。
ただし夜は気をつけろ。避難民も多く、盗みも増えている」
「ご忠告、感謝します」
バシリアが深々と頭を下げた。
俺たちは馬を進め、城門の陰へ入る。
影の冷たさが抜けると、陽光が一気に広がった。
シャルトルの街は、暖かな光に満ちていた。
パンを焼く匂いが漂い、商人が布を広げ、
道の端では子どもたちが木の剣を振り回して遊んでいる。
人々の顔に、怯えが無い。
それだけで街の治安がうかがえる。
「……ルーアンと、全然違うな」
俺がつぶやくと、ペトロナが小さく頷いた。
「戦が遠い土地は、空気が違います。
ここは“人が普通に暮らしている場所”なんですよ」
ジャンネットが、青いステンドグラスの影を落とす大聖堂を見上げたまま、
ぽつりと呟く。
「煙が……上がってませんから」
彼女の言葉に、俺は思い出す。
ルーアンで見た人々を縛る“火”。そして審問官の悪意はまだ彼女の中に残っているようだ。
木骨の建物が肩を寄せ合う一角に、鉄鍋の看板を掲げる宿屋が見えた。
夕刻の鐘が鳴ったばかりで、往来には旅人がちらほら。
街の匂いは穏やかな麦と干草、そして遠くのパン窯の香りが混じっている。
「ここには馬を預ける場所もあるようです。ここに泊まりませんか、アニェス様」
バシリアが手綱を引き、黒髪を揺らす。
扉を押すと、暖炉の火がふっと揺れ、
乾いた薪の匂いが身体の芯にまで沁みこんでくる。
宿の奥では数人がパンをちぎり、
修道衣の老人が聖書をめくっていた。
俺たちが入った瞬間、視線が一斉にこちらへ集まる。
一様に目を丸くし、スプーンを落とすものまでいる。
だが、嫌悪はない。
興味が勝っているようだ。
暖炉の火を調整していた、宿の主人がこちらを振り向いた。
最初に俺の白いドレスを見て、次にバシリアとペトロナの黒衣を見て、眉根を寄せた。
「……えらく珍しい旅姿だな。お前さんたち…お貴族様か?」
ジャンネットが前に出て答えようとして、少し視線を泳がせる。
そこでバシリアが淡々と口を開いた。
「ただの巡礼者です」
「ずいぶん仕立ても生地も良さそうだったからな…で、馬は何頭だ?」
「二頭です。ずっと走らせたので、休ませてやりたいのですが」
主人は頷きつつ、奥に声を張った。
「おい、馬屋を開けとけ。今日は巡礼客で混んでるから気合い入れろよ」
どうやら忙しいらしいが、主人の顔は厳ついが敵意はない。
それだけで皆の肩から少しだけ緊張が抜けた。
「部屋は二つ空いてる。女なら構わんだろう、一つに二人ずつで」
「助かります」
ジャンネットが小さく頭を下げる。
「食事はすぐ出せるがどうする?」
「一旦部屋で休みます」
「わかった、食事を出せるのは火を落とすまでだ、食べるなら早めにな」
「はい」
階段を上り、あてがわれた部屋に入る。
窓からは、茜色に染まる大聖堂の塔が見えた。
影が青を抱きしめながら夜へ溶けていく。
旅のほこりを払うと、ようやく身体が軽くなった。
バシリアが荷物を置きながら言った。「シャルトルは、イングランドの支配が及ばない地域です……ただし、油断は禁物です」
俺は椅子に腰をおろし、
高い天井を見上げた。
「さっき兵士が言ってた“盗みが多い”ってやつか」
「それだけじゃないと思います」
ペトロナが窓を閉めながら振り返る。
「戦果を逃れ全てを失った者も多く流入しています。人は自分が生きるためなら何でもする者もいます。
噂を売る人、逃げてきた人、追われている人……」
バシリアが付け加える。
「今日はもう市が終わっているようです。明日、食料など必要なものを購入しましょう。この先のイングランドの様子も、シャルトルなら耳に入るかもしれません」
ジャンネットがベッドの端にちょこんと座り、
俺の白い袖をそっとつまんだ。
「ソレル様……今日、この時間に着けてよかったです」
「なぜ?」
「夜だとこの青が見れなかったと思いますから」
妙に癒される言い方だった。
旅の重さに潰されそうになっていた心に、ジャンネットの声が染みた。
人心地着いた後、食事のために俺たちは一階に降りる。
暖炉の上では豆の煮えた匂いがして、久しぶりに食事という人の楽しみを味わえるのかと、
腹の底に安心感が灯る。
主人が盆を抱えて俺たちが囲んだテーブルに運んでくれた。
「今日は、パンと煮物、それにワインだ。
旅の楽しみだろ、ゆっくり食ってくれ」
その言葉に誘われ、俺たちはようやく緊張を解いた。
ここだけは、しばし心を置ける場所だと信じられたからだ。
バシリアが少し柔らかい顔で言う。
「今日はしっかり休みましょう。
ここから先はイングランド勢力圏ですから……」
俺は頷いた。
***
俺の前で黒い女が玉座に座っている。
あの世界で最後に見た謁見の間だ。
