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特別編-浅野狂騒曲-
第12話『応急処置』
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何がきっかけだったのかは不明だけど、過度に興奮してしまったようで、浅野さんは両方の鼻から盛大に血を流して気を失ってしまった。
岡村が床の上で眠ってしまっているので、僕と羽賀で浅野さんの鼻から吹き出した血をティッシュで拭う。羽賀が浅野さんの顔を拭いて、僕が床を拭くことに。
「羽賀、浅野さんは大丈夫なのか?」
「ああ、心配はないだろう。見てみろ、この幸せそうな表情を」
「どれどれ……」
一旦、作業を中断して、浅野さんの様子を見てみると、彼女は幸せそうな表情をして眠っていた。羽賀の言うとおり、これなら心配する必要はないかな。
「ビールを一気飲みして、血流が良くなった上で、私達の様子を見たことによる興奮によって、ここまで大量の血を両鼻から吹き出してしまったのだろう」
「この様子を撮った写真を見たら、殺人現場に間違われそうだな」
「笑って眠っているだけ、実際の現場よりもマシだがな」
「だから、そこまで平然としていられるのか。僕なんてこんなに多く血が出た光景は見たことないから、ちょっと寒気がしてるぞ」
「無理はするな。氷室は血には慣れていないのだから」
僕は床に飛び散った血を拭く作業を再開する。何だか、こうしていると殺人事件の証拠隠滅のために血を拭いている感じだな。
ううっ、それにしても血の量が多い。ティッシュということもあって、彼女の生温かい血が手に付いちゃったよ。ただ、今は床に付いている血を拭うのが先だ。
「浅野さんの方は大丈夫だ。氷室の方はどうだ?」
「こっちも終わった。あと、すまないけど、手を洗いたいから洗面所の場所を教えてくれないかな。手に血が付いちゃって」
「分かった。案内する」
僕は羽賀に洗面所まで案内してもらって、両手を念入りに洗う。さすがに血が付いているのは気持ちが良くない。
「すまないな、氷室。うちの部下が迷惑を掛けてしまって」
「気にしないでくれ。ビックリしたけれど」
「そう言ってくれるのはありがたい。ただ……以前に比べれば、今回はまだマシだな。ほら、氷室が釈放された日、美来さんの家に戻る途中で浅野さんの家にも寄っただろう」
「ああ、あのときか。確か、僕は酷く疲れて助手席で眠っていたな」
ふかふかした車のシートと温かい陽の光がとても気持ち良くて、すぐに眠りに落ちてしまったんだよな。
「私が浅野さんの家に行ったとき、彼女……血だらけのスウェットを着ていたのだ。刺殺された被害者にも負けない出血量だったので、さすがにあのときは驚いた」
「羽賀にも驚くときもあるんだな」
「私も人間だ。喜怒哀楽、そして驚くときもある」
普段はクールで、たまにちょっと笑うくらいだけど、岡村に対しては怒っているときが多いもんな。意外とそのときに羽賀の人間味を垣間見ることができる。
「氷室、私も手が洗いたいのでいいだろうか」
「ああ」
そういえば、洗面所も僕の家より広いな。最近は美来が掃除をしてくれるので、僕の家の洗面所も綺麗だけど、ここは建ってからあまり年数が経っていないのか僕の家よりも綺麗だ。
羽賀も手を洗い終わったので、僕達はリビングに戻る。そこにいるのは床で眠っている岡村と、ソファーで幸せそうに意識を失っている浅野さん。
「岡村は最悪このままでいいとして、浅野さんはどうしようか」
「寝室にあるベッドに寝かせよう」
「……大丈夫なのか? 色々な意味で」
今、平然と言ったけど。ベッドに寝かせたら、後々、浅野さんに色々と誤解を招いてしまう事態になる気がするけれども。
「大丈夫だ。既に一度、彼女は私のベッドで眠ることは経験している。あのときはお酒で酔いつぶれて眠っていたのだが」
「そ、そうか」
一度でも経験があるんだったらまだいいのかな。
「もちろん、私はそのソファーで眠ったのでやましいことはしていない」
「なるほどね」
