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特別編-浅野狂騒曲-
エピローグ『それぞれの夜』
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午後10時過ぎ。
ようやく家の前まで辿り着いた。日本酒を呑んだので、羽賀の家を後にしたときは先週よりも酔っ払っていたけど、駅で買ったブラックコーヒーを少しずつ飲んだことで、幾らか酔いを覚ますことができた。
先週に引き続いて、今夜も僕の家には有紗さんが遊びに来ているそうだけど、今頃どうしているのかな?
――ピンポーン。
家のインターホンを鳴らすと、すぐに玄関の鍵が開く音がして、
「おかえりなさい、智也さん」
玄関が開き、美来が出迎えてくれた。そして、彼女の方からキス。
「ちょっと苦いですね」
「ボトル缶のコーヒーを飲みながら帰ってきたからね」
「そうでしたか」
コーヒーを飲みながら帰ってきたことには酔いを覚ますことと同時に、口の中のアルコール成分を少しでも無くすためでもある。今のように、帰ってきて早々、美来がキスしてくると思ったから。
「有紗さんはどうしてる? もう帰った?」
「……いえ、先週と同じようにベッドで眠っています。智也さんが旅行で呑んだ例の酒入りコーヒーで酔っ払ってしまって」
「ああ、そうなんだ。有紗さん、さっそく呑んでくれたんだな」
有紗さんもブラックでなければ、普通にコーヒーを飲めるので、温泉まんじゅう以外にも酒入りコーヒーをお土産に買ってきたのだ。
僕も旅行中に酒入りコーヒーを呑んだ後に結構酔ってしまったので、有紗さんがベッドで眠ってしまっても仕方ないか。
「さあ、中に入ろう」
家の中に入り、ベッドの上で有紗さんが気持ち良さそうに寝ているのを確認。ただ、この前とは違って上は寝間着だけど、下が桃色のパンツ姿って。
「きっと、ここでお酒を呑んだら眠ると思って、寝間着をベッドの上に出しておいたんですけど、上だけ着たら寝ちゃいましたよ」
「そうか……」
下半身がパンツ姿の有紗さんもそそられるけれども、このままでは風邪を引いてしまうので彼女にふとんを掛ける。
「うん……?」
ふとんを掛けたことで、有紗さんが目を覚ましてしまった。
「智也、くん……?」
「今、羽賀の家から買ってきたんですよ」
僕がそう言うと、有紗さんは急に嬉しそうな笑みを浮かべて、
「智也君だっ!」
大声でそう言って僕のことをぎゅっと抱きしめてきた。そのことで色々と柔らかい感触が。彼女は僕の胸に頭をすりすりしてくる。
「智也君。智也君! 智也君!!」
「有紗さん、僕が帰ってきたことに嬉しいのは分かりましたから、落ち着いてください。そんなに強く抱きしめられると、骨が何本か折れそうです」
「智也君の匂い、大好き。んっ~」
僕の話、全然聞いていないな、有紗さん。僕にも聞こえるくらいに有紗さんは深呼吸をしてくる。彼女、お酒に酔うと僕に甘えてくるタイプなのか。
「有紗さん、お酒に酔っているとはいえ、いい加減にしないと、当分ここへ来るのを禁止にしますよ?」
背後から、美来は低い声でそんなことを言ってくる。
振り返ると、そこには美来の何とも言えない笑みが。浅野さんがBLのことで注意されたときもこんな感じだったのかな。恐いなぁ、僕は一気に酔いが醒めたよ。
「……あぁ、ごめんね、美来ちゃん。智也君、かっこよくて優しいからつい抱きしめちゃった。じゃあ、私が抱きしめた分、美来ちゃんも思いきり抱きしめよう!」
おお、酔っ払っているだけあってか、今の美来に全然動じないぞ。笑顔で対応しているけど、こういう態度の有紗さんに対して美来はどう想うのか。
「……分かりました。智也さん、私も抱きしめます!」
有紗さんが僕から離れたのを確認すると、美来は僕をぎゅっと抱きしめてきた。その抱擁の強さはさっきの有紗さんよりももちろん強くて。
「……もう、智也さんったら。彼女の目の前で他の女性に抱かれないでくださいよ」
「ごめんね、美来」
僕は美来の頭を優しく撫でる。
すると、美来が見上げてきたので、僕の方からキスした。これが今すぐに美来へ気持ちを伝えることができて、有紗さんには僕と美来との関係を示すことができると思ったんだ。
