アリア

桜庭かなめ

文字の大きさ
275 / 292
続々編-蒼き薔薇と不協和音-

第23話『群青色の闇』

しおりを挟む
 朝食の後片付けを終えてスマートフォンを確認すると、有紗さんから数分前にメッセージが届いていたことに気付く。

『青薔薇のことが報じられているね。文化祭は予定通りに開催されるみたいだけど、羽賀さんや浅野さんは文化祭に行くの?』

 という内容だった。青薔薇といえば不正や犯罪を暴くイメージがあるから、2人が警察官として青薔薇のメッセージについて捜査すると考えているのかな。

『天羽女子は神奈川県ですから管轄外だそうです。ただ、僕の恋人が天羽女子に通っているので文化祭に遊びに来たという名目で、天羽女子でメッセージのことを調べるつもりらしいです。なので、2人と岡村は先に天羽女子に行くらしいです。羽賀には、僕らは昨日と同じくらいに行くと伝えてあります』

 という返信を有紗さんに送った。
 そういえば、羽賀は先に天羽女子に行くと言っていたけど、親友の恋人が通っている文化祭に着ていた休暇中の警察官が、文化祭の始まる前の学校に入れるのか? あの地域を管轄する警察署や、神奈川県警の警察官ならまだしも。ただ、羽賀なら、そこは上手く言って文化祭が始まる前に学校に入りそうだな。
 ――プルルッ。
 すると、有紗さんから返信が届く。

『分かった。じゃあ、昨日と同じように9時くらいに鏡原駅で待ち合わせして、一緒に天羽女子へ行こう』

 僕らはいつも通りに行って、調査をしている羽賀達と会おう。
 その後、洗濯物を干していく。今日も晴天で、雨が降る心配もない。風も少し吹くからよく乾きそうだ。
 9月になってから、休日を中心に洗濯を担当するようになった。ほぼ毎回、美来の下着を手にすると大きいなと思う。あの大きな胸を包んでいるんだから、このくらいあって当然だけれども。前に僕が洗濯していいのかと美来に訊いたことがあるけど、僕が触れた下着を身につけると幸せになれるから大歓迎らしい。

「美来は底知れぬ女の子だな……」

 そんなことを呟きながら、僕は昨日着けていた美来の桃色の下着を干した。そういえば、今日の下着の色は黒だったな。
 色と言えば、青薔薇は2枚の赤い紙を天羽女子に送りつけていたな。1枚は赤い紙で、もう1枚は青い点が打たれていた。あとは裏側が黒く塗られた500円玉か。それらは何の意味を示すんだろう?

「……さっぱり分からないな」

 ただ、それを天羽女子に送りつけたってことは、学校や生徒、職員と何かの関わりがある可能性は高そうだ。生徒や職員は悪くないと青薔薇はメッセージを出していたけど。

「あっ、もうすぐ出ないと」

 考え事をしながら家事をすると、あっという間に時間が過ぎてしまうな。
 昨日と同じように黒のカーディガンを着て、帽子を被り、天羽女子に向かって出発する。青薔薇のこともあるし、無事に家に帰ってくることができるといいな。
 急ぎ足で桜花駅に向かい、僕は昨日と同じ時刻の快速電車に乗ることができた。これで遅延や運休がなければ、9時までには鏡原駅に行けそうだ。
 昨日は仁実ちゃんと一緒だったけど、今日は一人なので音楽を聴いてスマートフォンを弄ることに。
 ニュースサイトを見てみると、青薔薇が天羽女子にメッセージを送ったことが記事になっている。このことで天羽女子に人が集まりすぎて混乱しなければいいけど。
 ――プルルッ。
 美来からメッセージが届く。学校で何かあったのかな。

『学校はいたって平和です。クラスメイトや声楽部の先輩方もみんな来ました。昨日、青薔薇さんが文化祭に来ていたことや、今日も来るんじゃないかということで興奮している人がいるくらいです。昨日よりもいい雰囲気ですね』

 青薔薇はミステリアスな正義のヒーロー。昨日の文化祭に来ていたとなれば興奮したり、今日も来るんじゃないかと期待したりする生徒もいるか。何にせよ、学校が明るい雰囲気であることはいいことだ。さすがは青薔薇といったところか。

『いい雰囲気になっているなら良かった。みんなと一緒に無理せずにメイドさんを頑張って。今、学校に向かっているところだから、また後でね。』

 という返信を送った。美来達には青薔薇とか関係なく楽しい文化祭を過ごしてほしい。

「人が来すぎたり、盛り上がりすぎたりして混乱する事態にならないといいな」

 そのことで、天羽女子の生徒や職員の方などに迷惑がかかったら、文化祭も楽しめなくなるだろうから。
 車内モニターでも、青薔薇のニュースが流れている。青薔薇が送ってきた2枚の赤い紙と裏面が黒く塗られた500円玉の写真も表示されているな。3つ合わせて1つのことを現しているのか。それとも、2枚の紙と500円玉で別々のことを示しているのか。そもそも、青薔薇は何を考えているのか。

