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続々編-蒼き薔薇と不協和音-
第28話『赤と青』
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「おかえりなさいませ、ご主人様」
「た、ただいま」
トイレから出てきたときに、メイド服姿の女の子に微笑みながらおかえりと言われると何とも言えない気分になるな。家ならまだしも、ここは女子校だし。本人が楽しんでいるみたいだから、それでいいのかな。
「待っててくれてありがとう。1年2組の教室に戻ろうか」
「はい!」
僕らは階段を使って1年2組の教室のある8階へと昇っていく。階段から外の景色が見えると、この高さだと鏡原市の景色が見えるんだな。周りに住宅街が多いからか、結構広い景色を見ることができる。
「綺麗な景色だね」
「ええ。今日みたいに晴れている日は特に綺麗です。教室からの景色もなかなかですよ。そういえば、智也さん。さっき、トイレの案内の紙を見ていたときに、青薔薇が送ってきた2枚の赤い紙の読み解く鍵を見つけたと言っていましたよね」
「うん。合っているかどうかは分からないけどね。例の赤い紙は天羽女子の生徒のことを現していたんじゃないかなって。赤い色って女の子のことを指すじゃない。……このトイレ案内のようにね」
8階に到着し、階段の入り口に貼ってあるトイレ案内の紙の『女子トイレ』の部分を指さす。
「確かに、女子トイレは赤文字で書かれていますね。天羽女子高校は女子校ですから、生徒は女性しかいません。ですから、赤い紙で現していると。じゃあ、青い点が1つ打たれているということは……」
「……そう」
どうやら、美来は僕が言いたいことが分かったみたいだ。
僕は青い文字で『男子トイレ』と書かれてある部分を指さす。
「この天羽女子に1人、性別が男の生徒がいることになる」
「ということは、ただの赤い紙は本来の天羽女子の状態。青い点が1つ打たれている赤い紙は何らかの理由で、性別が男の人が1人天羽女子に在籍している現在の状態ということですか……」
「そういうこと。もちろん、この考えが正しいと分かったわけじゃないけどね」
「よく考えると、トイレ以外にも女性が赤、男性が青と表現されているのは多いですね。今まで全然気付きませんでした。ここは女子校ですし、生徒の性別に関するメッセージである確率はとても高い気がします」
「そうだね。メイド喫茶に戻ったら、さっそく羽賀にこのことを電話で伝えるよ」
「分かりました」
僕は美来と一緒にメイド喫茶に戻り、有紗さんと詩織ちゃんの待っているテーブルに戻る。
「ただいま戻りました」
「おかえり、智也君。遅かったけど、美来ちゃんと散歩してたの?」
「男性トイレが6階にありまして。あと、トイレに向かう途中で青薔薇が送ってきた例の赤い紙について、思いついたことがあるので、それを羽賀に電話で伝えます」
「おっ、智也君もあたしみたいに冴えたんだ」
「気になりますから、私達は静かに聞いていましょう」
スマートフォンを取り出して、僕は羽賀のスマートフォンに電話を掛ける。
『羽賀だ。どうかしたか?』
「例の2枚の赤い紙について、考えを思いついた。2枚の紙は性別を現しているんじゃないかなって。よく、駅やデパートのトイレとかでも、女性は赤で男性は青で表すことが多いよな?」
『確かに。……なるほど、性別か。ということは、赤い紙は天羽女子の生徒全員を表している可能性が高そうだ。ここは女子校だから』
「うん。そんな赤い紙の中に、青い点が1つ。つまり、男子生徒が1人いるんじゃないかなって考えているんだけど」
『……非常に興味深い考えだ。氷室の言うように、性別という考え方はいいアプローチかもしれない』
「だろう?」
『ああ。……氷室達が一緒であれば、青薔薇からのメッセージが解けそうな気がする。今から会議室に来てくれないだろうか?』
「いいけど、どうかしたのか?」
