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本編-ARIA-
第77話『家宅捜索-後編-』
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――複数人から、諸澄司の目撃証言が取れた。
私もここに遊びに来たときに彼のことを撮影できたぐらいだから、複数人から彼の目撃証言を取れてもおかしくはないか。
「やはり、証言が出てきましたか」
「はい。近所の人や、通行人にアパートの方を見ている青年を見たことはないかと伺い写真を見せたところ、このアパート近辺で彼を見たことがあると」
「そうですか」
「羽賀さんがこの写真を撮ったのが半月以上前もですし、いつ見たのかはっきりと覚えている人はあまりいませんでした。ただ、半月ほど前、つまり5月の中旬頃に彼を見たと証言する人は多かったですね」
なるほど。私も写真のデータに記載されている撮影日時を見て、ようやく日付を思い出し、氷室のおかげで2枚の写真が5月14日前後に撮影されたのだと分かったくらいだ。いつ見たかまではっきりと覚えている人はほぼいないだろうな。
「詳しく話を聞いてみたら、色々な証言が出てきました」
「色々というのは?」
「はい。平日の夕方に制服姿の諸澄君を見たという証言もあれば、休日のお昼前に私服姿の諸澄君を見たという証言もありました。そして、その証言をした人が、諸澄君がスマートフォンをアパートの方に向けていたと言っていたんです」
「なるほど。そのときにこの写真を撮った可能性が高そうですね」
この家に、氷室と美来さんが入る瞬間の写真。氷室も美来さんも私服姿なので、この写真も休日に撮影した可能性が高そうだ。
諸澄司がアパートの方にスマートフォンを向けていた。おそらく、氷室と美来さんが一緒にいる場面を撮影するためだろう。この証言を取れたことは大きいな。状況によっては、上手く使わせてもらおう。
「浅野さん、ありがとうございます。とても重要な証言が取れました」
「いえいえ、捜査ですから。そういえば、羽賀さんの方はどうですか? 何か部屋の中から重要な証拠が見つかったりしましたか?」
「いえ、特に……怪しいものや、逆に氷室が無実であると証明するものは見つかっていません。ただ、この部屋……美来さんと月村さんの部屋にもなっていたようですね」
「そうなんですか」
浅野さんは2人のメイド服のあるクローゼットを開ける。すると、少しの間、じっとしたまま彼女は立ち尽くす。私は何とも思わなかったのだが、女性の目線からだと何か感じることがあるのだろうか。
「氷室さんって、家にメイドさんがいることに憧れるのでしょうかね!」
「……いえ、それは美来さんの趣味らしいですよ。2着あるのは月村さんも着ているからです」
「なるほどです。しかし、この部屋にメイド服を着た女性が2人いるのを想像すると、シュール極まりないというか」
私が遊びに行ったときには、まさにそういう状況だったのだが、特に何とも思わなかったな。女性にメイド服を着させるのが氷室の趣味かもしれないと思っただけで。
「浅野さん、1つお願いがあります」
「何でしょう?」
「ベッドの下にも収納スペースがあるのですが、向かって右側のスペースが美来さんと月村さんの衣服が入っているのです。女性ものですから、浅野さんが確認してくれると有り難いのですが」
「捜査ですから、そこら辺は気にしなくていいと思いますが……分かりました。右側の引き出しですね」
「はい。お願いします」
浅野さんの言うとおり、捜査だと割り切ればいいだけの話なのだろうが、知り合いの女性の衣類が入っている引き出しを物色するという勇気は出なかったのだ。私だけで捜査しているなら、仕方なくやっていたけれども。
浅野さんは右の引き出しを開ける。
「真ん中に仕切りがありますね。貼られているマスキングテープによると、左側が朝比奈さんで右側が月村さんの衣服を入れるようにしてあるのですね。。確かに、引き出しを開けて下着が見えると、羽賀さんがこの中を詳しく見るのを躊躇ってしまうのも分かる気がします」