「……分からないな」

 心の中で呟いた回数も合わせると、もう何回になるだろうか。分からないという名の沼に嵌まってしまった感じがする。
 羽賀はこのメッセージの謎は解けたのかな。彼の性格からして、何か分かったら僕に連絡してくると思うので、まだ分かっていない可能性の方が高そうだ。

『まもなく、畑町駅です。お降りの方は――』
「もう畑町か」

 考え事をしていたらあっという間に時間が過ぎていくな。
 僕は畑町駅で電車を降り、潮浜線に乗り換えて鏡原駅へと向かう。今日も時間通りに電車が動いていくな。
 鏡原駅に到着し、昨日と同じように僕は改札口で有紗さん達のことを待つ。

『鏡原駅に到着しました。昨日と同じように改札口を出たところで待ってます』

 有紗さん達にはこれで大丈夫かな。
 そうだ、せっかくだから羽賀に今はどうしているか訊いてみるか。

『羽賀、今はどうしてる? メッセージを解く手がかりは掴めたか?』

 まだ9時にはなっていないけれど、岡村や浅野さんと一緒に学校の中に入っているのだろうか。
 ――プルルッ。
 もう羽賀から返信が来たのかと思ったら、有紗さんからだった。

『分かった。昨日と同じで、9時くらいに鏡原駅に着く予定だから』

 昨日と同じように来られるなら安心だ。
 ――プルルッ。
 おっ、今度は羽賀からの返信か。

『職員室の隣にある会議室を借りて、調査を行なうことになった。岡村と浅野さんと一緒に行き、事情を話したら通してくれた。肝心のメッセージ内容は見当すら分からない。なので、氷室達が学校に来たら、一度、会議室に来てくれないだろうか。考え方や知恵を借りたい』

 予想通り、文化祭が始まる前だけど学校に入ることができたのか。さすがにまだメッセージの内容は全然分からないか。

『分かった。有紗さん達と合流したら、羽賀達のところに行くことにするよ』

 僕らにできることがあれば何でもしたい。すると、羽賀からすぐに返信が来て、彼らのいる第1会議室は教室棟の2階にあるとのこと。
 一応、羽賀達が学校の第1会議室にいることをメッセージで伝え、彼女から了解のメッセージを受け取った。彼らがいることが分かっているだけでも、安心感は違うだろう。

「智也君、お待たせ!」

 気付けば、有紗さんと明美ちゃん、詩織ちゃんが改札口を出てきていた。電光掲示板に表示される時刻を見ると、もう午前9時か。あと、こんなに近くにいるのに有紗さんは大きく手を振ってきて。3人の中で一番子供っぽいな。

「おはようございます、有紗さん、明美ちゃん、詩織ちゃん」
「おはようございます、氷室さん」
「おはようございます。一晩経ったら、青薔薇からメッセージが届いているなんて。美来ちゃん、転校した天羽女子でも大変なことになってますね」
「メッセージの真意はまだまだ分からないけれどね、詩織ちゃん。そうだ、羽賀達は既に天羽女子の会議室を借りて、青薔薇のメッセージについて調べ始めたみたいです。ただ、見当も付かないそうで、天羽女子に着いたら一度会議室に来てほしいとのことです」
「羽賀さんがそう言っているなら、早く天羽女子に行かないといけませんね! ほら、お姉ちゃんも詩織ちゃんも行くよ!」

 明美ちゃんは有紗さんと詩織ちゃんの手を引いて、天羽女子に向かって歩き出す。羽賀が関わっているからか張り切っている。何だか美来と重なる部分がある。
 昨日よりも速い足取りで、僕らは天羽女子高校に向かうのであった。
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

まずはお嫁さんからお願いします。

桜庭かなめ
恋愛
 高校3年生の長瀬和真のクラスには、有栖川優奈という女子生徒がいる。優奈は成績優秀で容姿端麗、温厚な性格と誰にでも敬語で話すことから、学年や性別を問わず人気を集めている。和真は優奈とはこの2年間で挨拶や、バイト先のドーナッツ屋で接客する程度の関わりだった。  4月の終わり頃。バイト中に店舗の入口前の掃除をしているとき、和真は老齢の男性のスマホを見つける。その男性は優奈の祖父であり、日本有数の企業グループである有栖川グループの会長・有栖川総一郎だった。  総一郎は自分のスマホを見つけてくれた和真をとても気に入り、孫娘の優奈とクラスメイトであること、優奈も和真も18歳であることから優奈との結婚を申し出る。  いきなりの結婚打診に和真は困惑する。ただ、有栖川家の説得や、優奈が和真の印象が良く「結婚していい」「いつかは両親や祖父母のような好き合える夫婦になりたい」と思っていることを知り、和真は結婚を受け入れる。  デート、学校生活、新居での2人での新婚生活などを経て、和真と優奈の距離が近づいていく。交際なしで結婚した高校生の男女が、好き合える夫婦になるまでの温かくて甘いラブコメディ!  ※特別編6が完結しました!(2025.11.25)  ※小説家になろうとカクヨムでも公開しています。  ※お気に入り登録、感想をお待ちしております。

