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第3章
第12話『New Round-中編-』
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金崎高校は対戦相手との点差が開くばかり。しかし、残り時間を考えると、そろそろ点を重ね、差を詰めていかないと厳しくなってくる。
「なあ、渚」
「なに?」
「お前、言ってたよな。チームのタイプによってヤバいことになるって」
「……うん。試合を観ている限り、金崎高校はどうしても、絶対的なエースである広瀬さんを中心に動いてしまう傾向があるみたい。技術的にも精神的にも彼女が支柱になっている」
「だから、咲の様子がおかしいことで、チーム全体が崩れ始めているのか」
「そういうこと」
それなら、どうすればいいんだ? この現状を打破して、金崎高校が逆転勝利する道を切り開くためには。
ただ、さすがに強豪校だと言われるだけあって、金崎高校も咲以外のメンバーが攻撃中心のプレーをするようになり、少しずつ得点が入るようになってきた。けれど、それでも点差を開かせないのが精一杯のようだ。チームプレーではなく個人プレーが多くなってしまい、そのせいで相手に攻撃が阻止される場面も出てきた。
「あたしは早く広瀬さんを交代させるべきだと思いますが……」
「香奈ちゃんの考えは妥当だけど、広瀬さんが抜けてしまったら、多少の点差が縮まる程度で逆転はより厳しくなると思う。金崎について私なりに調べたけど、広瀬さん以上の選手がいるとは思えない。私が知らないだけかもしれないけど。ただ、そういう人がいたら、ここまで点差が開く前に選手交代をしているはずだよ。もう、時間的にも厳しくなってきているし」
確かに、渚の言うとおりだ。咲と同等かそれより上の実力のある選手がいれば、最初から出場しているか、点差が開き始めたときに選手交代で出場させているはずだ。それがないってことは、咲以上の選手が今の金崎高校にはいないと考えた方が良さそうだ。
「じゃあ、あとは広瀬さんが頑張るしかないですね」
「でも、広瀬先輩は調子が悪くなっているんだよ、香奈ちゃん。試合に勝つにはそんな彼女を一瞬にして、いつものコンディションにしなきゃいけない。そんなこと……」
咲を一瞬にしていつもの状態に戻す。
彩花のそんな言葉で俺は一つの可能性を浮かぶ。
もし、咲の不調の原因が精神的なものだとしたら。それも、昨日の放課後のことが原因になっているとしたら。もしかしたら、観客席にいる俺達が咲のことを支えられるかもしれない。
こうなったら、僅かな可能性に賭けるしかない!
俺は席を立ち、観客席の最前列まで走って、
「負けるな、咲!」
周りの目なんて気にしなかった。俺は精一杯、先に向かって叫んだ。
「3年間積み上げた咲のバスケを俺に見せてくれ! このくらいの点数をすぐにひっくり返せるような凄いプレイヤーになったんだろ! だったら、このまま終わらないでほしい。俺がずっとここで観てる。だから頑張れ、咲!」
ちょうど、ボールがコートの外に出て、金崎高校のスローイン直前だったため、コートにいる全員が俺の方を向いた。
観客席もざわつき始める。女性が多いので黄色い声も聞こえてくる。
「広瀬さん、頑張れ!」
そう言うのは渚だった。どうやら、俺の今の行動に気付いたようで、渚は彩花達を連れて俺のところにやってきて、応援を始める。
咲と目が合ったので、俺はゆっくりと頷く。
すると、咲はさっきと見違えるような自信の持った表情へと変わっていく。
思い出した。中学のとき、剣道部の練習の合間に、体育館で女子バスケ部の練習をちらっと見たことがあった。そのときも今のように真剣な様子だった。
咲は俺のことを見つめて一度頷き、
「みんな、今までごめん! ここから巻き返すよ!」
『おー!』
大きな声でそう言うと、周りの金崎高校のメンバーもそれに答える。すると、とまどった様子はなくなり、表情も段々と明るくなっていく。
予想は当たったか。昨日のことで咲が精神的に傷付いているのなら、それを治せるのは俺しかいない。必死に声を出して、俺が咲を応援していることを知らせることで、咲の心の支えになれればと思った。
どうやら上手くいったようだ。これで、金崎高校が逆転勝利を掴める可能性がぐっと高くなっただろう。
エース・広瀬咲の復調によって、金崎高校の反撃が始まる。もちろん、咲達を支えるために俺達はずっと応援し続ける。
残り時間が少ないので咲を中心に攻撃主体のプレーに。咲がシュートを多く決めるけれど、時にはアシストに回る場面もあり、この試合の中で咲がバスケプレイヤーとして成長したんだなと思う。
金崎高校の猛追により、点差はあっという間に縮まっていき、ついに逆転する。
最終的には6点差をつけて金崎高校が勝利した。大差をつけてからの逆転勝利なので、会場は大いに盛り上がった。
「やりましたね! 直人先輩!」
彩花は大喜びで俺に抱きついてくる。
これで、金崎高校も決勝ラウンドに進出か。まずはお互いにインターハイへまた一つ近づいたってことか。
「これは去年以上にインターハイ出場が厳しくなりそうだね」
「ですね。広瀬先輩のプレー、圧巻でした。もし、最初から普段通りだったらどうなっていたのか、知りたい気持ちと知りたくない気持ちが両方ありますね」
「私も。でも、広瀬さんは凄いことだけは確か」
そう言う渚は楽しげな顔をしていた。
「凄かったですね、広瀬先輩。私、思わず泣きそうになっちゃいました」
「……確かにこみ上げるものがあったな」
彩花の目はキラリと光っていた。
