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特別編3
第12話『ウォータースライダー』
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レジャープールで水をかけ合うのをたっぷりと楽しんだ後、別のプールに行くかウォータースライダーを滑ろうという話になった。そのため、俺達はレジャープールを出る。
「次はどこに行きましょうか? 水をかけ合うのは私の希望でしたから、今度は和真君のやりたいことをしたいです」
「ありがとう。じゃあ、お言葉に甘えて。……ウォータースライダーに行きたいな。結構好きで、スイムブルーに来ると毎回滑ってるから。それに、優奈も井上さんも、スイムブルーではウォータースライダーを一緒に滑って楽しかったって話していたから、俺も優奈と一緒に滑りたいなって思ってて。どうかな?」
優奈にそう提案してみる。
昨日、井上さんから話を聞いたときは、井上さん達が羨ましいと思った。だから、俺も優奈と一緒にウォータースライダーを滑りたいのだ。
優奈はニコッとした笑顔になり、
「一緒に滑りたいって言ってくれて嬉しいです! いいですよ! ウォータースライダーは好きですし、デートでは和真君と一緒に滑りたいと思っていましたから」
と、俺の希望を快諾してくれる。なので、とても嬉しい気持ちに。一緒に滑りたいって言ってみて良かった。
「ありがとう。じゃあ、ウォータースライダーに行こうか」
「はいっ」
俺達は手を繋いで、ウォータースライダーの入口に向かって歩き始める。
俺達が屋内プールに来たときよりもお客さんの数が多くなっている。それに比例して、俺達に視線を向ける人も多くなっている気がする。これまでに家族や友達と何度も来たことがあるけど、ここまで視線を向けられるのは初めてだ。これも一緒にいるのが優奈だからなのだろう。
「優奈と一緒にウォータースライダーを滑るのが楽しみだな」
「私もですっ。……ところで、さっき和真君はウォータースライダーが好きだと言っていましたけど、いつ頃から好きなんですか?」
「小学校の低学年くらいから好きだな。その頃に家族で行ったプール施設や家族旅行で泊まったホテルのプールに、子供でも滑れる小さなスライダーがあってさ。それが楽しくて何度も滑ったのを覚えてる」
「そうだったんですね」
「あと、真央姉さんがウォータースライダーが大好きだから、2人で一緒に滑れるって分かると、姉さんによく誘われて一緒に滑ってた。もちろん、ここでもな」
「真央さんらしいです」
ふふっ、と優奈は楽しそうに笑う。
今はスイムブルー八神に来ていて、ウォータースライダーのコースが見えているから、真央姉さんと一緒に滑ったときのことを鮮明に思い出す。姉さん……滑っている間は叫びまくって、滑る度にテンションが上がっていたっけ。
「優奈はいつ頃から好きなんだ?」
「小学校の3年生くらいから結構好きになりましたね。それ以前はそこまで好きではなかったのですが、家族旅行で行ったホテルのプールで当時幼稚園の陽葵に一緒に滑ろうと誘ってくれて。小さい子でも滑れる小さなスライダーだったのですが、一緒に滑ってみたら凄く楽しくて。それがきっかけで好きになっていきました」
「そうだったんだ。妹の陽葵ちゃんがきっかけっていうのが優奈らしさを感じるな。いい話だなって思うよ」
優奈は妹の陽葵ちゃんと仲がいいからな。心が温まるいいエピソードだ。
好きになった当時のことを思い出しているのか。それとも、俺にいい話だと言われたからなのか。優奈の笑顔は優しいものになっていた。
「結構好きになってからは、こういうプール施設や旅行で泊まるホテルにウォータースライダーがあると必ず滑りますね。気に入ると何回も連続で滑ることもあって。ここのスライダーもそうです」
「そうなんだ。かなり好きなんだな」
「はいっ! スイムブルーのウォータースライダーも好きなので、和真君と一緒に滑るのがとても楽しみです!」
優奈はニッコリとした笑顔でそう言ってくれた。
