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第1章
第24話『Continuation』
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俺が浅沼という言葉を出したためか、渚や茜さんの表情が一変する。2人にも浅沼の声を聞かせるためにスピーカーモードにして、スマホをテーブルの上に置く。
「お前、彩花のスマホから電話をかけているよな。彩花に何をした? それとも、何をするつもりだ?」
『誘拐に決まってるだろ? そんなことも分からないのか?』
予想はしていたけれど、やはり誘拐だったか。一ノ瀬さんから浅沼達の話を聞いてから嫌な予感はしていたけれど、見事に当たってしまった。
おそらく、彩花は俺から逃げた直後、学校から出たところで浅沼達に誘拐されてしまったのだろう。
「目的は1年前の事件の復讐か?」
『あははっ! その通りだ。そうか、宮原の過去を知っちまったか』
「善良な人間が、お前が取り巻き達としてきた悪行を全て話してくれたよ」
『おい、誰から俺の話を聞いた?』
「善良な人間だって言っているだろう。名前は黙秘する。現に彩花を誘拐しているんだ。お前達のことを話してくれた人の名前を教えたら、そいつも誘拐して、彩花と一緒に復讐するつもりなんだろう?」
『俺が教えろって言っているんだぞ!』
「知るか。お前が何を言おうと教えない。それよりも、お前は彩花を誘拐して俺に電話をかけてきたんだ。ということは俺に対する要求があるはずだ」
彩花に復讐するだけなら、俺に電話をかけない方がよっぽどいい。それでも、俺に電話をかけるということは、俺に対して何か要求があるはずだからだ。
『月原高校の近くで俺の仲間がお前にボコされたのが気に食わないが、そんなことで誘拐したわけじゃない』
「ちょっと待て。あの日、彩花に絡んでいた不良はお前の取り巻き達だったのか?」
『ああ、そうだよ。使えねえ奴らだけどいないよりもマシだからな』
もしかしたら、彩花はあの時の不良が浅沼の取り巻きの一部だと分かったから、俺の家に引っ越すことを決めたのかもしれない。浅沼達への恐れに拍車がかかって。
『別にあいつらの敵討ちをしたいわけじゃねえ。俺は宮原の憐れな姿をお前に見せたいんだよ』
「何だって?」
『俺達は1年前の続きをする。俺の欲はこの1年間で何倍にも膨れ上がっているんだよ。俺の味わいたいように宮原を味わって、最後にはぶっ殺す。宮原には俺に弄ばれている姿をお前に見られて惨めな思いをさせるんだよ。そんな思いの中で宮原には死んでもらう。そのくらいしないと、俺の気は晴れねえ』
今の言葉に浅沼晴樹という人間が集約されていると思った。
他人が傷つくかどうかは関係なく己の欲望のままに生き、それが満たされない場合には容赦なく復讐をする。それも相手の心を散々に傷つけるという卑劣な人格の持ち主であると。
「お前、彩花に何かしてないだろうな!」
『おいおい、いきなりキレるなよ。俺だって紳士だ。まだ手は出していない。だが、制限時間内に俺達を見つけられなければ、俺の好きなようにさせてもらうぜ』
「彩花の声を聞かせるんだ」
『誘拐するときに眠らせたからそれはできねえな』
まるで、既に計画が成功したかのように浅沼は笑い飛ばす。
『タイムリミットは午後2時だ。それまでに俺達を見つけるんだ。これは誘拐なんかじゃない。宮原を賭けたゲームだよ』
現在の時刻は午後1時20分。タイムリミットまであと40分か。
『タイムリミットまで見つけられるかな? 俺達のところまで辿り着けるといいねえ』
「お前、何を楽しんでるんだ!」
『楽しんじゃ悪いのか? あと少しで俺の欲望は満たされて、その上に復讐まで果たせるんだぞ? これ以上に胸が踊ることはない……』
浅沼の醜い表情が面識のない俺でさえ容易に想像できる。きっと、眠っている彩花を見下ろして笑っているんだろう。それを考えただけで物凄く腹が立つ。
『さあ、ゲームを始めようか!』
くそっ! 楽しいからってゲームとか言いやがって!