唇を離すと、美来は嬉しそうな笑顔を浮かべた。
「ありがとうございます、智也さん」
「ああ」
「……ねえねえ、智也君」
有紗さんは僕が着ているワイシャツの裾を引っ張ってくる。
「どうしたんですか?」
「智也君がお土産でくれた酒入りコーヒーがまだ残っているから一緒に呑もうよ。ねえ、いいでしょ?」
「ええ、分かりました」
「では、智也さんの分のグラスを持ってきますね。私は紅茶を飲もうかな。あと、有紗さん……お酒を呑むんでしたら、下の方も寝間着を着てくださいね」
「はーい!」
まったく、どっちが年上なんだか。
その後、僕と有紗さんは酒入りコーヒーを、美来はアイスティーを飲みながら旅行の話で盛り上がった。美来と2人きりの時間もいいけど、有紗さんとこうして3人で楽しく喋るのもいいなと改めて思うのであった。
*****
ううっ、ここはどこなんでしょう。
目を覚ましても真っ暗で何も見えません。眼鏡も外れていますし、ふかふかのベッドで横になっているみたいですし。
「ふ、ふかふかのベッドということは、まさか!」
慌てて体を起こしてしまったことと視界不良で、ベッドから落ちてしまいます。
「いててっ……」
今のことでいくらか酔いが醒めました。とりあえず、まずはこの部屋の電気スイッチか、眼鏡を探さないと。
「大丈夫ですか? 凄い音がしましたけれど」
羽賀さんの声が聞こえると、部屋の電気が点きました。
「はい、メガネです」
「……ありがとうございます」
メガネをかけると、そこには羽賀さんの姿が。ここが以前にもお邪魔した羽賀さんの寝室であることはすぐに分かりました。
「鼻血を出してしまったことは覚えていますか?」
「ええ、若干ですが覚えています。私、また羽賀さんにご迷惑を掛けてしまったんですね。申し訳ないです」
「いいえ、お気になさらず。ただ、この前とは違って血が飛び散ったので、氷室と後処理をするのが多少大変だっただけで」
「そうですか」
氷室さんまでもご迷惑を。もしかしたら、眼鏡を外したときの顔を見られてしまったかもしれません。変な風に思われてなければいいのですが。
「氷室さんに謝らないと」
「彼は1時間ほど前に帰ってしまいました。岡村はそれよりも前に」
「……そうですか。ちょっと残念ですね」
「氷室がまたいつか、4人で呑みましょうと言っていました。4人でゆっくり呑むのは、そのときのお楽しみにしましょう」
「そうですね」
ただ、今日はせっかく4人でゆっくりと呑めると思ったのですが。しかし、意識を失ってしまったことは完全に自業自得なので反省しなければ。
「浅野さん。もう10時過ぎですがどうしますか?」
午後10時ということは、段々と電車の本数が少なくなっていく時間帯ですね。このまま家に帰り、アニメでも観ながら呑み直すのも一つの手ですが、
「……少しだけ一緒に呑んでもいいでしょうか。せっかく、羽賀さんの家に来たのですから、羽賀さんとお話がしたいです。それに、私は明日と明後日がお休みですから」
それに、羽賀さんと2人きりでゆっくりと呑みたい気持ちもずっと抱いていたので。ですから、今はその気持ちに素直に従おうと思います。
「そうですか。分かりました。氷室からもらった日本酒、まだ残っているのですよ。2人で呑んでしまいましょうか」
「お言葉に甘えて、いただきます」
それから、私は羽賀さんと一緒に氷室さんからいただいた日本酒を呑みながら、静かな時間を過ごしました。こうして2人きりでゆっくりと呑むのもいいものですね。一緒に呑む相手が羽賀さんだからかもしれませんが。
明日から4日間しっかりと休んで、これからも仕事を頑張っていきましょう。世の中、何が起こるか分かりませんからね。
特別編-浅野狂騒曲- おわり
次の話から特別編-ラブラブ!サンシャイン!!-となります。
時系列としては特別編-Looking back 10 years of LOVE-の直後の話となります。
ようやく家の前まで辿り着いた。日本酒を呑んだので、羽賀の家を後にしたときは先週よりも酔っ払っていたけど、駅で買ったブラックコーヒーを少しずつ飲んだことで、幾らか酔いを覚ますことができた。
先週に引き続いて、今夜も僕の家には有紗さんが遊びに来ているそうだけど、今頃どうしているのかな?