『例の500円玉の件から、花園千秋を最重要人物と考えて第1会議室に来てもらったのだ。ただ、彼女はメッセージを解けない限りは、我々に自分や会社について話すことはないとの一点張りでな。私や浅野さんはもちろん、同じ女子高生の明美さんからも説得したのだが、話してもらえない状態なのだ』
「そうか……」
花園さんのその言葉からして、彼女自身や彼女の家族が青薔薇のメッセージに関わっているのはほぼ確定だろう。
ただ、自分のことや家族のこと、会社のことを関わりが全然ない人間に話したくはないと花園さんは考えているのかも。羽賀や浅野さんは警察官だけど、ちゃんとした捜査ではなくて、休日に天羽祭に遊びに来たので、学校側にメッセージ解読の協力をしている状況だし。それもあって、話してもいい基準がメッセージの解読なんだと思う。
「分かった。今から有紗さんや詩織ちゃんと一緒にそっちに行くよ」
『ありがとう、助かる。では、第1会議室で待っているよ』
「ああ」
僕の方から通話を切った。
「今から3人で第1会議室に戻りましょう。そこには花園千秋さんがいて、どうやら彼女が今回の青薔薇の件について深く関わっているみたいですから」
「分かったわ」
「さっそく行きましょう!」
代金を支払うときに美来へ第1会議室に戻ることを伝えて、僕は有紗さんや詩織ちゃんと一緒にメイド喫茶を後にする。
第1会議室は2階なのでエレベーターで戻りたいけど、待っている人がたくさんいたので、階段で2階へ向かうことに。
「2枚の紙、性別が関わっていることは思いつかなかったな」
「思い返してみれば、見分けが付きやすくするために、性別で色を変えますね。女性が赤で男性が青のパターンが一番多いかも。私も全然気付きませんでした」
「さっき、このトイレ案内の紙を見たときに気付いたんです」
「なるほどね」
螺旋のような形の階段なので、たまに何階まで降りたのか分からなくなるけど、無事に2階まで到着した。下りでも8階から2階まで降りると疲れるな。
僕らは第1会議室の方に向かって歩いていく。2階は職員室や会議室なので、生徒や来客の姿はあまりない。
「智也さん!」
後ろから美来の声が聞こえたので振り返ると、制服姿の美来が勢いよく走ってきて、僕の腕をぎゅっと掴んできた。
「美来ちゃん、どうしたの? さっきまでメイドさんをしていたのに。確か、まだメイドの接客時間は終わってなかったんじゃない?」
「はあっ、はあっ……智也さん達のことが気になってしまって。乃愛ちゃんや亜依ちゃんに話して抜けてきました。真面目な場にメイド服はいけないと思って、制服姿に素早く着替えてきました。なので、さすがに息が乱れちゃいました」
「ふふっ、そこまで急がなくていいのに。でも、大好きな彼氏の氷室さんとは1秒でも長くいたいよね」
「そういうことだよ、詩織ちゃん。さあ、行きましょう、智也さん」
「……そうだね」
この子が一緒なら、何か事実が分かるかもしれないし。
僕ら4人は羽賀や花園さんが待っている第1会議室に入る。そこには羽賀と浅野さん、明美ちゃん、鯛焼きを食べている岡村、花園さんがいた。
「氷室、戻ってきてくれたのか」
「ああ」
「美来さんもいるのか。制服姿に戻っているがクラスの方は大丈夫なのか?」
「ええ。今日のメイド接客は終わりましたから」
「そういうことか。メイドの方、お疲れ様」
「……あっ、岡村も戻っていたんだな」
「ああ。15分くらい前にな。羽賀達はここでメッセージの解読を頑張っているだろうから、屋台で色々と買って差し入れをしに来たんだよ。そうしたら、花園ちゃんだっけ。彼女が今みたいに静かな様子で座っていてさ」
「そうだったのか」
そういえば、岡村も学生時代は飲み物とかお菓子を買ってくれたことがあったな。たまに、新発売のものを一緒に毒味しようとか言ってきたけど。
僕は花園さんの前に立ち、
「僕に……話してくれるかな。自分や家族、会社のこととか」
「……ごめんなさい。今の段階ではお話しできません」
「……そっか。分かった」
警察官である羽賀や浅野さんでもダメだったんだから、僕でもダメだよな。花園さんは俯いている。
「花園化粧品の金銭関係については、警視庁で働く知り合いの警察官に頼んで調べてもらっている。その方はかなりのやり手なので、きっと何か事実を掴めるだろう。私達はまず、青薔薇が送ってきた2枚の赤い紙について解こう」
