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特別編-Merry Halloween-
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特別編-Merry Halloween-
10月28日、金曜日。
秋もだいぶ深まってきた今日この頃。過ぎ去った夏よりもこれからやってくる冬の方が近いこともあってか、朝晩中心にかなり冷え込む日も出てきた。
僕の方はずっと仕事で、良く言えば安定、悪く言えば変わり映えしない日々を過ごしている。ただ、ケガや病気をしていないし、美来とも仲良く過ごせているのでいいかな。
美来の方は声楽コンクールの本選を通過して、全国大会へ出場が決定したり、今週は中間試験があったりと、特に最近は盛りだくさんな日々を送っていた。
中間試験も今日で終わり、放課後は試験の打ち上げとひさしぶりの発声練習を兼ねて、声楽部のみんなとカラオケに行くらしい。定期試験最終日の放課後に思いっきり遊ぶことはまさに学生の特権。なので、そういったことは思う存分に楽しんでほしいものだ。
午後6時過ぎ。
通常業務は順調に進み、急いでやらないといけない案件が舞い込んでくることもなかったので、今日も定時通りに業務を終えることができた。
「今週もお疲れ様、智也君」
「お疲れ様です、有紗さん」
「うん! 金曜日の仕事終わりのこの瞬間が、1週間の中で一番いいよね! しかも、今日みたいに定時で上がれたときは!」
「そうですね。最近は残業もなくていいですよね」
「そうね。できれば明るいうちに会社を後にしたいよ」
「そうすれば、今は6時より前には会社を出られますもんね」
冬至の時期なんて、午後5時前には会社を出ることができるな。陽が沈むと寒くて辛いから実に合理的な考え方だと思う。実現する可能性は皆無だろうけど。
「そういえば、美来ちゃんは今日で中間試験が終わるんだっけ」
「そうですね。試験が終わった後は、声楽部のみんなで久しぶりの発声練習を兼ねたカラオケだそうです。午後に何度か美来からメッセージをもらいました。そのカラオケも夕方に終わって、家で夕ご飯を作って僕の帰りを待ってくれています」
だからこそ、定時で仕事終えることができたことをより嬉しく思う。早く家に帰って美来のことを抱きしめて、一緒に夕ご飯を食べたい。
「ふふっ、段々寒くなってきたこの季節にいい話ね。ここ最近は天羽祭があって、声楽コンクールがあって、定期試験があったから久々にゆっくりできそうね」
「先月はコンサートの練習を頑張りすぎて風邪を引きましたから、天羽祭以降は適度に休憩を取りながら勉強や練習を頑張っているようでした。ただ、考えてみると久々に羽を伸ばせる感じですね。この週末は美来と一緒にゆっくりしたいと思います」
「それがいいね。あたしもこの週末はゆっくりと過ごそっと。寒くなってきたし、そういうときは家とかでのんびりするのが一番だから」
「僕も家で過ごすのが好きなタイプなので、有紗さんの言うことは分かりますね」
「でしょう? 冬眠するクマの気持ちがよく分かるよね!」
それは餌の少ない寒い季節を生き延びるための生態だと思うんだけど、ここは何も言わないで頷いておくことにする。
有紗さんとそんな話をしていると、あっという間に駅に到着する。有紗さんとは別方向の路線の電車に乗るのでここでお別れ。
「じゃあ、智也君。また月曜日にね」
「はい。お疲れ様でした」
有紗さんと別れて、僕は快速急行電車に乗り、自宅の最寄り駅である桜花駅へと向かい始める。引っ越した直後は半袖の服を着る人ばかりだったのに、今は僕のようにジャケットも着たスーツ姿の人や、寒がりなのかトレンチコートを着ている人までいる。
「そうだ、美来に仕事が終わったってメッセージを送っておかないと」
僕は美来に仕事が終わって、今は電車の中であることをメッセージで送る。電車の遅延や運転見合わせさえなければ、7時までには家に帰れそうだ。
――プルルッ。
すぐに美来から返信が届く。
『お仕事お疲れ様でした。すき焼きを作って、智也さんが帰ってくるのを待っていますね!』
おおっ、今夜はすき焼きか。寒くなってきたし、鍋物が美味しい季節になってきた。とても楽しみだ。
車窓からの景色を見てみるけど、もうこの時間だとすっかりと暗くなっている。家やビルなどの明かりしか見えない。定時に帰ってもすっかりと暗いというのも、季節が進んでいる証拠だな。
電車の中の広告を見ると……ああ、テーマパークでのハロウィンイベントの宣伝広告がある。そういえば、来週はハロウィンだったな。
好きな音楽を聴いて、これまでスマホで撮ってきた写真を見ていると、あっという間に桜花駅に到着した。
「ああっ、寒いな……」
