アリア

桜庭かなめ

文字の大きさ
286 / 292
続々編-蒼き薔薇と不協和音-

第34話『声楽部コンサート-2日目-』

しおりを挟む
 花園雪子達が逮捕されたこともあり、校門近くでは騒ぎになっていた。
 ただ、青薔薇が青山先生に託したメッセージを、校長先生が校門の周りにいるマスコミの前で発表することによって、その騒ぎはすぐに収まった。
 また、天羽祭もこのまま通常通りに行なうと校内放送で発表された。


 気付けば、午後1時過ぎに。
 今日も午後2時から声楽部コンサートがあるので、美来や乃愛ちゃんとは一旦お別れ。昨日のコンサートが良かったので楽しみだ。
 午後2時近くまで、僕らは屋台に行くことに。そのとき、花園さんと赤城さんが付き合い始めたことに深く感動したこともあり、岡村が全て奢ると言い出した。さすがに、全員分を払わせるのは負担が大きいと思い、僕の分は自分で払うことにした。


 昨日と同じように少し早めに会場である体育館に行き、声楽部の前にやっている落語研究会による落語を聴くことに。今日も相変わらず有紗さんと岡村は爆笑していた。
 落語研究会の演目が終わり、僕らはすぐに前の方の席を確保。今日も美来達の姿をハッキリと見ながらコンサートを楽しむことができそうだ。


 午後2時。
 会場の照明が全て消え、それから程なくしてステージのみ明るくなる。昨日と同じように、ステージには声楽部の部員7人全員と、指揮棒を持つ顧問の先生が立っていた。
 最初の合唱曲は昨日と同じ楽曲だ。個人的には好きな曲なので、また今日も聴くことができることに嬉しく思う。
 今日は青薔薇のことなどで色々とあったけれど、美来や乃愛ちゃんも含めてみんな伸びやかな声を出すことができている。
 1曲目が終わり、昨日と同じように花音ちゃんがスタッフの女子生徒からマイクを受け取る。

「こんにちはー! 声楽部でーす! みなさん、天羽祭2日目も盛り上がっていますかー!」
『いぇーい!』
「今日もみなさんいい声出してますね! 昨日のコンサートの後に、まさか青薔薇からメッセージが届いてしまうとは、世の中分からないものですね。声楽部はこのコンサートのために、たくさんの曲を用意し、たくさん練習してきました。昨日とは少し違うセットリストになっているので、昨日来ていただいた方も楽しめる内容になっています。天羽祭はもう終盤ですが、コンサートを含め最後まで楽しんでいってください! あと、昨日は投票ありがとうございました! みなさんのおかげで部活部門で1位になりました!」
『おおっ!』
「今日も精一杯歌います! いいなと思ったら、コンサート後に是非、声楽部に投票していってくださいね! では、もう1曲みんなで歌います!」

 花音ちゃんによる冒頭の挨拶が終わると、会場から拍手が巻き起こる。今日も彼女のトークは安定している。
 それから程なくして2曲目の合唱曲が始まる。その曲は昨日と違ったけれど、学生の合唱曲としては定番なので、僕も当時のことを思い出した。後ろから岡村が何度も「懐かしいよな」と言ってきてうるさかったけど。

「ありがとうございまーす! 改めまして、こんにちは、声楽部です! コンクールの関係で1人で歌うことが多いですが、みんなで合唱するのはいいですね。じゃあ、ここで自己紹介をしていきましょう! 昨日は3年生からやったし、今日は1年生からやりましょうか。では、トップバッターは声楽部の小さな巨人・神山乃愛ちゃんです!」

 トップバッターって野球じゃないんだから。あと、小さな巨人って。小さな体から大きな声を出せるのは凄いけど。
 スタッフの女の子からマイクを渡された乃愛ちゃんは爆笑している。

「小さな巨人って何なんですか。初めまして、1年2組の神山乃愛です。初めての文化祭は美来と一緒にメイド喫茶をやりました。昨日は投票ありがとうございます! クラス部門で1位になりました! 今日も投票してくれると嬉しいです! ご主人様、お嬢様! みんな盛り上がっているし、青薔薇は出てくるし高校の文化祭って凄いですよね! もう来年の文化祭が待ち遠しいです! 今日も頑張って歌いますのでよろしくお願いします!」