試合コートの方を見ると、咲が俺の方を見ていた。俺と目が合うと、彼女はにっこりと笑う。ただ、その笑顔は試合に勝利した嬉しさだけの笑みではないように見える。何かを決意したような静かな情熱や、寂しさが隠れているような気がした。
「なあ、渚」
「なに?」
「お前、言ってたよな。チームのタイプによってヤバいことになるって」
「……うん。試合を観ている限り、金崎高校はどうしても、絶対的なエースである広瀬さんを中心に動いてしまう傾向があるみたい。技術的にも精神的にも彼女が支柱になっている」
「だから、咲の様子がおかしいことで、チーム全体が崩れ始めているのか」
「そういうこと」
それなら、どうすればいいんだ? この現状を打破して、金崎高校が逆転勝利する道を切り開くためには。
ただ、さすがに強豪校だと言われるだけあって、金崎高校も咲以外のメンバーが攻撃中心のプレーをするようになり、少しずつ得点が入るようになってきた。けれど、それでも点差を開かせないのが精一杯のようだ。チームプレーではなく個人プレーが多くなってしまい、そのせいで相手に攻撃が阻止される場面も出てきた。
「あたしは早く広瀬さんを交代させるべきだと思いますが……」
「香奈ちゃんの考えは妥当だけど、広瀬さんが抜けてしまったら、多少の点差が縮まる程度で逆転はより厳しくなると思う。金崎について私なりに調べたけど、広瀬さん以上の選手がいるとは思えない。私が知らないだけかもしれないけど。ただ、そういう人がいたら、ここまで点差が開く前に選手交代をしているはずだよ。もう、時間的にも厳しくなってきているし」
確かに、渚の言うとおりだ。咲と同等かそれより上の実力のある選手がいれば、最初から出場しているか、点差が開き始めたときに選手交代で出場させているはずだ。それがないってことは、咲以上の選手が今の金崎高校にはいないと考えた方が良さそうだ。
「じゃあ、あとは広瀬さんが頑張るしかないですね」
「でも、広瀬先輩は調子が悪くなっているんだよ、香奈ちゃん。試合に勝つにはそんな彼女を一瞬にして、いつものコンディションにしなきゃいけない。そんなこと……」
咲を一瞬にしていつもの状態に戻す。
彩花のそんな言葉で俺は一つの可能性を浮かぶ。
もし、咲の不調の原因が精神的なものだとしたら。それも、昨日の放課後のことが原因になっているとしたら。もしかしたら、観客席にいる俺達が咲のことを支えられるかもしれない。
こうなったら、僅かな可能性に賭けるしかない!
俺は席を立ち、観客席の最前列まで走って、
「負けるな、咲!」
周りの目なんて気にしなかった。俺は精一杯、先に向かって叫んだ。
「3年間積み上げた咲のバスケを俺に見せてくれ! このくらいの点数をすぐにひっくり返せるような凄いプレイヤーになったんだろ! だったら、このまま終わらないでほしい。俺がずっとここで観てる。だから頑張れ、咲!」
ちょうど、ボールがコートの外に出て、金崎高校のスローイン直前だったため、コートにいる全員が俺の方を向いた。
観客席もざわつき始める。女性が多いので黄色い声も聞こえてくる。
「広瀬さん、頑張れ!」
そう言うのは渚だった。どうやら、俺の今の行動に気付いたようで、渚は彩花達を連れて俺のところにやってきて、応援を始める。
咲と目が合ったので、俺はゆっくりと頷く。
すると、咲はさっきと見違えるような自信の持った表情へと変わっていく。
思い出した。中学のとき、剣道部の練習の合間に、体育館で女子バスケ部の練習をちらっと見たことがあった。そのときも今のように真剣な様子だった。
咲は俺のことを見つめて一度頷き、
「みんな、今までごめん! ここから巻き返すよ!」
『おー!』
大きな声でそう言うと、周りの金崎高校のメンバーもそれに答える。すると、とまどった様子はなくなり、表情も段々と明るくなっていく。
予想は当たったか。昨日のことで咲が精神的に傷付いているのなら、それを治せるのは俺しかいない。必死に声を出して、俺が咲を応援していることを知らせることで、咲の心の支えになれればと思った。
どうやら上手くいったようだ。これで、金崎高校が逆転勝利を掴める可能性がぐっと高くなっただろう。
エース・広瀬咲の復調によって、金崎高校の反撃が始まる。もちろん、咲達を支えるために俺達はずっと応援し続ける。
残り時間が少ないので咲を中心に攻撃主体のプレーに。咲がシュートを多く決めるけれど、時にはアシストに回る場面もあり、この試合の中で咲がバスケプレイヤーとして成長したんだなと思う。
金崎高校の猛追により、点差はあっという間に縮まっていき、ついに逆転する。
最終的には6点差をつけて金崎高校が勝利した。大差をつけてからの逆転勝利なので、会場は大いに盛り上がった。
「やりましたね! 直人先輩!」
彩花は大喜びで俺に抱きついてくる。
これで、金崎高校も決勝ラウンドに進出か。まずはお互いにインターハイへまた一つ近づいたってことか。
「これは去年以上にインターハイ出場が厳しくなりそうだね」
「ですね。広瀬先輩のプレー、圧巻でした。もし、最初から普段通りだったらどうなっていたのか、知りたい気持ちと知りたくない気持ちが両方ありますね」
「私も。でも、広瀬さんは凄いことだけは確か」
そう言う渚は楽しげな顔をしていた。
「凄かったですね、広瀬先輩。私、思わず泣きそうになっちゃいました」
「……確かにこみ上げるものがあったな」
彩花の目はキラリと光っていた。
試合コートの方を見ると、咲が俺の方を見ていた。俺と目が合うと、彼女はにっこりと笑う。ただ、その笑顔は試合に勝利した嬉しさだけの笑みではないように見える。何かを決意したような静かな情熱や、寂しさが隠れているような気がした。
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