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本編-ARIA-
第123話『変わらない時間』
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7月1日、金曜日。
本来は今日から株式会社SKTTの社員となるけど、勝沼さんのご厚意によって特別休暇ということで今日はお休み。
「夢のようだな……」
てっきり、転職活動をしていくけど、逮捕されたことが影響して採用試験にたくさん落ちると思っていたのに。まさか、かつて携わっていた業務のお客さん企業から声を掛けてもらい、あっさりと転職が決まるなんて。しかも、その企業は国内トップレベル。
ドッキリかと思うときもあったけれどそんなことはなく、入社するに当たっての資料が色々と届いた。念のために、勝沼さんに事前に勉強しておくことはないかと訊いたけれど、特にその必要はなく入社まで1週間もないのでゆっくり休んでほしいと言われた。有り難いなぁ。
今日もゆっくりと休み、午後4時半。
――ピンポーン。
インターホンが鳴る。誰かな? まだ事件が起きてから1ヶ月ぐらいしか経っていないので、マスコミ関係者でなければいいんだけれど。退職が決まった後でも、たまに家までマスコミが来るから迷惑をしている。悲劇の人間として取り上げて、視聴率を稼いだり、新聞や雑誌の売上を伸ばしたりしたいのだろうか。
「はい」
玄関の扉を開けると、そこには天羽女子高校の制服を着た美来がいた。
「智也さん、ただいまです」
「……おかえり」
ここで美来と一緒に住んでいるわけじゃないけど、美来にとってはここも自宅のような感覚なんだろう。ただいまと言いたくなる気持ちも分かる。
「インターホンで鳴らさなくても、鍵を持っているんだから、鍵を開けて入ってきてくれていいんだよ」
僕がそう言うと、美来はちょっと顔を赤くする。
「智也さんがビックリするといけないと思いまして。その……もしかしたら、え、えっちな動画を観て、女性を私と重ねて妄想しているかもしれないじゃないですか」
「……僕はそういうものを観ないから、そういう気遣いはしなくて大丈夫だよ」
美来とは定期的に……夫婦の営み的行為をしているれど、そういう類の動画は観る気にはならないな。
「そういえば、美来……天羽女子の制服も似合うね」
「ありがとうございます」
月が丘高校の制服姿も可愛かったけど、天羽女子高校の制服姿もなかなか。まあ、美来自体がとても可愛いからな。大抵の制服は似合うと思う。
「まだ4時半だけれど、今日は声楽部の活動がないのかな?」
月曜日に声楽部に入部したってメッセージは来たけど。
「来週に1学期の期末考査があるんです。今は大会が迫っている部活以外は、どの部活も活動することが禁止となっているんです」
「ああ、なるほど……」
今日から7月だし、僕の卒業した高校もこの時期に期末試験があったな。長期休暇前の一つの壁だった。
「何だか大変なときに転入しちゃったね。ただ、美来は転入したばかりだから、学校側も色々と便宜を図ってくれるとは思うけど」
「はい。一応、私も期末考査を受けることにはなっていて。私の場合は転校したばかりなので、赤点になってしまったとしても特別な課題を提出したり、夏休み中の補講受けたりすれば大丈夫だそうです」
「それなら良かった」
「声楽部の先輩に過去問をいただいたのですが、どの教科も結構できました。月が丘で通っていたときに習っていた内容が大半でしたし、転入するまでに勉強しておいて良かったです。そのおかげで、月が丘では習っていない教科についてもそれなりに解けたので」
「……さすがだなぁ」
調べたけど、天羽女子もそれなりに偏差値の高い高校だ。そんな高校の期末試験の過去問を普通に解けるのだから、美来の元々の学力が凄いんだろうな。
「来週の期末試験、頑張ってね。土日は僕の部屋で試験勉強をしてもいいから。何の教科があるかは分からないけど、数学と英語と物理と情報なら教られると思うから」
