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本編-ARIA-
第12話『マッサージ-後編-』
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美来が肩だけでなく、背中全体もマッサージをしてくれたおかげで体が大分軽くなった。マッサージを頼んで正解だったようだ。
「智也さん、私の方もよろしくお願いしますね」
「……そうだったね」
「あっ、すっかり忘れていましたね」
「気持ち良かったもので。ごめん。美来も気持ち良くさせるから」
時間を忘れるくらいにマッサージの気持ちよさに浸っていたので、美来の肩を揉むことを忘れてしまっていた。僕も彼女のようにできればいいんだけれど、手探りでやってみるしかないかな。
「それじゃ、ここに座って」
「はい」
膝をつく僕の前に美来は背中を向けて座る。こうして見てみると、美来の金色の髪がとても綺麗だ。きっと、これも普段からしっかりとお手入れをしている賜物なのだろう。
「じゃあ、始めるね」
「はい。お願いします」
僕はゆっくりと美来の両肩を揉み始める。
「……んっ」
「そんなに気持ちいい?」
「はい。智也さんに揉まれているからでしょうか……」
可愛らしい声が聞こえたときはちょっと驚いたけれど、下手に揉んではいないようなので良かった。
「肩、凝ってるね。僕よりは酷くなさそうだけれど」
どうやら、胸の影響で肩を凝るというのは本当のようだ。男の僕には縁のないことだけれども。
「凄いです。やっぱり、誰かに揉んでもらうのっていいですね」
肩をね。そう言ってくれないと変な風に聞こえてしまう。
揉み続けていくと、美来の肩が段々とほぐれてきた。マッサージをしている時間は僕のときよりもずっと短いんだけれどね。これも若さなのかな。8歳の差って大きいんだな。
「あぁ、気持ちいいです。今日は智也さんのメイドになるんだって心に決めていたのに、智也さんからこんなにも気持ちいいことをしていただけるなんて。これではメイド失格ですね」
「美来は僕の肩を揉んでくれたんだ。美来はもうメイドとして立派に仕事を果たしていると思うよ。それに、このマッサージは僕からのお礼でもあるから、気にしないで。気持ちよくなってくれると嬉しいよ」
「……優しいご主人様です」
美来は僕の方に振り返ってにっこりと笑った。後ろ姿は美しいけれど、やはりこの笑顔が一番いいな。
「やっぱり、私の思っていた通りの方でした。智也さんは優しいです。肩を揉む今の手つきもそうですし。これまで、遠くから智也さんを見ていたとき、智也さんはいつも優しい表情をされていました。たまに見せる笑顔にずっと惹かれているんです。そして今、智也さんの優しさにも惹かれました」
「僕は普通に過ごしていただけなんだけれどね。でも、思い返せば周りの人がイライラしないようにとか、気持ちよく過ごせるようにとかそういうことを考えて過ごしていたのかもしれないね」
口にする言葉の選択や表情など色々なことを。普段はあまり意識していないけれど、僕は周りの人に気を遣い続けていたのかもしれないな。それが美来には「優しさ」であると思えたのだろう。
「あの、智也さん。一つお願いしてもいいですか?」
「何かな?」
「……私のことを後ろから抱きしめてくれますか? さっき、智也さんにマッサージをしたときと同じように」
「分かりました、お嬢様」
「お、お嬢様……それもいいですけど、私は智也さんの奥様になるのが希望です」
それはちゃんと分かっているよ。10年前と一昨日にプロポーズされたからね。
僕は後ろから美来のことを抱きしめる。今の互いの姿勢からか、美来の柔らかな髪がちょうど僕の首筋に触れる。
「どう? 美来」
「普通に抱きしめられるのもいいですけど、こうして後ろから抱きしめられるのって意外と気持ちいいんですね。智也さんに包まれている感じがして、とても安心できます」
「そっか」
僕の場合は、美来の胸が当たっていることに意識が集中してしまっていたけれど。
