ガール&パンツ

桜庭かなめ

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第23話『パンツ尋問』

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 私と沙耶先輩が風紀委員会の活動室に戻ると、千晴先輩とひより先輩は既に戻ってきていて一息ついていた。

「おつかれー」
「お疲れ様です。沙耶先輩と一緒に巡回してきました」
「お疲れ様。琴実ちゃん、放課後のお仕事はどうだった?」
「緊張しましたけれど、沙耶先輩と一緒でしたので何とかなりました」
「そっか。朝倉先輩の相棒だし、先輩に分からないところを訊いて、仕事を覚えていけばいいと思うよ」
「はい!」

 ひより先輩、優しいなぁ。きっと、ひより先輩も沙耶先輩と同じように頼りがいがありそう。落ち着いていて、しっかりしていそうだから。

「2人ともお疲れ様です。朝倉さん、巡回中に何かありましたか?」
「琴実ちゃんに色々と教えながら巡回したよ。その間は……色々とあったね、琴実ちゃん」
「え、ええ……そうですね」

 思い返せば、巡回中に色々なことがあったな。
 沙耶先輩が私に話を振ったためか、千晴先輩が私のことを見てきて、

「琴実さん、何があったのか教えていただけますか?」
「は、はい。……3つあるんですが」
「3つですね」
「そう、3つだね」

 告白遭遇、パンツを見せに来た生徒、パンツを拾ったことだよね。ううん、どれから説明しよう。時系列で説明した方がいいかな、やっぱり。

「まず、1つ目ですが、校舎の外で生徒が告白する場面に遭遇しまして。告白が失敗したらぐれる可能性があるということで、沙耶先輩と私がその告白を成就させました」

 ありのままに説明をすると、千晴先輩は呆れたのかため息をつく。

「……私達はマッチング業者ではありませんのよ? まあ、告白が成就したのですから、それは喜ばしいことでしょう。2人の生徒もきっと、このことを機に充実した高校生活を送ることができるでしょうね」
「女の子同士の恋愛ですか。素敵ですね」
「校則をきちんと守って、高校生らしい恋愛をしてほしいと私が言っておいたから」
「……なるほど、分かりました」

 パンツに関して変態なあなたがそれを言う? って言わんばかりの表情をしているけれど、千晴先輩。

「2つ目は、その……特別棟で沙耶先輩にパンツを見せに来た生徒がいまして、先輩がその生徒のパンツを堪能しました」
「はぁ? 言語道断ですよ! ……と言いたいところですが」
「言ってるじゃん」

 笑いながらツッコむ沙耶先輩を千晴先輩は睨む。

「……これまでに何度注意しましたけど、朝倉さんは一度も治りませんでしたし、向こうから見せに来たのですから不問としましょう」
「沙耶先輩にパンツを見せたがっていたのは、私が証言します」
「それならいいですわ」
「おっ、さすがは私の相棒。証言ありがとう、琴実ちゃん」

 沙耶先輩に褒められること自体は嬉しいけど、内容が内容だけにちょっと切ない。
 千晴先輩、意外と柔軟に考えることができるんだな……と思ったけれど、きっとこれまでに沙耶先輩に対してパンツのことで幾度となく注意したけど、変態なのは治らないから諦めているんだと思う。

「で、最後に3つ目なんですけど、これが未解決案件でして。え、えっと……」
「未解決案件ですか。それは全員で情報を共有しておかないといけませんわね。それで、どのような内容なのでしょうか?」
「パ、パ……」
「パ……何ですか?」

 ううっ、千晴先輩に対しては一番言いにくい内容だよ。でも、きちんと事実を伝えなきゃ。実際にあったことなんだから。

「……特別棟の廊下で、沙耶先輩がパンツを拾いました」
「これだよ!」

 沙耶先輩がいきいきとした様子でスカートのポケットから、例の桃色パンツを取り出し両手で広げる。

「へえ、桃色の可愛いパンツですね。そのパンツが特別棟に落ちていたんですか」
「うん、そうだよ、ひよりちゃん」

 ひより先輩はいつも通りのほんわかとした笑顔だけど、千晴先輩は鋭い目つきで沙耶先輩のことを睨んでいる。

「信じられるわけがないでしょう! あなたがパンツを拾ったなんて! 生徒の誰かのパンツを盗んだのではありませんか? それとも、琴実さんのパンツですか? さあ、今すぐにあなたのパンツをお見せなさい!」
「私が穿いている今日のパンツは水色ですから違います! ……あっ」

 ううっ、こんな形で千晴先輩とひより先輩に今穿いているパンツの色を宣言しちゃうなんて。恥ずかしい。

「琴実ちゃんのパンツじゃないよ。琴実ちゃんのパンツなら琴実ちゃんの匂いがちゃんとするもん。ちなみに、このパンツからは洗剤の匂いしかしなかったよ」

 沙耶先輩は爽やかな笑みを浮かべる。さっきはパンツの匂いを嗅いでも誰のものか分からないって言っていたのに。
 でも、私のパンツなら分かるってことは、私の匂いを覚えているってこと? ううっ、不覚にもそのことにキュンとしてしまった自分が憎い。
 千晴先輩は目を見開いて、