ウォータースライダー絡みのことを話したのもあり、気付けばウォータースライダーの入口前まで来ていた。
入口のところにいたスタッフさんに、2人で滑るウォータースライダー用の浮き輪を受け取った。
俺が浮き輪を持って、優奈と一緒にスタート地点に向かう階段を上がっていくと……上がり終わる前に2人用の浮き輪を持った男女が並んでいた。ウォータースライダーの順番待ちの列だろう。これまでも、階段から並ぶことは何度もあったし。そう考え、俺達は男女の後ろに並ぶ。
「3年ぶりだけど、ウォータースライダーは変わらず人気なんだな」
「そうですね。一昨年も去年もウォータースライダーは階段から並んでいました」
「そうか。まあ、ゆっくり待とう。待つのは好きな方だし。今は優奈と一緒だし」
「ふふっ。私も待つのは好きですし、和真君と一緒ですからいつまでも待てそうです」
優奈は穏やかな笑顔でそう言った。
優奈と雑談しながら、自分達の順番を待つ。優奈と話すのは楽しいし、定期的に前に進んでいくから、こうして列に並ぶのは全く苦ではない。
もうすぐ頂上で、スタート地点が見え始めたとき、
「あの、和真君。座る場所はどうしましょうか?」
優奈がそんなことを訊いてきた。2人用の浮き輪は前後に2カ所、座るための穴が空いており、そこに座ってウォータースライダーを滑る形だ。だから座る場所を訊いたのだろう。
「そうだな……優奈は希望ある?」
「そうですね……後ろがいいです。和真君が見える中で滑ってみたいです」
「分かった。じゃあ、俺が前で優奈は後ろに座ろう」
「はいっ」
希望が通ったのもあってか、優奈は嬉しそうだ。可愛い。
「スタート地点が見えるから、ますます楽しみになってきた」
「私もです。ここのウォータースライダーは、コースにいくつかスリルを感じるポイントがあって好きです」
「そういえば、ここのスライダーは結構スリルを感じることがあったな」
だから、結構叫んだっけ。3年経って高校生になったし、結婚もしたけど……今回も結構叫んでしまうかもしれない。
それからも列は進んでいき、いよいよ俺達の番になった。
「次はお二方ですね。カップルさんですか?」
スタート地点にいる女性のスタッフさんからそう問いかけられる。
「いえ、私達は夫婦です。2ヶ月前に結婚しました」
「そうでしたか! 新婚さんなんですね! いいですね~!」
と、スタッフさんは明るい笑顔でそう言ってくれる。接客として言われただけかもしれないけど、見知らぬ人から「新婚さんいいですね」と言われるのは嬉しいものだ。優奈も嬉しいのか嬉しそうな笑顔になっている。
事前に決めた通り、俺が浮き輪の前、優奈が後ろの穴に腰を下ろした。俺のすぐ両側には優奈の綺麗な白い脚があって。そのことにちょっとドキドキする。
「では、ラブラブな新婚さんいってらっしゃーい!」
スタート地点にいた女性のスタッフさんは元気良くそう言い、俺達の乗っている浮き輪を押した。俺と優奈の初めてのウォータースライダーが始まった!
俺達の乗る浮き輪は水の流れに乗り、コースを滑り始める。
「始まりましたね!」
「ああ!」
後ろから聞こえる優奈の声はとても弾んでいる。ここのウォータースライダーは好きだと言っていたし、俺と一緒に初めて滑るからかな。きっと、優奈は楽しそうな笑顔になっているんだろう。
常に下り続け、水の流れも結構あるから、俺達の乗る浮き輪のスピードがどんどん増していく!
「おおっ、速くなってきたな!」
「ですねー! 気持ちいいですっ!」
きゃーっ! と、優奈は後ろから何度も黄色い声を上げる。優奈はウォータースライダーや遊園地の絶叫系では声を出すタイプなのかもしれない。前に座っているからスリルを結構感じている中でも、優奈のことが可愛いなって思えて。
時折、急カープしたり、下る角度が急にキツくなったりして。そういったときは顔に特に水がかかったり、スピードがアップしたりするので特にスリルを感じ、
「うおおっ!」
「きゃああっ!」
と、俺達は大きな声で叫ぶ。ただ、優奈と一緒に叫ぶから凄く気持ちいいぜ!
