アリア

桜庭かなめ

文字の大きさ
140 / 292
特別編-浅野狂騒曲-

第4話『女子会-中編-』

しおりを挟む
 とても美味しいカレーを食べることができて満足です。
 今は月村さんと一緒にビールを呑んでいるのですが、彼女はお酒が弱いからなのかちょっと眠そうです。

「いいなぁ、美来ちゃん。智也君と恋人として付き合うことになって、一緒に暮らすことができて……」

 彼女は愚痴をこぼしています。氷室さんと付き合えなかったのは悔しいのですね。だからこそ、朝比奈さんのことが羨ましいと。おそらく、羽賀さんも同じことを思っていると……勝手に妄想しておきましょう。

「たまには、これまでと同じく3人で過ごそうと決めたじゃないですか」
「……ううっ、美来ちゃんは優しいなぁ。聖女のようだよぉ」

 月村さん、酔うと泣き上戸になるのでしょうか。朝比奈さんのことを抱きしめながら感涙していますね。

「氷室さんには申し訳ありませんが、3人で過ごすにはもうちょっと広いお部屋の方が良さそうな気がします」
「好きな人と過ごすなら、このくらいの方がいいんですよ」
「……なるほど」

 お熱いですね、まったく。
 この部屋に3人で過ごすとなると、寝るときは……あぁ、氷室さんと朝比奈さんがベッドで一緒に寝て、月村さんがふとんを敷いて1人で眠るという感じでしょうか。ベッドとふとんが逆の可能性もありますけど。
 氷室さんと朝比奈さんが付き合い始めたのに、月村さんがこの部屋で寝泊まりをすると言うことは相当仲が良いのですね。そんな関係に羽賀さんが羨ましがっていると……勝手に妄想しておきましょう。

「美来ちゃん。何だか眠くなってきちゃった。でも、お家に帰りたくないの。もっと智也君の家にいたいよ……」
「そうですか。有紗さん、とりあえずちょっと寝ましょうか。私が起こしますので安心して眠ってください」
「うん……」

 月村さんはベッドで横になります。すると、程なくして寝息が聞こえ始めました。そんなに眠気に襲われていたのでしょうか。それとも、ベッドがとても気持ちがいいのか。

「智也、くん……」

 えへへっ、と月村さんは楽しそうに笑っています。どうやら、夢の中で氷室さんと楽しく過ごしているのでしょう。しかし、今の笑い方を見た限りでは、月村さんも十分にこちらの世界でやっていけそうな素質があると分かります。

「月村さん、酔うと眠くなってしまうタイプなんですね」
「ええ。初めてお会いしたのは、智也さんと外で2人きりで呑んだときでした。有紗さんの家の最寄り駅になっても眠っていたままだったので、優しい智也さんは彼女のことをここに連れてきたんですよ」
「なるほど……」

 ですから、お酒で酔った月村さんを目の前にしても落ち着いて対処できたと。きっと、初めて会ったときも、月村さんはこうしてベッドで気持ち良さそうに眠っていたんですね。

「有紗さんがここに来てから1ヶ月くらいですが、色々なことがありました。いじめがあって、智也さんが逮捕されて……智也さんと付き合うようになって」
「……激動の1ヶ月でしたね」

 その話は羽賀さんから、氷室さんの事件の捜査のときに聞いていましたけどね。

「しかし、10年ぶりに再会した女の子だとはいえ、いじめが解決するまで一緒にいてくれて、いざというときには学校に乗り込むなんて氷室さんはかなりの漢ですね」

 一見、羽賀さんが攻めで氷室さんが受けというイメージを持ちますけど、実際には氷室さんの方が攻めなんですか! 何というギャップ萌え!

