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第10話:修学旅行③【10月22日】
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朝の空気は澄んでいて、旅館の窓から見える鴨川の流れが静かに光っていた。
三日目の修学旅行は、団体行動の日。午前は伝統文化体験、午後は映画村での歴史学習。夜には短時間の自由行動が予定されている。
朝食を終え、バスに乗り込むと、真帆が隣に座ってきた。
「昨日の夜、よく眠れた?」
「うん……まあ」
俺は曖昧に答える。真帆の声はいつも通り明るいが、どこか探るような視線を感じる。
一昨日の“美桜”の声が、まだ耳の奥に残っていた。
***
最初の目的地は禅寺での座禅体験だった。
膝上20センチのスカートなためか女子はスカートの下にジャージを着せられている。なんか安心感はあるのだが…可愛くない。
(…!なんだ!この俺が可愛くないとか、可愛いとか気にしてる?)つと両手で顔を手で挟む…
(う~)
「美桜ちゃんどうしたの?」
「なんでもない、ちょ…」(と疲れてるだけ)、と続ける前に「ああ、いつもの発作ね。」と言われてしまった…
真帆さんや…私、発作扱いですか?少し涙目になる。
静かな本堂に並んで座ると、空気が一気に張り詰める。
目を閉じて呼吸を整えると、心の中に“誰かの声”が浮かんだ。
『昴くん…』
夢で聞いた声と同じだった。
隣に座る真帆の気配が、なぜか“美桜”に近いものに感じられる。
俺は目を開けて、そっと真帆の横顔を見た。彼女は静かに座っていたが、瞳の奥に何かが揺れていた。
***
次は和菓子(生八つ橋)作り体験。
生八つ橋作りは、実は家庭でも電子レンジや鍋を使って比較的簡単に作れる和菓子らしい。体験では、生地作りからあんこを包むところまでの一連の流れを学ぶとのこと。ふむふむ
京友禅の色彩に囲まれながら、生八つ橋の生地をこねる。
「この色、綺麗だね」
真帆が指差したのは、淡い桜色の桜花ペーストだった。桜色の八つ橋を作るためのものだ。
「美桜ちゃん、こういう色好きだったよね」
「……え?」
俺は思わず手を止めた。
その色は、俺が昴だった頃に美桜が選んでいた色と同じだった。
真帆は何気なく言ったようだったが、その一言が胸に刺さる。
(“美桜”の影響…なのか…)
余談だが、緋香里ちゃんは作る前から食べていた…
***
午後は東映太秦映画村。
衣装レンタルで時代劇の世界の登場人物になりきることにした。
真帆はお姫様、千代里ちゃんは舞妓さん、緋香里ちゃんは虚無僧…、俺は新選組にしてみた。
おまけで昴も新選組、昨日の女子部屋突入でお目玉食らった男子3人は忍者、お殿様、奉行を選んでいた。記憶では美桜はお姫様だったんだけどね。…男装してみたくなったのだ。
記念写真を撮ってもらいつつも、映画村内を散策しながら皆で自前のスマホでも撮りまくる。
昴が俺に声をかけてくる。
「寿さん、写真撮ろうよ」
「……うん」
俺は笑顔を作るが、心の中は複雑だった。
昴の隣に立つと、過去の自分と今の自分が交差するような感覚に襲われる。
真帆が少し離れた場所から、俺たちを見つめていた。
その視線は、昴を気遣うようでもあり、俺を見守るようでもあった。
***
今夜の宿泊は、鴨川に近い四条河原町のホテルだったため、夕食後、短時間のお土産の買い物や、鴨川散策が許された班ごとの自由行動となっていた。
俺は真帆と二人きりになるタイミングを見計らって、川沿いのベンチに座った。
「真帆……別の誰かが話しかけるって言ってた話だけど…」
真帆は少し驚いたように俺を見た。
「うん……」
「それって……“美桜”じゃない?」
真帆は目を見開いた。
「…どう言うこと?美桜はここにいるよね?」と真帆は俺の袖を引っ張る。
「…そうだけど、私ではない、真帆が昔から知っている”美桜”じゃない?」
真帆は視線を川に移し暫く考えているようだった。俺はじっと真帆の横顔を見つつ次の言葉を待つ。
「……やっぱり、そうなのかな」
「真帆の中に、私…ではない……”美桜”がいるんじゃないかって思う」
混乱しているようだが、真帆はゆっくり頷いた。
自分の中に、他人がいる。それがどんなに仲の良い友達でもそれは気分の良いものではないだろう。しかも俺(美桜)という存在が目の前にいるのに受け入れられるものだろうか?
