まずはお嫁さんからお願いします。

桜庭かなめ

文字の大きさ
37 / 144

第36話『一緒のお弁当』

しおりを挟む
 連休明けの学校生活が始まる。
 月曜日、特に長い連休や長期休暇明けの月曜日はけだるくなることがある。ただ、今日はそういったことなく授業を受けることができている。教室の中に優奈という可愛いお嫁さんがいて、少し視線を動かすだけでいつでも優奈のことを見られるからだろうか。
 たまに、優奈と視線が合うと、優奈がニコッと笑ったり、小さく手を振ったりしてくれて。それが可愛くて、元気をもらって。俺も優奈に手を振るとより元気になれて。お嫁さんのパワーって凄いな。
 俺と優奈が新居に引っ越して一緒に住み始めたこともあり、休み時間には友達中心にクラスメイトから優奈のことについて色々と訊かれる。ただ、結婚報告をした日ほどではないので、質問されることに疲れは感じなかった。



 ――キーンコーンカーンコーン。

 4時間目の授業が終わるのを知らせるチャイムが鳴り、昼休みになった。月曜日の午前中は一週間の中で一番長く感じるけど、今日はあっという間に感じられた。
 昼休みになったけど……授業の合間の休み時間とは違って、俺に優奈のことを訊いてくる生徒は一人もいない。これも、結婚を報告した日に、西山が「昼休みは夫婦水入らずの時間を過ごさせてやれよ」と言ってくれたのが大きいだろう。
 今日のお昼ご飯は優奈が作ってくれたお弁当だ。弁当包みと麦茶の入っている水筒をスクールバッグから取り出す。

「よし、今日も優奈と一緒にお昼ご飯を食べるか」
「よし、今日も俺は昼飯を食べる長瀬と有栖川のことを見るか」

 西山は楽しげな笑顔でそう言い、弁当と水筒をバッグから取り出して、自分の机の上に置く。俺と目が合うと、西山は「ははっ」と声に出して笑う。遠くから優奈を見ているのが好きなのもあり、優奈と一緒にお昼ご飯を食べていると、西山は友達と一緒に今のような笑顔で俺達を見ていることがある。

「そうか。じゃあ、優奈の席でお昼ご飯を食べてくるよ」
「おう。いってら~」

 西山は軽い口調でそう言った。
 弁当包みと水筒を持って、俺は優奈の席へ向かう。これまでに2回、優奈と俺が一緒にお昼ご飯を食べているからか、優奈の周りにも生徒は集まっていない。

「お待たせ、優奈」
「いらっしゃい、和真君。午前中の授業、お疲れ様でした」
「ありがとう。優奈もお疲れ様。優奈のおかげで、月曜の午前の授業があっという間だったよ」
「ふふっ、そうでしたか。授業中に何度も目が合いましたよね。和真君のおかげで、いつもよりも授業が楽しかったです」
「そっか。そう言ってくれて嬉しいよ」

 心が温かくなるよ。
 弁当包みと水筒を優奈の机に置き、いつものように、教卓の側にある教師用の椅子を運んで優奈と向かい合う形で座る。

「優奈の作ってくれたお弁当……楽しみだな」
「美味しく食べてもらえたら嬉しいです」

 優奈とそんな話をしながら、俺達は弁当包みを広げ、弁当箱の蓋を開ける。ちなみに、弁当箱は実家から持ってきたものだ。
 弁当箱は二段組。一段は白米。もう一段はおかずが入っている。おかずは玉子焼きにミニハンバーグ、唐揚げ、きんぴらごぼう、ブロッコリー、ミニトマトといったお弁当の王道とも言える内容だ。優奈の方も俺よりも量は少ないけど、ラインナップはもちろん同じだ。こういうところからも、優奈と結婚して一緒に過ごしているのだと実感する。

「どれも美味しそうだ」
「ありがとうございます。玉子焼きとハンバーグは私の手作りですが、唐揚げときんぴらごぼうは冷凍食品のものを入れました」
「そうなんだ。美味しい冷凍食品って多いよな。実家から通っていたときも、冷凍食品のおかずや副菜が入っていたよ」
「そうでしたか。うちもそうでした。美味しい冷凍食品っていっぱいありますよね」
「ああ。今後、俺がお弁当を作るときも、冷凍食品を入れることがあると思う」

