22 / 27
第21話『ほんと』
しおりを挟む
昼休みが終わる直前になって、優那は教室に戻ってきた。
午前中と同じように、午後の授業でも何度も優那のため息が聞こえた。そんな彼女に、前川など優那の近くの席の生徒も気にしているようだった。
それでも、優那が隣にいる中で今日の授業は全て終わり、放課後となった。
「今日はずっと、大曲は元気がなかったな」
「そうだね。きっと、明日には元気になっているから大丈夫だよ」
「……真宮がそう言うなら大丈夫か。じゃあ、僕は部活に行ってくるよ」
「頑張れよ。また明日」
「ああ、また明日な」
そう言って、前川はいつもの爽やかな笑みを浮かべながら教室を後にした。
「優那ちゃん。優那ちゃんに大事なことを話したいんだけれど、これから付き合ってもらってもいいかな」
「えっ?」
「今日の優那を見てきて、小春と俺は思ったんだ。優那はとても重要な勘違いをしているかもしれないって。その勘違いが、優那にため息ばかりつかせていたのかもしれない。教室だと人もまだいるから、ストーカーを捕まえたあの多目的スペースまで行こうよ。そこでちゃんと話したい」
人がほとんど来ないあそこなら、周りを気にすることなく色々なことを話せると思うから。
俺の言葉に対して、優那は黙って俯いたままだけど、
「行こう、優那ちゃん」
小春が優那の手を握り、強引に教室から連れ出した。そんな小春に対して、優那は何の抵抗もしなかった。俺や小春に向き合おうとしてくれているのかな。
多目的スペースに行くと、小春のストーカーを捕まえたときと同じように、生徒や職員は誰もいなかった。
俺達は3人並んでベンチに座る。ただし、優那を俺と小春で挟むようにして。
依然として優那が俯いているので、俺は小春のことをチラッと見る。彼女と目が合うと一度、ゆっくりと頷き合った。
「優那ちゃん。私と颯介君が話したいことって言うのは――」
「ごめん。小春、颯介」
そう謝る優那の両眼には涙を浮かべる。ようやく優那が口を開いたんだ。今は彼女の話をしっかりと聞くことにしよう。
「あたし、追田先輩のことを怒る資格ないよ。デートするって聞いてから、2人がずっと気になっていて。実は昨日……2人の様子をずっと遠くから見てた。だから、映画のことも、パスタを食べたことも、ゲームコーナーでぬいぐるみを取ったことも、2人が楽しそうに歩いていたことも知っていたんだ。だけど、あの公園で小春が颯介に告白して、キスしたところを見たら胸が凄く苦しくなって。目の前の現実を受け入れたくて、あたしはその場から逃げたんだ」
ボロボロとこぼれる涙を優那は両手で拭う。しかし、涙が止まる気配はない。
やっぱり、小春と俺が思っていた通り、優那は昨日のデートの様子を見ていたんだ。小春が俺に告白してキスをしたところまで。
「それからは、颯介と小春のことがずっと頭から離れなかった。2人のことを祝福しないといけないのに、颯介が他の誰かの恋人になるのが嫌だっていう気持ちがどんどん強くなっていって。こんな形で颯介のことが大好きだって分かったのは、きっと今までひねくれたり、酷い態度を取ったりした罰なんだって思った。あたし、これから2人にどう接していけばいいのか分からなくて。色んなことを考えていて。眠れなかったり、返信が遅くなったりしたのはDVDを観たからじゃなくて、そのせいだったの。2人とも、本当にごめんなさい。今が苦しくて、辛すぎるよ……」
優那は両手で顔を覆い、声を上げて泣き始めた。そんな彼女のことを小春がそっと抱きしめ、頭を撫でる。
「……予想通りだったね、颯介君」
「うん。ただ、ここまで深く考え込んでしまったことは予想外だった」
「そうだね。……ごめんね、優那ちゃん。優那ちゃんには、昨日のうちにデートのことを全部言うべきだった。確かに、私はストーカーの件を通して颯介君が好きになったよ。その想いをあの公園のベンチで伝えて、キスもした。でも、颯介君は……優那ちゃんのことが好きで、付き合うなら優那ちゃんしか考えられないっていう理由で私を振ったの。だから、颯介君は私と付き合っていません」