そこまで強くない風だけど、結構寒く感じる。来週には11月になるんだもんな。そろそろコートを出しておいた方がいいかな。
ハロウィンが近いこともあるし、途中、コンビニでスイートポテトを買って、僕は美来の待つ自宅へと帰る。
「ただいま~」
「おかえりなさい、智也さん!」
家に帰ってくるや否や、メイド服姿の美来がリビングから駆け寄ってきて僕のことを抱きしめてくる。この瞬間、今日は本当に仕事が終わったんだなと実感できる。
「今週も、お仕事お疲れ様でした!」
「ありがとう、美来。美来も今日まで中間試験お疲れ様。それもあって、コンビニでスイートポテトを買ってきたよ。夕ご飯の後にでも食べよう」
「ありがとうございます!」
すると、美来は嬉しそうな表情を浮かべて僕にキスしてきた。温もりが恋しくなってきたこともあり、これまで以上にキスがいいなと思えてくる。
「夕ご飯の用意をしますから、智也さんは部屋着にお着替えしてきてください」
「うん、分かった」
この時点ですき焼きのいい匂いがしてきて、お腹がより空いてきた。
僕は寝室でスーツから部屋着へと着替えて、美来の待つリビングへと向かう。食卓にはグツグツと煮えた美味しそうなすき焼きが。
「すき焼き美味しそうだね」
「寒くなってきましたし、近くのスーパーで牛肉が安かったですから。今日はすき焼きにしました」
「とってもいい選択だと思うよ。じゃあ、さっそく食べようか」
「はい! いただきます」
「いただきます」
そして、僕らは夕食のすき焼きを食べ始める。
金曜夜に食べる温かいすき焼き。あぁ、たまらん。
「うん、美味しい。この肉柔らかくて美味しいよ」
「特売だったんですけど、なかなかいいお肉でしたね。本当に美味しいです。実家では今ぐらいの時期から、4月くらいまで特に週末は鍋が多かったですね」
「僕の実家もそうだったな。ただ、すき焼きだけは1年中あったかな。去年、1人暮らししていたときは……温かい麺類ばかり食べていた気がする」
「美味しいですもんね。あっ、今日の締めにはうどんがありますからね!」
「おっ、いいね。締めがあると豪華な感じがするよ」
すき焼きではうどんだったけど、鍋ではスープの味次第でラーメンやそば、雑炊にすることもあったな。
2人でもこうして鍋に箸をつつくのっていいな。その相手が同棲している美来だからかもしれないけれど。
「話が変わってしまうのですが、智也さんって何かほしいものってありますか?」
「えっ、ほしいもの? どうしたの、急に。誕生日は7月だからもう過ぎちゃったし。あっ、もしかして……クリスマス?」
「はい、そうです。智也さんと一緒に過ごすクリスマスは今年が初めてですから、できるだけお互いにとって素敵な日にしたいと思いまして。それで、智也さんはほしいものがあるかどうか気になって」
「そういうことか」
その気持ちがとても嬉しくて、既にクリスマスプレゼントをもらっている気分になる。
そういえば、美来と過ごすクリスマスは今年が初めてなのか。それはもちろん、恋人と一緒に過ごす初めてのクリスマスでもある。美来の言うように、できるだけ素敵な日にしたい。
「何かありますか? 智也さん」
「突然言われるとなかなか思いつかないなぁ。ただ、今年は美来と10年ぶりに再会して、恋人として付き合うようになって、こうして一緒に過ごすことができて。クリスマスってわけじゃないけれど、素敵なプレゼントを美来からたくさん受け取ったなって」
「智也さん……!」
僕の言ったことがとても嬉しかったのか、頬を赤くして嬉しそうな笑みを浮かべる。そして、ゆっくりと席から立ち上がり、僕のことをぎゅっと抱きしめる流れで口づけをしてきた。舌を絡ませてきたので、すき焼きの甘辛い味がしてきて。
唇を離すと、美来はうっとりとした表情で僕のことを見つめてきた。
「もう、智也さんったら。プレゼントに何がいいのかって訊いたのに、素敵な言葉のプレゼントをくださるなんて。ずるいですよ」
「それだけ、美来のおかげで特別な1年になりそうだと思ってさ」
「……私もです。今年は決していいことばかりではありませんでした。それでも、智也さんと再会できて、智也さんと付き合うことになって、智也さんと一緒に過ごし始めて。その中で数え切れないほどに口づけをして、婚約指輪を受け取って、色々な思い出を作って。私こそ智也さんからたくさんプレゼントをいただいています。ありがとうございます」
「こちらこそ、どうもありがとう」
僕は美来のことを抱きしめて、そっと彼女にキスする。
美来の言うとおり、今年は決していいことばかりではなかった。美来はいじめられ、僕は誤認逮捕を経験した。それでも、今のような時間が過ごすことができているのは、美来が側にいたからだと思う。
「……また一つ、プレゼントを受け取りました」
「うん。クリスマスに何がほしいかはちょっと考えさせて。ちなみに、美来がほしいものって何かあるかな?」