「……智也さん、いいんですよ? 両手を私の胸に持っていっても」
「何を言っているんだ。そんなこと、今の僕にはできないよ」
そんな度胸は僕にはないし、そもそもするつもりもない。
「ドキドキしてしまっていますもんね。智也さんの鼓動が背中から伝わってきます。互いに服を着ているのに……相当なんですね」
「当たり前だよ。女子高生を後ろから抱きしめるなんて初めての経験なんだし。そういう美来だって体がとても熱くなってきてるよ」
「……だって、初めてなんですもん。男の方に後ろから抱きしめられるなんて」
お互いに初めてだから緊張しているってことか。まったく、そんな状況なのに僕の手を胸に持ってくるか、なんて言ってくるなんて。茶目っ気があるのか何なのか。
「もう、そろそろマッサージはいいのかな?」
「はい、ありがとうございました。肩の凝りもほとんど取れたのでこれで大丈夫です」
「そっか、良かった」
人の肩を揉むことは慣れていないけれど、美来の肩こりを和らげることができたようで良かった。
「……あと、もう一つお願いしてもいいですか?」
「うん、いいよ。何かな?」
すると、美来は僕の方に振り返る。
「……心の方のマッサージをお願いできますか?」
「心のマッサージ?」
どうやってすればいいんだろう。
ただ、美来の方はマッサージの仕方を知っているのか、顔を赤くして僕のことをチラチラと見ている。ま、まさかとは思うけれど。
「キスをしてほしいんです。昨晩は私からでしたので、今日は智也さんの方から」
やっぱり、キスだったか。しかも、僕からするんだ。自分からするキスと、相手からしてもらう口づけって違うものなんだろうな。
「智也さん、お願いします」
「……うん」
美来は僕の胸に手を当てて、目をそっと閉じる。
恋人同士でもないのに、こんなに可愛い女の子にキスをしていいのだろうか。ただ、昨日の夜は美来の方からキスをしてきたし……こうなったらやるしかない。
余計なことを考えず、僕は美来にそっと口づけをする。
昨日と同じように美来の唇はとても柔らかくて、温かい。何とも言えない感覚にどんどん包み込まれていく。
「智也さん……」
美来は僕の名前を呟くと、美来は両手を僕の背中に回してきた。僕の口の中に美来の舌が入り込んできた。
「美来、それは……」
ダメだと言おうとしたけれど言えなかった。こんなにも僕のことを好きでいる美来のことを突き放してしまうような気がしたから。
結局、昨日の夜と同じく、僕はキスを美来に任せる形に。それにしても、昨日のキスよりも熱くて、激しい。
「……ふあっ」
唇を離されたときに、美来がそう声を漏らした。そのときの美来の表情は昨日よりも艶やかなもので。
「……心がとってもほぐれた気がします。やっぱり、智也さんとキスをすると幸せな気分になれますね」
「じゃあ、心のマッサージはちゃんとできていたんだね」
「……はい」
すると、美来は僕の胸に頭を埋める。
「私が、今日は家にいたいって言ったのは、こうやって智也さんとの2人きりの時間をゆっくりと過ごしたいからだったんです。本当なら、こうして智也さんと触れられる距離にずっといたいです」
10年間、僕のことを影で見守りながらも、会うことはできなかった。だからこそ、こうして僕と一緒にいる時間をより濃くしていきたいんだろう。
「ちょっとだけでもいいので、このまま智也さんに触れていていいですか?」
「もちろんだよ」
「ありがとうございます。今日はメイドとして、智也さんに色々とご奉仕するつもりだったのに、我が儘ばかり言ってしまっています。本当に悪いメイドですね」
「僕は美来がいるだけでとても癒やされているし、楽しい休日が送ることができているよ。だから、気負う必要はないって」
多分、美来がいなかったら、明日から仕事だとか思って気持ちが落ち始めている時間帯だから。今はそういうことは全然ない。
「……優しいご主人様です」
美来は嬉しそうに笑い、僕のことをぎゅっと抱きしめてきた。そんな彼女の頭を優しく撫でる。