「えっ……」
すると、優那はゆっくりと顔を上げて、目を見開いた状態で小春と俺のことを見てくる。
「今の話って本当なの? 颯介」
俺からも、昨日のことと自分の想いをちゃんと説明しないといけないな。
「そうだよ。公園で小春から告白されて、キスされたから驚いた。正直、ドキドキもした。でも、一目惚れしてから、優那のことが一番好きだって気持ちはずっと変わらないし、恋人として付き合うなら優那しか考えられないよ。だから、小春の告白はキスされてすぐに断ったんだ。そのことを優那に話そうか考えたけど、小春のことも考えたら話さない方がいいのかなと思って話さなかったんだ。ただ、昨日のうちに話していたら優那がここまで辛くて、悲しい想いをせずに済んだかもしれない。本当にごめんね、優那」
「ごめんなさい、優那ちゃん」
小春と相談して、昨日のうちに告白についても優那に話しておくべきだったんだ。そうすれば、優那が一晩中、小春と俺のことを考えることにはならなかったのかもしれない。
再び優那は俯き、少しの間黙っていたけれど、
「……颯介と小春が謝ることじゃないよ。2人は気を遣ったから言わなかっただけ。ほんの少しでも心が強かったら、本当のことが分かったんだ。それができなかったあたしが悪いんだよ。2人は何も悪くないって」
「優那ちゃん……」
「……あの告白とキスをしたときの小春。今までの小春の中で一番強いなって思えたよ。だから、そんな小春を見習わなくちゃ。颯介に告白の返事を待たせているし、もうあたしの想いを漏らしちゃったけれどね」
優那は俺の右手をしっかりと掴み、今日初めて彼女本来の可愛らしい笑みを俺に見せてくれる。
「あたしは颯介のことが大好きです。だから、颯介からの告白は……OKです。これからはあたしと恋人として付き合いましょう」
「ありがとう。これから恋人としてよろしくお願いします」
「こちらこそ」
優那はにっこりと笑みを浮かべると、俺にキスをしてきた。優那の唇はとても柔らかくて、熱くて、ほんのりと甘い。この瞬間に、俺は優那と恋人同士になることができたのだと実感した。幸せすぎて天に昇りそうだ。
昨日、小春としたときも思ったけれど、キスは言葉以上に気持ちを伝えられる方法なんだなと思う。
唇を離すと、そこには優しい笑みを浮かべる優那の姿があった。
「何だろう。颯介とキスをしたら、愛おしい気持ちでいっぱいになっていくね。あと、とても心が軽くなった。今までたくさん告白されて、振って、文句を言われたりしたからかな。晴れやかな気分になっていくよ。颯介と恋人同士になれて本当に良かった。嬉しくてたまらないよ。あたしのファーストキスをあげちゃったし」
「……そうか。俺も優那と恋人同士になることができて嬉しいよ」
「……優那ちゃん、颯介君。おめでとう。私が2人なら大丈夫だっていう証人になるよ。これから仲良く付き合っていってね。本当におめでとう」
小春は嬉しそうな様子で、俺達に向けて拍手を贈ってくれた。笑顔を見せているけれど、とても悔しく思っているかもしれない。ただ、この拍手の音が心の奥まで響いているから、俺達が付き合うのを祝福してくれているのは確かだろう。
「ねえ、颯介。日が暮れるくらいまででいいから、颯介と一緒にいたいの。できれば……2人きりがいいって思ってる」
「そっか。真っ先に思い浮かぶのは俺の家になるけれど」
「うん。颯介の部屋でゆっくりとした時間が過ごしたいな」
上目遣いで見てくる優那が可愛すぎる。こんなに可愛い子が恋人になったんだよな。あぁ、幸せだ。
「ふふっ、昨日は私が颯介君とデートしたから、優那ちゃんも颯介君と2人きりになりたいよね。私も帰るつもりだから、校門までは3人で一緒に行こうか」
「うん!」
優那、ここに来たときの元気のなさが嘘のようないい笑顔をしている。
その後、俺は優那と小春と一緒に校舎を後にして、校門で小春と別れようとしたときだった。
「颯ちゃん! やっと来たよ!」
バッグを持った姉ちゃんが、大きく手を振りながら俺達のところにやってきたのだ。俺に会えたからとても嬉しそうだ。