――ピンポーン。
家のインターホンを鳴らすと、すぐに玄関の鍵が開く音がして、
「おかえりなさい、智也さん」
玄関が開き、美来が出迎えてくれた。そして、彼女の方からキス。
「ちょっと苦いですね」
「ボトル缶のコーヒーを飲みながら帰ってきたからね」
「そうでしたか」
コーヒーを飲みながら帰ってきたことには酔いを覚ますことと同時に、口の中のアルコール成分を少しでも無くすためでもある。今のように、帰ってきて早々、美来がキスしてくると思ったから。
「有紗さんはどうしてる? もう帰った?」
「……いえ、先週と同じようにベッドで眠っています。智也さんが旅行で呑んだ例の酒入りコーヒーで酔っ払ってしまって」
「ああ、そうなんだ。有紗さん、さっそく呑んでくれたんだな」
有紗さんもブラックでなければ、普通にコーヒーを飲めるので、温泉まんじゅう以外にも酒入りコーヒーをお土産に買ってきたのだ。
僕も旅行中に酒入りコーヒーを呑んだ後に結構酔ってしまったので、有紗さんがベッドで眠ってしまっても仕方ないか。
「さあ、中に入ろう」
家の中に入り、ベッドの上で有紗さんが気持ち良さそうに寝ているのを確認。ただ、この前とは違って上は寝間着だけど、下が桃色のパンツ姿って。
「きっと、ここでお酒を呑んだら眠ると思って、寝間着をベッドの上に出しておいたんですけど、上だけ着たら寝ちゃいましたよ」
「そうか……」
下半身がパンツ姿の有紗さんもそそられるけれども、このままでは風邪を引いてしまうので彼女にふとんを掛ける。
「うん……?」
ふとんを掛けたことで、有紗さんが目を覚ましてしまった。
「智也、くん……?」
「今、羽賀の家から買ってきたんですよ」
僕がそう言うと、有紗さんは急に嬉しそうな笑みを浮かべて、
「智也君だっ!」
大声でそう言って僕のことをぎゅっと抱きしめてきた。そのことで色々と柔らかい感触が。彼女は僕の胸に頭をすりすりしてくる。
「智也君。智也君! 智也君!!」
「有紗さん、僕が帰ってきたことに嬉しいのは分かりましたから、落ち着いてください。そんなに強く抱きしめられると、骨が何本か折れそうです」
「智也君の匂い、大好き。んっ~」
僕の話、全然聞いていないな、有紗さん。僕にも聞こえるくらいに有紗さんは深呼吸をしてくる。彼女、お酒に酔うと僕に甘えてくるタイプなのか。
「有紗さん、お酒に酔っているとはいえ、いい加減にしないと、当分ここへ来るのを禁止にしますよ?」
背後から、美来は低い声でそんなことを言ってくる。
振り返ると、そこには美来の何とも言えない笑みが。浅野さんがBLのことで注意されたときもこんな感じだったのかな。恐いなぁ、僕は一気に酔いが醒めたよ。
「……あぁ、ごめんね、美来ちゃん。智也君、かっこよくて優しいからつい抱きしめちゃった。じゃあ、私が抱きしめた分、美来ちゃんも思いきり抱きしめよう!」
おお、酔っ払っているだけあってか、今の美来に全然動じないぞ。笑顔で対応しているけど、こういう態度の有紗さんに対して美来はどう想うのか。
「……分かりました。智也さん、私も抱きしめます!」
有紗さんが僕から離れたのを確認すると、美来は僕をぎゅっと抱きしめてきた。その抱擁の強さはさっきの有紗さんよりももちろん強くて。
「……もう、智也さんったら。彼女の目の前で他の女性に抱かれないでくださいよ」
「ごめんね、美来」
僕は美来の頭を優しく撫でる。
すると、美来が見上げてきたので、僕の方からキスした。これが今すぐに美来へ気持ちを伝えることができて、有紗さんには僕と美来との関係を示すことができると思ったんだ。
唇を離すと、美来は嬉しそうな笑顔を浮かべた。
「ありがとうございます、智也さん」
「ああ」