「私も……そう思う。時々、知らない記憶が浮かんでくるの。昴くんと手を繋いで歩いた記憶とか……イルミネーションの中で笑ってた記憶とか……それに昴くんを見てると不思議な感覚になるし、美桜ちゃんを見ていても懐かしい気もちや、ハラハラする気持ちに最近なるの…」
「うん…」
「特に美桜ちゃんの…最近の挙動不審具合に対して突っ込んでる声が聞こえる気がしてる。」
「ぐ…」
「『そんな格好で座らないで。』とか『そんな口調やめて!』とか、『おトイレ、見られちゃう』とか、『そんなとこ触らないで。』とか…むぐ」
真帆の口を手で塞ぐ。
「ごめん、謝るから許して…」
「むぐむぐ」真帆がうなずく。
「ぷは…私、不安でしょうがない。」薄っすらと真帆が涙を浮かべている。
(もう、こうなったらしかたない)
「私……昴なんだ」
真帆はキョトンとして息を呑んだ。
(真帆の不安な顔をもう見続けられない…)
「美桜ちゃん……じゃなくて……昴くん?」
「…朝起きて、気づいたら美桜の身体にいた。最初は混乱してたけど……今は、少しずつ受け入れてる。」
真帆は黙って、俺から少し距離をとる。
「…どういうこと?」
「原因は解らない。」
「だって、美桜ちゃんは美桜ちゃんでしょ、昴くんも昴くんで居るし、なんで私の中に”美桜”がいるっていうの?」
俺だって理由を知りたいし、誰でもいいから教えてほしい。
『落ち着いて真帆。』
「「!」」
俺が困惑していると、真帆の口から、真帆ではない雰囲気の声が発せられた。
「”美桜”」
『ごめんね、真帆。驚かせて。』
「……」真帆が言葉を発することも出来ずに狼狽えている。俺は真帆の肩を抱いて落ち着かせる。
『真帆、私は、この世界でもこの時間でもない美桜なんだと思ってる。どうしても叶えなければいけないことがあって、今ここにいる気がしてるの。』
「…どういうこと?」
『私は、既に死んでると思う。今の私は昴を守りたいという気持ちでいるんだと思う。手を伸ばしても、どんなに願っても、何もできずに、ただただ、目の前で居なくなっていく昴と、自分の意識がなくなっていくのを覚えてる…切なくて、切なくて、どうしようもなくて、願いだけになったそれが……私』
真帆が涙を流す、”美桜”のイメージが流れ込んでいるのかもしれない。俺には”美桜”のように鮮明な記憶は抜け落ちている。何故こんな状況なのかも実際には理解していない…俺にあるのは美桜を守るということだけだ。
「そんな…”美桜”ちゃん…」
『昴くん…ん~美桜ちゃんかな?私は真帆の中で目覚めた、美桜ちゃんは私の中で目覚めたんだと思う。』
「そ、そうだな…理由は解らないけれど、それが現在の状況なら受け入れるしかない。」
『力を貸して…二人とも』
「どうしたいんだ?”美桜”」
『まだ、解らないけど…美桜と、昴くんは一緒になってはいけない気がする…」
驚いた。俺の、根拠のない不安と同じことを”美桜”が…?