「姉ちゃん、どうしてここに……」
「今日は大学の講義が早めに終わったから、颯ちゃんのことを待ち伏せしていたの。そうしたら、なかなか姿が見えなくて。ようやく来たと思ったら……ふふっ、優那ちゃんとしっかりと手を繋いじゃって」
「ああ、これは……」
姉ちゃん、俺が告白したことを知った上で優那を気に入っているけれど、付き合い始めるって知ったら凄くショックを受けそうだ。でも、ちゃんと伝えないと。
「姉ちゃん、ついさっき……優那から告白の返事をもらって。俺、優那と恋人として付き合うことになったんだ」
「颯介と付き合うことになりました! これからもよろしくお願いします」
真剣な様子でそう言うと、優那は姉ちゃんに対して頭を下げる。
「……よろしくね、優那ちゃん。あと、おめでとう。お姉ちゃん、泣いちゃうほどに嬉しいな。きっと、いずれは優那ちゃんっていう可愛い義理の妹ができるだろうし。そう、この涙は嬉しさから来ているんだからね! 決して、可愛くてかっこいい颯ちゃんが、お姉ちゃんから離れるのが寂しくて流している涙じゃないんだから……」
姉ちゃんは笑顔を見せながらも、涙を滝のように流している。まあ、こうなるのは予想通りだったけれど、嬉しいと言ってくれて良かった。
「あの、良かったらハンカチ使いますか?」
「ううん、大丈夫だよ、ありがとう」
小春がハンカチを差し出すと、姉ちゃんは右手で涙を拭った。
「……もしかして、あなた……優那ちゃんの親友で、昨日、颯ちゃんとデートした小春ちゃん?」
「はい、そうです。初めまして、岡庭小春といいます」
「初めまして、颯介の姉の真宮菜月といいます。小春ちゃんのことは颯介から聞いているよ。あなたとは一度会ってみたかったの! 写真も可愛いけれど、実際に会うともっと可愛いね!」
「私も颯介君から話を聞いていて、一度、菜月さんと会ってお話ししたいなって思っていたんです! ここで会えるなんて嬉しいな……」
「私も嬉しいよ!」
さっきの涙はどこへ行ってしまったのか、姉ちゃんは興奮した様子で小春を抱きしめる。小春も姉ちゃんの背中に手を回す。お互いに会いたがっていたので、それが実現して嬉しいのだろう。
「姉ちゃん。俺はこれから優那と一緒に家に帰るつもりなんだけど」
「そうなの。じゃあ、2人の邪魔をしないためと、小春ちゃんとお話ししたいから、お姉ちゃんはこれから彼女と一緒に駅の方に行こうかな。小春ちゃん、これから何か予定ある?」
「いえ、特にないです。むしろ、私の方が菜月さんに、これから喫茶店とかでゆっくりとお茶しませんかって誘おうと思っていたくらいで」
「そう言ってくれて嬉しいよ! じゃあ、一緒に行こうか」
「はい! 優那ちゃん、颯介君、また明日ね」
「うん、また明日ね、小春」
「また明日な、小春。日が暮れるくらいまで優那は家にいる予定だから、姉ちゃん」
「分かったよ、颯ちゃん。2人とも、仲良く楽しい時間を過ごしてね」
姉ちゃんと小春は駅の方へ歩き始めた。小春が喫茶店でゆっくりとお茶をしたいと言っていたからその通りになるだろう。ただ、出会ったばかりの2人はお茶をしながらどんなことを話すのだろう。やっぱり、俺と優那のことや、姉ちゃんがOGということもあって真崎高校のことが話題になるのかな。
「小春も菜月さんも会いたがっていたなんて意外だね」
「俺が2人にお互いのことを話したら、興味を持ったらしくて」
「なるほど、颯介が2人を繋げたわけだ。凄いね。じゃあ……あたし達も行こうか」
「うん、そうだね」
俺は優那と手を繋いで自宅に向かって歩き始める。
初体験の恋人繋ぎはとても温かく、ドキドキして。これが恋人になるってことなのかなと思ったりもして。ただ、優那とはこうして一緒にいつまでも未来を歩んでいきたいと強く思うのであった。
午前中と同じように、午後の授業でも何度も優那のため息が聞こえた。そんな彼女に、前川など優那の近くの席の生徒も気にしているようだった。
それでも、優那が隣にいる中で今日の授業は全て終わり、放課後となった。
