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本編-ARIA-
第11話『マッサージ-前編-』
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さて、今日は家でゆっくりするということになったけれど、何をしようか。とりあえず、朝ご飯の後片付けをしてくれている美来の後ろ姿を見ようかな。アパートの一室で皿洗いをするメイドさん……やっぱりシュールだ。
「これで後片付けも終わりですね」
「ありがとう。まずはゆっくり休もうか」
「いえいえ、そういうわけにはいきません! 私は智也さんにご奉仕する立場なので」
もしかして、美来がメイド服を着ているのって、外に出ないだけじゃなくて、僕に奉仕するための意思表示でもあったのか。
「智也さん、私に何かしてほしいことはありますか?」
「そ、そうだね……」
美来にしてほしいことか。特にないんだけれど、やる気に満ちている表情で見つめられてしまったら、何も頼まないわけにはいかない。
「ええと、じゃあ……コーヒーを淹れてくれるかな」
「はい! 砂糖やクリームは入れますか?」
「ううん、ブラックでいいよ。美来、コーヒー豆とかがある場所は分かる?」
「大丈夫です。今朝、智也さんが起きるまでの間に、大体のものの場所は把握しておきましたから」
「……そうなんだ」
僕の寝ている間に確認していたのか。見られてまずい場所が全くなくて良かった。恋人同士ではないけれど、もう同棲しているような感じだな。
美来はコーヒーを作って僕のところに持ってきてくれる。ちゃんと自分が飲む紅茶も淹れているところが可愛らしい。
「美来は紅茶か」
「紅茶が大好きですから。ただ、智也さんがコーヒーを飲めと言うのであれば、今すぐにでもコーヒーを飲みますけど。……智也さんの」
昨日のことがあったからなのか、僕が口を付けたコーヒーを飲みたいようだ。好きになると、その人の口を付けた飲み物を飲みたくなるものなの……か?
僕はコーヒーを一口飲む。心なしか僕が淹れたコーヒーよりも美味しい。
「美味しいですか?」
「うん、美味しいよ」
美来は僕の隣で紅茶を飲む。そんな彼女の姿を見て、ふと、50年後くらいには一緒に緑茶でもすすっているのだろうかと思った。
「50年後くらいには一緒に日本茶を飲んでいるんでしょうかね」
「僕と同じことを考えるなんて……」
エスパーだな。それとも、美来が頭に付けているカチューシャで僕の心の中を読んでいたりして。そんなことはないか。
「私は智也さんのことを愛していますから。智也さんの考えていることは……分かるときもあります」
「そこは控え目に言うんだね」
美来のことだから、何でも分かっちゃいますって言うかと思った。
「全てを知りたい気持ちもちょっとありますけど、智也さんの心を全て知ってしまったら、それはつまらないような気がして」
「……哲学だね」
僕なんて今までそういうことを全然考えたことがなかった。そこまで多く人付き合いをしないからなのかな。
「智也さん、次に何かしてほしいことはありますか?」
「そうだね……」
ご奉仕したいっていう美来のメイドモードは継続中なのか。何かしようとしてくれなくていいんだけれど、美来のメイド服姿は……もうちょっと見ておきたい。
「じゃあ、マッサージをしてもらっていいかな。社会人になってから肩こりが酷くなって、自分でストレッチもやっているんだけど、なかなか取れなくて……」
誰かに肩を揉んでもらう方がいいだろう。ちょうどいい機会だ。美来にマッサージをしてもらおう。
すると、頼まれて嬉しいのか、美来はやる気に満ちた表情に。
「任せてください! マッサージは得意ですよ」
「うん、お願いするよ」
良かった。もしかしたら、これで酷い肩こりから脱出できるかもしれない。
「以前にお父さんとお母さんにマッサージをしたら、肩の筋肉がとろけるくらいにほぐれたと褒められましたから!」
「えっ? そ、そうなんだ……」
とろけるくらいにほぐれるってどういうことなんだ。急に不安になってきたぞ。肩が外れちゃうなんてことはないよね?