「……始める前に1つ、お前に言っておくことがある」
『なんだ?』
俺は気持ちを落ち着かせるために、一度深呼吸をする。
「もし俺が時間内に見つけることができたら、お前らには容赦なく制裁を下してやる。彩花の味わった痛みを、倍以上に返してやる。覚えておいてもらおうか」
別に脅しで言っているつもりではない。本気でやるつもりだ。大切な彩花を誘拐しただけでも重い罪だというのに、彩花の心をズタズタにした上で殺そうとしているんだ。浅沼達には相当重いな制裁を下さなければ気が済まない。
『そう言っていられるのも今のうちだ。俺達を見つけられるかな?』
「……見つけやるよ、絶対に。覚悟しておけ」
『それはこっちの台詞だ。俺達のところまでに辿り着けるといいねぇ。まあ、これはゲームだからトラップは仕掛けてある。せいぜい楽しみにしておくよ』
そう言って、浅沼の方から通話を切った。
俺の心に残っていたのは何とも言えない虚無感だった。頭の中に巡っているのは、彩花が浅沼に誘拐されたということだけ。
「彩花が浅沼に誘拐された……」
口で言うことで俺は我に帰ると、その途端に怒りが再燃する。
「くそっ!」
両手でテーブルを激しく叩き、そのまま突っ伏す。
また、俺は……大切な人を失わなければならないのか。俺が側にいなかったせいで。制限時間までに見つけないと、彩花は浅沼達に殺されてしまう!
「俺はもう、誰も失いたくないんだ!」
苛立った気持ちの所為で落ち着くことができず、両手で髪を掻き毟る。
「直人、落ち着いて!」
そう言って俺の両手を必死に押さえる渚の手を、俺は振り払う。
「落ち着いていられるかよ! 彩花が誘拐されたんだぞ! 俺が彩花の側にいればこんな風にはならなかったのに……」
「……たいして変わらないと思うよ、藍沢君」
「茜さん……」
思いの外、茜さんは平静を保っている。自分の妹が誘拐されているというのに。
「浅沼達が彩花に復讐するという気持ちがある以上、どこかで蹴りをつけなくちゃいけないんだよ。ただ、藍沢君が側にいれば彩花が誘拐された確率は低くなっていただろうな」
「茜さん! 直人は宮原さんのことを……」
「もちろん、彩花の側から離れた藍沢君のことを責めているわけじゃないよ。それに、浅沼達が原因でも、手錠を使ってまで藍沢君を束縛しちゃいけないからね。普段、彩花から連絡はもらっているけれど、私が定期的にここへ来れば良かったのかもしれないな」
茜さんは苦笑いをする。
「それに、今は色々と悔やんでいる場合じゃないだろう? 浅沼が指定してきた制限時間内に彩花のところへ行くことが大切だ」
そうだ、ここで悔やんでいても仕方がない。さっき言ったとおり、彩花を見つけて浅沼達に制裁を下す。それが俺達のやるべきことだ。
「でも、彩花のいる場所なんて見当も……」
「大丈夫だ、場所は分かってる。彩花がいるのはルピナスの花畑だよ」
「ど、どうしてそう思うんですか?」
「さっきの電話で浅沼がこう言ったのを覚えていないか? 1年前の続きを行うって」
「1年前の続き……あっ!」
「どうやら、気づいたみたいだね。浅沼は1年前のことに相当な拘りを持っている。だから、おそらく場所も同じじゃないと気が済まないと思うよ。それに、同じ場所なら復讐心も沸き上がるだろうし」
確かに、茜さんの言う通りだ。1年前の続きをすることに強く拘る浅沼なら、同じ場所である確率は非常に高い。
「じゃあ、ルピナスの花畑でほぼ間違いない感じね、直人」
「そうだな、茜さんの推理を信じよう」
もし、ルピナスの花畑が彩花と浅沼達のいる場所なら、決着をつけるに相応しいところだな。絶対に浅沼達の思うようにはさせないぞ。
「茜さん、ここからルピナスの花畑までどのくらいかかりますか?」
「多分、歩いて30分くらいかかると思う」
今の時刻は午後1時半手前。今すぐにでも家を出ないと間に合わないか。
「今すぐに行きましょう。あと、2人に頼みたいことが」
俺は2人に要件を手短に伝える。
「分かった、直人」