「”美桜”の助けになるなら何でもするけど…ごめん、まだ混乱してる…」
真帆はぼそりとそれだけ呟いた。
『ごめんね…真帆。…私、一旦スリープするね…』
そう言い残すと、”美桜”の気配が無くなった。
「あ、真帆!」糸の切れた人形のように崩れそうになった真帆を受け止める。
「大丈夫?」
青い顔した真帆が「うん…」とだけ返事をしてくれる。
「戻ろう」と言って真帆を支えながら皆の元に戻る。
(ごめんよ真帆…)
***
宿に戻ると、真帆を寝かせずっと横にいることにした。お風呂の順番だったのだが、行こうとすると何故か真帆が睨むせいもある…
真帆はたまに俺に話しかけようとするが、都度やめてしまう感じで、時間が長く感じた。俺のほうが、何か話しかけるべきなのだろうが、状況を理解してない点では、俺も真帆もそうは変わらないだろう。
お風呂から上がって来た、千代里ちゃん、緋香里ちゃんも静かに就寝時間を迎え、修学旅行最後の夜が更けていった。
***
修学旅行最終日。
午前中は、三十三間堂を最後の見学として、後はお土産購入タイム、京都駅周辺で昼食を摂って、帰路に就く予定だ。
真帆がさっきから、千代里ちゃん、緋香里ちゃんに謝ってる、昨日の夜、具合が悪く早々に床についてしまい、楽しめなかったのではないかと気を使ってる。良い子だ。
「体調は戻ったの?無理しちゃだめよ」
「大丈夫、大丈夫。今度家でパジャマパーティして出来なかったことしようよ。」
二人も問題にしていない感じだ。緋香里ちゃんが昨夜何をしようと企ててたのかは考えないことにしよう…
ホテルをチャックアウトし、バスが三十三間堂に向かう。真帆は隣の席で俺の方をずっと見ている…
なんだろうか…居心地が悪い…
「ど、どうしたの真帆?」
「エッチ」
「…」つっっと冷や汗がつたう。いったい真帆の頭の中では、どういう結論に至ったのか…良く解らない。とにかく嫌な予感だけがする。
三十三間堂で、千体千手観音立像を見る、昴の時も見たが、壮観で圧倒される。…横を見ると、まだ真帆が無言で俺を見ているのだが…
「あの、真帆さん?私見てないで、国宝だよ、壮観だよ、そっち見ない?」
「…」
怖いんですけど…
三十三間堂を拝観後、バスは京都タワーサンドに向かった、お土産購入タイムだ。
「どうしたの?喧嘩でもした?」緋香里ちゃんが直球な質問を真帆と俺にしてくる。
「ううん、そんなことないよ。」真帆が私の手を取って言う「私は美桜ちゃんとは絶対に喧嘩しなよ。」そう微笑む。
「うん、喧嘩なんてしてないよ」
「そうなの?なんか雰囲気がいつもと違う気がするよ。」緋香里ちゃんが腕を組んで考え込むように言う。
「どうしたの?なんか良いお土産有った?」昴が固まっていた俺たちに声をかけてきた?
「う、ううん何でもないよ。お土産いっぱいあって迷っちゃうね。」
と当たり障りなく俺が返していると…ふと横にいる真帆の顔が真っ赤になっていた。
「ど、どうしたの…真帆、大丈夫?」
「な、なんでも、なんでもない、なんでもない!」
そう言うと真帆が走って行ってしまう。
「どうした…の?なんか悪いことした?俺」昴が自分を指さし聞いて来る。
「何でもないと思うよ。私、ちょっと見てくる、先に行ってて」
俺は言い残すと真帆の後を追った。
「どうしたの、真帆…」
出口付近で真帆を見かけ声をかける。
「…美桜、どうしよう、昴くん見ると顔が赤くなってドキドキするの…」
「えぅ」
「なんだろ、病気かな…」
「え~と…」
どうすればいいんだこれ…
様々な問題が…解決せずに膨らんだ気さえする修学旅行。俺たちは無事帰路につくのだった…
三日目の修学旅行は、団体行動の日。午前は伝統文化体験、午後は映画村での歴史学習。夜には短時間の自由行動が予定されている。
朝食を終え、バスに乗り込むと、真帆が隣に座ってきた。
