蔑まされた没落貴族家の悪役令嬢ですが、この舞台の主役は私がやらせていただきます!

あぷりこっと

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連れて行きなさい……一人残らず

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静寂。それは数分前までの喧騒が嘘のような、耳を刺すほどの静寂だった。

ホールの中央に居るたった一つの魔導照明に照らされたランダ・イリサールは、まるでスポットライトの下で震える無様な操り人形に見えた。その手には紛れもない帝国との通信記録が握られている。

「……ありえない。こんなこと!ありえないわ!」

ランダの悲鳴のような絶叫が響く。彼女は必死にその紙束を床に叩きつけ、ハイベルクの胸元に縋り付いた。

「ハイベルク! 信じて! 私は何も知らないの! これはあのレーウ……あの没落家の女が私を陥れるために仕組んだ罠なんです!」

ハイベルクは動かなかった。その瞳は彼女の美貌ではなく、足元に散らばった書面に釘付けになっていた。そこには彼の母君の出自を利用し彼を売国奴として処刑するための計画が詳細に記されていた。

「……もう見苦しいですわよ。ランダ様」

私は暗闇の中からゆっくりと光の輪の中へと歩み出た。

脱ぎ捨てたヒールの代わりに裸足で大理石を踏みしめる音だけが響く。私の手にはドッターから受け取った別の書類束が握られていた。

「レーウ……! 貴様何をした!」

壇上で拘束されていたアマンニ公爵が泡を吹いて叫ぶ。

「私は公爵だぞ! 王国の重鎮だ! こんな自警団まがいの賊に捕らえられる筋合いはない!」

「重鎮。ええ……その地位を利用して帝国の密偵に王国の防衛網の隙間の情報を売り払った汚れた重鎮ですわね」

私はアマンニ公爵の目の前まで歩み寄り、書類を一枚彼の顔の前に突きつけた。

「貴方が管理していたはずの国境付近の魔導障壁の維持予算。その三割が貴方の隠し口座を経由して帝国のダミー会社へ送金されている……」

「そ、それは……! 知らん!!」

「この数字、見覚えがありませんか?」

「捏造だ!そんなものに証拠能力はない!」

「あら残念。捏造ではありませんわ。貴方の書斎にある隠し金庫……解除番号は〇〇〇〇〇。そこから今朝ドッター達が本物の帳簿を回収済みです」

会場がざわ……と揺れた。
アマンニ公爵の顔から一気に血の気が引いていく。暗証番号まで言い当てられた絶望が彼の肥え太った巨体を震わせていた。

「ランダ、貴女も同じです。貴女は自分が愛の力でハイベルクを動かしているつもりだったのでしょうけれど、実際には貴女の執事……いいえ、ヴォルガ帝国の諜報員に踊らされていたに過ぎない」

私は震えるランダに歩み寄った。

「貴女がハイベルクに贈ったあの香水。あれには判断力を鈍らせる微量の魔法毒が混入されていましたわ……貴女の執事が貴女にそう勧めたのでしょう? 殿下を貴女に夢中にさせる麗しの香りですと……貴女は自分が愛されるために、愛する人を帝国に売る手伝いをしていたのですわ」

「嘘……嘘です……私はただ……彼と幸せになりたかっただけです!!」

ランダはその場に泣き崩れ落ちた。彼女の純真という名の化けの皮が、論理という名の一撃によって一枚ずつ剥がされていく。
その光景をハイベルクはただ、死人のような顔で見つめていた。

「ハイベルク……貴方は彼女に守られていたのではありません。彼女を盾にしたアマンニ公爵達によって死地へと追い込まれていたのです……貴方の血筋がこの国の純潔を汚すものだと彼らは本気で信じていたのですから」

私は彼に向けていた冷たい視線を和らげることなく明確に最後の一撃を放った。
「パーティの時間はもう終わりです……これからは法と現実の時間が始まりますわ」

会場の四方から騎士団の甲冑が触れ合う金属音が響く。

「連れて行きなさい……一人残らず」
ドッターが率いる騎士団の手によってアマンニ公爵、ランダ、そして共謀者達が次々と引き立てられていく。

豪華絢爛だった舞踏会会場は今や冷徹な法廷へと変貌していた。
そしてその中心にはハイベルクだけが取り残されていた……。

私は彼に背を向けた。ミッションは完遂した。あとは残された後始末と……彼自身の選択を待つだけだ。

私の耳には遠ざかるランダの啜り泣きよりも、背後でハイベルクが私の名を呼ぼうとして声を失う気配の方がよほどはっきりと聞こえていた。

「……不運と踊った。いいえ、貴方達は最初から私の手のひらで踊らされていたのですわ。
……パペット・マペットのように!!」

私は暗闇の中に残るドッターと視線を交わし短く頷き合った。


本当の戦いはここから始まる。
没落した伯爵家の……逆襲という名の舞踏は。
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