「ああ。さっきも言ったとおり、色は性別を表していると考えている」
「性別なら赤が女性で、青が男性だろう。赤い紙が女子校の天羽女子を表していると考えるのが自然か。この2枚が時間の変化を表しているなら、過去がまっさらな赤い紙で、現在が青い点が1つ打たれた方の紙だろうな」
「ああ。学年は分からないけど、あるタイミングで女性と偽って男子生徒が1人したことになる」
「ただ、それだと学校側は男性が入学していることを黙認していることになる。つまり、職員の中にそのことを知っている人がいる。それなら、青薔薇はこの文書に生徒や職員は何も悪くないと書くだろうか? 何らかの理由で脅されて入学を許可したのなら、同情の意味を込めて職員は悪くないと書いた可能性はあるが」
「それでも、本来は女性しか入学できない高校に、男性を入学したことになる。今までの青薔薇からして、職員は悪くないって書くかなぁ」
今までの青薔薇からして、悪行を働いた人や組織に同情をするとは思えない。むしろ、反論をさせないために、証拠や証言をきっちりと揃えているイメージがあるほどだ。
「氷室の考えは一理あるな。……この2枚の赤い紙、時間の変化による出来事ではないかもしれないな。ある2つの事柄について、天羽女子の全校生徒の性別を1枚の紙で表しているとも考えられる」
「なるほど。考えられるのは心と体かな……」
「私も同じことを考えた。もしそうなら天羽女子に通っている1人の生徒は、心と体の性別に違いがある。体が男性なら、戸籍上も男性であるから、生徒や職員は悪くないと青薔薇が書くのは不自然だろう」
「つまり、体が女性で、心が男性ってことになるか。これなら戸籍上は女性として生きていて、正式に入試を受けることもできるし、合格すれば入学できるからね」
「そうだな。……花園さん。今の氷室と私の話を聞いていただろう。……君は体が女性だが、心は男性である。どうだろうか?」
羽賀が花園さんにそう問いかけると、花園さんはゆっくりと顔を上げて僕らに切なげな笑みを見せてきた。
「2枚の赤い紙のメッセージが解けたのですから、お話ししましょう。羽賀さん、氷室さん。その通りです。私は、体は女性ですが心は男性なのです」
「た、ただいま」
トイレから出てきたときに、メイド服姿の女の子に微笑みながらおかえりと言われると何とも言えない気分になるな。家ならまだしも、ここは女子校だし。本人が楽しんでいるみたいだから、それでいいのかな。
「待っててくれてありがとう。1年2組の教室に戻ろうか」
「はい!」
僕らは階段を使って1年2組の教室のある8階へと昇っていく。階段から外の景色が見えると、この高さだと鏡原市の景色が見えるんだな。周りに住宅街が多いからか、結構広い景色を見ることができる。
「綺麗な景色だね」
「ええ。今日みたいに晴れている日は特に綺麗です。教室からの景色もなかなかですよ。そういえば、智也さん。さっき、トイレの案内の紙を見ていたときに、青薔薇が送ってきた2枚の赤い紙の読み解く鍵を見つけたと言っていましたよね」
「うん。合っているかどうかは分からないけどね。例の赤い紙は天羽女子の生徒のことを現していたんじゃないかなって。赤い色って女の子のことを指すじゃない。……このトイレ案内のようにね」
8階に到着し、階段の入り口に貼ってあるトイレ案内の紙の『女子トイレ』の部分を指さす。
「確かに、女子トイレは赤文字で書かれていますね。天羽女子高校は女子校ですから、生徒は女性しかいません。ですから、赤い紙で現していると。じゃあ、青い点が1つ打たれているということは……」
「……そう」
どうやら、美来は僕が言いたいことが分かったみたいだ。
僕は青い文字で『男子トイレ』と書かれてある部分を指さす。
「この天羽女子に1人、性別が男の生徒がいることになる」
「ということは、ただの赤い紙は本来の天羽女子の状態。青い点が1つ打たれている赤い紙は何らかの理由で、性別が男の人が1人天羽女子に在籍している現在の状態ということですか……」
「そういうこと。もちろん、この考えが正しいと分かったわけじゃないけどね」
