蔑まされた没落貴族家の悪役令嬢ですが、この舞台の主役は私がやらせていただきます!

あぷりこっと

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ああっ!?痛い!!誰!?

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私が指先を鳴らしたその瞬間、世界から一切の色彩が消え去った。

数秒前まで眩いばかりの光に包まれていたアマンニ公爵邸のホールは一瞬にして底知れぬ深淵の闇へと突き落とされた。
クリスタルの輝きが物理的に断たれ完全な静寂が訪れる。そのわずかコンマ数秒後に遅れてやってきたのは心臓を直接掴まれたような貴族達の無様な悲鳴の合唱だった。

「な、なにが起きた……!?」
「ひっ……!」
「何事だ!」
「明かりを!早く明かりを持ってこい!」

暗闇は人の理性を剥ぎ取る。だが私にとってはそれこそが計算された戦場だった。
私は首元に隠していた魔導具——伯爵家が密かに伝えてきた夜視の秘宝
『真実の瞳』を起動させた。
モノクロームの世界が視界に広がり、混乱に陥り右往左往する人々がスローモーションの熱源体として浮かび上がる。

「……ミッションフォー開始」
私は重厚なドレスの裾を躊躇なく引き裂いた。脚の動きを妨げる虚飾とヒールを脱ぎ捨てる。冷たい大理石の感触が裸足の裏に心地よい。
私は走った。それは舞踏というにはあまりに攻撃的で、暗殺というにはあまりに優雅な闇の中の疾走だった。

混乱に乗じてランダの執事が動くのが見えた。彼は懐からハイベルクを陥れるための偽の誓約書を取り出し、背後に忍び寄ろうとしている。
(……甘いわね)
私はその執事の死角から接近し、すれ違いざまに彼の肘の神経を的確に突いた。

「ぐっ……!?」
声にならない悲鳴とともに執事の手から紙束が滑り落ちる。私はそれを空中で掴み取ると同時にもう片方の手で彼の懐を掠め取った。
そこにあったのは彼らが帝国とやり取りしていた本物の通信記録が収められた記録紙。

「貴方の役目はここまでですわ」


彼女は暗闇の中でハイベルクの腕に縋り付いていたが、意外にもその顔は恐怖に怯える乙女のようなものではなく状況を把握しようと努める果敢さが見られた。

執事を突き放し私はターゲットであるランダ・イリサールへと肉薄する。

「ハイベルク!!助けて!!誰かが私を……!」
ランダの叫び声にハイベルクが周囲を闇雲に剣で威嚇する。
「誰だ!!!下がれ、私のランダに触れるなっ!!!!!」

私はそのハイベルクの剣筋を紙一重で見切りランダの背後に回った。彼女の細い手首を掴み力任せに捻り上げる。
「ああっ!?痛い!!誰!?」
私は彼女の手に先ほど執事から奪った本物の通信記録を握り込ませた。そして魔導具の出力を最大に上げ彼女の耳元で氷のような声で囁く。

「……パペットの糸が絡まってしまいましたわね」
その瞬間ホールの北側で爆発的な光が弾けた。ドッター達が外周の予備電源を強制的に起動させ、特定のスポットライトだけがホールの中央を残酷に照らし出した。

舞台の上に浮かび上がったのは無様な格好で立ち尽くすハイベルクと、その隣で帝国の紋章が入った通信記録をしっかりと握りしめたランダ・イリサールの姿だった。

「なに、を……?」
「ランダ、君が持っているそれは……何だ?」
ハイベルクの声が裏返る。

周囲の貴族たちも呆然とその光景を見つめていた。

「いったい何が起きたの!?」

ランダが困惑しながら叫ぶ。その証拠はあまりに決定的だった。魔導記録紙からは彼女の魔力残滓がはっきりと検出されている。私が彼女の手首を掴んだ瞬間に無理やり登録させた魔力偽装だが、今の彼らにそれを見抜く知性はない。

会場の入り口が激しく蹴り破られた。
なだれ込んできたのはドッターと彼が裏で話を通していた王宮直属の騎士団。彼らは帝国派の甘い汁を吸っていない、筋金入りの愛国者達だ。

「動くな!ランダ・イリサール、およびデューク・アマンニ、国家転覆の容疑により身柄を拘束する!」

アマンニ公爵が壇上から崩れ落ちるのが見えた。
私は暗闇に紛れ再び仮面を被り直す。

ハイベルクは愛した女が売国の証拠を手にしているという現実を前に、
ただの木偶人形のように立ち尽くしていた……。
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