羽賀が言うと信頼できるけれど、浅野さん……きっと、目を覚ましたときに羽賀のベッドで寝ていたから、色々と考えてしまったんじゃないだろうか。いや、極度のBL好きだからそういうことはない……とは言い切れないよな。浅野さんだって女性だし。
「よし、彼女を私の部屋へ連れて行く。氷室、サポートを頼む」
そう言うと、羽賀は難なく浅野さんのことをお姫様抱っこのような形で持ち上げた。羽賀が力持ちなのか、浅野さんが軽いのか。ていうか、これならサポートの必要はないと思うけれど、実際に何があるか分からないからな。さっきの鼻血のように。
「氷室、リビングを出て、右手の方に扉があるだろう。そこが寝室の入り口だ。
「ああ、分かった」
僕は指定された扉を開けて、手探りで壁にあるスイッチを見つけて、寝室の電気を点ける。
何だか、この寝室だけで僕の家よりも広い気がするのは気のせいだろうか。あまり物が置いていないからかな。あと、ベッドが僕の家のものよりも大きそう。
「氷室、ふとんをめくってくれ」
「ああ」
僕がふとんをめくると、羽賀は起きないように気をつけて浅野さんのことをゆっくりとベッドの上に寝かせた。そっと、ふとんを掛ける。
「これでいいな、ありがとう、氷室。おかげでスムーズにできた」
「いや、僕はたいしたことはしていないよ」
「……そうだ、彼女のメガネを外しておかなければ」
羽賀は浅野さんのメガネを外して、ベッドの側にあった机の上に置く。
「へえ、浅野さん……メガネを外すと結構可愛いんだな」
「私もそう思うのだが、彼女曰く、幼い頃にメガネを外した顔を笑われたことがあったそうだ。それで、人前では極力、メガネは外さないようにしているらしい」
「なるほどな」
幼い頃の経験って意外と記憶に残っているものだよな。特に、嫌な方での経験は。
「まあ、いいんじゃないか。この可愛い顔を見ることのできる数少ない人間のうちの一人になれた気がする」
「……ふっ、そう思うのはいいだろうが、美来さんの前でそれを言ってしまったら、彼女はかなり不機嫌になるだろうな」
「ははっ、そうだな。ただ、美来の可愛さに勝る人なんていないよ。……有紗さんくらいかな? いるとすれば」
「上手く発言を訂正したな」
僕にとっても、美来にとっても有紗さんは別格の女性だと思っているからな。だからこそ、僕と付き合い始めてからも、有紗さんを僕の家に宿泊させていることを美来は快諾しているんだと思う。
「浅野さんはゆっくりと眠らせて、私達はリビングに戻ろう」
「そうだな」
寝室からリビングに戻ると、さっきとは違って岡村が起きていた。
「あれ? 千尋さんは?」
「お手洗いにいる。気分が悪くなって、私と氷室で連れて行ったのだよ」
上手く嘘を付いたな。ベッドで寝かせていると言ったら、岡村が暴れるかもしれないと思ったのかな。
「そうか。じゃあ……俺、もう帰るわ。氷室からお土産もらったし」
「分かった。気をつけて帰るのだぞ」
「おう、分かった。氷室、ウイスキーは家でゆっくり呑むわ。ありがとな。今度会ったときに感想言うから」
「ああ、分かった。気をつけて帰れよ」
「おう」
岡村は僕からのお土産を持ってすんなりと家を後にした。そのとき、羽賀が玄関まで付いていったけど、あれはお手洗いに向かわせないためだったのかな。
「何だか、これでようやく落ち着いた気がする」
「確かに。ただ、岡村がお手洗いに行くかもしれないのに、よくあんな嘘を付いたな」
「彼はトイレの近い人間ではないからな。このマンションから駅に向かうまでの間には公園があり、そこに公衆トイレがあるから大丈夫だろう」
「なるほどなぁ」
さすがは羽賀といったところか。
時刻は午後8時ちょっと前か。僕達は午後6時過ぎからお酒を呑んでいるので、もう2時間近く経っている。
「まあいい、氷室と2人でゆっくり酒を呑むのもいいだろう。いや、そうするのが酒も一番美味くなるかもしれん。氷室となら落ち着いて呑むことができるからな」
「ははっ、そうか」
「そうだ、氷室も呑むか? 土産の地酒。試飲して買ったのか?」
「いや、昨日の朝に買ったから試飲はしていないんだ。レンタカーを借りて旅館に行ったからさ」
「なるほど。それなら尚のこと一緒に呑もうではないか」
「ああ、いただくよ」
