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本編-新年度編-
第33話『歓迎会-後編-』
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「ちなみに、杏奈さん。どの作品が面白かったのかしら?」
握手し終わり、再びお菓子を食べ始めたとき、一紗が杏奈にそんな質問をする。
「えっと……『白濁エスプレッソ』っていうBLの短編作品が面白かったです」
「あら、そうなの」
サクラと羽柴と一緒に朗読した作品だったので、思わずドキッとしてしまう。あの作品、かなり人気があるのかな。まあ、短編だし、気軽に読む気になれるのかも。登場人物は2人しかいないし、2人が結ばれるまでという恋愛ものとして王道な内容だから。
「私も大好きだよっ!」
同じ作品が好きだと分かったからか、サクラは興奮気味。もしかしたら、朗読したときのことを思い出しているのかもしれない。
「その作品なら、あたしも読んだことあるよ。BL好きの大学の友達も興奮してた」
「そうなんですね。嬉しいです。2人も読んだことがあるとのことなので、聴かせてあげましょうか」
「……はっ?」
聴かせてあげる? 一紗のその一言に、思わずそんな声が出てしまった。何だかとても嫌な予感がする。
「一紗。一つ訊きたいことがあるんだけど。聴かせてあげるって……何を?」
「この前の朗読」
「……ろ、朗読? えっ?」
「数日前の記憶がなくなってしまったのかしら? 大輝君と羽柴君が『白濁エスプレッソ』を朗読してくれたじゃない。あれ、スマホでこっそり録音しておいたの。2人の声が素敵だし、自分の書いた作品をいつでも耳から楽しみたいと思って」
「何だとおおっ!」
驚きのあまり、かなりの大声を出してしまった。こんなにも大きな声を出すのは、サクラがうちに引っ越してくることを話されたとき以来かもしれない。
「……あっ。ここ……アパートですね。大きな声を出してすみません」
「夕方だし大丈夫だと思うよ」
「それならいいのですが」
もし、他の部屋の住人からクレームが来たら、俺が謝らなければ。
まさか、あの朗読を録音されていたとは。全然気付かなかったな。サクラも目を見開いているので、録音の事実は今まで知らなかったと思われる。きっと、羽柴も気付いていないんだろうな。
「気持ちは分かるけど、こっそり録音するのは良くないなぁ」
「本番直前に録音しようって思いついて」
「本当かなぁ。……ちなみに、その録音データ、誰かに送ったりしてないだろうな」
「誰にも送っていないわ。自宅で妹に聴かせただけ。妹もあの作品が好きだから」
「……まあ、それならいいか」
「……やっぱりヤバい人ですね、一紗先輩って。ただ、大輝先輩には申し訳ないですが、朗読がどんな感じなのかは興味があります」
苦笑いをしながら俺をチラチラと見てくる杏奈。面白いと思った作品を音声で聴けるんだ。興味が湧くのは当然だと思う。
羽柴にあの朗読が録音されていたことをメッセージで送る。すると、スマホを手にしているのか、瞬間的に既読マークが付いて、
『マジかよ。やってくれたな、あいつ。まあ、妹さんに聴かせただけなら別にいい。誰にも送らず、あんまり多くの人に聴かせなければ、録音データは消さなくてもいい』
という返信をもらった。いきなり俺に録音の事実を知らされたのに、すぐにこういうメッセージを送れるとは。優しい奴だな、羽柴って。
「羽柴もデータを消さなくていいそうだ。その代わり、誰にも送らずに、あまり多くの人には聴かせるなよ」
「分かったわ」
「大輝先輩。羽柴というのは、羽柴拓海先輩のことですよね?」
「ああ、そうだよ。……そうか、羽柴とは同じ中学出身だったね」