「このパンツの匂いを嗅いだというのですか?」
「えっ、女の子のパンツを拾ったら匂いは普通に嗅ぐでしょ?」
「……こ、ここまでパンツに関して変態だと思いませんでした」

 あまりに呆れてしまったのか、千晴先輩はげんなりとした様子。そんな彼女とは対照的に沙耶先輩は不思議そうな表情を浮かべている。

「とりあえず、琴実さんのパンツではないと。……まさか、朝倉さん。あなたのパンツなのですか?」

 千晴先輩、私と同じような思考回路かも。私も一瞬、そう思ったから。

「自分のパンツを廊下にわざと落として拾ったっていうの? そんなことをして何の意味があるのかな?」
「……あなたならやりかねないというか。パンツに関しては常に欲求不満そうですし。パンツに関する自己顕示欲もありそうですから」
「これ、私のパンツなんだよ琴実ちゃん……って拾ったパンツを見せないよ。自分からパンツを見せるんだったら、ほら……普通にこうやって見せるよ」

 すると、沙耶先輩は自分のスカートをたくし上げて、自分のパンツを見せる。大人っぽい黒色パンツ、再び。

「では、朝倉さんのパンツでもないと」
「そうだよ」
「……では、あなたが誰かからそのパンツを盗んだということは?」
「パンツを盗むなんて邪道だよ。そんなことをしてまで堪能をするつもりはない」
「な、なるほど」
「一応、私から証言しますけど、沙耶先輩はそのパンツを見つけて全速力で走り、パンツを拾って私のところまで全速力で戻ってきました。たぶん、盗んでいるようなことはないと思います」
「……そうですか」
「おっ、さすがは琴実ちゃん。二度も証言をしてくれるなんて。琴実ちゃんを私の相棒にして本当に良かったよ」
 こういうことで相棒にして良かったと二度も思われると、切なさを越えて虚しいです。
 それにしても、沙耶先輩ならパンツを盗むと思ったんだ、千晴先輩。まあ、私もパンツを拾ったと沙耶先輩に言われたときにはそう考えたけれど。

「分かりました。朝倉さんがそのパンツを拾ったのは本当なのでしょう。では、そのパンツを私に」
「藤堂さん、このパンツを穿きたいの?」
「そんなわけありません! 私から風紀委員の顧問に渡しておきます」
「そういうことか。分かったよ」

 はい、と沙耶先輩は千晴先輩に例のパンツを渡す。さすがに、千晴先輩はそのパンツを嗅ぐようなことはしなかった。
 そういえば、まだ顧問の先生と会っていないな。どんな先生なんだろう。

「しかし、特別棟で未使用のパンツが落ちているなんて。誰が落としたのでしょう?」
「沙耶先輩と一緒に、特別棟で活動している部活の生徒さんに一通り訊いてみましたけど、パンツを落とした生徒はいませんでした」
「……こうしてパンツが実際に落ちていましたが、パンツを落とした生徒がいなかったことに安心してしまいましたよ」
「ちなみに、水泳部の方にも行ってみたけど、パンツをなくした生徒はいなかったよ」
「そうですか。謎ですわね……」

 千晴先輩は真剣に考えている。パンツという落とし物でも、落とした人物が見つからないと気になっちゃうんだろうな。

「まさか、朝倉さんに、自分が普段穿いているパンツがどういうものなのかを知ってほしくてわざと置いておいたとか」
「私なら直接パンツを見せてくれて大歓迎なんだけどな。でも、わざわざそういうことをするシャイガールは可愛らしくて好きかな」

 沙耶先輩は恥じらう女の子の方が好みなのかな。じゃあ、自分からパンツを見てほしいなんて言った私はあまり好みのタイプじゃないのかも――。

「でも、自分からパンツを堪能してほしいっていう女の子も好きだけれど」

 と、私のことを見て微笑みながら沙耶先輩はそう言ってくれる。たぶん、お手洗いでのことがあったからだと思うけど。時々、今みたいに私の気持ちを見抜かれているんじゃないかってドキドキすることがあるの。

「まあ、落とし主が分かれば、あそこにパンツが落ちていた理由も分かると思うよ」
「そうですわね。おそらく、パンツをなくしたことに気付けば、落とした生徒も職員室に行って、女性の教師にパンツが届いていないかどうか訊くでしょう。あなたと琴実さんが巡回しているときに拾ったことも説明しておきますから」
「よろしくお願いします」
「では、本日の風紀委員会の活動は終わります。お疲れ様でした」

 今日は色々とあったな。とても濃い1日だったような気がする。これからこういう日が毎日続いていくのか。沙耶先輩と一緒だし、千晴先輩とひより先輩もいるから全然嫌じゃないけれど。
 風紀委員としての最初の1日はこうして終わったのであった。
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