「昨日の夜、よく眠れた?」
「うん……まあ」
俺は曖昧に答える。真帆の声はいつも通り明るいが、どこか探るような視線を感じる。
一昨日の“美桜”の声が、まだ耳の奥に残っていた。
***
最初の目的地は禅寺での座禅体験だった。
膝上20センチのスカートなためか女子はスカートの下にジャージを着せられている。なんか安心感はあるのだが…可愛くない。
(…!なんだ!この俺が可愛くないとか、可愛いとか気にしてる?)つと両手で顔を手で挟む…
(う~)
「美桜ちゃんどうしたの?」
「なんでもない、ちょ…」(と疲れてるだけ)、と続ける前に「ああ、いつもの発作ね。」と言われてしまった…
真帆さんや…私、発作扱いですか?少し涙目になる。
静かな本堂に並んで座ると、空気が一気に張り詰める。
目を閉じて呼吸を整えると、心の中に“誰かの声”が浮かんだ。
『昴くん…』
夢で聞いた声と同じだった。
隣に座る真帆の気配が、なぜか“美桜”に近いものに感じられる。
俺は目を開けて、そっと真帆の横顔を見た。彼女は静かに座っていたが、瞳の奥に何かが揺れていた。
***
次は和菓子(生八つ橋)作り体験。
生八つ橋作りは、実は家庭でも電子レンジや鍋を使って比較的簡単に作れる和菓子らしい。体験では、生地作りからあんこを包むところまでの一連の流れを学ぶとのこと。ふむふむ
京友禅の色彩に囲まれながら、生八つ橋の生地をこねる。
「この色、綺麗だね」
真帆が指差したのは、淡い桜色の桜花ペーストだった。桜色の八つ橋を作るためのものだ。
「美桜ちゃん、こういう色好きだったよね」
「……え?」
俺は思わず手を止めた。
その色は、俺が昴だった頃に美桜が選んでいた色と同じだった。
真帆は何気なく言ったようだったが、その一言が胸に刺さる。
(“美桜”の影響…なのか…)
余談だが、緋香里ちゃんは作る前から食べていた…
***
午後は東映太秦映画村。
衣装レンタルで時代劇の世界の登場人物になりきることにした。
真帆はお姫様、千代里ちゃんは舞妓さん、緋香里ちゃんは虚無僧…、俺は新選組にしてみた。
おまけで昴も新選組、昨日の女子部屋突入でお目玉食らった男子3人は忍者、お殿様、奉行を選んでいた。記憶では美桜はお姫様だったんだけどね。…男装してみたくなったのだ。
記念写真を撮ってもらいつつも、映画村内を散策しながら皆で自前のスマホでも撮りまくる。
昴が俺に声をかけてくる。
「寿さん、写真撮ろうよ」
「……うん」
俺は笑顔を作るが、心の中は複雑だった。
昴の隣に立つと、過去の自分と今の自分が交差するような感覚に襲われる。
真帆が少し離れた場所から、俺たちを見つめていた。
その視線は、昴を気遣うようでもあり、俺を見守るようでもあった。
***
今夜の宿泊は、鴨川に近い四条河原町のホテルだったため、夕食後、短時間のお土産の買い物や、鴨川散策が許された班ごとの自由行動となっていた。
俺は真帆と二人きりになるタイミングを見計らって、川沿いのベンチに座った。
「真帆……別の誰かが話しかけるって言ってた話だけど…」
真帆は少し驚いたように俺を見た。
「うん……」
「それって……“美桜”じゃない?」
真帆は目を見開いた。
「…どう言うこと?美桜はここにいるよね?」と真帆は俺の袖を引っ張る。
「…そうだけど、私ではない、真帆が昔から知っている”美桜”じゃない?」
真帆は視線を川に移し暫く考えているようだった。俺はじっと真帆の横顔を見つつ次の言葉を待つ。
「……やっぱり、そうなのかな」
「真帆の中に、私…ではない……”美桜”がいるんじゃないかって思う」
混乱しているようだが、真帆はゆっくり頷いた。
自分の中に、他人がいる。それがどんなに仲の良い友達でもそれは気分の良いものではないだろう。しかも俺(美桜)という存在が目の前にいるのに受け入れられるものだろうか?