「ええ。直接の面識はありませんが、羽柴先輩はかなりのイケメンさんですから、中学時代から人気があるので知っています。羽柴先輩に憧れている友達は何人もいますね。あと、中3の間に何度か、大輝先輩と羽柴先輩が一緒に歩いている姿を見たことがありました。大輝先輩もかっこいいと一緒にいた友人がキャーキャー言っていたこともありましたね。まあ……あたしは今までの接客もありますし、バイトでお仕事教えてくれていますから、大輝先輩の方がいいなって思ってますけど」
「……嬉しいなぁ」
お世辞だろうけど嬉しい。お礼に頭を撫でてあげたいくらいだ。
あと、羽柴は中学時代から人気があったか。さすがだ。杏奈は羽柴のことは知っているけど、羽柴は杏奈のことは……知らなさそうだな。学年も違うし。中学時代にはもう二次元にハマっていたそうだし。
「じゃあ、これから『白濁エスプレッソ』の朗読を流します!」
パチパチ、と女子4人は楽しそうに拍手をする。
自分の声を聴くだけでも変な感じがするのに、ましてやBL作品の朗読。しかも、4人とも俺のことも羽柴のことも知っている。朗読が流れている間だけでも、この場から離れたい。
「……あの。外の空気を吸いたいので、少しの間、外にいてもいいですか」
「もちろんだよ。ダイちゃん、顔色が悪くなっているし。気分転換した方がいいかも」
「バイトの疲れもあるかもしれませんね。先輩、行ってきてください」
「2人の言うとおりだね」
「読んだ本人もいた方が面白そうな気がするけど、大輝君がそう言うなら」
「……じゃあ、ちょっとの間、外に出てますね。スマホは持っていくので、聴き終わったら一言メッセージください」
「了解だよ、ダイちゃん」
俺はスマホとボトル缶のコーヒーを持ち、みんなに手を振って百花さんの家を一旦出る。日も傾き始め、ここに来たときよりも空気が涼しく感じるな。
朗読する自分の声にどんな感想を抱くのか。不安だ。地の文担当のサクラは淡々と読んでいたけど、俺と羽柴は一紗の指示により、登場人物の台詞を感情込めて読んだからな。
「さっそく戻りづらくなってきたな」
スマホを持っているので、このまま家に帰っても大丈夫そうだ。でも、あとで何を言われるのか怖い。なので止めておこう。
ボトル缶のブラックコーヒーを一口飲むと……やけに苦い。チョコレートマシュマロを袋ごと持ってくれば良かったな。
「ガルバンでもやるか」
ズボンのポケットからスマホを取り出し、『ガールズバンドデイズ!』というリズムゲームをやり始める。画面越しの二次元美少女はやっぱりいいなと思う。
ただ、二次元美少女に見とれてしまったからか。それとも、三次元美少女が俺のBL朗読を聴いてどう思っているのか不安になってしまったからか、普段ならほぼミスなくできるゲームでミスが続出してしまった。
『もっと練習しなきゃダメだよ!』
挙げ句の果てには、ゲーム終了後にキャラクターからお叱りを受ける始末。今日はもうやらない方がいいな。午前中から数時間もバイトしたんだし。休めっていうサインなんだろう。そう思っておく。
――プルルッ。
LIMEの通知が届いたのでさっそく見てみると、サクラから、
『聴き終わったよ!』
というメッセージが。さてと、戻るか。
朗読の際に絶賛してくれたサクラと一紗はいいとして、杏奈と百花さんがどんな感想を抱くのか。そんな不安はあるけど、一度、長く息を吐いて、百花さんの家の中に戻った。
部屋に入ると、4人が可愛らしい笑顔を浮かべながらこっちを見てくる。サクラだけがちょっと照れくさそうだけど。
「大輝君! とっても良かったよ! BLも百合と同じくらいにハマりそう」
「大輝先輩も羽柴先輩も声がいいですから、友人から借りたBLのドラマCDのようでした。他にも一紗先輩のBL小説を読もうかと思えたほどです」
「杏奈さんにそう言ってもらえて嬉しいわ。これで何度目かは分からないけど、本当にいい朗読だと思うわ。この朗読のおかげでBLの新作のアイデアが思い浮かんだの」