むしろ、それ以外はまともに教えられる自信がない。せいぜい、現代文と日本史の明治以降くらいだろうか。
「分かりました。ありがとうございます。智也さんも来週からお仕事が始まるんですよね。頑張ってください」
「ありがとう。頑張るよ」
「さてと、メイド服に着替えましょうか。智也さんの家ではあのメイド服を着ないと落ち着かなくて……」
「そっか。分かった」
今の一言を知らない人が聞いたら、僕が変な趣味を持っているように思われそうだな。そんな僕も、ここに美来がいるときは彼女がメイド服姿じゃないと何かあったのか、って思うようになってしまったけど。
美来はさっそくいつものメイド服に着替えて、僕にコーヒーを淹れてくれた。美来は相変わらず紅茶だ。
「やっぱり、メイド服を着て紅茶を飲むと落ち着きます」
「そんな美来の側でコーヒーを飲むことに僕も落ち着いちゃったよ」
「ふふっ、そうですか。もし、智也さんが着てほしいと言うのであれば、結婚式のときもメイド服を着ますよ?」
「そこはウェディングドレスを着てほしいな……」
美来のメイド服姿も好きだけど、それは自宅での制服というか。大事な結婚式のときはウェディングドレスを着てほしいよ。できれば純白の。
「しかし、僕も美来も新しい生活が始まるけど、こうやって今までと変わらない時間を過ごせて良かった」
「そうですね。本当に……毎日が幸せです」
「美来がそう思ってくれて安心したよ。天羽女子に転校して1週間経ったけど、ようやく学校生活にも慣れ始めてきたって感じなのかな」
「はい。さっそくお友達もできました。女子校っていうのもいいですね。女の子同士で付き合っている方もいるんですって。去年、インターハイで陸上競技3種目3連覇した原田絢さんっていうOGの方も、同級生の女の子とラブラブだそうです」
「へえ……そうなんだね」
なるほど、女子校はガールズラブの宝庫なのか。漫画で百合ものを読んだことはあるけれど、実際にもあるんだな。美来の口から出た原田絢っていう女の子はかっこいいから、王子様的な存在で女子から人気があったのかもしれない。
「私、さっそく告白されてしまいました。女の子から。もちろん、智也さんという婚約者がいますのでお断りましたが」
「そっか。まあ、美来は可愛いからね。一目惚れしたのかな」
天羽女子高校でもさっそく告白を経験したのか。もちろん、僕という婚約者がいるから断っているんだろうけれど、それが発端でまたいじめられることがないのを祈る。
「美来。僕の力が必要なときにはいつでも言ってきてね。何なら、前のときみたいに学校に行ってもいいよ」
それに、女子校にはこれまでの人生で一度も行ったことがないので、どんな雰囲気なのかちょっと味わってみたい。
「……分かりました。でも、女子校の雰囲気を味わいたいなら、文化祭が秋にあるとのことなので、そのときにたっぷりと味わってください」
「分かった」
僕の心が読まれてしまっていたか。
この後も美来とこの前行った旅行のことなどについて話した。時々、キスしながら。
陽が傾き始めたところで美来が夕食を作り始めた。その時間帯に有紗さんからメッセージが届き、定時に上がれたので午後7時過ぎに僕の家に来ることができるとのこと。
「有紗さん、来ることができるみたいですね」
「うん、そうだね」
どうやら、今夜は有紗さんと3人でゆっくりと過ごせそうだ。いつもの週末になりそう。
午後7時半。有紗さんが僕の家にやってきた。
「ごめんね、遅くなっちゃって。コンビニで何のスイーツを買おうか迷っちゃったの。抹茶のロールケーキを買ってきたから」
「そうですか。ありがとうございます。僕、抹茶が好きなんですよ。嬉しいなぁ」
「ふふっ」
「智也さん、有紗さん。もう少しで夕飯ができますよ」
僕は3人で美来の作ってくれたハンバーグを食べる。本当に美味しいな。
「それにしても、智也君がSKTTの社員か。しかも、採用試験を受けるんじゃなくて、お呼れされるなんて。実質的な引き抜きじゃない。本当に凄いよ」
「ありがとうございます。まさか、こういう形で次の就職先が決まるとは思いませんでした。勝沼さんのいる部署に配属されますから、SKTTの立場から有紗さんと一緒に仕事ができるかもしれませんね」