「今日はずっと、大曲は元気がなかったな」
「そうだね。きっと、明日には元気になっているから大丈夫だよ」
「……真宮がそう言うなら大丈夫か。じゃあ、僕は部活に行ってくるよ」
「頑張れよ。また明日」
「ああ、また明日な」
そう言って、前川はいつもの爽やかな笑みを浮かべながら教室を後にした。
「優那ちゃん。優那ちゃんに大事なことを話したいんだけれど、これから付き合ってもらってもいいかな」
「えっ?」
「今日の優那を見てきて、小春と俺は思ったんだ。優那はとても重要な勘違いをしているかもしれないって。その勘違いが、優那にため息ばかりつかせていたのかもしれない。教室だと人もまだいるから、ストーカーを捕まえたあの多目的スペースまで行こうよ。そこでちゃんと話したい」
人がほとんど来ないあそこなら、周りを気にすることなく色々なことを話せると思うから。
俺の言葉に対して、優那は黙って俯いたままだけど、
「行こう、優那ちゃん」
小春が優那の手を握り、強引に教室から連れ出した。そんな小春に対して、優那は何の抵抗もしなかった。俺や小春に向き合おうとしてくれているのかな。
多目的スペースに行くと、小春のストーカーを捕まえたときと同じように、生徒や職員は誰もいなかった。
俺達は3人並んでベンチに座る。ただし、優那を俺と小春で挟むようにして。
依然として優那が俯いているので、俺は小春のことをチラッと見る。彼女と目が合うと一度、ゆっくりと頷き合った。
「優那ちゃん。私と颯介君が話したいことって言うのは――」
「ごめん。小春、颯介」
そう謝る優那の両眼には涙を浮かべる。ようやく優那が口を開いたんだ。今は彼女の話をしっかりと聞くことにしよう。
「あたし、追田先輩のことを怒る資格ないよ。デートするって聞いてから、2人がずっと気になっていて。実は昨日……2人の様子をずっと遠くから見てた。だから、映画のことも、パスタを食べたことも、ゲームコーナーでぬいぐるみを取ったことも、2人が楽しそうに歩いていたことも知っていたんだ。だけど、あの公園で小春が颯介に告白して、キスしたところを見たら胸が凄く苦しくなって。目の前の現実を受け入れたくて、あたしはその場から逃げたんだ」
ボロボロとこぼれる涙を優那は両手で拭う。しかし、涙が止まる気配はない。
やっぱり、小春と俺が思っていた通り、優那は昨日のデートの様子を見ていたんだ。小春が俺に告白してキスをしたところまで。
「それからは、颯介と小春のことがずっと頭から離れなかった。2人のことを祝福しないといけないのに、颯介が他の誰かの恋人になるのが嫌だっていう気持ちがどんどん強くなっていって。こんな形で颯介のことが大好きだって分かったのは、きっと今までひねくれたり、酷い態度を取ったりした罰なんだって思った。あたし、これから2人にどう接していけばいいのか分からなくて。色んなことを考えていて。眠れなかったり、返信が遅くなったりしたのはDVDを観たからじゃなくて、そのせいだったの。2人とも、本当にごめんなさい。今が苦しくて、辛すぎるよ……」
優那は両手で顔を覆い、声を上げて泣き始めた。そんな彼女のことを小春がそっと抱きしめ、頭を撫でる。
「……予想通りだったね、颯介君」
「うん。ただ、ここまで深く考え込んでしまったことは予想外だった」
「そうだね。……ごめんね、優那ちゃん。優那ちゃんには、昨日のうちにデートのことを全部言うべきだった。確かに、私はストーカーの件を通して颯介君が好きになったよ。その想いをあの公園のベンチで伝えて、キスもした。でも、颯介君は……優那ちゃんのことが好きで、付き合うなら優那ちゃんしか考えられないっていう理由で私を振ったの。だから、颯介君は私と付き合っていません」
「えっ……」
すると、優那はゆっくりと顔を上げて、目を見開いた状態で小春と俺のことを見てくる。
「今の話って本当なの? 颯介」
俺からも、昨日のことと自分の想いをちゃんと説明しないといけないな。