「ナレーションでも、自分の声を聴くのはちょっと恥ずかしいね。3人も一緒だったから。私も外に出れば良かったかなって思ったけど、ダイちゃんと羽柴君の演技が良かったから、ここで聴いて良かったと思っているよ」
「……そうですか」
4人とも朗読を好評価してくれて一安心。杏奈に他の作品を読みたいと思わせたり、一紗に新作のアイデアをもたらしたりできたのは素直に嬉しく思う。羽柴と頑張って朗読した甲斐があった。
サクラがはにかんでいるのは、一紗達の前で自分の声を聴くのが恥ずかしかったからだったのか。そんなサクラが可愛いし、自分と同じような気持ちを抱いてくれたことが嬉しかった。
「ああいう朗読を聴くと気になってしまうのですが、大輝先輩って男性は恋愛対象になるんですか?」
上目遣いで俺を見ながらそう問いかけてくる杏奈。
今の杏奈の質問に興味を持ったのか、一紗は真剣な様子で、サクラも俺のことをチラチラと見てくる。
「朗読では羽柴君といい演技していたもんね~」
と楽しそうに言って、百花さんはマイペースにクッキーを食べている。
「今のところ、恋愛対象になる可能性があるのは女性だけかな。男性は友人だな」
「……なるほどです。分かりました」
ちゃんと答えたのが良かったのか、杏奈はいつもの可愛らしい笑みを浮かべて、自分のミルクコーヒーを飲む。一紗はほっとした様子、サクラは依然として俺をチラッと見ながら「そっかそっか」と呟いていた。
「ただ、大輝先輩と羽柴先輩が一緒にいる場面を見たら、BL的なことを妄想してしまいそうです。2人ともイケメンですし」
「……イケメンについてはありがとう」
頭の中で妄想してもいいけど、それを言わないでほしかったな。きっと、サクラや一紗も妄想していそうだ。特に一紗。腕を組んで「うんうん!」と何度も頷いているし。
それからは杏奈が中学の美術部で描いた作品や、百花さんが大学の課題で制作した油絵を写真で見せてもらったり、杏奈の好きなアニメのBlu-rayがあったのでそれを5人で観たり。BL朗読が録音されていた事実が明らかになったけど、それを含めて杏奈がとても楽しそうだったので、いい歓迎会になったと思うことにしよう。
握手し終わり、再びお菓子を食べ始めたとき、一紗が杏奈にそんな質問をする。
「えっと……『白濁エスプレッソ』っていうBLの短編作品が面白かったです」
「あら、そうなの」
サクラと羽柴と一緒に朗読した作品だったので、思わずドキッとしてしまう。あの作品、かなり人気があるのかな。まあ、短編だし、気軽に読む気になれるのかも。登場人物は2人しかいないし、2人が結ばれるまでという恋愛ものとして王道な内容だから。
「私も大好きだよっ!」
同じ作品が好きだと分かったからか、サクラは興奮気味。もしかしたら、朗読したときのことを思い出しているのかもしれない。
「その作品なら、あたしも読んだことあるよ。BL好きの大学の友達も興奮してた」
「そうなんですね。嬉しいです。2人も読んだことがあるとのことなので、聴かせてあげましょうか」
「……はっ?」
聴かせてあげる? 一紗のその一言に、思わずそんな声が出てしまった。何だかとても嫌な予感がする。
「一紗。一つ訊きたいことがあるんだけど。聴かせてあげるって……何を?」
「この前の朗読」
「……ろ、朗読? えっ?」
「数日前の記憶がなくなってしまったのかしら? 大輝君と羽柴君が『白濁エスプレッソ』を朗読してくれたじゃない。あれ、スマホでこっそり録音しておいたの。2人の声が素敵だし、自分の書いた作品をいつでも耳から楽しみたいと思って」
「何だとおおっ!」
驚きのあまり、かなりの大声を出してしまった。こんなにも大きな声を出すのは、サクラがうちに引っ越してくることを話されたとき以来かもしれない。
「……あっ。ここ……アパートですね。大きな声を出してすみません」
「夕方だし大丈夫だと思うよ」
「それならいいのですが」
もし、他の部屋の住人からクレームが来たら、俺が謝らなければ。