「智也さんは何度も私のことを助けてくれました。その度に智也さんのことが好きになっています。いじめの事実を隠匿しようとした担任に、強い口調で立ち向かい、担任を黙らせたときにはキュンとしてしまいました!」
「確かに、氷室さんって見た目に似合わず堂々としていますよね。拘留中も、佐相警視と渡り歩いていましたし。あのときは羽賀さんが側にいたからかもしれませんが」
「そうだったんですか。羽賀さんは常に落ち着いていますし、そんな親友が近くにいるのは心強いのかもしれません」
「羽賀さんはとてもしっかりされている方ですよ。2歳年下でも、自分の上司であることにも納得がいきます」

 頭が良くて、仕事もできるのが大きな理由ですが、それ故に羽賀さんが自分よりも年上の方のように思えてしまうのです。だから、彼が私の上司であることにもすんなりと受け入れることができたのです。同期の子からは、年下の人が上司だとやりにくくないかと言われますけど、全くそう思いません。

「羽賀さん、かっこいい方ですが、彼女さんはいないらしい……ですよ?」

 朝比奈さんは何か感付いたように、ニヤリと笑みを浮かべて私のことをチラチラと見てきます。

「そんな風に言いますけど、私は羽賀さんのことは何も想っていませんよ」

 BLという意味では気にしていますが。だから、今……氷室さんや岡村さんとどんなことになっているのか凄く気になってしまうんですよ!

「それなら、どうして羽賀さんと呑めないことにがっかりしていたんですか?」
「えっ……と、それはですね……」

 月村さんのことをこちら側に引きずり込もうとは思いますが、16歳の女の子もこちら側に引きずり込んでしまっていいのでしょうか。下手に話したら、朝比奈さんと氷室さんの関係に変化が生じてしまうような。

「……1つ質問です。朝比奈さん、男性同士の友情モノの漫画やアニメなどに興味はありますか?」
「はい! 男性キャラがメインのアニメは好きですよ! 水泳とか、バレーボールとか、アイドルとか!」

 朝比奈さん、ウキウキとした様子で話してくれますね。最近の女子高生はアニメも大好きな子がいっぱいいるのでしょうかね。しかし、これは脈アリです。引きずり込んでみましょうか。

「じゃあ……そういった作品を見ていると、たまにこのキャラクターとこのキャラクターが付き合ったらどうなるか、と妄想したことはありますか!」

 両肩を掴んで朝比奈さんにそう訊きますが……朝比奈さんは目を見開いています。なかなか答えてくれませんね。直球で訊いたのがまずかったのでしょうか。

「そ、それは……異性での話ですか? それとも、男性同士ですか?」
「……だ、男性同士でございますが……」
「なるほど……」

 この反応……どうなのでしょう? 引かれてしまったでしょうか?

「……そういう考えもありですね。私はしたことがありませんが……」
「そ、そうですか……」

 優しい笑顔でそう言ってくれるのは嬉しいですね。ただ、その笑顔が素敵すぎて逆に本心が読めません。朝比奈さんに対しては様子見ということにしておきましょう。

「……世の中には色々な方がいます。智也さんのことが好きな人もいれば、男性同士の恋愛が好きな人だっています。好きなことを好きだと言えることは素敵ですが、なかなか言えない人もいますよね。私はそれでいいと思いますよ」
「朝比奈さん……」

 完全に私がBL好きだと知られてしまいましたね。というか、朝比奈さん……あなたは天使ですか。いい子すぎて彼女に後光が差しているように思えます。

「……すみません。私はいけないことをしていたのかもしれません」

 今の朝比奈さんを見て、謝らずにはいられませんでした。何と言いますか……これまでのことを思い出すと物凄く申し訳ない気持ちになって。
 気付けば、すっかりと酔いが醒めていたのでした。
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

まずはお嫁さんからお願いします。

桜庭かなめ
恋愛
 高校3年生の長瀬和真のクラスには、有栖川優奈という女子生徒がいる。優奈は成績優秀で容姿端麗、温厚な性格と誰にでも敬語で話すことから、学年や性別を問わず人気を集めている。和真は優奈とはこの2年間で挨拶や、バイト先のドーナッツ屋で接客する程度の関わりだった。  4月の終わり頃。バイト中に店舗の入口前の掃除をしているとき、和真は老齢の男性のスマホを見つける。その男性は優奈の祖父であり、日本有数の企業グループである有栖川グループの会長・有栖川総一郎だった。  総一郎は自分のスマホを見つけてくれた和真をとても気に入り、孫娘の優奈とクラスメイトであること、優奈も和真も18歳であることから優奈との結婚を申し出る。  いきなりの結婚打診に和真は困惑する。ただ、有栖川家の説得や、優奈が和真の印象が良く「結婚していい」「いつかは両親や祖父母のような好き合える夫婦になりたい」と思っていることを知り、和真は結婚を受け入れる。  デート、学校生活、新居での2人での新婚生活などを経て、和真と優奈の距離が近づいていく。交際なしで結婚した高校生の男女が、好き合える夫婦になるまでの温かくて甘いラブコメディ!  ※特別編6が完結しました!(2025.11.25)  ※小説家になろうとカクヨムでも公開しています。  ※お気に入り登録、感想をお待ちしております。