「浅野さんと一緒なので、浅野さんに調べてもらえればいいかなと」
私がそう言うと、浅野さんはふふっ、と声に出して笑った。
「そうですか。羽賀さん、こういうものを見ても普通に調べるかと思ったのですが、意外とピュアなんですね」
意外とピュアとはどういうことか。いったい、浅野さんはこれまで私にどのようなイメージを持っていたのか。
「どれどれ……」
浅野さんは引き出しの中を物色し始める。左側と真ん中の引き出しには大丈夫だったので、ここにも怪しそうなものはないとは思うが。
「怪しそうなものはありませんね……」
「そうですか」
「月村さんの衣服の下に、男性が付ける避妊具はありましたが」
「……なるほど」
美来さんと月村さんは氷室とキスなどの行為に及んでいた。いつでも、その先のことをしてもいいように用意しておいてあるだろう。
まさかと思って、テレビの側に置かれているゴミ箱を見てみたが、ゴミを出した直後だったからなのか、中は空だった。事前にゴミ箱から何かを押収したという情報は聞いていないので、元々空っぽだったのだろう。
「特に怪しいものありませんね。2人とも、下着のカップが私よりも大きかったくらいで」
「……そうですか」
特に怪しそうな物は見つからなかったか。
ただ、ここに女性ものの衣服やメイド服があったことを、他の警察関係者や世間はどう反応するか。週末は美来さんや月村さんと一緒に過ごしていたという妥当な理由はあるけども。
「週末、氷室は美来さんと月村さんと一緒に過ごしていたと聞いています。それを考えれば怪しいところは特にありませんね」
「そうですね。もう、ここで調べられることはないでしょうかね」
「一通り調べましたからね。ここを調べ続けていても、新たな証拠品は見つからないかと思います。そろそろ、月が丘高校に行ってみましょうか。おそらく、事件の鍵はそっちの方に眠っている可能性が高そうなので」
「分かりました。では、行きましょうか」
美来さんの受けたいじめについて報道はされているが、月が丘高校にはまだ私達の知らない重要な情報が多く眠っていると思われる。
アパートの大家に氷室の部屋の鍵を返して、私と浅野さんは私立月が丘高等学校に向けて出発するのであった。
私もここに遊びに来たときに彼のことを撮影できたぐらいだから、複数人から彼の目撃証言を取れてもおかしくはないか。
「やはり、証言が出てきましたか」
「はい。近所の人や、通行人にアパートの方を見ている青年を見たことはないかと伺い写真を見せたところ、このアパート近辺で彼を見たことがあると」
「そうですか」
「羽賀さんがこの写真を撮ったのが半月以上前もですし、いつ見たのかはっきりと覚えている人はあまりいませんでした。ただ、半月ほど前、つまり5月の中旬頃に彼を見たと証言する人は多かったですね」
なるほど。私も写真のデータに記載されている撮影日時を見て、ようやく日付を思い出し、氷室のおかげで2枚の写真が5月14日前後に撮影されたのだと分かったくらいだ。いつ見たかまではっきりと覚えている人はほぼいないだろうな。
「詳しく話を聞いてみたら、色々な証言が出てきました」
「色々というのは?」
「はい。平日の夕方に制服姿の諸澄君を見たという証言もあれば、休日のお昼前に私服姿の諸澄君を見たという証言もありました。そして、その証言をした人が、諸澄君がスマートフォンをアパートの方に向けていたと言っていたんです」
「なるほど。そのときにこの写真を撮った可能性が高そうですね」
この家に、氷室と美来さんが入る瞬間の写真。氷室も美来さんも私服姿なので、この写真も休日に撮影した可能性が高そうだ。
諸澄司がアパートの方にスマートフォンを向けていた。おそらく、氷室と美来さんが一緒にいる場面を撮影するためだろう。この証言を取れたことは大きいな。状況によっては、上手く使わせてもらおう。
「浅野さん、ありがとうございます。とても重要な証言が取れました」
「いえいえ、捜査ですから。そういえば、羽賀さんの方はどうですか? 何か部屋の中から重要な証拠が見つかったりしましたか?」