 乃愛ちゃんはそう言うと、会場は拍手に包まれる。

「今から来年の天羽祭が楽しみなんだね。来年は卒業しているから、あっちからコンサートを聴くのが楽しみだなぁ。でも、まずは今日、一緒に歌いましょうね。では、次の子はこの夏に天羽女子にやってきた黄金天使の朝比奈美来ちゃんです!」

 黄金天使というのは金髪からきているのだろうか。昨日と同じように大きな歓声と拍手が上がる。
 隣の乃愛ちゃんからマイクを受け取った美来は上品に笑っている。個人的には美来がステージの上で一番輝いている。

「みなさん、こんにちは。1年2組の朝比奈美来です。初めての天羽祭はとても楽しくて、忘れられないイベントになりそうです。クラスでは乃愛ちゃんと一緒にメイド喫茶でメイドさんをやって、声楽部ではこうして楽しく歌って。昨日はクラスでも声楽でも投票で1位になりました! ありがとうございます。あと、恋人や友人とは一緒に天羽祭を回ることができました。天羽女子の生徒として楽しめて幸せです」
「私達も美来ちゃんと一緒に歌うことができて幸せだよ! 今日も彼氏さんは来てくれているんだよね?」
「はい。今日も前の方に来てくれていますよ。智也さーん!」
「今日も頑張ってね!」

 さすがに2日目なので、昨日よりもちゃんと返事をすることができた。ただ、周りから女の子達の黄色い声が聞こえると恥ずかしいな。

「今日も彼氏さんはかっこいいですね。美来ちゃんにお似合いだなぁ。今日もチョコバナナ買ってくださってありがとうございます。特に後ろの金髪のご友人の方はたくさん買っていただきましたね」
「ど、どうも! こう見えても社会人なんで! チョコバナナ美味しかったっす! こいつの大親友なんで、今度ともよろしくお願いします!」

 岡村が両手で大きく手を振ると、会場は笑いに包まれる。そのことに岡村も喜んでいるようだ。こういうときでも、岡村は普段と変わらず明るく言えるから凄いと思う。
 その後も順調に部員紹介が進められた。

「はい、ありがとうございました! 最後に私は部長の新藤花音です。昨日も今日もチョコバナナを売っていました。3年生の中には、今日のコンサートで声楽部の活動がラストの子もいます。1年生の美来ちゃんと乃愛ちゃん、私は声楽コンクールの本選に出場し、通過すれば12月の全国大会に出場するので、みなさん応援のほどよろしくお願いします!」

「頑張って!」
「応援してるよー!」

「ありがとうございます。それでは、次はそれぞれの部員がソロで歌います。そのあとのJ-POPコーナーではみんなで盛り上がりましょう! 今日はスペシャルゲストがいますのでお楽しみに」

 スペシャルゲストがいるのか。天羽女子のOGに歌手とかがいるのかな? それとも、お金を出して女子高生に人気のアーティストを呼んだとか。楽しみにしておこう。
 その後は声楽部員それぞれがソロで歌唱する。昨日も思ったけれど、部活で練習しているだけあって上手だな。個人的にはラストで歌った美来が一番上手だと思ったけど。
 全員、ソロでの歌唱が終わり、再び声楽部のメンバーが全員ステージの上に。

「以上、ソロコーナーでした! みんな今日も良かったよ。では、これからラストまではJ-POPコーナー……と言いたいところですが、その前にスペシャルゲストをお呼びします! 今、日本で最も騒がせている人かもしれません! 青薔薇さんです!」
『えええっ!』

 本日一番の声が上がる。
 さっきと同じように制服姿の美来に変装した青薔薇が登場した。ただ、本物の美来も制服姿なので、見分けやすくするためか青薔薇の胸が小さくなっている。
 青薔薇は爽やかな笑みを浮かべながら大きく手を振った。

「みなさん、こんにちは! 青薔薇です!」
『きゃあああっ!』
「女子校だけあって可愛い女の子が多いですね。若い子からの黄色い声援を受けると気持ちがいいですね。活動上、素顔を見せたり、地声を出したりすることはできないので、既に変装済みの朝比奈美来さんの姿で。見分けをつきやすいように、さっきよりも胸はちっちゃくしましたよ」
「本当だ、私よりも小さいですね。それでも、それなりにありますけど」
「これが本当の私の胸の大きさだよ。そうなんです、私は女性なんです」