 だから、優奈がお弁当に冷凍食品を入れたり、美味しい冷凍食品がいっぱいあると言ったりしたことにちょっとほっとしている。
 優奈は笑顔で「はいっ」と返事した。

「2人とも同じお弁当ね」
「萌音の予想通りだったね! 美味しそう!」

 気付けば、俺達のすぐ近くには井上さんと佐伯さんが来ていた。美味しそうと言うだけあり、佐伯さんの方は目を輝かせながら俺達のお弁当を見ている。

「2人のお弁当箱が見えてね。一緒に住み始めたから、中身が同じかもしれないと思って見に来たの」
「同じお弁当っていいね!」
「今日は私がお弁当を作りました。玉子焼きとハンバーグは手作りです。和真君も食べてくれますし、和真君へ作るのは初めてですから、これまでよりも作っていて楽しかったですね」

 優奈はニコッと笑いながらそう言ってくれる。朝、キッチンに立っているときの優奈は楽しそうだったもんな。

「ふふっ、優奈可愛い。長瀬君にとっては愛妻弁当ね」
「……そ、そうだな」

 大切な妻が作ってくれたんだ。愛妻弁当だな、これは。あと、誰かに「愛妻弁当」って言われると、ちょっと照れくさいものがある。俺と同じ気持ちなのか、優奈の笑顔はほんのりと赤みを帯びていた。

「お揃いのお弁当って、夫婦とかカップルって感じがしていいわね」
「そうだね、萌音。あと、玉子焼きやハンバーグは優奈の手作りかぁ……」

 そう言い、佐伯さんは俺の方を見てくる。玉子焼きもハンバーグもほしいです、ってことかな。俺を見てくるのは、俺の方が量が多いからだろうか。

「こらこら、懇願の眼差しを長瀬君に向けないの」
「あははっ、萌音は分かったか」
「俺もそんな感じがしたよ」
「せっかく優奈が初めて作ったんだから、全部長瀬君に食べさせてあげなさい。それに、優奈特製の玉子焼きとハンバーグはこれまでに食べたことあるでしょう」
「そ、そうだね。優奈の玉子焼きとハンバーグは美味しいけど我慢する」

 苦笑いで佐伯さんはそう言った。実際、玉子焼きはとても美味しかったからなぁ。きっと、ハンバーグもとても美味しいのだろう。期待が高まる。

「優奈、長瀬君。初めての一緒のお弁当だし、写真撮ってもいい?」
「いいですよ」
「俺もいいぞ」
「ありがとう。後で2人にLIMEで送っておくわ」

 その後、井上さんはスマホで俺達2人のお弁当や、お弁当と俺達2人の写真を撮影する。それらの写真の何枚かはLIMEで俺達のスマホに送ってくれた。今日の思い出になりそうだと思いつつ、俺はスマホに写真を保存した。
 井上さんと佐伯さんは、佐伯さんの机に戻っていった。

「では、お弁当を食べましょうか」
「ああ、食べよう。いただきます」
「いただきます」

 今日のお昼ご飯の時間が始まった。
 おかずはどれも美味しそうだけど……優奈の手作りと知ったから、玉子焼きとハンバーグに興味を引かれる。玉子焼きはこの前食べたから、まずはハンバーグを食べてみるか。そう思い、箸でハンバーグを掴む。

「まずはハンバーグを食べてくれるんですね」
「手作りだし、今まで食べたことがないからな」
「お口に合うと嬉しいです」
「きっと合うよ。いただきます」

 俺はハンバーグを一口食べる。
 お弁当に入っているハンバーグだから常温だ。だけど、柔らかくてジューシーさを感じられる。ハンバーグの上にちょっと乗っているデミグラスソースとの相性もいい。

「美味しいな! 美味しいハンバーグだ」
「良かったですっ」

 優奈は嬉しそうに言い、ほっと胸を撫で下ろしていた。手作りだし、ハンバーグを食べるのは初めてだから緊張していたのかもしれない。

「さすがは優奈だ。佐伯さんが食べたがっていたのも納得だよ」
「ありがとうございます。昨日、和真君がバイトに行っている間にタネを作っておいたんです。ですから、今朝は焼くだけでした」
「そうだったのか。常温でも柔らかくてジューシーで美味しいなって思うよ」
「昔、冷めても美味しいように作るコツを両親から教わりまして。和真君が美味しいと思ってもらえて良かったです」

 柔らかい笑顔でそう言うと、優奈は自分のお弁当に入っているハンバーグを食べる。美味しいのか、優奈はニコッと笑って「うんっ」と可愛い声を漏らす。それがとても可愛くて。
 このハンバーグは御両親から教わったのか。ということは、有栖川家の味とも言えるか。そう思って今も箸で掴んでいるハンバーグを食べると、さっきよりも味わい深く感じられた。本当に美味しい。今度、優奈にレシピを教えてもらおうかな。
 次に、優奈特製の玉子焼きを食べる。