「じゃあ、失礼しますね」
「お、お願いします……」
こうなったら、実際にマッサージを受けるほかはない。
「えいっ!」
「おおっ!」
背後から、美来に両肩を揉まれる。おっ、これは気持ちいいなぁ。
「うわあっ、智也さんの言うとおり、肩こりが酷いですね」
「仕事でパソコンに向き合い続けている人間なら誰もが通る道なんだよ、たぶん。美来もパソコンをたくさん使っているなら、休憩をたまに挟んだ方がいいよ」
「そうなんですね。気をつけます」
こういうことを年下の子にアドバイスするときが来るなんて。歳を取ったんだなぁと実感する。学生のときも、情報科学系の学部だったので、パソコンに向かっている時間は長かったんだけれど、こんなに肩こりが酷くなってしまうことはなかった。
「上手だね。凄く気持ちいいよ」
「そうですか。すぐにとろけさせちゃいますからね」
とろけさせられちゃうことは凄く恐いけれど。
ただ、美来の手つきと力の入れ具合がいいからかとても気持ちいい。自分でストレッチするときには味わえない気持ちよさだ。
「あぁ、気持ちいい。……そういえば、美来は肩が凝る方なのかな」
僕がそう問いかけると、僕の肩を揉む手つきが急に止まる。
「肩、しょっちゅう凝りますよ」
美来は僕のことを後ろから抱きしめてくる。背中に当たっているこの2つの物体は……もしや。
「この大きな胸のせいで。いつも肩が凝ってしまうんですねぇ」
耳元でそう囁かれる。その際に温かな吐息がかかってくすぐったい。
「普段はお母さんや妹に肩を揉んでもらうんですけど、今日は智也さんに揉んでもらおうかなぁ。智也さんがご希望ならこっちの方も……」
美来は大きな胸を更に押しつけてくる。何というプレイなんだ。18歳以上だけが観てもOKな動画にありそうな感じのこの展開は。
「……後で肩だけ揉むよ」
胸まで揉んでしまったら、昨晩の口づけ以上に美来に変なことをしてしまう危険なトリガーになるかもしれない。
「ふふっ、では、後で肩もみをお願いしますね」
美来は再び僕の肩を揉み始めた。さっきまでリラックスできていたのに、この後……美来の肩を揉まないといけないと思うと緊張してくる。
「智也さん、体の力を抜いてください」
「……うん」
そうだ、落ち着くんだ。深呼吸をするんだ。すー、はー。すー。はー。
「おそらく、仕事だと体の力を抜けることができる場面があまりないんでしょうね」
「社会人になって2年目だからね。緊張する場面は多いよ」
「そうなんですね。せめても、今日のように休日は体の力を抜いてリラックスしてください。それが肩こり解消の何よりの近道だと思いますよ」
「そうだね」
美来のようなとても優しい女の子が職場にいたらどれだけいいことか。最も歳が近い有紗さんも優しいけれど、厳しいときも時折あって。それは社会人としてあるべき姿なんだろうけれど。ただ、それは職場だけで、それ以外の場面では今の美来のような感じになるのかも。社員旅行のときはどうだったかなぁ。
「体の力が抜けてきていますね。いいですよ」
「いやぁ、本当に気持ちいいよ。これだけでも普段の日曜日よりもいい一日を過ごしている感じがする」
「ふふっ、大げさですね。でも、私も……先週までと比べて、今日の方がずっと楽しい日曜日です」
すると、美来はまた僕のことを抱きしめてきた。ずっと会いたかった人と一緒に過ごしているんだからそりゃ楽しいよなぁ。
それから少しの間、僕は肩もみという気持ちのいい時間を味わうのであった。
「これで後片付けも終わりですね」
「ありがとう。まずはゆっくり休もうか」
「いえいえ、そういうわけにはいきません! 私は智也さんにご奉仕する立場なので」
もしかして、美来がメイド服を着ているのって、外に出ないだけじゃなくて、僕に奉仕するための意思表示でもあったのか。
「智也さん、私に何かしてほしいことはありますか?」
「そ、そうだね……」
美来にしてほしいことか。特にないんだけれど、やる気に満ちている表情で見つめられてしまったら、何も頼まないわけにはいかない。
「ええと、じゃあ……コーヒーを淹れてくれるかな」
「はい! 砂糖やクリームは入れますか?」
「ううん、ブラックでいいよ。美来、コーヒー豆とかがある場所は分かる?」
「大丈夫です。今朝、智也さんが起きるまでの間に、大体のものの場所は把握しておきましたから」
「……そうなんだ」
僕の寝ている間に確認していたのか。見られてまずい場所が全くなくて良かった。恋人同士ではないけれど、もう同棲しているような感じだな。
美来はコーヒーを作って僕のところに持ってきてくれる。ちゃんと自分が飲む紅茶も淹れているところが可愛らしい。
「美来は紅茶か」
「紅茶が大好きですから。ただ、智也さんがコーヒーを飲めと言うのであれば、今すぐにでもコーヒーを飲みますけど。……智也さんの」
昨日のことがあったからなのか、僕が口を付けたコーヒーを飲みたいようだ。好きになると、その人の口を付けた飲み物を飲みたくなるものなの……か?