「……そうなると一番いいよね」
そこはもちろんSKTTさんが決めることなので、月曜日を待つしかない。ただ、事前の勉強をしなくていいと言われたので、今までの案件に携わる可能性が高そうだ。
「僕が退職したことで一つ席が空きましたが、誰か代わりの方は入ったりしましたか?」
「うん。7月が始まったこともあってか、今日から入ったよ。新人さんの秋山景子ちゃん。だから、智也君がいなくなったことの寂しさはちょっと消えたかな」
「そうですか」
秋山景子さん……ああ、4月にあった新人歓迎会のときに話したことがある。茶髪の可愛らしい女の子だったな。有紗さんも秋山さんも、チームのメンバーに歳の近い女性がいるのは心強いだろう。
「それに、来週からは智也君もあの建物のどこかにいるもんね」
「そうですね。もし、また一緒にお仕事をすることになるときは、よろしくお願いします」
「……うん、よろしくね」
有紗さんが手を差し出してきたので、僕は彼女と握手をする。
「智也君は美来ちゃんと結婚することを決めて会社も退職したのに、こうしてここで3人一緒にご飯を食べているのが不思議な気分ね。本当に好きな時間。これからもたまにこういう時間を2人と一緒に過ごしていいの? あたし、2人の邪魔にならない?」
有紗さんは儚げな笑みを浮かべながら僕らにそう問いかける。
「邪魔になるわけないです」
すぐに美来はそう言い切った。
「前も言ったじゃないですか。私は有紗さんとこれからもこういう時間を過ごしたいって」
「僕も美来と一緒です。それに、こういった時間は僕ら3人に必要だと思います。それに僕も3人で過ごす時間も好きなんですよね」
心が落ち着くというか。僕もこれからも3人の時間を過ごしたい。
すると、有紗さんはいつもの可愛らしい笑みを見せてくれる。ただし、目に涙を浮かべながら。
「……そっか。ありがとう」
僕らは色々と変わったけれど、変わらないことも確かに存在する。その1つが今のような時間なのだ。これからも大切にしながら過ごしていこう。
本来は今日から株式会社SKTTの社員となるけど、勝沼さんのご厚意によって特別休暇ということで今日はお休み。
「夢のようだな……」
てっきり、転職活動をしていくけど、逮捕されたことが影響して採用試験にたくさん落ちると思っていたのに。まさか、かつて携わっていた業務のお客さん企業から声を掛けてもらい、あっさりと転職が決まるなんて。しかも、その企業は国内トップレベル。
ドッキリかと思うときもあったけれどそんなことはなく、入社するに当たっての資料が色々と届いた。念のために、勝沼さんに事前に勉強しておくことはないかと訊いたけれど、特にその必要はなく入社まで1週間もないのでゆっくり休んでほしいと言われた。有り難いなぁ。
今日もゆっくりと休み、午後4時半。
――ピンポーン。
インターホンが鳴る。誰かな? まだ事件が起きてから1ヶ月ぐらいしか経っていないので、マスコミ関係者でなければいいんだけれど。退職が決まった後でも、たまに家までマスコミが来るから迷惑をしている。悲劇の人間として取り上げて、視聴率を稼いだり、新聞や雑誌の売上を伸ばしたりしたいのだろうか。
「はい」
玄関の扉を開けると、そこには天羽女子高校の制服を着た美来がいた。
「智也さん、ただいまです」
「……おかえり」
ここで美来と一緒に住んでいるわけじゃないけど、美来にとってはここも自宅のような感覚なんだろう。ただいまと言いたくなる気持ちも分かる。
「インターホンで鳴らさなくても、鍵を持っているんだから、鍵を開けて入ってきてくれていいんだよ」
僕がそう言うと、美来はちょっと顔を赤くする。
「智也さんがビックリするといけないと思いまして。その……もしかしたら、え、えっちな動画を観て、女性を私と重ねて妄想しているかもしれないじゃないですか」
「……僕はそういうものを観ないから、そういう気遣いはしなくて大丈夫だよ」