それから、僕は小一時間ほど、羽賀と地酒を呑みながら静かな時間を過ごした。
僕にとっては4人でのあの賑やかな雰囲気も好きだったけど。今日は少ししか4人で呑めなかったのでもう一度、近いうちに4人で呑んでもいいかもしれない。そう思うのであった。
岡村が床の上で眠ってしまっているので、僕と羽賀で浅野さんの鼻から吹き出した血をティッシュで拭う。羽賀が浅野さんの顔を拭いて、僕が床を拭くことに。
「羽賀、浅野さんは大丈夫なのか?」
「ああ、心配はないだろう。見てみろ、この幸せそうな表情を」
「どれどれ……」
一旦、作業を中断して、浅野さんの様子を見てみると、彼女は幸せそうな表情をして眠っていた。羽賀の言うとおり、これなら心配する必要はないかな。
「ビールを一気飲みして、血流が良くなった上で、私達の様子を見たことによる興奮によって、ここまで大量の血を両鼻から吹き出してしまったのだろう」
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「だから、そこまで平然としていられるのか。僕なんてこんなに多く血が出た光景は見たことないから、ちょっと寒気がしてるぞ」
「無理はするな。氷室は血には慣れていないのだから」
僕は床に飛び散った血を拭く作業を再開する。何だか、こうしていると殺人事件の証拠隠滅のために血を拭いている感じだな。
ううっ、それにしても血の量が多い。ティッシュということもあって、彼女の生温かい血が手に付いちゃったよ。ただ、今は床に付いている血を拭うのが先だ。
「浅野さんの方は大丈夫だ。氷室の方はどうだ?」
「こっちも終わった。あと、すまないけど、手を洗いたいから洗面所の場所を教えてくれないかな。手に血が付いちゃって」
「分かった。案内する」
僕は羽賀に洗面所まで案内してもらって、両手を念入りに洗う。さすがに血が付いているのは気持ちが良くない。
「すまないな、氷室。うちの部下が迷惑を掛けてしまって」
「気にしないでくれ。ビックリしたけれど」
「そう言ってくれるのはありがたい。ただ……以前に比べれば、今回はまだマシだな。ほら、氷室が釈放された日、美来さんの家に戻る途中で浅野さんの家にも寄っただろう」
「ああ、あのときか。確か、僕は酷く疲れて助手席で眠っていたな」
ふかふかした車のシートと温かい陽の光がとても気持ち良くて、すぐに眠りに落ちてしまったんだよな。
「私が浅野さんの家に行ったとき、彼女……血だらけのスウェットを着ていたのだ。刺殺された被害者にも負けない出血量だったので、さすがにあのときは驚いた」
「羽賀にも驚くときもあるんだな」
「私も人間だ。喜怒哀楽、そして驚くときもある」
普段はクールで、たまにちょっと笑うくらいだけど、岡村に対しては怒っているときが多いもんな。意外とそのときに羽賀の人間味を垣間見ることができる。
「氷室、私も手が洗いたいのでいいだろうか」
「ああ」
そういえば、洗面所も僕の家より広いな。最近は美来が掃除をしてくれるので、僕の家の洗面所も綺麗だけど、ここは建ってからあまり年数が経っていないのか僕の家よりも綺麗だ。
羽賀も手を洗い終わったので、僕達はリビングに戻る。そこにいるのは床で眠っている岡村と、ソファーで幸せそうに意識を失っている浅野さん。
「岡村は最悪このままでいいとして、浅野さんはどうしようか」
「寝室にあるベッドに寝かせよう」
「……大丈夫なのか? 色々な意味で」
今、平然と言ったけど。ベッドに寝かせたら、後々、浅野さんに色々と誤解を招いてしまう事態になる気がするけれども。
「大丈夫だ。既に一度、彼女は私のベッドで眠ることは経験している。あのときはお酒で酔いつぶれて眠っていたのだが」
「そ、そうか」
一度でも経験があるんだったらまだいいのかな。
「もちろん、私はそのソファーで眠ったのでやましいことはしていない」
「なるほどね」
羽賀が言うと信頼できるけれど、浅野さん……きっと、目を覚ましたときに羽賀のベッドで寝ていたから、色々と考えてしまったんじゃないだろうか。いや、極度のBL好きだからそういうことはない……とは言い切れないよな。浅野さんだって女性だし。