「そうだよ。公園で小春から告白されて、キスされたから驚いた。正直、ドキドキもした。でも、一目惚れしてから、優那のことが一番好きだって気持ちはずっと変わらないし、恋人として付き合うなら優那しか考えられないよ。だから、小春の告白はキスされてすぐに断ったんだ。そのことを優那に話そうか考えたけど、小春のことも考えたら話さない方がいいのかなと思って話さなかったんだ。ただ、昨日のうちに話していたら優那がここまで辛くて、悲しい想いをせずに済んだかもしれない。本当にごめんね、優那」
「ごめんなさい、優那ちゃん」
小春と相談して、昨日のうちに告白についても優那に話しておくべきだったんだ。そうすれば、優那が一晩中、小春と俺のことを考えることにはならなかったのかもしれない。
再び優那は俯き、少しの間黙っていたけれど、
「……颯介と小春が謝ることじゃないよ。2人は気を遣ったから言わなかっただけ。ほんの少しでも心が強かったら、本当のことが分かったんだ。それができなかったあたしが悪いんだよ。2人は何も悪くないって」
「優那ちゃん……」
「……あの告白とキスをしたときの小春。今までの小春の中で一番強いなって思えたよ。だから、そんな小春を見習わなくちゃ。颯介に告白の返事を待たせているし、もうあたしの想いを漏らしちゃったけれどね」
優那は俺の右手をしっかりと掴み、今日初めて彼女本来の可愛らしい笑みを俺に見せてくれる。
「あたしは颯介のことが大好きです。だから、颯介からの告白は……OKです。これからはあたしと恋人として付き合いましょう」
「ありがとう。これから恋人としてよろしくお願いします」
「こちらこそ」
優那はにっこりと笑みを浮かべると、俺にキスをしてきた。優那の唇はとても柔らかくて、熱くて、ほんのりと甘い。この瞬間に、俺は優那と恋人同士になることができたのだと実感した。幸せすぎて天に昇りそうだ。
昨日、小春としたときも思ったけれど、キスは言葉以上に気持ちを伝えられる方法なんだなと思う。
唇を離すと、そこには優しい笑みを浮かべる優那の姿があった。
「何だろう。颯介とキスをしたら、愛おしい気持ちでいっぱいになっていくね。あと、とても心が軽くなった。今までたくさん告白されて、振って、文句を言われたりしたからかな。晴れやかな気分になっていくよ。颯介と恋人同士になれて本当に良かった。嬉しくてたまらないよ。あたしのファーストキスをあげちゃったし」
「……そうか。俺も優那と恋人同士になることができて嬉しいよ」
「……優那ちゃん、颯介君。おめでとう。私が2人なら大丈夫だっていう証人になるよ。これから仲良く付き合っていってね。本当におめでとう」
小春は嬉しそうな様子で、俺達に向けて拍手を贈ってくれた。笑顔を見せているけれど、とても悔しく思っているかもしれない。ただ、この拍手の音が心の奥まで響いているから、俺達が付き合うのを祝福してくれているのは確かだろう。
「ねえ、颯介。日が暮れるくらいまででいいから、颯介と一緒にいたいの。できれば……2人きりがいいって思ってる」
「そっか。真っ先に思い浮かぶのは俺の家になるけれど」
「うん。颯介の部屋でゆっくりとした時間が過ごしたいな」
上目遣いで見てくる優那が可愛すぎる。こんなに可愛い子が恋人になったんだよな。あぁ、幸せだ。
「ふふっ、昨日は私が颯介君とデートしたから、優那ちゃんも颯介君と2人きりになりたいよね。私も帰るつもりだから、校門までは3人で一緒に行こうか」
「うん!」
優那、ここに来たときの元気のなさが嘘のようないい笑顔をしている。
その後、俺は優那と小春と一緒に校舎を後にして、校門で小春と別れようとしたときだった。
「颯ちゃん! やっと来たよ!」
バッグを持った姉ちゃんが、大きく手を振りながら俺達のところにやってきたのだ。俺に会えたからとても嬉しそうだ。
「姉ちゃん、どうしてここに……」
「今日は大学の講義が早めに終わったから、颯ちゃんのことを待ち伏せしていたの。そうしたら、なかなか姿が見えなくて。ようやく来たと思ったら……ふふっ、優那ちゃんとしっかりと手を繋いじゃって」
「ああ、これは……」