「……なるほど、そういうことか。任せて」
これで彩花を助けることと浅沼達にすべき制裁の準備はできたかな。あとは俺達が時間内に彩花のいる場所へ辿り着くだけだ。
「さあ、行きましょう! 今は1秒でも無駄にできませんからね!」
彩花、待っていてくれ。今から助けに行くからな。
俺達は決戦の場へ行くために家を出発するのであった。
「お前、彩花のスマホから電話をかけているよな。彩花に何をした? それとも、何をするつもりだ?」
『誘拐に決まってるだろ? そんなことも分からないのか?』
予想はしていたけれど、やはり誘拐だったか。一ノ瀬さんから浅沼達の話を聞いてから嫌な予感はしていたけれど、見事に当たってしまった。
おそらく、彩花は俺から逃げた直後、学校から出たところで浅沼達に誘拐されてしまったのだろう。
「目的は1年前の事件の復讐か?」
『あははっ! その通りだ。そうか、宮原の過去を知っちまったか』
「善良な人間が、お前が取り巻き達としてきた悪行を全て話してくれたよ」
『おい、誰から俺の話を聞いた?』
「善良な人間だって言っているだろう。名前は黙秘する。現に彩花を誘拐しているんだ。お前達のことを話してくれた人の名前を教えたら、そいつも誘拐して、彩花と一緒に復讐するつもりなんだろう?」
『俺が教えろって言っているんだぞ!』
「知るか。お前が何を言おうと教えない。それよりも、お前は彩花を誘拐して俺に電話をかけてきたんだ。ということは俺に対する要求があるはずだ」
彩花に復讐するだけなら、俺に電話をかけない方がよっぽどいい。それでも、俺に電話をかけるということは、俺に対して何か要求があるはずだからだ。
『月原高校の近くで俺の仲間がお前にボコされたのが気に食わないが、そんなことで誘拐したわけじゃない』
「ちょっと待て。あの日、彩花に絡んでいた不良はお前の取り巻き達だったのか?」
『ああ、そうだよ。使えねえ奴らだけどいないよりもマシだからな』
もしかしたら、彩花はあの時の不良が浅沼の取り巻きの一部だと分かったから、俺の家に引っ越すことを決めたのかもしれない。浅沼達への恐れに拍車がかかって。
『別にあいつらの敵討ちをしたいわけじゃねえ。俺は宮原の憐れな姿をお前に見せたいんだよ』
「何だって?」
『俺達は1年前の続きをする。俺の欲はこの1年間で何倍にも膨れ上がっているんだよ。俺の味わいたいように宮原を味わって、最後にはぶっ殺す。宮原には俺に弄ばれている姿をお前に見られて惨めな思いをさせるんだよ。そんな思いの中で宮原には死んでもらう。そのくらいしないと、俺の気は晴れねえ』
今の言葉に浅沼晴樹という人間が集約されていると思った。
他人が傷つくかどうかは関係なく己の欲望のままに生き、それが満たされない場合には容赦なく復讐をする。それも相手の心を散々に傷つけるという卑劣な人格の持ち主であると。
「お前、彩花に何かしてないだろうな!」
『おいおい、いきなりキレるなよ。俺だって紳士だ。まだ手は出していない。だが、制限時間内に俺達を見つけられなければ、俺の好きなようにさせてもらうぜ』
「彩花の声を聞かせるんだ」
『誘拐するときに眠らせたからそれはできねえな』
まるで、既に計画が成功したかのように浅沼は笑い飛ばす。
『タイムリミットは午後2時だ。それまでに俺達を見つけるんだ。これは誘拐なんかじゃない。宮原を賭けたゲームだよ』
現在の時刻は午後1時20分。タイムリミットまであと40分か。
『タイムリミットまで見つけられるかな? 俺達のところまで辿り着けるといいねえ』
「お前、何を楽しんでるんだ!」
『楽しんじゃ悪いのか? あと少しで俺の欲望は満たされて、その上に復讐まで果たせるんだぞ? これ以上に胸が踊ることはない……』
浅沼の醜い表情が面識のない俺でさえ容易に想像できる。きっと、眠っている彩花を見下ろして笑っているんだろう。それを考えただけで物凄く腹が立つ。
『さあ、ゲームを始めようか!』
くそっ! 楽しいからってゲームとか言いやがって!