床は血に塗れ、立つ足に血の波紋が生じる。
王も姫も騎士もあの時、俺が最後に見たまま横たわっている。
周りは、兵士、騎士、女官、市民の亡骸を玩具にしている魔物が一重二重と犇めいていた。
黒い女がついと真紅の長い爪を上に向ける。
俺がそれを目で追うと、シャンデリアから伸びた縄に手を括り付けられた人が吊るされていた。
血に塗れ生死が解らぬその姿は…
「楓華!瑠璃!」
俺は、全ての枷を解き放つ。
俺の波動が周りの魔物を壁に吹き飛ばし、力の劣るものは、そのままトマトを押し付けたように潰れ壁の染みとなり。
そのまま壁も床も吹き飛ぶように崩壊し、染みになるのを免れた魔物も吹き飛ぶ。
ただ一人…黒い女だけが失った玉座も意にかえさず何もない空間に浮かんでいた。
俺は雄叫びをあげ、己の身体を刃とし、光の奔流となって黒い女に飛びかかる。
女の薄ら笑いが妙に目につく…
「......けて…」
微かな声が耳に届いた…
忘れられない声…聞きたかった声。微かな、掠れた声でも俺には解る…
視線を上に向けると楓華と目が合った…
俺は軌道を変えると、楓華と瑠璃を抱きかかえると王城を後にした。
去り際に見た黒い女は笑っているようだった…
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氷河期世代の大野将臣(おおのまさおみ)は昭和から令和の時代を細々と生きていた。しかし、工場でいつも一人残業を頑張っていたがとうとう過労死でこの世を去る。
死んだ大野将臣は、真っ白な空間を彷徨い神様と会い、その神様の世界に誘われ色々なチート能力を貰い異世界に降り立つ。
大野将臣は異世界シンアースで将臣の将の字を取りショウと名乗る。そして、その能力の錬金術を使い今度の人生は組織や権力者の言いなりにならず、ある時は権力者に立ち向かい、又ある時は闇ギルド五竜(ウーロン)に立ち向かい、そして、神様が護衛としてつけてくれたホムンクルスを最強の戦士に成長させ、昭和の堅物オジサンが自分の人生を楽しむ物語。
おっさん武闘家、幼女の教え子達と十年後に再会、実はそれぞれ炎・氷・雷の精霊の王女だった彼女達に言い寄られつつ世界を救い英雄になってしまう
お餅ミトコンドリア
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パーチ、三十五歳。五歳の時から三十年間修行してきた武闘家。
だが、全くの無名。
彼は、とある村で武闘家の道場を経営しており、〝拳を使った戦い方〟を弟子たちに教えている。
若い時には「冒険者になって、有名になるんだ!」などと大きな夢を持っていたものだが、自分の道場に来る若者たちが全員〝天才〟で、自分との才能の差を感じて、もう諦めてしまった。
弟子たちとの、のんびりとした穏やかな日々。
独身の彼は、そんな彼ら彼女らのことを〝家族〟のように感じており、「こんな毎日も悪くない」と思っていた。
が、ある日。
「お久しぶりです、師匠!」
絶世の美少女が家を訪れた。
彼女は、十年前に、他の二人の幼い少女と一緒に山の中で獣(とパーチは思い込んでいるが、実はモンスター)に襲われていたところをパーチが助けて、その場で数時間ほど稽古をつけて、自分たちだけで戦える力をつけさせた、という女の子だった。
「私は今、アイスブラット王国の〝守護精霊〟をやっていまして」
精霊を自称する彼女は、「ちょ、ちょっと待ってくれ」と混乱するパーチに構わず、ニッコリ笑いながら畳み掛ける。
「そこで師匠には、私たちと一緒に〝魔王〟を倒して欲しいんです!」
これは、〝弟子たちがあっと言う間に強くなるのは、師匠である自分の特殊な力ゆえ〟であることに気付かず、〝実は最強の実力を持っている〟ことにも全く気付いていない男が、〝実は精霊だった美少女たち〟と再会し、言い寄られ、弟子たちに愛され、弟子以外の者たちからも尊敬され、世界を救って英雄になってしまう物語。
(※第18回ファンタジー小説大賞に参加しています。
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魔王を倒した勇者を迫害した人間様方の末路はなかなか悲惨なようです。
カモミール
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勇者ロキは長い冒険の末魔王を討伐する。
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あっとさん
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