その後も優奈と一緒に叫びながらウォータースライダーを滑っていき、スピードを保ったまま俺達はゴールに辿り着いた。
――バシャッ!
勢い良くゴールに辿り着いたのもあり、ゴールに到着した瞬間にバランスを崩し、俺達は浮き輪からゴールのプールに落ちた。そういえば、ここのウォータースライダーは勢いがあるから、ゴールに着くと浮き輪から落ちることが何度もあったな。
プールに落ちたので、水をかけ合ったり、コースを滑っている中で水しぶきを受けたりしたときよりも水が冷たく感じる。
水面から顔を出すと、近くに俺達が乗ってきた浮き輪がひっくり返った状態で浮いている。優奈の姿は見えない。
水中を見てみると……浮き輪のすぐ近くで黒髪の人の姿が見える。ピンク色も見えるので、この人が優奈だろう。そう思っていると、
「ぷはっ」
浮き輪のすぐ近くから優奈が姿を現した。優奈が無事だと分かってほっとした。
優奈はその場で立ち上がり、両手で顔に付いた水滴を拭う。その中で優奈は俺のことを見てニコッと笑いかけてきて。その姿が可愛くて、美しさも感じられてドキッとする。
「スリルがありましたね! 楽しいです!」
「楽しいな! 久しぶりだったし、前に座ったから結構スリルがあったよ」
「和真君、叫んでいましたよね。後ろに座っていましたが、スリルを感じたので私も結構叫びました。なので、気持ち良かったです!」
「俺も優奈と一緒に叫べて気持ち良かったよ。ウォータースライダーはやっぱり楽しいと思った」
「私もです!」
優奈は可愛い笑顔で俺を見つめながらそう言ってくれる。そのことがとても嬉しくて。
「一緒に滑りたいって言ってみて良かった」
「言ってくれてありがとうございます」
笑顔でそう言うと、優奈は俺に「ちゅっ」とキスしてくれた。プールに落ちたのもあり、優奈の唇はちょっと冷たくて。いつもとは違ったキスに思えた。これはこれでいいな。
唇を離すと、目の前には嬉しそうに笑う優奈がいて。
「プールに落ちた直後なので、和真君の唇がちょっと冷たかったです。新感覚でいいですね」
「俺も同じことを思ったよ。……久しぶりだったし、勢いもあったから落ちちゃったな。今までも何度かあったけど」
「私もです。ここのスライダーは勢いがありますから、落ちちゃうことがありますね。水が冷たくて気持ちいいので、落ちるのもいいなって思います」
「それなら良かった」
ひっくり返った浮き輪を持って、俺は優奈と一緒にプールから出る。
「和真君。楽しいですから、また滑りたいです! いいですか?」
「もちろんだ。久しぶりに滑ったら、もっと滑りたくなってきた」
「ありがとうございますっ! さっきは和真君が前でしたから、今度は私が前に座ってもいいですか?」
「ああ、いいぞ」
「ありがとうございますっ! では、行きましょう!」
嬉しそうな優奈が俺の手を引く形で、俺達は再びウォータースライダーの入口へと向かう。
先ほどと同じように、階段の途中から並び、優奈と雑談しながら俺達の順番を待つ。ただ、ウォータースライダーを一度滑ったのもあり、優奈はテンション高めで。そんな優奈がとても可愛くて。
優奈と話していたのもあり、俺達の順番になるまではあっという間に感じられた。
さっき決めた通り、今度は優奈が前、俺が後ろの穴に座る。
「では、ラブラブな新婚さん! 2回目いってらっしゃーい!」
先ほどと同じく、女性のスタッフさんによる元気な合図で、俺達は2回目のウォータースライダーを滑り始めた。
2回目だし、優奈の後ろに座っているから、1回目よりはスリルさはやや控えめだ。ただ、常に優奈の後ろ姿が見られるのはいいな。
「きゃあっ! 後ろよりもスリルありますー!」
と、優奈は叫んで。ただ、黄色い声なので、きっとスリルを楽しんでいるのだろう。
「そうか! 後ろもいいな! 優奈の姿が見られて!」
「そうですかー! きゃあっ!」
1回目と同様に、俺達は優奈と一緒に叫びながらウォータースライダーを勢い良く滑っていく。その勢いのままゴールまで辿り着き、
――バシャッ!