 さっきは美来に変装したからという理由で、第1会議室にいた僕らだけ女性だと教えてくれたのに。性別くらいは公開しても大丈夫だと思ったのかな。

「青薔薇さんといったら、今日、職員室にメッセージを送りましたね。あれはどういう意味なのでしょう?」
「それは既に解いてくれた方々がいて、逮捕されるべき人が逮捕されました。そういった経緯があって、一時、パトカーが校門の前に駐まっていたんですね。その節はお騒がせしました。この高校には私のファンがたくさんいると聞いたので、お詫びとファンサービスを兼ねてお邪魔しました。応援してくれて、本当にありがとうございます」
『きゃあああっ!』

 このコンサートにも青薔薇のファンが多いからか、黄色い声が響き渡る。もしかしたら、昨日を含めて一番の盛り上がりかも。
 あの文書に『自ら天羽祭を壊すことはない』という旨の文言が書いてあった。ただ、青薔薇自身は悪くないものの、警察がやってくる事態になり、騒ぎになってしまった。そのお詫びもあってコンサートに登場したのか。ファンがいて、今まで姿も現さなかったので、この形にするのが一番いいと考えたのだろう。

「メッセージについてはマスコミなどにも伝えてありますので、真相は是非、テレビやネットでご覧ください。その中で、本校生徒本人の名前やご家族の名前が出ますが、生徒さんの方は何も悪くないということは私・青薔薇が保証します。その生徒さんのことを温かく見守ってくれると嬉しいです。ただ、今はコンサートですから、スマホで私のメッセージがどんな内容だったかは確認せずに、コンサートを存分に楽しんでください! 昨日から天羽祭に来ていますが、とても楽しかったです! またね!」

 青薔薇は拍手と歓声の中、手を振りながらステージから姿を消していった。
 これで少しは、花園さんがこれからも平穏に高校生活を送ることができるようになるといいな。

「青薔薇さん! ありがとう!」
「またねー!」

 僕の前の席にいる花園さんは青薔薇がステージから消えるまで、隣に座る赤城さんと一緒に大きく手を振っていた。そんな2人はしっかりと恋人繋ぎをしている。

「青薔薇さんのメッセージは、これまでのように不正や犯罪を示していたんですね。でも、解決したそうなので大丈夫でしょう! 青薔薇さんが言っていたこともみなさん守りましょうね。では、そろそろJ-POPコーナーを始めますよ! みなさんも知っている曲があれば一緒に歌ってくださいね!」

 その後はJ-POP曲を中心に、最近流行った曲や高校生くらいの子が幼少期に流行っていた曲、年代問わず歌うことのできる曲などを披露していった。
 また、有紗さんは披露された曲を全て知っていたようで、隣でずっと綺麗な声を聴かせてくれた。
 途中、青薔薇が出演するというサプライズもあって、昨日以上に盛り上がったコンサートとなったのであった。
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

まずはお嫁さんからお願いします。

桜庭かなめ
恋愛
 高校3年生の長瀬和真のクラスには、有栖川優奈という女子生徒がいる。優奈は成績優秀で容姿端麗、温厚な性格と誰にでも敬語で話すことから、学年や性別を問わず人気を集めている。和真は優奈とはこの2年間で挨拶や、バイト先のドーナッツ屋で接客する程度の関わりだった。  4月の終わり頃。バイト中に店舗の入口前の掃除をしているとき、和真は老齢の男性のスマホを見つける。その男性は優奈の祖父であり、日本有数の企業グループである有栖川グループの会長・有栖川総一郎だった。  総一郎は自分のスマホを見つけてくれた和真をとても気に入り、孫娘の優奈とクラスメイトであること、優奈も和真も18歳であることから優奈との結婚を申し出る。  いきなりの結婚打診に和真は困惑する。ただ、有栖川家の説得や、優奈が和真の印象が良く「結婚していい」「いつかは両親や祖父母のような好き合える夫婦になりたい」と思っていることを知り、和真は結婚を受け入れる。  デート、学校生活、新居での2人での新婚生活などを経て、和真と優奈の距離が近づいていく。交際なしで結婚した高校生の男女が、好き合える夫婦になるまでの温かくて甘いラブコメディ!  ※特別編6が完結しました!(2025.11.25)  ※小説家になろうとカクヨムでも公開しています。  ※お気に入り登録、感想をお待ちしております。