「……始める前に1つ、お前に言っておくことがある」
『なんだ?』
俺は気持ちを落ち着かせるために、一度深呼吸をする。
「もし俺が時間内に見つけることができたら、お前らには容赦なく制裁を下してやる。彩花の味わった痛みを、倍以上に返してやる。覚えておいてもらおうか」
別に脅しで言っているつもりではない。本気でやるつもりだ。大切な彩花を誘拐しただけでも重い罪だというのに、彩花の心をズタズタにした上で殺そうとしているんだ。浅沼達には相当重いな制裁を下さなければ気が済まない。
『そう言っていられるのも今のうちだ。俺達を見つけられるかな?』
「……見つけやるよ、絶対に。覚悟しておけ」
『それはこっちの台詞だ。俺達のところまでに辿り着けるといいねぇ。まあ、これはゲームだからトラップは仕掛けてある。せいぜい楽しみにしておくよ』
そう言って、浅沼の方から通話を切った。
俺の心に残っていたのは何とも言えない虚無感だった。頭の中に巡っているのは、彩花が浅沼に誘拐されたということだけ。
「彩花が浅沼に誘拐された……」
口で言うことで俺は我に帰ると、その途端に怒りが再燃する。
「くそっ!」
両手でテーブルを激しく叩き、そのまま突っ伏す。
また、俺は……大切な人を失わなければならないのか。俺が側にいなかったせいで。制限時間までに見つけないと、彩花は浅沼達に殺されてしまう!
「俺はもう、誰も失いたくないんだ!」
苛立った気持ちの所為で落ち着くことができず、両手で髪を掻き毟る。
「直人、落ち着いて!」
そう言って俺の両手を必死に押さえる渚の手を、俺は振り払う。
「落ち着いていられるかよ! 彩花が誘拐されたんだぞ! 俺が彩花の側にいればこんな風にはならなかったのに……」
「……たいして変わらないと思うよ、藍沢君」
「茜さん……」
思いの外、茜さんは平静を保っている。自分の妹が誘拐されているというのに。
「浅沼達が彩花に復讐するという気持ちがある以上、どこかで蹴りをつけなくちゃいけないんだよ。ただ、藍沢君が側にいれば彩花が誘拐された確率は低くなっていただろうな」
「茜さん! 直人は宮原さんのことを……」
「もちろん、彩花の側から離れた藍沢君のことを責めているわけじゃないよ。それに、浅沼達が原因でも、手錠を使ってまで藍沢君を束縛しちゃいけないからね。普段、彩花から連絡はもらっているけれど、私が定期的にここへ来れば良かったのかもしれないな」
茜さんは苦笑いをする。
「それに、今は色々と悔やんでいる場合じゃないだろう? 浅沼が指定してきた制限時間内に彩花のところへ行くことが大切だ」
そうだ、ここで悔やんでいても仕方がない。さっき言ったとおり、彩花を見つけて浅沼達に制裁を下す。それが俺達のやるべきことだ。
「でも、彩花のいる場所なんて見当も……」
「大丈夫だ、場所は分かってる。彩花がいるのはルピナスの花畑だよ」
「ど、どうしてそう思うんですか?」
「さっきの電話で浅沼がこう言ったのを覚えていないか? 1年前の続きを行うって」
「1年前の続き……あっ!」
「どうやら、気づいたみたいだね。浅沼は1年前のことに相当な拘りを持っている。だから、おそらく場所も同じじゃないと気が済まないと思うよ。それに、同じ場所なら復讐心も沸き上がるだろうし」
確かに、茜さんの言う通りだ。1年前の続きをすることに強く拘る浅沼なら、同じ場所である確率は非常に高い。
「じゃあ、ルピナスの花畑でほぼ間違いない感じね、直人」
「そうだな、茜さんの推理を信じよう」
もし、ルピナスの花畑が彩花と浅沼達のいる場所なら、決着をつけるに相応しいところだな。絶対に浅沼達の思うようにはさせないぞ。
「茜さん、ここからルピナスの花畑までどのくらいかかりますか?」
「多分、歩いて30分くらいかかると思う」
今の時刻は午後1時半手前。今すぐにでも家を出ないと間に合わないか。
「今すぐに行きましょう。あと、2人に頼みたいことが」
俺は2人に要件を手短に伝える。
「分かった、直人」
「……なるほど、そういうことか。任せて」
これで彩花を助けることと浅沼達にすべき制裁の準備はできたかな。あとは俺達が時間内に彩花のいる場所へ辿り着くだけだ。
「さあ、行きましょう! 今は1秒でも無駄にできませんからね!」
彩花、待っていてくれ。今から助けに行くからな。
俺達は決戦の場へ行くために家を出発するのであった。
応援ありがとうございます!
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