姉ちゃん、俺が告白したことを知った上で優那を気に入っているけれど、付き合い始めるって知ったら凄くショックを受けそうだ。でも、ちゃんと伝えないと。
「姉ちゃん、ついさっき……優那から告白の返事をもらって。俺、優那と恋人として付き合うことになったんだ」
「颯介と付き合うことになりました! これからもよろしくお願いします」
真剣な様子でそう言うと、優那は姉ちゃんに対して頭を下げる。
「……よろしくね、優那ちゃん。あと、おめでとう。お姉ちゃん、泣いちゃうほどに嬉しいな。きっと、いずれは優那ちゃんっていう可愛い義理の妹ができるだろうし。そう、この涙は嬉しさから来ているんだからね! 決して、可愛くてかっこいい颯ちゃんが、お姉ちゃんから離れるのが寂しくて流している涙じゃないんだから……」
姉ちゃんは笑顔を見せながらも、涙を滝のように流している。まあ、こうなるのは予想通りだったけれど、嬉しいと言ってくれて良かった。
「あの、良かったらハンカチ使いますか?」
「ううん、大丈夫だよ、ありがとう」
小春がハンカチを差し出すと、姉ちゃんは右手で涙を拭った。
「……もしかして、あなた……優那ちゃんの親友で、昨日、颯ちゃんとデートした小春ちゃん?」
「はい、そうです。初めまして、岡庭小春といいます」
「初めまして、颯介の姉の真宮菜月といいます。小春ちゃんのことは颯介から聞いているよ。あなたとは一度会ってみたかったの! 写真も可愛いけれど、実際に会うともっと可愛いね!」
「私も颯介君から話を聞いていて、一度、菜月さんと会ってお話ししたいなって思っていたんです! ここで会えるなんて嬉しいな……」
「私も嬉しいよ!」
さっきの涙はどこへ行ってしまったのか、姉ちゃんは興奮した様子で小春を抱きしめる。小春も姉ちゃんの背中に手を回す。お互いに会いたがっていたので、それが実現して嬉しいのだろう。
「姉ちゃん。俺はこれから優那と一緒に家に帰るつもりなんだけど」
「そうなの。じゃあ、2人の邪魔をしないためと、小春ちゃんとお話ししたいから、お姉ちゃんはこれから彼女と一緒に駅の方に行こうかな。小春ちゃん、これから何か予定ある?」
「いえ、特にないです。むしろ、私の方が菜月さんに、これから喫茶店とかでゆっくりとお茶しませんかって誘おうと思っていたくらいで」
「そう言ってくれて嬉しいよ! じゃあ、一緒に行こうか」
「はい! 優那ちゃん、颯介君、また明日ね」
「うん、また明日ね、小春」
「また明日な、小春。日が暮れるくらいまで優那は家にいる予定だから、姉ちゃん」
「分かったよ、颯ちゃん。2人とも、仲良く楽しい時間を過ごしてね」
姉ちゃんと小春は駅の方へ歩き始めた。小春が喫茶店でゆっくりとお茶をしたいと言っていたからその通りになるだろう。ただ、出会ったばかりの2人はお茶をしながらどんなことを話すのだろう。やっぱり、俺と優那のことや、姉ちゃんがOGということもあって真崎高校のことが話題になるのかな。
「小春も菜月さんも会いたがっていたなんて意外だね」
「俺が2人にお互いのことを話したら、興味を持ったらしくて」
「なるほど、颯介が2人を繋げたわけだ。凄いね。じゃあ……あたし達も行こうか」
「うん、そうだね」
俺は優那と手を繋いで自宅に向かって歩き始める。
初体験の恋人繋ぎはとても温かく、ドキドキして。これが恋人になるってことなのかなと思ったりもして。ただ、優那とはこうして一緒にいつまでも未来を歩んでいきたいと強く思うのであった。
0
あなたにおすすめの小説
どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~
さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」
あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。
弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。
弟とは凄く仲が良いの!