「……うん。甘くて美味しい玉子焼きだ。これまで何度も食べてきたから、この甘い玉子焼きを食べると安心するよ」
「ふふっ、そう言ってもらえて嬉しいです」

 優奈は持ち前の優しい笑顔でそう言った。
 今は玉子焼きだけだけど、一緒に生活していく中で、食べると「優奈の味だ」と安心できる料理が増えていくんだろうな。そうなったら嬉しいな。
 お弁当のことや、昨日までのゴールデンウィークのことなどを話しながら、優奈の作ってくれたお弁当を食べていった。もちろん完食した。ごちそうさまでした。
しおりを挟む
感想 4

あなたにおすすめの小説

クラスメイトの王子様系女子をナンパから助けたら。

桜庭かなめ
恋愛
 高校2年生の白石洋平のクラスには、藤原千弦という女子生徒がいる。千弦は美人でスタイルが良く、凛々しく落ち着いた雰囲気もあるため「王子様」と言われて人気が高い。千弦とは教室で挨拶したり、バイト先で接客したりする程度の関わりだった。  とある日の放課後。バイトから帰る洋平は、駅前で男2人にナンパされている千弦を見つける。普段は落ち着いている千弦が脚を震わせていることに気付き、洋平は千弦をナンパから助けた。そのときに洋平に見せた笑顔は普段みんなに見せる美しいものではなく、とても可愛らしいものだった。  ナンパから助けたことをきっかけに、洋平は千弦との関わりが増えていく。  お礼にと放課後にアイスを食べたり、昼休みに一緒にお昼ご飯を食べたり、お互いの家に遊びに行ったり。クラスメイトの王子様系女子との温かくて甘い青春ラブコメディ!  ※特別編3が完結しました!(2025.12.18)  ※小説家になろうとカクヨムでも公開しています。  ※お気に入り登録、いいね、感想などお待ちしております。

サクラブストーリー

桜庭かなめ
恋愛
 高校1年生の速水大輝には、桜井文香という同い年の幼馴染の女の子がいる。美人でクールなので、高校では人気のある生徒だ。幼稚園のときからよく遊んだり、お互いの家に泊まったりする仲。大輝は小学生のときからずっと文香に好意を抱いている。  しかし、中学2年生のときに友人からかわれた際に放った言葉で文香を傷つけ、彼女とは疎遠になってしまう。高校生になった今、挨拶したり、軽く話したりするようになったが、かつてのような関係には戻れていなかった。  桜も咲く1年生の修了式の日、大輝は文香が親の転勤を理由に、翌日に自分の家に引っ越してくることを知る。そのことに驚く大輝だが、同居をきっかけに文香と仲直りし、恋人として付き合えるように頑張ろうと決意する。大好物を作ってくれたり、バイトから帰るとおかえりと言ってくれたりと、同居生活を送る中で文香との距離を少しずつ縮めていく。甘くて温かな春の同居&学園青春ラブストーリー。  ※特別編8-お泊まり女子会編-が完結しました!(2025.6.17)  ※お気に入り登録や感想をお待ちしております。

桜庭かなめ
恋愛
 高校1年生の逢坂玲人は入学時から髪を金色に染め、無愛想なため一匹狼として高校生活を送っている。  入学して間もないある日の放課後、玲人は2年生の生徒会長・如月沙奈にロープで拘束されてしまう。それを解く鍵は彼女を抱きしめると約束することだった。ただ、玲人は上手く言いくるめて彼女から逃げることに成功する。そんな中、銀髪の美少女のアリス・ユメミールと出会い、お互いに好きな猫のことなどを通じて彼女と交流を深めていく。  しかし、沙奈も一度の失敗で諦めるような女の子ではない。玲人は沙奈に追いかけられる日々が始まる。  抱きしめて。生徒会に入って。口づけして。ヤンデレな沙奈からの様々な我が儘を通して見えてくるものは何なのか。見えた先には何があるのか。沙奈の好意が非常に強くも温かい青春ラブストーリー。  ※タイトルは「むげん」と読みます。  ※完結しました!(2020.7.29)

天才天然天使様こと『三天美女』の汐崎真凜に勝手に婚姻届を出され、いつの間にか天使の旦那になったのだが...。【動画投稿】

田中又雄
恋愛
18の誕生日を迎えたその翌日のこと。 俺は分籍届を出すべく役所に来ていた...のだが。 「えっと...結論から申し上げますと...こちらの手続きは不要ですね」「...え?どういうことですか?」「昨日、婚姻届を出されているので親御様とは別の戸籍が作られていますので...」「...はい?」 そうやら俺は知らないうちに結婚していたようだった。 「あの...相手の人の名前は?」 「...汐崎真凛様...という方ですね」 その名前には心当たりがあった。 天才的な頭脳、マイペースで天然な性格、天使のような見た目から『三天美女』なんて呼ばれているうちの高校のアイドル的存在。 こうして俺は天使との-1日婚がスタートしたのだった。