美来と再会してから、およそ2日。ようやく気持ちが落ち着いてきた。
ずっと僕のことを好きでいてくれている美来と、この先どうなっていきたいのか、少しずつ考えていかないといけないな。気持ちが固まったら彼女にしっかりと伝えよう。それが美来に対して一番にすべきことだと思うから。
「智也さん、私の方もよろしくお願いしますね」
「……そうだったね」
「あっ、すっかり忘れていましたね」
「気持ち良かったもので。ごめん。美来も気持ち良くさせるから」
時間を忘れるくらいにマッサージの気持ちよさに浸っていたので、美来の肩を揉むことを忘れてしまっていた。僕も彼女のようにできればいいんだけれど、手探りでやってみるしかないかな。
「それじゃ、ここに座って」
「はい」
膝をつく僕の前に美来は背中を向けて座る。こうして見てみると、美来の金色の髪がとても綺麗だ。きっと、これも普段からしっかりとお手入れをしている賜物なのだろう。
「じゃあ、始めるね」
「はい。お願いします」
僕はゆっくりと美来の両肩を揉み始める。
「……んっ」
「そんなに気持ちいい?」
「はい。智也さんに揉まれているからでしょうか……」
可愛らしい声が聞こえたときはちょっと驚いたけれど、下手に揉んではいないようなので良かった。
「肩、凝ってるね。僕よりは酷くなさそうだけれど」
どうやら、胸の影響で肩を凝るというのは本当のようだ。男の僕には縁のないことだけれども。
「凄いです。やっぱり、誰かに揉んでもらうのっていいですね」
肩をね。そう言ってくれないと変な風に聞こえてしまう。
揉み続けていくと、美来の肩が段々とほぐれてきた。マッサージをしている時間は僕のときよりもずっと短いんだけれどね。これも若さなのかな。8歳の差って大きいんだな。
「あぁ、気持ちいいです。今日は智也さんのメイドになるんだって心に決めていたのに、智也さんからこんなにも気持ちいいことをしていただけるなんて。これではメイド失格ですね」
「美来は僕の肩を揉んでくれたんだ。美来はもうメイドとして立派に仕事を果たしていると思うよ。それに、このマッサージは僕からのお礼でもあるから、気にしないで。気持ちよくなってくれると嬉しいよ」
「……優しいご主人様です」
美来は僕の方に振り返ってにっこりと笑った。後ろ姿は美しいけれど、やはりこの笑顔が一番いいな。
「やっぱり、私の思っていた通りの方でした。智也さんは優しいです。肩を揉む今の手つきもそうですし。これまで、遠くから智也さんを見ていたとき、智也さんはいつも優しい表情をされていました。たまに見せる笑顔にずっと惹かれているんです。そして今、智也さんの優しさにも惹かれました」
「僕は普通に過ごしていただけなんだけれどね。でも、思い返せば周りの人がイライラしないようにとか、気持ちよく過ごせるようにとかそういうことを考えて過ごしていたのかもしれないね」
口にする言葉の選択や表情など色々なことを。普段はあまり意識していないけれど、僕は周りの人に気を遣い続けていたのかもしれないな。それが美来には「優しさ」であると思えたのだろう。
「あの、智也さん。一つお願いしてもいいですか?」
「何かな?」
「……私のことを後ろから抱きしめてくれますか? さっき、智也さんにマッサージをしたときと同じように」
「分かりました、お嬢様」
「お、お嬢様……それもいいですけど、私は智也さんの奥様になるのが希望です」
それはちゃんと分かっているよ。10年前と一昨日にプロポーズされたからね。
僕は後ろから美来のことを抱きしめる。今の互いの姿勢からか、美来の柔らかな髪がちょうど僕の首筋に触れる。
「どう? 美来」
「普通に抱きしめられるのもいいですけど、こうして後ろから抱きしめられるのって意外と気持ちいいんですね。智也さんに包まれている感じがして、とても安心できます」
「そっか」
僕の場合は、美来の胸が当たっていることに意識が集中してしまっていたけれど。
「……智也さん、いいんですよ? 両手を私の胸に持っていっても」
「何を言っているんだ。そんなこと、今の僕にはできないよ」