「……ねえねえ、智也君」
有紗さんは僕が着ているワイシャツの裾を引っ張ってくる。
「どうしたんですか?」
「智也君がお土産でくれた酒入りコーヒーがまだ残っているから一緒に呑もうよ。ねえ、いいでしょ?」
「ええ、分かりました」
「では、智也さんの分のグラスを持ってきますね。私は紅茶を飲もうかな。あと、有紗さん……お酒を呑むんでしたら、下の方も寝間着を着てくださいね」
「はーい!」
まったく、どっちが年上なんだか。
その後、僕と有紗さんは酒入りコーヒーを、美来はアイスティーを飲みながら旅行の話で盛り上がった。美来と2人きりの時間もいいけど、有紗さんとこうして3人で楽しく喋るのもいいなと改めて思うのであった。
*****
ううっ、ここはどこなんでしょう。
目を覚ましても真っ暗で何も見えません。眼鏡も外れていますし、ふかふかのベッドで横になっているみたいですし。
「ふ、ふかふかのベッドということは、まさか!」
慌てて体を起こしてしまったことと視界不良で、ベッドから落ちてしまいます。
「いててっ……」
今のことでいくらか酔いが醒めました。とりあえず、まずはこの部屋の電気スイッチか、眼鏡を探さないと。
「大丈夫ですか? 凄い音がしましたけれど」
羽賀さんの声が聞こえると、部屋の電気が点きました。
「はい、メガネです」
「……ありがとうございます」
メガネをかけると、そこには羽賀さんの姿が。ここが以前にもお邪魔した羽賀さんの寝室であることはすぐに分かりました。
「鼻血を出してしまったことは覚えていますか?」
「ええ、若干ですが覚えています。私、また羽賀さんにご迷惑を掛けてしまったんですね。申し訳ないです」
「いいえ、お気になさらず。ただ、この前とは違って血が飛び散ったので、氷室と後処理をするのが多少大変だっただけで」
「そうですか」
氷室さんまでもご迷惑を。もしかしたら、眼鏡を外したときの顔を見られてしまったかもしれません。変な風に思われてなければいいのですが。
「氷室さんに謝らないと」
「彼は1時間ほど前に帰ってしまいました。岡村はそれよりも前に」
「……そうですか。ちょっと残念ですね」
「氷室がまたいつか、4人で呑みましょうと言っていました。4人でゆっくり呑むのは、そのときのお楽しみにしましょう」
「そうですね」
ただ、今日はせっかく4人でゆっくりと呑めると思ったのですが。しかし、意識を失ってしまったことは完全に自業自得なので反省しなければ。
「浅野さん。もう10時過ぎですがどうしますか?」
午後10時ということは、段々と電車の本数が少なくなっていく時間帯ですね。このまま家に帰り、アニメでも観ながら呑み直すのも一つの手ですが、
「……少しだけ一緒に呑んでもいいでしょうか。せっかく、羽賀さんの家に来たのですから、羽賀さんとお話がしたいです。それに、私は明日と明後日がお休みですから」
それに、羽賀さんと2人きりでゆっくりと呑みたい気持ちもずっと抱いていたので。ですから、今はその気持ちに素直に従おうと思います。
「そうですか。分かりました。氷室からもらった日本酒、まだ残っているのですよ。2人で呑んでしまいましょうか」
「お言葉に甘えて、いただきます」
それから、私は羽賀さんと一緒に氷室さんからいただいた日本酒を呑みながら、静かな時間を過ごしました。こうして2人きりでゆっくりと呑むのもいいものですね。一緒に呑む相手が羽賀さんだからかもしれませんが。
明日から4日間しっかりと休んで、これからも仕事を頑張っていきましょう。世の中、何が起こるか分かりませんからね。
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