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本編-ARIA-
第60話『グレー』
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僕と雅治さんは家に帰り、学校での話し合った内容を美来達に伝えた。
クラスで実施されたアンケートには不正、隠蔽、圧力があり、それを組織的に行なっていたこと。いじめの中心人物からは反省の色が見られず、謝罪の言葉はなかったこと。
「何だか学校に裏切られた気分です……」
「許せないよ! いじめを隠す先生達も、お姉ちゃんをいじめた人達も! 謝ることさえもできないなんて……」
詩織ちゃんと結菜ちゃんは怒りを露わにしていた。特に詩織ちゃんの方は知っている人達がそういう態度を取っただけに、ショックが大きそうだ。
「マスコミやホームページで公表するってことは、情報を探ってきた記者の方が家に来る可能性もありそうね……」
「かもしれないな。俺がいるときはなるべく俺が対応するけど、仕事でいないときは母さんが対応を頼む。もちろん、話したくないときは断っていい」
「うん、分かった。でも、想像以上に学校側がクラスのいじめを隠蔽したがっていたのね。どうしてなのかしら? 声楽部の方はあっさりと認めたのに……」
「そこら辺の理由は分かりませんでしたね。ただ、声楽部の方でいじめが判明してしまったので、それを利用してクラスでのいじめをなかったことにしようとしていたようです。あとは、後藤さんが非常に面倒くさがり、昇給や昇進に響くと言っていました」
おそらく、後藤さん、阿久津さん、松坂さんあたりがいじめの隠蔽をした中心人物だと思って間違いないだろう。この3人には……懲戒解雇ぐらいの厳しい処分を受けてもらわないといけないな。
「まったく、そういう人が教師をしているなんて。……ごめんね、詩織ちゃんの担任なのにこんなこと言っちゃって」
「いえ、気にしないでください。私も後藤先生のことが段々と信じられなくなってきていますので……」
美来と詩織ちゃんが話を聞きたいと言ってきたので包み隠さず話したけど、やっぱり酷だったかな。詩織ちゃんはまだしも、当の本人である美来は……かなり辛いだろう。美来は詩織ちゃんの手を強く掴みながら俯いている。
「美来、大丈夫? 辛かったら部屋でゆっくりしていていいんだよ」
「……大丈夫です。ただ、今の話を聞いていると、月が丘高校から追い出されてしまったような感じがします」
「美来……」
「詩織ちゃんのような大好きな友達もいます。片倉先生のような信頼できる先生もいます。声楽部も好き……でした。でも、今の話を聞いていると、いじめを隠蔽するために、私を追い出したいのが月が丘高校の総意に思えてしまいます。月が丘高校にまた通いたいかどうかと言われると正直……微妙なところです」
「……そうか。それは大切なことだから、ゆっくりと考えるといいよ」
「……はい」
詩織ちゃんや片倉さんのように、美来のために一生懸命動いてくれる人がいるから、月が丘高校への気持ちが残っているけど……今回の学校側の態度を考えたら、月が丘高校への信頼は相当薄いものになるだろう。
「これから、詩織ちゃんも気をつけた方がいい。もしかしたら、学校側は証拠を掴んだ生徒を君だと割り出して、何かしてくるかもしれないから。何かあったらすぐに逃げて、僕達に伝えてくれるかな」
「分かっています。アンケートを回答したときから、学校側から何か訊かれるんじゃないかとは思っていますので……」
「そうか、分かった」
これで、ひとまず言うべきことは言えたかな。後で有紗さんや明美ちゃんにはメッセージを送っておこう。
「明日は一緒にいてくれるが、月曜日からは氷室君には仕事に戻ってもらうことにする。これ以上、氷室君の有休をこのことで消化させるわけにはいかないからな」
「そう、なんですか? 智也さん……」
「うん。ずっと美来と一緒にいたいけれど、僕にも休める日数が限られているからね。それに、今日のことでひとまずの区切りはついたと思う。もちろん、何かあったら駆けつけるつもりだから」
いくらでも会社を休んでいいなら、ずっと美来の側にいてあげたいけれど。実際にはあまり日数がない有休を消費している。残り10日あるかどうか。
すると、美来は僕のことをぎゅっと抱きしめてきた。
「……寂しいです。ずっと側にいてください」
「うん。日曜日までは一緒にいることができるから」
美来の頭を優しく撫でる。日曜日までに、美来の寂しい気持ちを少しでも無くすことができればいいな。そして、今後、何事もないことを祈るばかりだ。
夜の間に、私立月が丘高等学校のホームページに、今回のいじめの件についての内容が掲載された。もちろん、一部の職員がいじめの事実を隠蔽しようとしたことも。
翌朝にはマスコミを通じて大々的に報道された。もちろん、美来や佐相さんなど生徒の名前は伏せてあるけども。これまでに僕達が明らかにしていった内容がしっかりと報道されていた。
『きちんといじめの事実確認を進めていく。包み隠さず報告する』
『生徒や職員の処分を検討していく。内容によっては法的措置もあり得る』
という旨の言葉が何度もテロップで出ていた。これで、きちんとクラスでのいじめの調査が行なわれ、解決へ向かうことを願おう。
*****
氷室智也。
あの男さえいなければ、計画は全て上手くいったはずなのに。あの男を絶対に許すわけにはいかない。当然の罰を受けるべきなんだ。