まさか、あの朗読を録音されていたとは。全然気付かなかったな。サクラも目を見開いているので、録音の事実は今まで知らなかったと思われる。きっと、羽柴も気付いていないんだろうな。
「気持ちは分かるけど、こっそり録音するのは良くないなぁ」
「本番直前に録音しようって思いついて」
「本当かなぁ。……ちなみに、その録音データ、誰かに送ったりしてないだろうな」
「誰にも送っていないわ。自宅で妹に聴かせただけ。妹もあの作品が好きだから」
「……まあ、それならいいか」
「……やっぱりヤバい人ですね、一紗先輩って。ただ、大輝先輩には申し訳ないですが、朗読がどんな感じなのかは興味があります」
苦笑いをしながら俺をチラチラと見てくる杏奈。面白いと思った作品を音声で聴けるんだ。興味が湧くのは当然だと思う。
羽柴にあの朗読が録音されていたことをメッセージで送る。すると、スマホを手にしているのか、瞬間的に既読マークが付いて、
『マジかよ。やってくれたな、あいつ。まあ、妹さんに聴かせただけなら別にいい。誰にも送らず、あんまり多くの人に聴かせなければ、録音データは消さなくてもいい』
という返信をもらった。いきなり俺に録音の事実を知らされたのに、すぐにこういうメッセージを送れるとは。優しい奴だな、羽柴って。
「羽柴もデータを消さなくていいそうだ。その代わり、誰にも送らずに、あまり多くの人には聴かせるなよ」
「分かったわ」
「大輝先輩。羽柴というのは、羽柴拓海先輩のことですよね?」
「ああ、そうだよ。……そうか、羽柴とは同じ中学出身だったね」
「ええ。直接の面識はありませんが、羽柴先輩はかなりのイケメンさんですから、中学時代から人気があるので知っています。羽柴先輩に憧れている友達は何人もいますね。あと、中3の間に何度か、大輝先輩と羽柴先輩が一緒に歩いている姿を見たことがありました。大輝先輩もかっこいいと一緒にいた友人がキャーキャー言っていたこともありましたね。まあ……あたしは今までの接客もありますし、バイトでお仕事教えてくれていますから、大輝先輩の方がいいなって思ってますけど」
「……嬉しいなぁ」
お世辞だろうけど嬉しい。お礼に頭を撫でてあげたいくらいだ。
あと、羽柴は中学時代から人気があったか。さすがだ。杏奈は羽柴のことは知っているけど、羽柴は杏奈のことは……知らなさそうだな。学年も違うし。中学時代にはもう二次元にハマっていたそうだし。
「じゃあ、これから『白濁エスプレッソ』の朗読を流します!」
パチパチ、と女子4人は楽しそうに拍手をする。
自分の声を聴くだけでも変な感じがするのに、ましてやBL作品の朗読。しかも、4人とも俺のことも羽柴のことも知っている。朗読が流れている間だけでも、この場から離れたい。
「……あの。外の空気を吸いたいので、少しの間、外にいてもいいですか」
「もちろんだよ。ダイちゃん、顔色が悪くなっているし。気分転換した方がいいかも」
「バイトの疲れもあるかもしれませんね。先輩、行ってきてください」
「2人の言うとおりだね」
「読んだ本人もいた方が面白そうな気がするけど、大輝君がそう言うなら」
「……じゃあ、ちょっとの間、外に出てますね。スマホは持っていくので、聴き終わったら一言メッセージください」
「了解だよ、ダイちゃん」
俺はスマホとボトル缶のコーヒーを持ち、みんなに手を振って百花さんの家を一旦出る。日も傾き始め、ここに来たときよりも空気が涼しく感じるな。
朗読する自分の声にどんな感想を抱くのか。不安だ。地の文担当のサクラは淡々と読んでいたけど、俺と羽柴は一紗の指示により、登場人物の台詞を感情込めて読んだからな。
「さっそく戻りづらくなってきたな」
スマホを持っているので、このまま家に帰っても大丈夫そうだ。でも、あとで何を言われるのか怖い。なので止めておこう。
ボトル缶のブラックコーヒーを一口飲むと……やけに苦い。チョコレートマシュマロを袋ごと持ってくれば良かったな。