「よく考えると、トイレ以外にも女性が赤、男性が青と表現されているのは多いですね。今まで全然気付きませんでした。ここは女子校ですし、生徒の性別に関するメッセージである確率はとても高い気がします」
「そうだね。メイド喫茶に戻ったら、さっそく羽賀にこのことを電話で伝えるよ」
「分かりました」
僕は美来と一緒にメイド喫茶に戻り、有紗さんと詩織ちゃんの待っているテーブルに戻る。
「ただいま戻りました」
「おかえり、智也君。遅かったけど、美来ちゃんと散歩してたの?」
「男性トイレが6階にありまして。あと、トイレに向かう途中で青薔薇が送ってきた例の赤い紙について、思いついたことがあるので、それを羽賀に電話で伝えます」
「おっ、智也君もあたしみたいに冴えたんだ」
「気になりますから、私達は静かに聞いていましょう」
スマートフォンを取り出して、僕は羽賀のスマートフォンに電話を掛ける。
『羽賀だ。どうかしたか?』
「例の2枚の赤い紙について、考えを思いついた。2枚の紙は性別を現しているんじゃないかなって。よく、駅やデパートのトイレとかでも、女性は赤で男性は青で表すことが多いよな?」
『確かに。……なるほど、性別か。ということは、赤い紙は天羽女子の生徒全員を表している可能性が高そうだ。ここは女子校だから』
「うん。そんな赤い紙の中に、青い点が1つ。つまり、男子生徒が1人いるんじゃないかなって考えているんだけど」
『……非常に興味深い考えだ。氷室の言うように、性別という考え方はいいアプローチかもしれない』
「だろう?」
『ああ。……氷室達が一緒であれば、青薔薇からのメッセージが解けそうな気がする。今から会議室に来てくれないだろうか?』
「いいけど、どうかしたのか?」
『例の500円玉の件から、花園千秋を最重要人物と考えて第1会議室に来てもらったのだ。ただ、彼女はメッセージを解けない限りは、我々に自分や会社について話すことはないとの一点張りでな。私や浅野さんはもちろん、同じ女子高生の明美さんからも説得したのだが、話してもらえない状態なのだ』
「そうか……」
花園さんのその言葉からして、彼女自身や彼女の家族が青薔薇のメッセージに関わっているのはほぼ確定だろう。
ただ、自分のことや家族のこと、会社のことを関わりが全然ない人間に話したくはないと花園さんは考えているのかも。羽賀や浅野さんは警察官だけど、ちゃんとした捜査ではなくて、休日に天羽祭に遊びに来たので、学校側にメッセージ解読の協力をしている状況だし。それもあって、話してもいい基準がメッセージの解読なんだと思う。
「分かった。今から有紗さんや詩織ちゃんと一緒にそっちに行くよ」
『ありがとう、助かる。では、第1会議室で待っているよ』
「ああ」
僕の方から通話を切った。
「今から3人で第1会議室に戻りましょう。そこには花園千秋さんがいて、どうやら彼女が今回の青薔薇の件について深く関わっているみたいですから」
「分かったわ」
「さっそく行きましょう!」
代金を支払うときに美来へ第1会議室に戻ることを伝えて、僕は有紗さんや詩織ちゃんと一緒にメイド喫茶を後にする。
第1会議室は2階なのでエレベーターで戻りたいけど、待っている人がたくさんいたので、階段で2階へ向かうことに。
「2枚の紙、性別が関わっていることは思いつかなかったな」
「思い返してみれば、見分けが付きやすくするために、性別で色を変えますね。女性が赤で男性が青のパターンが一番多いかも。私も全然気付きませんでした」
「さっき、このトイレ案内の紙を見たときに気付いたんです」
「なるほどね」
螺旋のような形の階段なので、たまに何階まで降りたのか分からなくなるけど、無事に2階まで到着した。下りでも8階から2階まで降りると疲れるな。
僕らは第1会議室の方に向かって歩いていく。2階は職員室や会議室なので、生徒や来客の姿はあまりない。
「智也さん!」
後ろから美来の声が聞こえたので振り返ると、制服姿の美来が勢いよく走ってきて、僕の腕をぎゅっと掴んできた。
「美来ちゃん、どうしたの? さっきまでメイドさんをしていたのに。確か、まだメイドの接客時間は終わってなかったんじゃない?」