「よし、彼女を私の部屋へ連れて行く。氷室、サポートを頼む」
そう言うと、羽賀は難なく浅野さんのことをお姫様抱っこのような形で持ち上げた。羽賀が力持ちなのか、浅野さんが軽いのか。ていうか、これならサポートの必要はないと思うけれど、実際に何があるか分からないからな。さっきの鼻血のように。
「氷室、リビングを出て、右手の方に扉があるだろう。そこが寝室の入り口だ。
「ああ、分かった」
僕は指定された扉を開けて、手探りで壁にあるスイッチを見つけて、寝室の電気を点ける。
何だか、この寝室だけで僕の家よりも広い気がするのは気のせいだろうか。あまり物が置いていないからかな。あと、ベッドが僕の家のものよりも大きそう。
「氷室、ふとんをめくってくれ」
「ああ」
僕がふとんをめくると、羽賀は起きないように気をつけて浅野さんのことをゆっくりとベッドの上に寝かせた。そっと、ふとんを掛ける。
「これでいいな、ありがとう、氷室。おかげでスムーズにできた」
「いや、僕はたいしたことはしていないよ」
「……そうだ、彼女のメガネを外しておかなければ」
羽賀は浅野さんのメガネを外して、ベッドの側にあった机の上に置く。
「へえ、浅野さん……メガネを外すと結構可愛いんだな」
「私もそう思うのだが、彼女曰く、幼い頃にメガネを外した顔を笑われたことがあったそうだ。それで、人前では極力、メガネは外さないようにしているらしい」
「なるほどな」
幼い頃の経験って意外と記憶に残っているものだよな。特に、嫌な方での経験は。
「まあ、いいんじゃないか。この可愛い顔を見ることのできる数少ない人間のうちの一人になれた気がする」
「……ふっ、そう思うのはいいだろうが、美来さんの前でそれを言ってしまったら、彼女はかなり不機嫌になるだろうな」
「ははっ、そうだな。ただ、美来の可愛さに勝る人なんていないよ。……有紗さんくらいかな? いるとすれば」
「上手く発言を訂正したな」
僕にとっても、美来にとっても有紗さんは別格の女性だと思っているからな。だからこそ、僕と付き合い始めてからも、有紗さんを僕の家に宿泊させていることを美来は快諾しているんだと思う。
「浅野さんはゆっくりと眠らせて、私達はリビングに戻ろう」
「そうだな」
寝室からリビングに戻ると、さっきとは違って岡村が起きていた。
「あれ? 千尋さんは?」
「お手洗いにいる。気分が悪くなって、私と氷室で連れて行ったのだよ」
上手く嘘を付いたな。ベッドで寝かせていると言ったら、岡村が暴れるかもしれないと思ったのかな。
「そうか。じゃあ……俺、もう帰るわ。氷室からお土産もらったし」
「分かった。気をつけて帰るのだぞ」
「おう、分かった。氷室、ウイスキーは家でゆっくり呑むわ。ありがとな。今度会ったときに感想言うから」
「ああ、分かった。気をつけて帰れよ」
「おう」
岡村は僕からのお土産を持ってすんなりと家を後にした。そのとき、羽賀が玄関まで付いていったけど、あれはお手洗いに向かわせないためだったのかな。
「何だか、これでようやく落ち着いた気がする」
「確かに。ただ、岡村がお手洗いに行くかもしれないのに、よくあんな嘘を付いたな」
「彼はトイレの近い人間ではないからな。このマンションから駅に向かうまでの間には公園があり、そこに公衆トイレがあるから大丈夫だろう」
「なるほどなぁ」
さすがは羽賀といったところか。
時刻は午後8時ちょっと前か。僕達は午後6時過ぎからお酒を呑んでいるので、もう2時間近く経っている。
「まあいい、氷室と2人でゆっくり酒を呑むのもいいだろう。いや、そうするのが酒も一番美味くなるかもしれん。氷室となら落ち着いて呑むことができるからな」
「ははっ、そうか」
「そうだ、氷室も呑むか? 土産の地酒。試飲して買ったのか?」
「いや、昨日の朝に買ったから試飲はしていないんだ。レンタカーを借りて旅館に行ったからさ」
「なるほど。それなら尚のこと一緒に呑もうではないか」
「ああ、いただくよ」
それから、僕は小一時間ほど、羽賀と地酒を呑みながら静かな時間を過ごした。
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