先ほどと同じく、浮き輪からプールに落水してしまった。
水の冷たさにも慣れてきたのもあり、さっきよりも気持ち良さを感じながら水面から体を出した。
さっきと同じく、浮き輪はひっくり返っており、優奈の姿は見えない。優奈は今も水中にいるだろうか。
「ぷはっ」
優奈は俺のすぐ近くから顔を出し、その場で立ち上がる。
「前はもっとスリルがありますね!」
ニコッとした笑顔で優奈はそう言った。優奈、滑っている間は黄色い声で何度も叫んでいたもんなぁ。
「そうだな。後ろも良かったよ。優奈の後ろ姿がずっと見えてるから」
「ふふっ、そうですか」
「……ウォータースライダー、本当に面白いな」
「そうですね。ここのスライダーはとてもいいですし、和真君と一緒なので本当に面白いです。もっと滑りたくなっちゃいますっ!」
優奈はワクワクとした様子でそう言う。2回滑って、アドレナリンが結構出ているのかもしれない。
「じゃあ、3回目行っちゃうか?」
「行っちゃいましょうっ!」
先ほどと同じく、浮き輪を持って、優奈と手を繋いでウォータースライダーの入口へ向かうのであった。
「次はどこに行きましょうか? 水をかけ合うのは私の希望でしたから、今度は和真君のやりたいことをしたいです」
「ありがとう。じゃあ、お言葉に甘えて。……ウォータースライダーに行きたいな。結構好きで、スイムブルーに来ると毎回滑ってるから。それに、優奈も井上さんも、スイムブルーではウォータースライダーを一緒に滑って楽しかったって話していたから、俺も優奈と一緒に滑りたいなって思ってて。どうかな?」
優奈にそう提案してみる。
昨日、井上さんから話を聞いたときは、井上さん達が羨ましいと思った。だから、俺も優奈と一緒にウォータースライダーを滑りたいのだ。
優奈はニコッとした笑顔になり、
「一緒に滑りたいって言ってくれて嬉しいです! いいですよ! ウォータースライダーは好きですし、デートでは和真君と一緒に滑りたいと思っていましたから」
と、俺の希望を快諾してくれる。なので、とても嬉しい気持ちに。一緒に滑りたいって言ってみて良かった。
「ありがとう。じゃあ、ウォータースライダーに行こうか」
「はいっ」
俺達は手を繋いで、ウォータースライダーの入口に向かって歩き始める。
俺達が屋内プールに来たときよりもお客さんの数が多くなっている。それに比例して、俺達に視線を向ける人も多くなっている気がする。これまでに家族や友達と何度も来たことがあるけど、ここまで視線を向けられるのは初めてだ。これも一緒にいるのが優奈だからなのだろう。
「優奈と一緒にウォータースライダーを滑るのが楽しみだな」
「私もですっ。……ところで、さっき和真君はウォータースライダーが好きだと言っていましたけど、いつ頃から好きなんですか?」
「小学校の低学年くらいから好きだな。その頃に家族で行ったプール施設や家族旅行で泊まったホテルのプールに、子供でも滑れる小さなスライダーがあってさ。それが楽しくて何度も滑ったのを覚えてる」
「そうだったんですね」
「あと、真央姉さんがウォータースライダーが大好きだから、2人で一緒に滑れるって分かると、姉さんによく誘われて一緒に滑ってた。もちろん、ここでもな」
「真央さんらしいです」
ふふっ、と優奈は楽しそうに笑う。
今はスイムブルー八神に来ていて、ウォータースライダーのコースが見えているから、真央姉さんと一緒に滑ったときのことを鮮明に思い出す。姉さん……滑っている間は叫びまくって、滑る度にテンションが上がっていたっけ。
「優奈はいつ頃から好きなんだ?」
「小学校の3年生くらいから結構好きになりましたね。それ以前はそこまで好きではなかったのですが、家族旅行で行ったホテルのプールで当時幼稚園の陽葵に一緒に滑ろうと誘ってくれて。小さい子でも滑れる小さなスライダーだったのですが、一緒に滑ってみたら凄く楽しくて。それがきっかけで好きになっていきました」
