まずはお嫁さんからお願いします。

桜庭かなめ

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特別編2

第3話『雨の季節に』

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 6月12日、月曜日。
 今日は起きたときから雨がシトシトと降っている。天気予報によると、今日はずっと雨が降り続くらしい。
 また、俺達の住む高野たかの区がある東京都や周辺の県も、今日から数日ほど雨予報が続いている。関東地方はまだ梅雨入りが発表されていないけど、この予報だと今日にも発表されそうかな。
 優奈と一緒にいつも通りの平日の朝の時間を過ごし、学校へ行く準備をしていく。

「よし。水筒をバッグに入れたし、これで大丈夫だな」
「そうですね。では、学校へ行きましょうか」
「ああ」

 俺達はリビングを出て、玄関へと向かう。
 学校指定のローファーを履き、玄関を開ける直前に、

「和真君。いつもの……しましょうか」
「そうだな」
『……いってきます』

 声を揃えてそう言い、俺から優奈にいってきますのキスをした。好き合う夫婦になってからは、家を出発するときにキスをするのが恒例になっている。
 キスをし終わり、俺達は学校に向かって家を出発する。
 エレベーターで1階に降りて、エントランスを出ると……ジメッとした蒸し暑い空気が体を包み込む。
 雨が降っているので、俺の傘で優奈と相合い傘をして、学校に向かって歩き始める。一緒に住み始めてから、雨が降っている日はこうして相合い傘をすることが多い。

「シトシトと降る雨に、ジメッとした蒸し暑い空気。この時期らしい気候ですね」
「そうだな。こういう天気が数日くらい続くみたいだから、今日にでも関東地方も梅雨入りが発表されそうかな」
「そうですね。私もそう予想しています」

 優奈は微笑みながらそう言った。こういうことでも、優奈と考えていることが同じだと嬉しい気持ちになる。

「雨が降る日が多いですし、蒸し暑いですし、いつもよりも髪を整えるのも大変なので、梅雨の時期はあまり好きではないですね。出かけるときに傘を持たなければいけませんし」
「そうだな。俺も梅雨の時期はあまり好きじゃないな。もっと暑くなってもいいから、梅雨明けして晴れてほしいなって何度も思ったっけ」
「私も思ったことあります」

 ふふっ、と優奈は楽しそうに笑う。

「ですが、今年からは梅雨を好きになれそうです。和真君と一緒に外出するときは、こうして相合い傘をしますから」

 俺を見つめながらそう言うと、優奈の笑顔が嬉しそうなものに変わって。傘の柄を持つ俺の右手を掴む力が少し強くなった気がした。

「そっか。俺も好きになれそうだな。優奈と相合い傘をするのが好きだから」

 優奈の目を見ながらそう言う。
 晴れや曇りの日に、優奈と手を繋いで歩くのもいい。ただ、一つの傘に一緒に入っていると、優奈と2人きりの空間に一緒にいられるような気がして。傘の柄を持つ俺の手を優しく握ってくれるのも気持ちがいいし。
 これまで、梅雨はあまり好きではなく、いいイメージはなかった。だけど、優奈のおかげで、今年からは梅雨に対する印象がいい方に変わりそうだ。

「ふふっ、そうですか。あとは、和真君と一緒に住み始めて、学校が近くなったのもありますね。傘を持って満員電車に乗るのが大変で……」
「それは大変そうだ。今の家からは徒歩数分だもんな。……あと、今日みたいに雨が降る月曜日の朝は気怠くなることが多いけど、優奈のおかげで今日はそんなことはないな」
「そう言ってくれて嬉しいです」
「あとは、今週はずっと、お昼で学校が終わるのもあるかな」
「午後に三者面談がありますもんね。お昼で終わりますから楽でいいですよね」

 そう、今週一週間は全校で三者面談が実施される。それに伴い、授業は午前中のみであり、お昼に下校となるのだ。優奈の言う通り、今週は楽でいいなって思う。
 三者面談では、中間試験の結果を踏まえて勉強のことや中間試験の時期に提出した進路希望調査票のこと、日常生活について話す予定になっている。
 うちのクラスは基本的に出席番号順で日程が組まれており、出席番号1番の優奈は今日、俺は木曜日に面談を受ける予定だ。

「あと、今週全部が午前中だけだから、特別な一週間って感じがするよ」
「そうですね」
「今日は優奈が三者面談を受ける予定だよな。頑張れよ。まあ、優奈は中間試験も学年1位だったから、平和な面談になりそうだけど」
「そうなるといいですね。担任の先生は1年生のときと同じ夏実先生ですし、特に緊張とかはないですね」
「そうか」

 1年生のときも渡辺先生だったのは大きいよな。先生とはプライベートで親交もあるから、優奈にとってとても面談を受けやすいんじゃないだろうか。

「和真君も学年7位になったほどに中間試験は良かったですし、夏実先生は去年に続いての担任の先生なんですよね。ですから、平和な面談になりそうです」
「そうなるといいな。2年連続で渡辺先生が担任だから、緊張はあまりないかな」
「そうですか。あと、面談では日常生活についても話しますから、私達の結婚生活について訊かれそうな気がします」
「あり得そうだなぁ。担任として俺達の生活状況を知っておきたい気持ちがありそうだ」
「ですね」

 もしかしたら、それが面談のメインの話題になりそうな気もする。渡辺先生にはクラスメイトに結婚報告をする前に結婚したことを話したし、俺達の住まいにも遊びに来たし、好き合う夫婦になったことも報告したから。

「井上さんが優奈の次だから、井上さんの面談が終わったら、彩さんと井上さんと井上さんの母親の雛子ひなこさんも一緒にうちに帰ってくるんだよな」
「はい。その予定です。萌音ちゃん曰く、雛子さんは私達の家がどんな感じなのかとか、梨子さんに会うのを楽しみにしているとのことです」
「そうか。母さんも楽しみにしてるってさ」

 母さんはパートのシフトなどの予定がないのもあり、お昼過ぎにうちに来ることになっている。久しぶりに彩さんと井上さんと会うのはもちろんのこと、雛子さんと初めて会うことも楽しみにしているそうだ。
 ちなみに、俺は中間試験の勉強会で井上さんの家に行ったときに雛子さんと会ったことがある。井上さんの母親らしく可愛らしい雰囲気の方だ。
 さっき話した通り、井上さんは優奈の次に三者面談を受ける。また、佐伯さんは明日、西山は木曜日に俺の次の番で受ける予定だ。
 梅雨のことや三者面談のことを話していたから、気付けば校門が見えるくらいのところまで来ていた。

「今週は三者面談を含めて頑張っていきましょう」
「ああ、そうだな」

 先日の席替えで、今は優奈とは隣同士の席だ。今週はずっとお昼で終わるのもあるし、今週の学校生活も頑張れそうだ。あと、中間試験の点数が良かったから、三者面談もきっと乗り越えられるだろう。



 なお、優奈と俺の予想通り、午前中の間に関東地方が梅雨入りしたというニュース速報の通知がスマホに届いた。
 予想があったのもあって、優奈は梅雨入りを知ったときに嬉しそうにしていた。それが可愛くて。そんな優奈と一緒だから、今年の梅雨は去年までよりは好きになれそうだ。
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