それはそれはものすごく‥‥‥
「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」
そんな関係のあたしたち。
でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥
「うそっ! お腹が出て来てる!?」
お姉ちゃんの秘密の悩みです。
まずはお嫁さんからお願いします。
桜庭かなめ
恋愛
高校3年生の長瀬和真のクラスには、有栖川優奈という女子生徒がいる。優奈は成績優秀で容姿端麗、温厚な性格と誰にでも敬語で話すことから、学年や性別を問わず人気を集めている。和真は優奈とはこの2年間で挨拶や、バイト先のドーナッツ屋で接客する程度の関わりだった。
4月の終わり頃。バイト中に店舗の入口前の掃除をしているとき、和真は老齢の男性のスマホを見つける。その男性は優奈の祖父であり、日本有数の企業グループである有栖川グループの会長・有栖川総一郎だった。
総一郎は自分のスマホを見つけてくれた和真をとても気に入り、孫娘の優奈とクラスメイトであること、優奈も和真も18歳であることから優奈との結婚を申し出る。
いきなりの結婚打診に和真は困惑する。ただ、有栖川家の説得や、優奈が和真の印象が良く「結婚していい」「いつかは両親や祖父母のような好き合える夫婦になりたい」と思っていることを知り、和真は結婚を受け入れる。
デート、学校生活、新居での2人での新婚生活などを経て、和真と優奈の距離が近づいていく。交際なしで結婚した高校生の男女が、好き合える夫婦になるまでの温かくて甘いラブコメディ!
※特別編6が完結しました!(2025.11.25)
※小説家になろうとカクヨムでも公開しています。
※お気に入り登録、感想をお待ちしております。
罰ゲームから始まった、五人のヒロインと僕の隣の物語
ノン・タロー
恋愛
高校2年の夏……友達同士で行った小テストの点を競う勝負に負けた僕、御堂 彼方(みどう かなた)は、罰ゲームとしてクラスで人気のある女子・風原 亜希(かざはら あき)に告白する。
だが亜希は、彼方が特に好みでもなく、それをあっさりと振る。
それで終わるはずだった――なのに。
ひょんな事情で、彼方は亜希と共に"同居”することに。
さらに新しく出来た、甘えん坊な義妹・由奈(ゆな)。
そして教室では静かに恋を仕掛けてくる寡黙なクラス委員長の柊 澪(ひいらぎ みお)、特に接点の無かった早乙女 瀬玲奈(さおとめ せれな)、おまけに生徒会長の如月(きさらぎ)先輩まで現れて、彼方の周囲は急速に騒がしくなっていく。
由奈は「お兄ちゃん!」と懐き、澪は「一緒に帰らない……?」と静かに距離を詰める。
一方の瀬玲奈は友達感覚で、如月先輩は不器用ながらも接してくる。
そんな中、亜希は「別に好きじゃないし」と言いながら、彼方が誰かと仲良くするたびに心がざわついていく。
罰ゲームから始まった関係は、日常の中で少しずつ形を変えていく。
ツンデレな同居人、甘えたがりな義妹、寡黙な同クラ女子、恋愛に不器用な生徒会長、ギャル気質な同クラ女子……。
そして、無自覚に優しい彼方が、彼女たちの心を少しずつほどいていく。
これは、恋と居場所と感情の距離をめぐる、ちょっと不器用で、でも確かな青春の物語。
俺を振ったはずの腐れ縁幼馴染が、俺に告白してきました。
true177
恋愛
一年前、伊藤 健介(いとう けんすけ)は幼馴染の多田 悠奈(ただ ゆうな)に振られた。それも、心無い手紙を下駄箱に入れられて。
それ以来悠奈を避けるようになっていた健介だが、二年生に進級した春になって悠奈がいきなり告白を仕掛けてきた。