「そうだったんだ。妹の陽葵ちゃんがきっかけっていうのが優奈らしさを感じるな。いい話だなって思うよ」
優奈は妹の陽葵ちゃんと仲がいいからな。心が温まるいいエピソードだ。
好きになった当時のことを思い出しているのか。それとも、俺にいい話だと言われたからなのか。優奈の笑顔は優しいものになっていた。
「結構好きになってからは、こういうプール施設や旅行で泊まるホテルにウォータースライダーがあると必ず滑りますね。気に入ると何回も連続で滑ることもあって。ここのスライダーもそうです」
「そうなんだ。かなり好きなんだな」
「はいっ! スイムブルーのウォータースライダーも好きなので、和真君と一緒に滑るのがとても楽しみです!」
優奈はニッコリとした笑顔でそう言ってくれた。
ウォータースライダー絡みのことを話したのもあり、気付けばウォータースライダーの入口前まで来ていた。
入口のところにいたスタッフさんに、2人で滑るウォータースライダー用の浮き輪を受け取った。
俺が浮き輪を持って、優奈と一緒にスタート地点に向かう階段を上がっていくと……上がり終わる前に2人用の浮き輪を持った男女が並んでいた。ウォータースライダーの順番待ちの列だろう。これまでも、階段から並ぶことは何度もあったし。そう考え、俺達は男女の後ろに並ぶ。
「3年ぶりだけど、ウォータースライダーは変わらず人気なんだな」
「そうですね。一昨年も去年もウォータースライダーは階段から並んでいました」
「そうか。まあ、ゆっくり待とう。待つのは好きな方だし。今は優奈と一緒だし」
「ふふっ。私も待つのは好きですし、和真君と一緒ですからいつまでも待てそうです」
優奈は穏やかな笑顔でそう言った。
優奈と雑談しながら、自分達の順番を待つ。優奈と話すのは楽しいし、定期的に前に進んでいくから、こうして列に並ぶのは全く苦ではない。
もうすぐ頂上で、スタート地点が見え始めたとき、
「あの、和真君。座る場所はどうしましょうか?」
優奈がそんなことを訊いてきた。2人用の浮き輪は前後に2カ所、座るための穴が空いており、そこに座ってウォータースライダーを滑る形だ。だから座る場所を訊いたのだろう。
「そうだな……優奈は希望ある?」
「そうですね……後ろがいいです。和真君が見える中で滑ってみたいです」
「分かった。じゃあ、俺が前で優奈は後ろに座ろう」
「はいっ」
希望が通ったのもあってか、優奈は嬉しそうだ。可愛い。
「スタート地点が見えるから、ますます楽しみになってきた」
「私もです。ここのウォータースライダーは、コースにいくつかスリルを感じるポイントがあって好きです」
「そういえば、ここのスライダーは結構スリルを感じることがあったな」
だから、結構叫んだっけ。3年経って高校生になったし、結婚もしたけど……今回も結構叫んでしまうかもしれない。
それからも列は進んでいき、いよいよ俺達の番になった。
「次はお二方ですね。カップルさんですか?」
スタート地点にいる女性のスタッフさんからそう問いかけられる。
「いえ、私達は夫婦です。2ヶ月前に結婚しました」
「そうでしたか! 新婚さんなんですね! いいですね~!」
と、スタッフさんは明るい笑顔でそう言ってくれる。接客として言われただけかもしれないけど、見知らぬ人から「新婚さんいいですね」と言われるのは嬉しいものだ。優奈も嬉しいのか嬉しそうな笑顔になっている。
事前に決めた通り、俺が浮き輪の前、優奈が後ろの穴に腰を下ろした。俺のすぐ両側には優奈の綺麗な白い脚があって。そのことにちょっとドキドキする。
「では、ラブラブな新婚さんいってらっしゃーい!」
スタート地点にいた女性のスタッフさんは元気良くそう言い、俺達の乗っている浮き輪を押した。俺と優奈の初めてのウォータースライダーが始まった!
俺達の乗る浮き輪は水の流れに乗り、コースを滑り始める。
「始まりましたね!」
「ああ!」
後ろから聞こえる優奈の声はとても弾んでいる。ここのウォータースライダーは好きだと言っていたし、俺と一緒に初めて滑るからかな。きっと、優奈は楽しそうな笑顔になっているんだろう。
常に下り続け、水の流れも結構あるから、俺達の乗る浮き輪のスピードがどんどん増していく!
「おおっ、速くなってきたな!」
「ですねー! 気持ちいいですっ!」
きゃーっ! と、優奈は後ろから何度も黄色い声を上げる。優奈はウォータースライダーや遊園地の絶叫系では声を出すタイプなのかもしれない。前に座っているからスリルを結構感じている中でも、優奈のことが可愛いなって思えて。
時折、急カープしたり、下る角度が急にキツくなったりして。そういったときは顔に特に水がかかったり、スピードがアップしたりするので特にスリルを感じ、
「うおおっ!」
「きゃああっ!」
と、俺達は大きな声で叫ぶ。ただ、優奈と一緒に叫ぶから凄く気持ちいいぜ!
その後も優奈と一緒に叫びながらウォータースライダーを滑っていき、スピードを保ったまま俺達はゴールに辿り着いた。
――バシャッ!
勢い良くゴールに辿り着いたのもあり、ゴールに到着した瞬間にバランスを崩し、俺達は浮き輪からゴールのプールに落ちた。そういえば、ここのウォータースライダーは勢いがあるから、ゴールに着くと浮き輪から落ちることが何度もあったな。
プールに落ちたので、水をかけ合ったり、コースを滑っている中で水しぶきを受けたりしたときよりも水が冷たく感じる。
水面から顔を出すと、近くに俺達が乗ってきた浮き輪がひっくり返った状態で浮いている。優奈の姿は見えない。
水中を見てみると……浮き輪のすぐ近くで黒髪の人の姿が見える。ピンク色も見えるので、この人が優奈だろう。そう思っていると、
「ぷはっ」
浮き輪のすぐ近くから優奈が姿を現した。優奈が無事だと分かってほっとした。
優奈はその場で立ち上がり、両手で顔に付いた水滴を拭う。その中で優奈は俺のことを見てニコッと笑いかけてきて。その姿が可愛くて、美しさも感じられてドキッとする。
「スリルがありましたね! 楽しいです!」
「楽しいな! 久しぶりだったし、前に座ったから結構スリルがあったよ」
「和真君、叫んでいましたよね。後ろに座っていましたが、スリルを感じたので私も結構叫びました。なので、気持ち良かったです!」
「俺も優奈と一緒に叫べて気持ち良かったよ。ウォータースライダーはやっぱり楽しいと思った」
「私もです!」
優奈は可愛い笑顔で俺を見つめながらそう言ってくれる。そのことがとても嬉しくて。
「一緒に滑りたいって言ってみて良かった」
「言ってくれてありがとうございます」
笑顔でそう言うと、優奈は俺に「ちゅっ」とキスしてくれた。プールに落ちたのもあり、優奈の唇はちょっと冷たくて。いつもとは違ったキスに思えた。これはこれでいいな。
唇を離すと、目の前には嬉しそうに笑う優奈がいて。
「プールに落ちた直後なので、和真君の唇がちょっと冷たかったです。新感覚でいいですね」
「俺も同じことを思ったよ。……久しぶりだったし、勢いもあったから落ちちゃったな。今までも何度かあったけど」
「私もです。ここのスライダーは勢いがありますから、落ちちゃうことがありますね。水が冷たくて気持ちいいので、落ちるのもいいなって思います」
「それなら良かった」
ひっくり返った浮き輪を持って、俺は優奈と一緒にプールから出る。
「和真君。楽しいですから、また滑りたいです! いいですか?」