「ガルバンでもやるか」
ズボンのポケットからスマホを取り出し、『ガールズバンドデイズ!』というリズムゲームをやり始める。画面越しの二次元美少女はやっぱりいいなと思う。
ただ、二次元美少女に見とれてしまったからか。それとも、三次元美少女が俺のBL朗読を聴いてどう思っているのか不安になってしまったからか、普段ならほぼミスなくできるゲームでミスが続出してしまった。
『もっと練習しなきゃダメだよ!』
挙げ句の果てには、ゲーム終了後にキャラクターからお叱りを受ける始末。今日はもうやらない方がいいな。午前中から数時間もバイトしたんだし。休めっていうサインなんだろう。そう思っておく。
――プルルッ。
LIMEの通知が届いたのでさっそく見てみると、サクラから、
『聴き終わったよ!』
というメッセージが。さてと、戻るか。
朗読の際に絶賛してくれたサクラと一紗はいいとして、杏奈と百花さんがどんな感想を抱くのか。そんな不安はあるけど、一度、長く息を吐いて、百花さんの家の中に戻った。
部屋に入ると、4人が可愛らしい笑顔を浮かべながらこっちを見てくる。サクラだけがちょっと照れくさそうだけど。
「大輝君! とっても良かったよ! BLも百合と同じくらいにハマりそう」
「大輝先輩も羽柴先輩も声がいいですから、友人から借りたBLのドラマCDのようでした。他にも一紗先輩のBL小説を読もうかと思えたほどです」
「杏奈さんにそう言ってもらえて嬉しいわ。これで何度目かは分からないけど、本当にいい朗読だと思うわ。この朗読のおかげでBLの新作のアイデアが思い浮かんだの」
「ナレーションでも、自分の声を聴くのはちょっと恥ずかしいね。3人も一緒だったから。私も外に出れば良かったかなって思ったけど、ダイちゃんと羽柴君の演技が良かったから、ここで聴いて良かったと思っているよ」
「……そうですか」
4人とも朗読を好評価してくれて一安心。杏奈に他の作品を読みたいと思わせたり、一紗に新作のアイデアをもたらしたりできたのは素直に嬉しく思う。羽柴と頑張って朗読した甲斐があった。
サクラがはにかんでいるのは、一紗達の前で自分の声を聴くのが恥ずかしかったからだったのか。そんなサクラが可愛いし、自分と同じような気持ちを抱いてくれたことが嬉しかった。
「ああいう朗読を聴くと気になってしまうのですが、大輝先輩って男性は恋愛対象になるんですか?」
上目遣いで俺を見ながらそう問いかけてくる杏奈。
今の杏奈の質問に興味を持ったのか、一紗は真剣な様子で、サクラも俺のことをチラチラと見てくる。
「朗読では羽柴君といい演技していたもんね~」
と楽しそうに言って、百花さんはマイペースにクッキーを食べている。
「今のところ、恋愛対象になる可能性があるのは女性だけかな。男性は友人だな」
「……なるほどです。分かりました」
ちゃんと答えたのが良かったのか、杏奈はいつもの可愛らしい笑みを浮かべて、自分のミルクコーヒーを飲む。一紗はほっとした様子、サクラは依然として俺をチラッと見ながら「そっかそっか」と呟いていた。
「ただ、大輝先輩と羽柴先輩が一緒にいる場面を見たら、BL的なことを妄想してしまいそうです。2人ともイケメンですし」
「……イケメンについてはありがとう」
頭の中で妄想してもいいけど、それを言わないでほしかったな。きっと、サクラや一紗も妄想していそうだ。特に一紗。腕を組んで「うんうん!」と何度も頷いているし。
それからは杏奈が中学の美術部で描いた作品や、百花さんが大学の課題で制作した油絵を写真で見せてもらったり、杏奈の好きなアニメのBlu-rayがあったのでそれを5人で観たり。BL朗読が録音されていた事実が明らかになったけど、それを含めて杏奈がとても楽しそうだったので、いい歓迎会になったと思うことにしよう。
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