「私も……そう思う。時々、知らない記憶が浮かんでくるの。昴くんと手を繋いで歩いた記憶とか……イルミネーションの中で笑ってた記憶とか……それに昴くんを見てると不思議な感覚になるし、美桜ちゃんを見ていても懐かしい気もちや、ハラハラする気持ちに最近なるの…」
「うん…」
「特に美桜ちゃんの…最近の挙動不審具合に対して突っ込んでる声が聞こえる気がしてる。」
「ぐ…」
「『そんな格好で座らないで。』とか『そんな口調やめて!』とか、『おトイレ、見られちゃう』とか、『そんなとこ触らないで。』とか…むぐ」
真帆の口を手で塞ぐ。
「ごめん、謝るから許して…」
「むぐむぐ」真帆がうなずく。
「ぷは…私、不安でしょうがない。」薄っすらと真帆が涙を浮かべている。
(もう、こうなったらしかたない)
「私……昴なんだ」
真帆はキョトンとして息を呑んだ。
(真帆の不安な顔をもう見続けられない…)
「美桜ちゃん……じゃなくて……昴くん?」
「…朝起きて、気づいたら美桜の身体にいた。最初は混乱してたけど……今は、少しずつ受け入れてる。」
真帆は黙って、俺から少し距離をとる。
「…どういうこと?」
「原因は解らない。」
「だって、美桜ちゃんは美桜ちゃんでしょ、昴くんも昴くんで居るし、なんで私の中に”美桜”がいるっていうの?」
俺だって理由を知りたいし、誰でもいいから教えてほしい。
『落ち着いて真帆。』
「「!」」
俺が困惑していると、真帆の口から、真帆ではない雰囲気の声が発せられた。
「”美桜”」
『ごめんね、真帆。驚かせて。』
「……」真帆が言葉を発することも出来ずに狼狽えている。俺は真帆の肩を抱いて落ち着かせる。
『真帆、私は、この世界でもこの時間でもない美桜なんだと思ってる。どうしても叶えなければいけないことがあって、今ここにいる気がしてるの。』
「…どういうこと?」
『私は、既に死んでると思う。今の私は昴を守りたいという気持ちでいるんだと思う。手を伸ばしても、どんなに願っても、何もできずに、ただただ、目の前で居なくなっていく昴と、自分の意識がなくなっていくのを覚えてる…切なくて、切なくて、どうしようもなくて、願いだけになったそれが……私』
真帆が涙を流す、”美桜”のイメージが流れ込んでいるのかもしれない。俺には”美桜”のように鮮明な記憶は抜け落ちている。何故こんな状況なのかも実際には理解していない…俺にあるのは美桜を守るということだけだ。
「そんな…”美桜”ちゃん…」
『昴くん…ん~美桜ちゃんかな?私は真帆の中で目覚めた、美桜ちゃんは私の中で目覚めたんだと思う。』
「そ、そうだな…理由は解らないけれど、それが現在の状況なら受け入れるしかない。」
『力を貸して…二人とも』
「どうしたいんだ?”美桜”」
『まだ、解らないけど…美桜と、昴くんは一緒になってはいけない気がする…」
驚いた。俺の、根拠のない不安と同じことを”美桜”が…?
「”美桜”の助けになるなら何でもするけど…ごめん、まだ混乱してる…」
真帆はぼそりとそれだけ呟いた。
『ごめんね…真帆。…私、一旦スリープするね…』
そう言い残すと、”美桜”の気配が無くなった。
「あ、真帆!」糸の切れた人形のように崩れそうになった真帆を受け止める。
「大丈夫?」
青い顔した真帆が「うん…」とだけ返事をしてくれる。
「戻ろう」と言って真帆を支えながら皆の元に戻る。
(ごめんよ真帆…)
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二人も問題にしていない感じだ。緋香里ちゃんが昨夜何をしようと企ててたのかは考えないことにしよう…
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「あの、真帆さん?私見てないで、国宝だよ、壮観だよ、そっち見ない?」
「…」
怖いんですけど…
三十三間堂を拝観後、バスは京都タワーサンドに向かった、お土産購入タイムだ。
「どうしたの?喧嘩でもした?」緋香里ちゃんが直球な質問を真帆と俺にしてくる。
「ううん、そんなことないよ。」真帆が私の手を取って言う「私は美桜ちゃんとは絶対に喧嘩しなよ。」そう微笑む。
「うん、喧嘩なんてしてないよ」
「そうなの?なんか雰囲気がいつもと違う気がするよ。」緋香里ちゃんが腕を組んで考え込むように言う。
「どうしたの?なんか良いお土産有った?」昴が固まっていた俺たちに声をかけてきた?
「う、ううん何でもないよ。お土産いっぱいあって迷っちゃうね。」
と当たり障りなく俺が返していると…ふと横にいる真帆の顔が真っ赤になっていた。
「ど、どうしたの…真帆、大丈夫?」
「な、なんでも、なんでもない、なんでもない!」
そう言うと真帆が走って行ってしまう。
「どうした…の?なんか悪いことした?俺」昴が自分を指さし聞いて来る。
「何でもないと思うよ。私、ちょっと見てくる、先に行ってて」
俺は言い残すと真帆の後を追った。
「どうしたの、真帆…」
出口付近で真帆を見かけ声をかける。
「…美桜、どうしよう、昴くん見ると顔が赤くなってドキドキするの…」
「えぅ」
「なんだろ、病気かな…」
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