そんな度胸は僕にはないし、そもそもするつもりもない。
「ドキドキしてしまっていますもんね。智也さんの鼓動が背中から伝わってきます。互いに服を着ているのに……相当なんですね」
「当たり前だよ。女子高生を後ろから抱きしめるなんて初めての経験なんだし。そういう美来だって体がとても熱くなってきてるよ」
「……だって、初めてなんですもん。男の方に後ろから抱きしめられるなんて」
お互いに初めてだから緊張しているってことか。まったく、そんな状況なのに僕の手を胸に持ってくるか、なんて言ってくるなんて。茶目っ気があるのか何なのか。
「もう、そろそろマッサージはいいのかな?」
「はい、ありがとうございました。肩の凝りもほとんど取れたのでこれで大丈夫です」
「そっか、良かった」
人の肩を揉むことは慣れていないけれど、美来の肩こりを和らげることができたようで良かった。
「……あと、もう一つお願いしてもいいですか?」
「うん、いいよ。何かな?」
すると、美来は僕の方に振り返る。
「……心の方のマッサージをお願いできますか?」
「心のマッサージ?」
どうやってすればいいんだろう。
ただ、美来の方はマッサージの仕方を知っているのか、顔を赤くして僕のことをチラチラと見ている。ま、まさかとは思うけれど。
「キスをしてほしいんです。昨晩は私からでしたので、今日は智也さんの方から」
やっぱり、キスだったか。しかも、僕からするんだ。自分からするキスと、相手からしてもらう口づけって違うものなんだろうな。
「智也さん、お願いします」
「……うん」
美来は僕の胸に手を当てて、目をそっと閉じる。
恋人同士でもないのに、こんなに可愛い女の子にキスをしていいのだろうか。ただ、昨日の夜は美来の方からキスをしてきたし……こうなったらやるしかない。
余計なことを考えず、僕は美来にそっと口づけをする。
昨日と同じように美来の唇はとても柔らかくて、温かい。何とも言えない感覚にどんどん包み込まれていく。
「智也さん……」
美来は僕の名前を呟くと、美来は両手を僕の背中に回してきた。僕の口の中に美来の舌が入り込んできた。
「美来、それは……」
ダメだと言おうとしたけれど言えなかった。こんなにも僕のことを好きでいる美来のことを突き放してしまうような気がしたから。
結局、昨日の夜と同じく、僕はキスを美来に任せる形に。それにしても、昨日のキスよりも熱くて、激しい。
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「……心がとってもほぐれた気がします。やっぱり、智也さんとキスをすると幸せな気分になれますね」
「じゃあ、心のマッサージはちゃんとできていたんだね」
「……はい」
すると、美来は僕の胸に頭を埋める。
「私が、今日は家にいたいって言ったのは、こうやって智也さんとの2人きりの時間をゆっくりと過ごしたいからだったんです。本当なら、こうして智也さんと触れられる距離にずっといたいです」
10年間、僕のことを影で見守りながらも、会うことはできなかった。だからこそ、こうして僕と一緒にいる時間をより濃くしていきたいんだろう。
「ちょっとだけでもいいので、このまま智也さんに触れていていいですか?」
「もちろんだよ」
「ありがとうございます。今日はメイドとして、智也さんに色々とご奉仕するつもりだったのに、我が儘ばかり言ってしまっています。本当に悪いメイドですね」
「僕は美来がいるだけでとても癒やされているし、楽しい休日が送ることができているよ。だから、気負う必要はないって」
多分、美来がいなかったら、明日から仕事だとか思って気持ちが落ち始めている時間帯だから。今はそういうことは全然ない。
「……優しいご主人様です」
美来は嬉しそうに笑い、僕のことをぎゅっと抱きしめてきた。そんな彼女の頭を優しく撫でる。
美来と再会してから、およそ2日。ようやく気持ちが落ち着いてきた。
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