「はあっ、はあっ……智也さん達のことが気になってしまって。乃愛ちゃんや亜依ちゃんに話して抜けてきました。真面目な場にメイド服はいけないと思って、制服姿に素早く着替えてきました。なので、さすがに息が乱れちゃいました」
「ふふっ、そこまで急がなくていいのに。でも、大好きな彼氏の氷室さんとは1秒でも長くいたいよね」
「そういうことだよ、詩織ちゃん。さあ、行きましょう、智也さん」
「……そうだね」
この子が一緒なら、何か事実が分かるかもしれないし。
僕ら4人は羽賀や花園さんが待っている第1会議室に入る。そこには羽賀と浅野さん、明美ちゃん、鯛焼きを食べている岡村、花園さんがいた。
「氷室、戻ってきてくれたのか」
「ああ」
「美来さんもいるのか。制服姿に戻っているがクラスの方は大丈夫なのか?」
「ええ。今日のメイド接客は終わりましたから」
「そういうことか。メイドの方、お疲れ様」
「……あっ、岡村も戻っていたんだな」
「ああ。15分くらい前にな。羽賀達はここでメッセージの解読を頑張っているだろうから、屋台で色々と買って差し入れをしに来たんだよ。そうしたら、花園ちゃんだっけ。彼女が今みたいに静かな様子で座っていてさ」
「そうだったのか」
そういえば、岡村も学生時代は飲み物とかお菓子を買ってくれたことがあったな。たまに、新発売のものを一緒に毒味しようとか言ってきたけど。
僕は花園さんの前に立ち、
「僕に……話してくれるかな。自分や家族、会社のこととか」
「……ごめんなさい。今の段階ではお話しできません」
「……そっか。分かった」
警察官である羽賀や浅野さんでもダメだったんだから、僕でもダメだよな。花園さんは俯いている。
「花園化粧品の金銭関係については、警視庁で働く知り合いの警察官に頼んで調べてもらっている。その方はかなりのやり手なので、きっと何か事実を掴めるだろう。私達はまず、青薔薇が送ってきた2枚の赤い紙について解こう」
「ああ。さっきも言ったとおり、色は性別を表していると考えている」
「性別なら赤が女性で、青が男性だろう。赤い紙が女子校の天羽女子を表していると考えるのが自然か。この2枚が時間の変化を表しているなら、過去がまっさらな赤い紙で、現在が青い点が1つ打たれた方の紙だろうな」
「ああ。学年は分からないけど、あるタイミングで女性と偽って男子生徒が1人したことになる」
「ただ、それだと学校側は男性が入学していることを黙認していることになる。つまり、職員の中にそのことを知っている人がいる。それなら、青薔薇はこの文書に生徒や職員は何も悪くないと書くだろうか? 何らかの理由で脅されて入学を許可したのなら、同情の意味を込めて職員は悪くないと書いた可能性はあるが」
「それでも、本来は女性しか入学できない高校に、男性を入学したことになる。今までの青薔薇からして、職員は悪くないって書くかなぁ」
今までの青薔薇からして、悪行を働いた人や組織に同情をするとは思えない。むしろ、反論をさせないために、証拠や証言をきっちりと揃えているイメージがあるほどだ。
「氷室の考えは一理あるな。……この2枚の赤い紙、時間の変化による出来事ではないかもしれないな。ある2つの事柄について、天羽女子の全校生徒の性別を1枚の紙で表しているとも考えられる」
「なるほど。考えられるのは心と体かな……」
「私も同じことを考えた。もしそうなら天羽女子に通っている1人の生徒は、心と体の性別に違いがある。体が男性なら、戸籍上も男性であるから、生徒や職員は悪くないと青薔薇が書くのは不自然だろう」
「つまり、体が女性で、心が男性ってことになるか。これなら戸籍上は女性として生きていて、正式に入試を受けることもできるし、合格すれば入学できるからね」
「そうだな。……花園さん。今の氷室と私の話を聞いていただろう。……君は体が女性だが、心は男性である。どうだろうか?」
羽賀が花園さんにそう問いかけると、花園さんはゆっくりと顔を上げて僕らに切なげな笑みを見せてきた。
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