あの日、幼稚園児を助けたけど、歳の差があり過ぎてその子が俺の運命の人になるなんて気付くはずがない。

NOV
恋愛
俺の名前は鎌田亮二、18歳の普通の高校3年生だ。 中学1年の夏休みに俺は小さい頃から片思いをしている幼馴染や友人達と遊園地に遊びに来ていた。 しかし俺の目の前で大きなぬいぐるみを持った女の子が泣いていたので俺は迷子だと思いその子に声をかける。そして流れで俺は女の子の手を引きながら案内所まで連れて行く事になった。 助けた女の子の名前は『カナちゃん』といって、とても可愛らしい女の子だ。 無事に両親にカナちゃんを引き合わす事ができた俺は安心して友人達の所へ戻ろうとしたが、別れ間際にカナちゃんが俺の太ももに抱き着いてきた。そしてカナちゃんは大切なぬいぐるみを俺にくれたんだ。 だから俺もお返しに小学生の頃からリュックにつけている小さなペンギンのぬいぐるみを外してカナちゃんに手渡した。 この時、お互いの名前を忘れないようにぬいぐるみの呼び名を『カナちゃん』『りょうくん』と呼ぶ約束をして別れるのだった。 この時の俺はカナちゃんとはたまたま出会い、そしてたまたま助けただけで、もう二度とカナちゃんと会う事は無いだろうと思っていたんだ。だから当然、カナちゃんの事を運命の人だなんて思うはずもない。それにカナちゃんの初恋の相手が俺でずっと想ってくれていたなんて考えたことも無かった…… 7歳差の恋、共に大人へと成長していく二人に奇跡は起こるのか? NOVがおおくりする『タイムリープ&純愛作品第三弾(三部作完結編)』今ここに感動のラブストーリーが始まる。 ※この作品だけを読まれても普通に面白いです。 関連小説【初恋の先生と結婚する為に幼稚園児からやり直すことになった俺】     【幼馴染の彼に好きって伝える為、幼稚園児からやり直す私】

天才天然天使様こと『三天美女』の汐崎真凜に勝手に婚姻届を出され、いつの間にか天使の旦那になったのだが...。【動画投稿】

田中又雄
恋愛
18の誕生日を迎えたその翌日のこと。 俺は分籍届を出すべく役所に来ていた...のだが。 「えっと...結論から申し上げますと...こちらの手続きは不要ですね」「...え?どういうことですか?」「昨日、婚姻届を出されているので親御様とは別の戸籍が作られていますので...」「...はい?」 そうやら俺は知らないうちに結婚していたようだった。 「あの...相手の人の名前は?」 「...汐崎真凛様...という方ですね」 その名前には心当たりがあった。 天才的な頭脳、マイペースで天然な性格、天使のような見た目から『三天美女』なんて呼ばれているうちの高校のアイドル的存在。 こうして俺は天使との-1日婚がスタートしたのだった。

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

旧校舎の地下室

守 秀斗
恋愛
高校のクラスでハブられている俺。この高校に友人はいない。そして、俺はクラスの美人女子高生の京野弘美に興味を持っていた。と言うか好きなんだけどな。でも、京野は美人なのに人気が無く、俺と同様ハブられていた。そして、ある日の放課後、京野に俺の恥ずかしい行為を見られてしまった。すると、京野はその事をバラさないかわりに、俺を旧校舎の地下室へ連れて行く。そこで、おかしなことを始めるのだったのだが……。

屈辱と愛情

守 秀斗
恋愛
最近、夫の態度がおかしいと思っている妻の名和志穂。25才。仕事で疲れているのかとそっとしておいたのだが、一か月もベッドで抱いてくれない。思い切って、夫に聞いてみると意外な事を言われてしまうのだが……。

屋上の合鍵

守 秀斗
恋愛
夫と家庭内離婚状態の進藤理央。二十五才。ある日、満たされない肉体を職場のビルの地下倉庫で慰めていると、それを同僚の鈴木哲也に見られてしまうのだが……。

俺を振ったはずの腐れ縁幼馴染が、俺に告白してきました。

true177
恋愛
一年前、伊藤 健介(いとう けんすけ)は幼馴染の多田 悠奈(ただ ゆうな)に振られた。それも、心無い手紙を下駄箱に入れられて。 それ以来悠奈を避けるようになっていた健介だが、二年生に進級した春になって悠奈がいきなり告白を仕掛けてきた。 これはハニートラップか、一年前の出来事を忘れてしまっているのか……。ともかく、健介は断った。 日常が一変したのは、それからである。やたらと悠奈が絡んでくるようになったのだ。 彼女の狙いは、いったい何なのだろうか……。 ※小説家になろう、ハーメルンにも同一作品を投稿しています。 ※内部進行完結済みです。毎日連載です。

処理中です...