「いえ、特に……怪しいものや、逆に氷室が無実であると証明するものは見つかっていません。ただ、この部屋……美来さんと月村さんの部屋にもなっていたようですね」
「そうなんですか」
浅野さんは2人のメイド服のあるクローゼットを開ける。すると、少しの間、じっとしたまま彼女は立ち尽くす。私は何とも思わなかったのだが、女性の目線からだと何か感じることがあるのだろうか。
「氷室さんって、家にメイドさんがいることに憧れるのでしょうかね!」
「……いえ、それは美来さんの趣味らしいですよ。2着あるのは月村さんも着ているからです」
「なるほどです。しかし、この部屋にメイド服を着た女性が2人いるのを想像すると、シュール極まりないというか」
私が遊びに行ったときには、まさにそういう状況だったのだが、特に何とも思わなかったな。女性にメイド服を着させるのが氷室の趣味かもしれないと思っただけで。
「浅野さん、1つお願いがあります」
「何でしょう?」
「ベッドの下にも収納スペースがあるのですが、向かって右側のスペースが美来さんと月村さんの衣服が入っているのです。女性ものですから、浅野さんが確認してくれると有り難いのですが」
「捜査ですから、そこら辺は気にしなくていいと思いますが……分かりました。右側の引き出しですね」
「はい。お願いします」
浅野さんの言うとおり、捜査だと割り切ればいいだけの話なのだろうが、知り合いの女性の衣類が入っている引き出しを物色するという勇気は出なかったのだ。私だけで捜査しているなら、仕方なくやっていたけれども。
浅野さんは右の引き出しを開ける。
「真ん中に仕切りがありますね。貼られているマスキングテープによると、左側が朝比奈さんで右側が月村さんの衣服を入れるようにしてあるのですね。。確かに、引き出しを開けて下着が見えると、羽賀さんがこの中を詳しく見るのを躊躇ってしまうのも分かる気がします」
「浅野さんと一緒なので、浅野さんに調べてもらえればいいかなと」
私がそう言うと、浅野さんはふふっ、と声に出して笑った。
「そうですか。羽賀さん、こういうものを見ても普通に調べるかと思ったのですが、意外とピュアなんですね」
意外とピュアとはどういうことか。いったい、浅野さんはこれまで私にどのようなイメージを持っていたのか。
「どれどれ……」
浅野さんは引き出しの中を物色し始める。左側と真ん中の引き出しには大丈夫だったので、ここにも怪しそうなものはないとは思うが。
「怪しそうなものはありませんね……」
「そうですか」
「月村さんの衣服の下に、男性が付ける避妊具はありましたが」
「……なるほど」
美来さんと月村さんは氷室とキスなどの行為に及んでいた。いつでも、その先のことをしてもいいように用意しておいてあるだろう。
まさかと思って、テレビの側に置かれているゴミ箱を見てみたが、ゴミを出した直後だったからなのか、中は空だった。事前にゴミ箱から何かを押収したという情報は聞いていないので、元々空っぽだったのだろう。
「特に怪しいものありませんね。2人とも、下着のカップが私よりも大きかったくらいで」
「……そうですか」
特に怪しそうな物は見つからなかったか。
ただ、ここに女性ものの衣服やメイド服があったことを、他の警察関係者や世間はどう反応するか。週末は美来さんや月村さんと一緒に過ごしていたという妥当な理由はあるけども。
「週末、氷室は美来さんと月村さんと一緒に過ごしていたと聞いています。それを考えれば怪しいところは特にありませんね」
「そうですね。もう、ここで調べられることはないでしょうかね」
「一通り調べましたからね。ここを調べ続けていても、新たな証拠品は見つからないかと思います。そろそろ、月が丘高校に行ってみましょうか。おそらく、事件の鍵はそっちの方に眠っている可能性が高そうなので」
「分かりました。では、行きましょうか」
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