近いうちに、あの男を奈落の底に突き落としてやる。
自分の計画を破滅させた男を必ず破滅させてやるからな――。
クラスで実施されたアンケートには不正、隠蔽、圧力があり、それを組織的に行なっていたこと。いじめの中心人物からは反省の色が見られず、謝罪の言葉はなかったこと。
「何だか学校に裏切られた気分です……」
「許せないよ! いじめを隠す先生達も、お姉ちゃんをいじめた人達も! 謝ることさえもできないなんて……」
詩織ちゃんと結菜ちゃんは怒りを露わにしていた。特に詩織ちゃんの方は知っている人達がそういう態度を取っただけに、ショックが大きそうだ。
「マスコミやホームページで公表するってことは、情報を探ってきた記者の方が家に来る可能性もありそうね……」
「かもしれないな。俺がいるときはなるべく俺が対応するけど、仕事でいないときは母さんが対応を頼む。もちろん、話したくないときは断っていい」
「うん、分かった。でも、想像以上に学校側がクラスのいじめを隠蔽したがっていたのね。どうしてなのかしら? 声楽部の方はあっさりと認めたのに……」
「そこら辺の理由は分かりませんでしたね。ただ、声楽部の方でいじめが判明してしまったので、それを利用してクラスでのいじめをなかったことにしようとしていたようです。あとは、後藤さんが非常に面倒くさがり、昇給や昇進に響くと言っていました」
おそらく、後藤さん、阿久津さん、松坂さんあたりがいじめの隠蔽をした中心人物だと思って間違いないだろう。この3人には……懲戒解雇ぐらいの厳しい処分を受けてもらわないといけないな。
「まったく、そういう人が教師をしているなんて。……ごめんね、詩織ちゃんの担任なのにこんなこと言っちゃって」
「いえ、気にしないでください。私も後藤先生のことが段々と信じられなくなってきていますので……」
美来と詩織ちゃんが話を聞きたいと言ってきたので包み隠さず話したけど、やっぱり酷だったかな。詩織ちゃんはまだしも、当の本人である美来は……かなり辛いだろう。美来は詩織ちゃんの手を強く掴みながら俯いている。
「美来、大丈夫? 辛かったら部屋でゆっくりしていていいんだよ」
「……大丈夫です。ただ、今の話を聞いていると、月が丘高校から追い出されてしまったような感じがします」
「美来……」
「詩織ちゃんのような大好きな友達もいます。片倉先生のような信頼できる先生もいます。声楽部も好き……でした。でも、今の話を聞いていると、いじめを隠蔽するために、私を追い出したいのが月が丘高校の総意に思えてしまいます。月が丘高校にまた通いたいかどうかと言われると正直……微妙なところです」
「……そうか。それは大切なことだから、ゆっくりと考えるといいよ」
「……はい」
詩織ちゃんや片倉さんのように、美来のために一生懸命動いてくれる人がいるから、月が丘高校への気持ちが残っているけど……今回の学校側の態度を考えたら、月が丘高校への信頼は相当薄いものになるだろう。
「これから、詩織ちゃんも気をつけた方がいい。もしかしたら、学校側は証拠を掴んだ生徒を君だと割り出して、何かしてくるかもしれないから。何かあったらすぐに逃げて、僕達に伝えてくれるかな」
「分かっています。アンケートを回答したときから、学校側から何か訊かれるんじゃないかとは思っていますので……」
「そうか、分かった」
これで、ひとまず言うべきことは言えたかな。後で有紗さんや明美ちゃんにはメッセージを送っておこう。
「明日は一緒にいてくれるが、月曜日からは氷室君には仕事に戻ってもらうことにする。これ以上、氷室君の有休をこのことで消化させるわけにはいかないからな」
「そう、なんですか? 智也さん……」
「うん。ずっと美来と一緒にいたいけれど、僕にも休める日数が限られているからね。それに、今日のことでひとまずの区切りはついたと思う。もちろん、何かあったら駆けつけるつもりだから」
いくらでも会社を休んでいいなら、ずっと美来の側にいてあげたいけれど。実際にはあまり日数がない有休を消費している。残り10日あるかどうか。
すると、美来は僕のことをぎゅっと抱きしめてきた。
「……寂しいです。ずっと側にいてください」
「うん。日曜日までは一緒にいることができるから」
美来の頭を優しく撫でる。日曜日までに、美来の寂しい気持ちを少しでも無くすことができればいいな。そして、今後、何事もないことを祈るばかりだ。
夜の間に、私立月が丘高等学校のホームページに、今回のいじめの件についての内容が掲載された。もちろん、一部の職員がいじめの事実を隠蔽しようとしたことも。
翌朝にはマスコミを通じて大々的に報道された。もちろん、美来や佐相さんなど生徒の名前は伏せてあるけども。これまでに僕達が明らかにしていった内容がしっかりと報道されていた。
『きちんといじめの事実確認を進めていく。包み隠さず報告する』
『生徒や職員の処分を検討していく。内容によっては法的措置もあり得る』
という旨の言葉が何度もテロップで出ていた。これで、きちんとクラスでのいじめの調査が行なわれ、解決へ向かうことを願おう。
*****
氷室智也。
あの男さえいなければ、計画は全て上手くいったはずなのに。あの男を絶対に許すわけにはいかない。当然の罰を受けるべきなんだ。
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