僕はコーヒーを一口飲む。心なしか僕が淹れたコーヒーよりも美味しい。
「美味しいですか?」
「うん、美味しいよ」
美来は僕の隣で紅茶を飲む。そんな彼女の姿を見て、ふと、50年後くらいには一緒に緑茶でもすすっているのだろうかと思った。
「50年後くらいには一緒に日本茶を飲んでいるんでしょうかね」
「僕と同じことを考えるなんて……」
エスパーだな。それとも、美来が頭に付けているカチューシャで僕の心の中を読んでいたりして。そんなことはないか。
「私は智也さんのことを愛していますから。智也さんの考えていることは……分かるときもあります」
「そこは控え目に言うんだね」
美来のことだから、何でも分かっちゃいますって言うかと思った。
「全てを知りたい気持ちもちょっとありますけど、智也さんの心を全て知ってしまったら、それはつまらないような気がして」
「……哲学だね」
僕なんて今までそういうことを全然考えたことがなかった。そこまで多く人付き合いをしないからなのかな。
「智也さん、次に何かしてほしいことはありますか?」
「そうだね……」
ご奉仕したいっていう美来のメイドモードは継続中なのか。何かしようとしてくれなくていいんだけれど、美来のメイド服姿は……もうちょっと見ておきたい。
「じゃあ、マッサージをしてもらっていいかな。社会人になってから肩こりが酷くなって、自分でストレッチもやっているんだけど、なかなか取れなくて……」
誰かに肩を揉んでもらう方がいいだろう。ちょうどいい機会だ。美来にマッサージをしてもらおう。
すると、頼まれて嬉しいのか、美来はやる気に満ちた表情に。
「任せてください! マッサージは得意ですよ」
「うん、お願いするよ」
良かった。もしかしたら、これで酷い肩こりから脱出できるかもしれない。
「以前にお父さんとお母さんにマッサージをしたら、肩の筋肉がとろけるくらいにほぐれたと褒められましたから!」
「えっ? そ、そうなんだ……」
とろけるくらいにほぐれるってどういうことなんだ。急に不安になってきたぞ。肩が外れちゃうなんてことはないよね?
「じゃあ、失礼しますね」
「お、お願いします……」
こうなったら、実際にマッサージを受けるほかはない。
「えいっ!」
「おおっ!」
背後から、美来に両肩を揉まれる。おっ、これは気持ちいいなぁ。
「うわあっ、智也さんの言うとおり、肩こりが酷いですね」
「仕事でパソコンに向き合い続けている人間なら誰もが通る道なんだよ、たぶん。美来もパソコンをたくさん使っているなら、休憩をたまに挟んだ方がいいよ」
「そうなんですね。気をつけます」
こういうことを年下の子にアドバイスするときが来るなんて。歳を取ったんだなぁと実感する。学生のときも、情報科学系の学部だったので、パソコンに向かっている時間は長かったんだけれど、こんなに肩こりが酷くなってしまうことはなかった。
「上手だね。凄く気持ちいいよ」
「そうですか。すぐにとろけさせちゃいますからね」
とろけさせられちゃうことは凄く恐いけれど。
ただ、美来の手つきと力の入れ具合がいいからかとても気持ちいい。自分でストレッチするときには味わえない気持ちよさだ。
「あぁ、気持ちいい。……そういえば、美来は肩が凝る方なのかな」
僕がそう問いかけると、僕の肩を揉む手つきが急に止まる。
「肩、しょっちゅう凝りますよ」
美来は僕のことを後ろから抱きしめてくる。背中に当たっているこの2つの物体は……もしや。
「この大きな胸のせいで。いつも肩が凝ってしまうんですねぇ」
耳元でそう囁かれる。その際に温かな吐息がかかってくすぐったい。
「普段はお母さんや妹に肩を揉んでもらうんですけど、今日は智也さんに揉んでもらおうかなぁ。智也さんがご希望ならこっちの方も……」
美来は大きな胸を更に押しつけてくる。何というプレイなんだ。18歳以上だけが観てもOKな動画にありそうな感じのこの展開は。
「……後で肩だけ揉むよ」
胸まで揉んでしまったら、昨晩の口づけ以上に美来に変なことをしてしまう危険なトリガーになるかもしれない。
「ふふっ、では、後で肩もみをお願いしますね」
美来は再び僕の肩を揉み始めた。さっきまでリラックスできていたのに、この後……美来の肩を揉まないといけないと思うと緊張してくる。
「智也さん、体の力を抜いてください」
「……うん」
そうだ、落ち着くんだ。深呼吸をするんだ。すー、はー。すー。はー。
「おそらく、仕事だと体の力を抜けることができる場面があまりないんでしょうね」
「社会人になって2年目だからね。緊張する場面は多いよ」
「そうなんですね。せめても、今日のように休日は体の力を抜いてリラックスしてください。それが肩こり解消の何よりの近道だと思いますよ」
「そうだね」
美来のようなとても優しい女の子が職場にいたらどれだけいいことか。最も歳が近い有紗さんも優しいけれど、厳しいときも時折あって。それは社会人としてあるべき姿なんだろうけれど。ただ、それは職場だけで、それ以外の場面では今の美来のような感じになるのかも。社員旅行のときはどうだったかなぁ。
「体の力が抜けてきていますね。いいですよ」
「いやぁ、本当に気持ちいいよ。これだけでも普段の日曜日よりもいい一日を過ごしている感じがする」
「ふふっ、大げさですね。でも、私も……先週までと比べて、今日の方がずっと楽しい日曜日です」
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