俺を振ったはずの腐れ縁幼馴染が、俺に告白してきました。

true177
恋愛
一年前、伊藤 健介(いとう けんすけ)は幼馴染の多田 悠奈(ただ ゆうな)に振られた。それも、心無い手紙を下駄箱に入れられて。 それ以来悠奈を避けるようになっていた健介だが、二年生に進級した春になって悠奈がいきなり告白を仕掛けてきた。 これはハニートラップか、一年前の出来事を忘れてしまっているのか……。ともかく、健介は断った。 日常が一変したのは、それからである。やたらと悠奈が絡んでくるようになったのだ。 彼女の狙いは、いったい何なのだろうか……。 ※小説家になろう、ハーメルンにも同一作品を投稿しています。 ※内部進行完結済みです。毎日連載です。

罰ゲームから始まった、五人のヒロインと僕の隣の物語

ノン・タロー
恋愛
高校2年の夏……友達同士で行った小テストの点を競う勝負に負けた僕、御堂 彼方(みどう かなた)は、罰ゲームとしてクラスで人気のある女子・風原 亜希(かざはら あき)に告白する。 だが亜希は、彼方が特に好みでもなく、それをあっさりと振る。 それで終わるはずだった――なのに。 ひょんな事情で、彼方は亜希と共に"同居”することに。 さらに新しく出来た、甘えん坊な義妹・由奈(ゆな)。 そして教室では静かに恋を仕掛けてくる寡黙なクラス委員長の柊 澪(ひいらぎ みお)、特に接点の無かった早乙女 瀬玲奈(さおとめ せれな)、おまけに生徒会長の如月(きさらぎ)先輩まで現れて、彼方の周囲は急速に騒がしくなっていく。 由奈は「お兄ちゃん!」と懐き、澪は「一緒に帰らない……?」と静かに距離を詰める。 一方の瀬玲奈は友達感覚で、如月先輩は不器用ながらも接してくる。 そんな中、亜希は「別に好きじゃないし」と言いながら、彼方が誰かと仲良くするたびに心がざわついていく。 罰ゲームから始まった関係は、日常の中で少しずつ形を変えていく。 ツンデレな同居人、甘えたがりな義妹、寡黙な同クラ女子、恋愛に不器用な生徒会長、ギャル気質な同クラ女子……。 そして、無自覚に優しい彼方が、彼女たちの心を少しずつほどいていく。 これは、恋と居場所と感情の距離をめぐる、ちょっと不器用で、でも確かな青春の物語。

管理人さんといっしょ。

桜庭かなめ
恋愛
 桐生由弦は高校進学のために、学校近くのアパート「あけぼの荘」に引っ越すことに。  しかし、あけぼの荘に向かう途中、由弦と同じく進学のために引っ越す姫宮風花と二重契約になっており、既に引っ越しの作業が始まっているという連絡が来る。  風花に部屋を譲ったが、あけぼの荘に空き部屋はなく、由弦の希望する物件が近くには一切ないので、新しい住まいがなかなか見つからない。そんなとき、 「責任を取らせてください! 私と一緒に暮らしましょう」  高校2年生の管理人・白鳥美優からのそんな提案を受け、由弦と彼女と一緒に同居すると決める。こうして由弦は1学年上の女子高生との共同生活が始まった。  ご飯を食べるときも、寝るときも、家では美少女な管理人さんといつもいっしょ。優しくて温かい同居&学園ラブコメディ!  ※特別編11が完結しました!(2025.6.20)  ※お気に入り登録や感想をお待ちしております。

クラスのマドンナがなぜか俺のメイドになっていた件について

沢田美
恋愛
名家の御曹司として何不自由ない生活を送りながらも、内気で陰気な性格のせいで孤独に生きてきた裕貴真一郎(ゆうき しんいちろう)。 かつてのいじめが原因で、彼は1年間も学校から遠ざかっていた。 しかし、久しぶりに登校したその日――彼は運命の出会いを果たす。 現れたのは、まるで絵から飛び出してきたかのような美少女。 その瞳にはどこかミステリアスな輝きが宿り、真一郎の心をかき乱していく。 「今日から私、あなたのメイドになります!」 なんと彼女は、突然メイドとして彼の家で働くことに!? 謎めいた美少女と陰キャ御曹司の、予測不能な主従ラブコメが幕を開ける! カクヨム、小説家になろうの方でも連載しています!

処理中です...