一夏の性体験

風のように
恋愛
性に興味を持ち始めた頃に訪れた憧れの年上の女性との一夜の経験

あの日、幼稚園児を助けたけど、歳の差があり過ぎてその子が俺の運命の人になるなんて気付くはずがない。

NOV
恋愛
俺の名前は鎌田亮二、18歳の普通の高校3年生だ。 中学1年の夏休みに俺は小さい頃から片思いをしている幼馴染や友人達と遊園地に遊びに来ていた。 しかし俺の目の前で大きなぬいぐるみを持った女の子が泣いていたので俺は迷子だと思いその子に声をかける。そして流れで俺は女の子の手を引きながら案内所まで連れて行く事になった。 助けた女の子の名前は『カナちゃん』といって、とても可愛らしい女の子だ。 無事に両親にカナちゃんを引き合わす事ができた俺は安心して友人達の所へ戻ろうとしたが、別れ間際にカナちゃんが俺の太ももに抱き着いてきた。そしてカナちゃんは大切なぬいぐるみを俺にくれたんだ。 だから俺もお返しに小学生の頃からリュックにつけている小さなペンギンのぬいぐるみを外してカナちゃんに手渡した。 この時、お互いの名前を忘れないようにぬいぐるみの呼び名を『カナちゃん』『りょうくん』と呼ぶ約束をして別れるのだった。 この時の俺はカナちゃんとはたまたま出会い、そしてたまたま助けただけで、もう二度とカナちゃんと会う事は無いだろうと思っていたんだ。だから当然、カナちゃんの事を運命の人だなんて思うはずもない。それにカナちゃんの初恋の相手が俺でずっと想ってくれていたなんて考えたことも無かった…… 7歳差の恋、共に大人へと成長していく二人に奇跡は起こるのか? NOVがおおくりする『タイムリープ&純愛作品第三弾(三部作完結編)』今ここに感動のラブストーリーが始まる。 ※この作品だけを読まれても普通に面白いです。 関連小説【初恋の先生と結婚する為に幼稚園児からやり直すことになった俺】     【幼馴染の彼に好きって伝える為、幼稚園児からやり直す私】

極上イケメン先生が秘密の溺愛教育に熱心です

朝陽七彩
恋愛
 私は。 「夕鶴、こっちにおいで」  現役の高校生だけど。 「ずっと夕鶴とこうしていたい」  担任の先生と。 「夕鶴を誰にも渡したくない」  付き合っています。  ♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡  神城夕鶴(かみしろ ゆづる)  軽音楽部の絶対的エース  飛鷹隼理(ひだか しゅんり)  アイドル的存在の超イケメン先生  ♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡  彼の名前は飛鷹隼理くん。  隼理くんは。 「夕鶴にこうしていいのは俺だけ」  そう言って……。 「そんなにも可愛い声を出されたら……俺、止められないよ」  そして隼理くんは……。  ……‼  しゅっ……隼理くん……っ。  そんなことをされたら……。  隼理くんと過ごす日々はドキドキとわくわくの連続。  ……だけど……。  え……。  誰……?  誰なの……?  その人はいったい誰なの、隼理くん。  ドキドキとわくわくの連続だった私に突如現れた隼理くんへの疑惑。  その疑惑は次第に大きくなり、私の心の中を不安でいっぱいにさせる。  でも。  でも訊けない。  隼理くんに直接訊くことなんて。  私にはできない。  私は。  私は、これから先、一体どうすればいいの……?

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

旧校舎の地下室

守 秀斗
恋愛
高校のクラスでハブられている俺。この高校に友人はいない。そして、俺はクラスの美人女子高生の京野弘美に興味を持っていた。と言うか好きなんだけどな。でも、京野は美人なのに人気が無く、俺と同様ハブられていた。そして、ある日の放課後、京野に俺の恥ずかしい行為を見られてしまった。すると、京野はその事をバラさないかわりに、俺を旧校舎の地下室へ連れて行く。そこで、おかしなことを始めるのだったのだが……。

屈辱と愛情

守 秀斗
恋愛
最近、夫の態度がおかしいと思っている妻の名和志穂。25才。仕事で疲れているのかとそっとしておいたのだが、一か月もベッドで抱いてくれない。思い切って、夫に聞いてみると意外な事を言われてしまうのだが……。

屋上の合鍵

守 秀斗
恋愛
夫と家庭内離婚状態の進藤理央。二十五才。ある日、満たされない肉体を職場のビルの地下倉庫で慰めていると、それを同僚の鈴木哲也に見られてしまうのだが……。

処理中です...