これはハニートラップか、一年前の出来事を忘れてしまっているのか……。ともかく、健介は断った。
日常が一変したのは、それからである。やたらと悠奈が絡んでくるようになったのだ。
彼女の狙いは、いったい何なのだろうか……。
※小説家になろう、ハーメルンにも同一作品を投稿しています。
※内部進行完結済みです。毎日連載です。
天才天然天使様こと『三天美女』の汐崎真凜に勝手に婚姻届を出され、いつの間にか天使の旦那になったのだが...。【動画投稿】
田中又雄
恋愛
18の誕生日を迎えたその翌日のこと。
俺は分籍届を出すべく役所に来ていた...のだが。
「えっと...結論から申し上げますと...こちらの手続きは不要ですね」「...え?どういうことですか?」「昨日、婚姻届を出されているので親御様とは別の戸籍が作られていますので...」「...はい?」
そうやら俺は知らないうちに結婚していたようだった。
「あの...相手の人の名前は?」
「...汐崎真凛様...という方ですね」
その名前には心当たりがあった。
天才的な頭脳、マイペースで天然な性格、天使のような見た目から『三天美女』なんて呼ばれているうちの高校のアイドル的存在。
こうして俺は天使との-1日婚がスタートしたのだった。
極上イケメン先生が秘密の溺愛教育に熱心です
朝陽七彩
恋愛
私は。
「夕鶴、こっちにおいで」
現役の高校生だけど。
「ずっと夕鶴とこうしていたい」
担任の先生と。
「夕鶴を誰にも渡したくない」
付き合っています。
♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡
神城夕鶴(かみしろ ゆづる)
軽音楽部の絶対的エース
飛鷹隼理(ひだか しゅんり)
アイドル的存在の超イケメン先生
♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡
彼の名前は飛鷹隼理くん。
隼理くんは。
「夕鶴にこうしていいのは俺だけ」
そう言って……。
「そんなにも可愛い声を出されたら……俺、止められないよ」
そして隼理くんは……。
……‼
しゅっ……隼理くん……っ。
そんなことをされたら……。
隼理くんと過ごす日々はドキドキとわくわくの連続。
……だけど……。
え……。
誰……?
誰なの……?
その人はいったい誰なの、隼理くん。
ドキドキとわくわくの連続だった私に突如現れた隼理くんへの疑惑。
その疑惑は次第に大きくなり、私の心の中を不安でいっぱいにさせる。
でも。
でも訊けない。
隼理くんに直接訊くことなんて。
私にはできない。
私は。
私は、これから先、一体どうすればいいの……?
【完結】好きって言ってないのに、なぜか学園中にバレてる件。
東野あさひ
恋愛
「好きって言ってないのに、なんでバレてるんだよ!?」
──平凡な男子高校生・真嶋蒼汰の一言から、すべての誤解が始まった。
購買で「好きなパンは?」と聞かれ、「好きです!」と答えただけ。
それなのにStarChat(学園SNS)では“告白事件”として炎上、
いつの間にか“七瀬ひよりと両想い”扱いに!?
否定しても、弁解しても、誤解はどんどん拡散。
気づけば――“誤解”が、少しずつ“恋”に変わっていく。
ツンデレ男子×天然ヒロインが織りなす、SNS時代の爆笑すれ違いラブコメ!
最後は笑って、ちょっと泣ける。
#誤解が本当の恋になる瞬間、あなたもきっとトレンド入り。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる