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続々編-蒼き薔薇と不協和音-
第29話『わたしという人』
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青薔薇が送ってきた2枚の赤い紙については、天羽女子高校に通っている花園千秋さんが、体は女性だけれど心が男性であることを示していた。
「心と体が違う人が世の中にいることは分かっているけど、こうして実際に見るのは25年の人生で初めてだよ。ただ、昨日も焼きそばの売り子さんをしている花園さんと話したけど、男性っぽい感じは全くしなかったよ」
「私もさっきから見ているけれど、男性のだの字も感じなかったよ、お姉ちゃん。美来ちゃんや詩織ちゃんもそう思わない?」
「そうですね。とても可愛らしくて、柔らかい感じの女性な気がしましたね」
「女性よりも女性らしい感じがするよね、美来ちゃん」
「いやぁ、世の中分からねえなぁ。今の羽賀と氷室の話を聞いても、俺には花園ちゃんが女性としか思えない。体が女性だからかもしれないけどよ」
みんな、花園さんの心が男性であることが信じられないようだ。僕も花園さんのことはとても綺麗で柔らかい雰囲気の女性だと思っているし、昨日、有紗さんが花園さんのことを天使だと言ったのも納得できる。
「男性には見えない、か……」
花園さんは静かに微笑みながらそう呟く。どうやら、彼女の心と体の事情は単純なものではなさそうだ。
「花園さん。青薔薇が君の心や体の性別についてメッセージを送ってきたってことは、何か事情があるんじゃないかな。こんなことを言っていいのか分からないけど、例えば……生まれながらにして性差があるわけじゃないとか」
「確かに、氷室の言う通りだな。生まれながらのことであれば、青薔薇がこのことをメッセージで送るとは思えない。戸籍上は女性で、天羽女子には正式に入学できるわけだからな」
「……凄いですね。氷室さん、羽賀さん」
ふっ、と花園さんは声に出して笑い、両眼に涙を浮かべる。
「私は生まれたとき、心も体も男性でした。ですが、幼い頃に……自分の意志とは関係なく、性転換手術を受けたことによって、戸籍上は女性になったんです」
「なるほど。ただ、日本では戸籍上の性別の変更は20歳以上でないとできないが」
「生まれてから小学校に入学する直前までは海外に住んでいましたので。もちろん、花園化粧品の社長っていう母親の力があってできたことでもあると思います」
「そうか……」
自分の意志とは関係なく性転換手術をさせられてしまうとは。その話を聞いた僕でさえも胸が痛むんだから、花園さん自身がそのことを知ったときは、きっと計り知れないほどの苦しみがあったんじゃないだろうか。
「辛いことを訊くけど、花園さんはそのことはいつ知ったのかな」
「性転換手術については小さい頃から知っていました。手術以降も定期的にホルモン治療などをしていましたので。小学生の間でしょうか。どうして自分は他の子とは違って病院通いなのか両親に訊いてみたんです。そのときは、男性の生殖器に病気があるという理由でした。それを除去したのだから、女性として生きた方が幸せだということで、戸籍上の性別を女性にしたと」
「そうなんだ」
それが理由であれば、まだ理解もできるし、受け入れられるかもしれないな。
「本当の理由はどんなことだったの?」
「……氷室さんや羽賀さんは男性ですし、花園化粧品のことを詳しく知らないかもしれません。うちの会社は代々、花園家の女性が社長を受け継ぐ決まりになっているんです」
「花園家の女性……まさか」
「ええ。私が生まれた直後、母・花園雪子は子宮の病気を患い、すぐに摘出しなければ命が危うくなる状況でした。ですので、母は摘出手術を受け成功しました。健康になりましたが、子供の産めない体になってしまいました。母には姉妹がいません。社長としての役目の一つは後継ぎを産むこと。ですから、母は私を女性にして「後継ぎ」を作ったんです」
「だから、花園さんは自分の意志とは関係なく性転換手術を受けたって言ったのね。でも、酷すぎるよ……」
有紗さんは悔しそうな表情を浮かべながらそう言う。それは妹の明美ちゃんや詩織ちゃんも同じだった。ひょうきんな岡村も今はさすがに真剣な表情をしていた。
「しかし、花園さん。今さらではあるが、それだといずれは一族による経営はできなくなるのでは? 長くとも、君で途切れることになる」
「そうですね。しかし、母は自分にお金が入ること。そして、自分が歳を重ねたら『娘』に社長を引き継ぐこと。そうすれば社長としての役目が終わるから、会社の経営から一切を退くと言っています。悪く言えば、後継者を作ってその人に引き継いだ後はどうでもいいというスタンスでしょう」
「そうか……」
「……それらの事実がショックすぎて、いつどうやって知ったか思い出せないです。中学以降だったとは思いますが。母にこのことについて問い詰めましたが、今さらこの事実は変えられない。それに、あなたは将来、社長として生きていく道ができているのだから、自分の体のことは伏せて女性として生き続ければいいと言われました」
「そうだったのか。……親とは何なのだろうな」
はあっ……と羽賀は珍しく大きなため息をついた。
花園雪子が子供である花園千秋にしたことは、親としてはもちろん、人としても考えられないことだ。病気になって子供ができなくなった体とはいえ、後継ぎを作るために男性だった花園さんを女性にしてしまうなんて。
「花園さん。僕、実は赤城さんの告白の話を美来から聞いていたんだ。赤城さんから相談されたんだって。2週間くらい前に花園さんに告白してから、花園さんとの距離ができたって。それも体のことが関係しているのかな」
「……そうです。心が男性であり、体も元男性であることを隠し続けていますから、友人ならまだしも恋人になるのは心苦しくて。……そっか。準備の日に朝比奈さんが乃愛ちゃんと一緒に私のことを見に来たのは、美春ちゃんに告白のことで相談されていたからだったんだね」
「……ええ。一度、先輩のことを見てみたくなって」
「やっぱりね。今週になって返事はいつでもいいって言ってくれたのも、朝比奈さん達に相談していたからか。ほっとしたけど、美春ちゃんに申し訳ない気持ちにもなったよ。ただ、私も美春ちゃんのことが好きだから、一緒に文化祭の準備をすると凄く楽しくてね。そんな彼女と天羽女子に入学したときに出会って、救われた気がするよ」
花園さんの涙は収まり、とても可愛らしい笑みを浮かべる。きっと、花園さんにとって赤城さんはとても大きな存在なのだろう。
「ただ、これまでの花園さんの話を聞くと、彼女は被害者だ。体を男性から女性にしたのは母親である花園雪子の身勝手な理由とはいえ、それを示すメッセージを大々的に送りつけるだろうか。いくら、これまでに多くの不正や犯罪を暴いた青薔薇も、花園さんの心情や今後のことを考えたら、このような方法は取らないと思うのだが」
「確かに、花園雪子が子供の花園さんに行なったことはひどいことで、法的な処罰や社会的制裁を受けるべきだろうね。ただ、その内容が心と体の性別のことでもあるし、ここは女子校。公表することで花園さんにも何かしらの影響はありそうだ。マスコミがしつこく追跡するかもしれないし」
「氷室の言う通りだな。ただ、実際にこうしてメッセージが公表されている。考えられるとすれば、青薔薇が花園さんにこのことを、2枚の赤い紙で公表していいと許可をもらっているということか」
花園さんへの影響を考えれば、羽賀の推理通り、青薔薇と花園さんは事前に面識があり、今回のことについて話し合っていた可能性は高そうだ。
「でも、羽賀さん。青薔薇は正体不明の怪人だって言われているのよ。自分の正体を隠すために姿や声を変えられるって。そんな人が自ら花園さんに会いに行く?」
「ただ、青薔薇には協力者がいるという噂もあります。今回の場合、その協力者の一人が花園さんとも考えることもできますよ、月村さん。それなら、花園さんに会っているのは自然だと思います。もちろん、そのときは誰かに変装しているかもしれませんが」
「なるほど……」
それでも、有紗さんはどこか信じられない様子。
まあ、いい機会だ。僕も気になっていたことがあるから、それを含めてあの人に訊いてみることにしよう。
「じゃあ、本人に確認すればいいじゃないか」
「何を言っているんだ、氷室」
「言葉通りの意味だよ。もし、そこにいるのが青薔薇だったらの話だけど」
すると、僕は美来の姿をした人の目の前に立ち、
「あなた、美来じゃないですよね」
逃がさないためにも僕は両肩をしっかりと掴む。
すると、美来の姿をした人はにっこりと笑顔を浮かべて、
「何を言っているんですか、智也さん。私はあなたと結婚前提に付き合っている恋人の朝比奈美来ですよ。姿も声も私のままでしょう?」
「あたしも美来ちゃんにしか思えないけれど……」
「私も美来さんとしか思えないが」
「俺も朝比奈ちゃんにしか思えないぜ! めっちゃ可愛いもん!」
「私も美来ちゃんのような気がしますが。昨日、久しぶりに会いましたけど、本物な気がします」
「みなさんの言う通りですよ。私、智也さんとキスだってできますよ?」
「……それは光栄なことですね」
「もし、変装だとして、その方が男性なら興奮してしまいますね」
まあ、僕は本物の美来としかキスをするつもりはないけれど。あと、浅野さんは相変わらず興奮しやすい人だな。
「では、氷室は何をきっかけに、そこにいる彼女が本物の美来さんではないと思ったのだ?」
「この会議室に入る直前、彼女に腕を抱きしめられたんだけど、そのときに感じた匂いが美来とは全然違ったんだ。あと、これは言っていいのか分からないけれど、腕に感じる胸の柔らかさとか」
「なるほど、恋人だからこそ気付けることか」
「普段から一緒に寝ているし、お風呂に入ることも多いからね。ただ、そんな美来に変装するってことは、何か理由があると思って気付かないふりをして一緒に会議室に入ったんだ。きっと、変装しているのは、姿や声まで瓜二つに似せることのできる青薔薇だと思うけど。青薔薇は昨日から、花園さんのことを見守っていたんじゃないかな。ただ、ここには羽賀や浅野さんの知り合いしか入れないから、美来に変装してメイド喫茶から戻った僕達と一緒に入ったんじゃないかな。花園さんの側にいるために」
花園さんに関するメッセージを学校側に出した以上、今日はできるだけ彼女の側にいると決めたのだろう。
「……ふふっ。まさか、匂いや胸の柔らかさで気付かれるなんて。さすがは朝比奈美来の恋人だけあるね」
すると、美来の顔で爽やかな笑みを浮かべて、
「氷室智也の言う通り。私は朝比奈美来じゃないよ。花園千秋さん以外は会うのが初めてだから、自己紹介しましょうか。初めまして、青薔薇といいます」
「心と体が違う人が世の中にいることは分かっているけど、こうして実際に見るのは25年の人生で初めてだよ。ただ、昨日も焼きそばの売り子さんをしている花園さんと話したけど、男性っぽい感じは全くしなかったよ」
「私もさっきから見ているけれど、男性のだの字も感じなかったよ、お姉ちゃん。美来ちゃんや詩織ちゃんもそう思わない?」
「そうですね。とても可愛らしくて、柔らかい感じの女性な気がしましたね」
「女性よりも女性らしい感じがするよね、美来ちゃん」
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みんな、花園さんの心が男性であることが信じられないようだ。僕も花園さんのことはとても綺麗で柔らかい雰囲気の女性だと思っているし、昨日、有紗さんが花園さんのことを天使だと言ったのも納得できる。
「男性には見えない、か……」
花園さんは静かに微笑みながらそう呟く。どうやら、彼女の心と体の事情は単純なものではなさそうだ。
「花園さん。青薔薇が君の心や体の性別についてメッセージを送ってきたってことは、何か事情があるんじゃないかな。こんなことを言っていいのか分からないけど、例えば……生まれながらにして性差があるわけじゃないとか」
「確かに、氷室の言う通りだな。生まれながらのことであれば、青薔薇がこのことをメッセージで送るとは思えない。戸籍上は女性で、天羽女子には正式に入学できるわけだからな」
「……凄いですね。氷室さん、羽賀さん」
ふっ、と花園さんは声に出して笑い、両眼に涙を浮かべる。
「私は生まれたとき、心も体も男性でした。ですが、幼い頃に……自分の意志とは関係なく、性転換手術を受けたことによって、戸籍上は女性になったんです」
「なるほど。ただ、日本では戸籍上の性別の変更は20歳以上でないとできないが」
「生まれてから小学校に入学する直前までは海外に住んでいましたので。もちろん、花園化粧品の社長っていう母親の力があってできたことでもあると思います」
「そうか……」
自分の意志とは関係なく性転換手術をさせられてしまうとは。その話を聞いた僕でさえも胸が痛むんだから、花園さん自身がそのことを知ったときは、きっと計り知れないほどの苦しみがあったんじゃないだろうか。
「辛いことを訊くけど、花園さんはそのことはいつ知ったのかな」
「性転換手術については小さい頃から知っていました。手術以降も定期的にホルモン治療などをしていましたので。小学生の間でしょうか。どうして自分は他の子とは違って病院通いなのか両親に訊いてみたんです。そのときは、男性の生殖器に病気があるという理由でした。それを除去したのだから、女性として生きた方が幸せだということで、戸籍上の性別を女性にしたと」
「そうなんだ」
それが理由であれば、まだ理解もできるし、受け入れられるかもしれないな。
「本当の理由はどんなことだったの?」
「……氷室さんや羽賀さんは男性ですし、花園化粧品のことを詳しく知らないかもしれません。うちの会社は代々、花園家の女性が社長を受け継ぐ決まりになっているんです」
「花園家の女性……まさか」
「ええ。私が生まれた直後、母・花園雪子は子宮の病気を患い、すぐに摘出しなければ命が危うくなる状況でした。ですので、母は摘出手術を受け成功しました。健康になりましたが、子供の産めない体になってしまいました。母には姉妹がいません。社長としての役目の一つは後継ぎを産むこと。ですから、母は私を女性にして「後継ぎ」を作ったんです」
「だから、花園さんは自分の意志とは関係なく性転換手術を受けたって言ったのね。でも、酷すぎるよ……」
有紗さんは悔しそうな表情を浮かべながらそう言う。それは妹の明美ちゃんや詩織ちゃんも同じだった。ひょうきんな岡村も今はさすがに真剣な表情をしていた。
「しかし、花園さん。今さらではあるが、それだといずれは一族による経営はできなくなるのでは? 長くとも、君で途切れることになる」
「そうですね。しかし、母は自分にお金が入ること。そして、自分が歳を重ねたら『娘』に社長を引き継ぐこと。そうすれば社長としての役目が終わるから、会社の経営から一切を退くと言っています。悪く言えば、後継者を作ってその人に引き継いだ後はどうでもいいというスタンスでしょう」
「そうか……」
「……それらの事実がショックすぎて、いつどうやって知ったか思い出せないです。中学以降だったとは思いますが。母にこのことについて問い詰めましたが、今さらこの事実は変えられない。それに、あなたは将来、社長として生きていく道ができているのだから、自分の体のことは伏せて女性として生き続ければいいと言われました」
「そうだったのか。……親とは何なのだろうな」
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花園雪子が子供である花園千秋にしたことは、親としてはもちろん、人としても考えられないことだ。病気になって子供ができなくなった体とはいえ、後継ぎを作るために男性だった花園さんを女性にしてしまうなんて。
「花園さん。僕、実は赤城さんの告白の話を美来から聞いていたんだ。赤城さんから相談されたんだって。2週間くらい前に花園さんに告白してから、花園さんとの距離ができたって。それも体のことが関係しているのかな」
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「……ええ。一度、先輩のことを見てみたくなって」
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花園さんの涙は収まり、とても可愛らしい笑みを浮かべる。きっと、花園さんにとって赤城さんはとても大きな存在なのだろう。