一夏の性体験

風のように
恋愛
性に興味を持ち始めた頃に訪れた憧れの年上の女性との一夜の経験

天才天然天使様こと『三天美女』の汐崎真凜に勝手に婚姻届を出され、いつの間にか天使の旦那になったのだが...。【動画投稿】

田中又雄
恋愛
18の誕生日を迎えたその翌日のこと。 俺は分籍届を出すべく役所に来ていた...のだが。 「えっと...結論から申し上げますと...こちらの手続きは不要ですね」「...え?どういうことですか?」「昨日、婚姻届を出されているので親御様とは別の戸籍が作られていますので...」「...はい?」 そうやら俺は知らないうちに結婚していたようだった。 「あの...相手の人の名前は?」 「...汐崎真凛様...という方ですね」 その名前には心当たりがあった。 天才的な頭脳、マイペースで天然な性格、天使のような見た目から『三天美女』なんて呼ばれているうちの高校のアイドル的存在。 こうして俺は天使との-1日婚がスタートしたのだった。

極上イケメン先生が秘密の溺愛教育に熱心です

朝陽七彩
恋愛
 私は。 「夕鶴、こっちにおいで」  現役の高校生だけど。 「ずっと夕鶴とこうしていたい」  担任の先生と。 「夕鶴を誰にも渡したくない」  付き合っています。  ♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡  神城夕鶴(かみしろ ゆづる)  軽音楽部の絶対的エース  飛鷹隼理(ひだか しゅんり)  アイドル的存在の超イケメン先生  ♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡  彼の名前は飛鷹隼理くん。  隼理くんは。 「夕鶴にこうしていいのは俺だけ」  そう言って……。 「そんなにも可愛い声を出されたら……俺、止められないよ」  そして隼理くんは……。  ……‼  しゅっ……隼理くん……っ。  そんなことをされたら……。  隼理くんと過ごす日々はドキドキとわくわくの連続。  ……だけど……。  え……。  誰……?  誰なの……?  その人はいったい誰なの、隼理くん。  ドキドキとわくわくの連続だった私に突如現れた隼理くんへの疑惑。  その疑惑は次第に大きくなり、私の心の中を不安でいっぱいにさせる。  でも。  でも訊けない。  隼理くんに直接訊くことなんて。  私にはできない。  私は。  私は、これから先、一体どうすればいいの……?

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

旧校舎の地下室

守 秀斗
恋愛
高校のクラスでハブられている俺。この高校に友人はいない。そして、俺はクラスの美人女子高生の京野弘美に興味を持っていた。と言うか好きなんだけどな。でも、京野は美人なのに人気が無く、俺と同様ハブられていた。そして、ある日の放課後、京野に俺の恥ずかしい行為を見られてしまった。すると、京野はその事をバラさないかわりに、俺を旧校舎の地下室へ連れて行く。そこで、おかしなことを始めるのだったのだが……。

屈辱と愛情

守 秀斗
恋愛
最近、夫の態度がおかしいと思っている妻の名和志穂。25才。仕事で疲れているのかとそっとしておいたのだが、一か月もベッドで抱いてくれない。思い切って、夫に聞いてみると意外な事を言われてしまうのだが……。

俺を振ったはずの腐れ縁幼馴染が、俺に告白してきました。

true177
恋愛
一年前、伊藤 健介(いとう けんすけ)は幼馴染の多田 悠奈(ただ ゆうな)に振られた。それも、心無い手紙を下駄箱に入れられて。 それ以来悠奈を避けるようになっていた健介だが、二年生に進級した春になって悠奈がいきなり告白を仕掛けてきた。 これはハニートラップか、一年前の出来事を忘れてしまっているのか……。ともかく、健介は断った。 日常が一変したのは、それからである。やたらと悠奈が絡んでくるようになったのだ。 彼女の狙いは、いったい何なのだろうか……。 ※小説家になろう、ハーメルンにも同一作品を投稿しています。 ※内部進行完結済みです。毎日連載です。

処理中です...