美来とは定期的に……夫婦の営み的行為をしているれど、そういう類の動画は観る気にはならないな。
「そういえば、美来……天羽女子の制服も似合うね」
「ありがとうございます」
月が丘高校の制服姿も可愛かったけど、天羽女子高校の制服姿もなかなか。まあ、美来自体がとても可愛いからな。大抵の制服は似合うと思う。
「まだ4時半だけれど、今日は声楽部の活動がないのかな?」
月曜日に声楽部に入部したってメッセージは来たけど。
「来週に1学期の期末考査があるんです。今は大会が迫っている部活以外は、どの部活も活動することが禁止となっているんです」
「ああ、なるほど……」
今日から7月だし、僕の卒業した高校もこの時期に期末試験があったな。長期休暇前の一つの壁だった。
「何だか大変なときに転入しちゃったね。ただ、美来は転入したばかりだから、学校側も色々と便宜を図ってくれるとは思うけど」
「はい。一応、私も期末考査を受けることにはなっていて。私の場合は転校したばかりなので、赤点になってしまったとしても特別な課題を提出したり、夏休み中の補講受けたりすれば大丈夫だそうです」
「それなら良かった」
「声楽部の先輩に過去問をいただいたのですが、どの教科も結構できました。月が丘で通っていたときに習っていた内容が大半でしたし、転入するまでに勉強しておいて良かったです。そのおかげで、月が丘では習っていない教科についてもそれなりに解けたので」
「……さすがだなぁ」
調べたけど、天羽女子もそれなりに偏差値の高い高校だ。そんな高校の期末試験の過去問を普通に解けるのだから、美来の元々の学力が凄いんだろうな。
「来週の期末試験、頑張ってね。土日は僕の部屋で試験勉強をしてもいいから。何の教科があるかは分からないけど、数学と英語と物理と情報なら教られると思うから」
むしろ、それ以外はまともに教えられる自信がない。せいぜい、現代文と日本史の明治以降くらいだろうか。
「分かりました。ありがとうございます。智也さんも来週からお仕事が始まるんですよね。頑張ってください」
「ありがとう。頑張るよ」
「さてと、メイド服に着替えましょうか。智也さんの家ではあのメイド服を着ないと落ち着かなくて……」
「そっか。分かった」
今の一言を知らない人が聞いたら、僕が変な趣味を持っているように思われそうだな。そんな僕も、ここに美来がいるときは彼女がメイド服姿じゃないと何かあったのか、って思うようになってしまったけど。
美来はさっそくいつものメイド服に着替えて、僕にコーヒーを淹れてくれた。美来は相変わらず紅茶だ。
「やっぱり、メイド服を着て紅茶を飲むと落ち着きます」
「そんな美来の側でコーヒーを飲むことに僕も落ち着いちゃったよ」
「ふふっ、そうですか。もし、智也さんが着てほしいと言うのであれば、結婚式のときもメイド服を着ますよ?」
「そこはウェディングドレスを着てほしいな……」
美来のメイド服姿も好きだけど、それは自宅での制服というか。大事な結婚式のときはウェディングドレスを着てほしいよ。できれば純白の。
「しかし、僕も美来も新しい生活が始まるけど、こうやって今までと変わらない時間を過ごせて良かった」
「そうですね。本当に……毎日が幸せです」
「美来がそう思ってくれて安心したよ。天羽女子に転校して1週間経ったけど、ようやく学校生活にも慣れ始めてきたって感じなのかな」
「はい。さっそくお友達もできました。女子校っていうのもいいですね。女の子同士で付き合っている方もいるんですって。去年、インターハイで陸上競技3種目3連覇した原田絢さんっていうOGの方も、同級生の女の子とラブラブだそうです」
「へえ……そうなんだね」
なるほど、女子校はガールズラブの宝庫なのか。漫画で百合ものを読んだことはあるけれど、実際にもあるんだな。美来の口から出た原田絢っていう女の子はかっこいいから、王子様的な存在で女子から人気があったのかもしれない。
「私、さっそく告白されてしまいました。女の子から。もちろん、智也さんという婚約者がいますのでお断りましたが」
「そっか。まあ、美来は可愛いからね。一目惚れしたのかな」