「もちろんだ。久しぶりに滑ったら、もっと滑りたくなってきた」
「ありがとうございますっ! さっきは和真君が前でしたから、今度は私が前に座ってもいいですか?」
「ああ、いいぞ」
「ありがとうございますっ! では、行きましょう!」
嬉しそうな優奈が俺の手を引く形で、俺達は再びウォータースライダーの入口へと向かう。
先ほどと同じように、階段の途中から並び、優奈と雑談しながら俺達の順番を待つ。ただ、ウォータースライダーを一度滑ったのもあり、優奈はテンション高めで。そんな優奈がとても可愛くて。
優奈と話していたのもあり、俺達の順番になるまではあっという間に感じられた。
さっき決めた通り、今度は優奈が前、俺が後ろの穴に座る。
「では、ラブラブな新婚さん! 2回目いってらっしゃーい!」
先ほどと同じく、女性のスタッフさんによる元気な合図で、俺達は2回目のウォータースライダーを滑り始めた。
2回目だし、優奈の後ろに座っているから、1回目よりはスリルさはやや控えめだ。ただ、常に優奈の後ろ姿が見られるのはいいな。
「きゃあっ! 後ろよりもスリルありますー!」
と、優奈は叫んで。ただ、黄色い声なので、きっとスリルを楽しんでいるのだろう。
「そうか! 後ろもいいな! 優奈の姿が見られて!」
「そうですかー! きゃあっ!」
1回目と同様に、俺達は優奈と一緒に叫びながらウォータースライダーを勢い良く滑っていく。その勢いのままゴールまで辿り着き、
――バシャッ!
先ほどと同じく、浮き輪からプールに落水してしまった。
水の冷たさにも慣れてきたのもあり、さっきよりも気持ち良さを感じながら水面から体を出した。
さっきと同じく、浮き輪はひっくり返っており、優奈の姿は見えない。優奈は今も水中にいるだろうか。
「ぷはっ」
優奈は俺のすぐ近くから顔を出し、その場で立ち上がる。
「前はもっとスリルがありますね!」
ニコッとした笑顔で優奈はそう言った。優奈、滑っている間は黄色い声で何度も叫んでいたもんなぁ。
「そうだな。後ろも良かったよ。優奈の後ろ姿がずっと見えてるから」
「ふふっ、そうですか」
「……ウォータースライダー、本当に面白いな」
「そうですね。ここのスライダーはとてもいいですし、和真君と一緒なので本当に面白いです。もっと滑りたくなっちゃいますっ!」
優奈はワクワクとした様子でそう言う。2回滑って、アドレナリンが結構出ているのかもしれない。
「じゃあ、3回目行っちゃうか?」
「行っちゃいましょうっ!」
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高校2年生の藍沢直人は後輩の宮原彩花と一緒に、学校の寮の2人部屋で暮らしている。彩花にとって直人は不良達から救ってくれた大好きな先輩。しかし、直人にとって彩花は不良達から救ったことを機に一緒に住んでいる後輩の女の子。直人が一定の距離を保とうとすることに耐えられなくなった彩花は、ある日の夜、手錠を使って直人を束縛しようとする。
そして、直人のクラスメイトである吉岡渚からの告白をきっかけに直人、彩花、渚の恋物語が激しく動き始める。
物語の鍵は、人の心とルピナスの花。たくさんの人達の気持ちが温かく、甘く、そして切なく交錯する青春ラブストーリーシリーズ。
※特別編-入れ替わりの夏-は『ハナノカオリ』のキャラクターが登場しています。
※1日3話ずつ更新する予定です。
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