「ただ、これまでの花園さんの話を聞くと、彼女は被害者だ。体を男性から女性にしたのは母親である花園雪子の身勝手な理由とはいえ、それを示すメッセージを大々的に送りつけるだろうか。いくら、これまでに多くの不正や犯罪を暴いた青薔薇も、花園さんの心情や今後のことを考えたら、このような方法は取らないと思うのだが」
「確かに、花園雪子が子供の花園さんに行なったことはひどいことで、法的な処罰や社会的制裁を受けるべきだろうね。ただ、その内容が心と体の性別のことでもあるし、ここは女子校。公表することで花園さんにも何かしらの影響はありそうだ。マスコミがしつこく追跡するかもしれないし」
「氷室の言う通りだな。ただ、実際にこうしてメッセージが公表されている。考えられるとすれば、青薔薇が花園さんにこのことを、2枚の赤い紙で公表していいと許可をもらっているということか」
花園さんへの影響を考えれば、羽賀の推理通り、青薔薇と花園さんは事前に面識があり、今回のことについて話し合っていた可能性は高そうだ。
「でも、羽賀さん。青薔薇は正体不明の怪人だって言われているのよ。自分の正体を隠すために姿や声を変えられるって。そんな人が自ら花園さんに会いに行く?」
「ただ、青薔薇には協力者がいるという噂もあります。今回の場合、その協力者の一人が花園さんとも考えることもできますよ、月村さん。それなら、花園さんに会っているのは自然だと思います。もちろん、そのときは誰かに変装しているかもしれませんが」
「なるほど……」
それでも、有紗さんはどこか信じられない様子。
まあ、いい機会だ。僕も気になっていたことがあるから、それを含めてあの人に訊いてみることにしよう。
「じゃあ、本人に確認すればいいじゃないか」
「何を言っているんだ、氷室」
「言葉通りの意味だよ。もし、そこにいるのが青薔薇だったらの話だけど」
すると、僕は美来の姿をした人の目の前に立ち、
「あなた、美来じゃないですよね」
逃がさないためにも僕は両肩をしっかりと掴む。
すると、美来の姿をした人はにっこりと笑顔を浮かべて、
「何を言っているんですか、智也さん。私はあなたと結婚前提に付き合っている恋人の朝比奈美来ですよ。姿も声も私のままでしょう?」
「あたしも美来ちゃんにしか思えないけれど……」
「私も美来さんとしか思えないが」
「俺も朝比奈ちゃんにしか思えないぜ! めっちゃ可愛いもん!」
「私も美来ちゃんのような気がしますが。昨日、久しぶりに会いましたけど、本物な気がします」
「みなさんの言う通りですよ。私、智也さんとキスだってできますよ?」
「……それは光栄なことですね」
「もし、変装だとして、その方が男性なら興奮してしまいますね」
まあ、僕は本物の美来としかキスをするつもりはないけれど。あと、浅野さんは相変わらず興奮しやすい人だな。
「では、氷室は何をきっかけに、そこにいる彼女が本物の美来さんではないと思ったのだ?」
「この会議室に入る直前、彼女に腕を抱きしめられたんだけど、そのときに感じた匂いが美来とは全然違ったんだ。あと、これは言っていいのか分からないけれど、腕に感じる胸の柔らかさとか」
「なるほど、恋人だからこそ気付けることか」
「普段から一緒に寝ているし、お風呂に入ることも多いからね。ただ、そんな美来に変装するってことは、何か理由があると思って気付かないふりをして一緒に会議室に入ったんだ。きっと、変装しているのは、姿や声まで瓜二つに似せることのできる青薔薇だと思うけど。青薔薇は昨日から、花園さんのことを見守っていたんじゃないかな。ただ、ここには羽賀や浅野さんの知り合いしか入れないから、美来に変装してメイド喫茶から戻った僕達と一緒に入ったんじゃないかな。花園さんの側にいるために」
花園さんに関するメッセージを学校側に出した以上、今日はできるだけ彼女の側にいると決めたのだろう。
「……ふふっ。まさか、匂いや胸の柔らかさで気付かれるなんて。さすがは朝比奈美来の恋人だけあるね」
すると、美来の顔で爽やかな笑みを浮かべて、
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