天羽女子高校でもさっそく告白を経験したのか。もちろん、僕という婚約者がいるから断っているんだろうけれど、それが発端でまたいじめられることがないのを祈る。
「美来。僕の力が必要なときにはいつでも言ってきてね。何なら、前のときみたいに学校に行ってもいいよ」
それに、女子校にはこれまでの人生で一度も行ったことがないので、どんな雰囲気なのかちょっと味わってみたい。
「……分かりました。でも、女子校の雰囲気を味わいたいなら、文化祭が秋にあるとのことなので、そのときにたっぷりと味わってください」
「分かった」
僕の心が読まれてしまっていたか。
この後も美来とこの前行った旅行のことなどについて話した。時々、キスしながら。
陽が傾き始めたところで美来が夕食を作り始めた。その時間帯に有紗さんからメッセージが届き、定時に上がれたので午後7時過ぎに僕の家に来ることができるとのこと。
「有紗さん、来ることができるみたいですね」
「うん、そうだね」
どうやら、今夜は有紗さんと3人でゆっくりと過ごせそうだ。いつもの週末になりそう。
午後7時半。有紗さんが僕の家にやってきた。
「ごめんね、遅くなっちゃって。コンビニで何のスイーツを買おうか迷っちゃったの。抹茶のロールケーキを買ってきたから」
「そうですか。ありがとうございます。僕、抹茶が好きなんですよ。嬉しいなぁ」
「ふふっ」
「智也さん、有紗さん。もう少しで夕飯ができますよ」
僕は3人で美来の作ってくれたハンバーグを食べる。本当に美味しいな。
「それにしても、智也君がSKTTの社員か。しかも、採用試験を受けるんじゃなくて、お呼れされるなんて。実質的な引き抜きじゃない。本当に凄いよ」
「ありがとうございます。まさか、こういう形で次の就職先が決まるとは思いませんでした。勝沼さんのいる部署に配属されますから、SKTTの立場から有紗さんと一緒に仕事ができるかもしれませんね」
「……そうなると一番いいよね」
そこはもちろんSKTTさんが決めることなので、月曜日を待つしかない。ただ、事前の勉強をしなくていいと言われたので、今までの案件に携わる可能性が高そうだ。
「僕が退職したことで一つ席が空きましたが、誰か代わりの方は入ったりしましたか?」
「うん。7月が始まったこともあってか、今日から入ったよ。新人さんの秋山景子ちゃん。だから、智也君がいなくなったことの寂しさはちょっと消えたかな」
「そうですか」
秋山景子さん……ああ、4月にあった新人歓迎会のときに話したことがある。茶髪の可愛らしい女の子だったな。有紗さんも秋山さんも、チームのメンバーに歳の近い女性がいるのは心強いだろう。
「それに、来週からは智也君もあの建物のどこかにいるもんね」
「そうですね。もし、また一緒にお仕事をすることになるときは、よろしくお願いします」
「……うん、よろしくね」
有紗さんが手を差し出してきたので、僕は彼女と握手をする。
「智也君は美来ちゃんと結婚することを決めて会社も退職したのに、こうしてここで3人一緒にご飯を食べているのが不思議な気分ね。本当に好きな時間。これからもたまにこういう時間を2人と一緒に過ごしていいの? あたし、2人の邪魔にならない?」
有紗さんは儚げな笑みを浮かべながら僕らにそう問いかける。
「邪魔になるわけないです」
すぐに美来はそう言い切った。
「前も言ったじゃないですか。私は有紗さんとこれからもこういう時間を過ごしたいって」
「僕も美来と一緒です。それに、こういった時間は僕ら3人に必要だと思います。それに僕も3人で過ごす時間も好きなんですよね」
心が落ち着くというか。僕もこれからも3人の時間を過ごしたい。
すると、有紗さんはいつもの可愛らしい笑みを見せてくれる。ただし、目に涙を浮かべながら。
「……そっか。ありがとう」
僕らは色々と変わったけれど、変わらないことも確かに存在する。その1つが今のような時間なのだ。これからも大切にしながら過ごしていこう。
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