「そうですね。やっぱり……智也さんとの子供でしょうか」
えへへっ、と美来はデレデレした様子に。
「何だか美来らしい答えだね」
「そうですか? ……あっ、でも、今からでは今年のクリスマスには間に合いませんね。来年のクリスマスまでおあずけですね」
「子供がほしい気持ちは分かるけど、とりあえず美来が高校生の間はおあずけね」
「……妊娠は高校生活はおろか、人生においても大きな出来事ですもんね。経産婦JKもありかと思いましたが、それは止めておきましょう」
「そうだね」
経産婦JKって凄い響きだな。
ただ、僕も気を付けないといけないな。対策はしているけれど、美来とは営み行為をたくさんしているから。
「子供以外だと……なかなか思いつきませんね。今は智也さんと楽しいクリスマスを送りたいとしか」
「僕も今は同じような感じだよ。あと2ヶ月近くあるし、ほしいものが思いついたら言ってもいいし、これをあげたら喜ぶかなって想像しながらプレゼントを決めるっていうのもいいかもね」
「それは言えてますね。分かりました。……そういえば、今は食事中でしたね。食べましょうか」
「そうだね」
その後も僕は美来と一緒にすき焼きを食べる。プレゼントの話をしたり、キスしたりしたこともあってか、さっきよりも美味しく感じたのであった。
10月28日、金曜日。
秋もだいぶ深まってきた今日この頃。過ぎ去った夏よりもこれからやってくる冬の方が近いこともあってか、朝晩中心にかなり冷え込む日も出てきた。
僕の方はずっと仕事で、良く言えば安定、悪く言えば変わり映えしない日々を過ごしている。ただ、ケガや病気をしていないし、美来とも仲良く過ごせているのでいいかな。
美来の方は声楽コンクールの本選を通過して、全国大会へ出場が決定したり、今週は中間試験があったりと、特に最近は盛りだくさんな日々を送っていた。
中間試験も今日で終わり、放課後は試験の打ち上げとひさしぶりの発声練習を兼ねて、声楽部のみんなとカラオケに行くらしい。定期試験最終日の放課後に思いっきり遊ぶことはまさに学生の特権。なので、そういったことは思う存分に楽しんでほしいものだ。
午後6時過ぎ。
通常業務は順調に進み、急いでやらないといけない案件が舞い込んでくることもなかったので、今日も定時通りに業務を終えることができた。
「今週もお疲れ様、智也君」
「お疲れ様です、有紗さん」
「うん! 金曜日の仕事終わりのこの瞬間が、1週間の中で一番いいよね! しかも、今日みたいに定時で上がれたときは!」
「そうですね。最近は残業もなくていいですよね」
「そうね。できれば明るいうちに会社を後にしたいよ」
「そうすれば、今は6時より前には会社を出られますもんね」
冬至の時期なんて、午後5時前には会社を出ることができるな。陽が沈むと寒くて辛いから実に合理的な考え方だと思う。実現する可能性は皆無だろうけど。
「そういえば、美来ちゃんは今日で中間試験が終わるんだっけ」
「そうですね。試験が終わった後は、声楽部のみんなで久しぶりの発声練習を兼ねたカラオケだそうです。午後に何度か美来からメッセージをもらいました。そのカラオケも夕方に終わって、家で夕ご飯を作って僕の帰りを待ってくれています」
だからこそ、定時で仕事終えることができたことをより嬉しく思う。早く家に帰って美来のことを抱きしめて、一緒に夕ご飯を食べたい。
「ふふっ、段々寒くなってきたこの季節にいい話ね。ここ最近は天羽祭があって、声楽コンクールがあって、定期試験があったから久々にゆっくりできそうね」
「先月はコンサートの練習を頑張りすぎて風邪を引きましたから、天羽祭以降は適度に休憩を取りながら勉強や練習を頑張っているようでした。ただ、考えてみると久々に羽を伸ばせる感じですね。この週末は美来と一緒にゆっくりしたいと思います」
「それがいいね。あたしもこの週末はゆっくりと過ごそっと。寒くなってきたし、そういうときは家とかでのんびりするのが一番だから」
「僕も家で過ごすのが好きなタイプなので、有紗さんの言うことは分かりますね」
「でしょう? 冬眠するクマの気持ちがよく分かるよね!」
それは餌の少ない寒い季節を生き延びるための生態だと思うんだけど、ここは何も言わないで頷いておくことにする。
有紗さんとそんな話をしていると、あっという間に駅に到着する。有紗さんとは別方向の路線の電車に乗るのでここでお別れ。
「じゃあ、智也君。また月曜日にね」
「はい。お疲れ様でした」
有紗さんと別れて、僕は快速急行電車に乗り、自宅の最寄り駅である桜花駅へと向かい始める。引っ越した直後は半袖の服を着る人ばかりだったのに、今は僕のようにジャケットも着たスーツ姿の人や、寒がりなのかトレンチコートを着ている人までいる。
「そうだ、美来に仕事が終わったってメッセージを送っておかないと」
僕は美来に仕事が終わって、今は電車の中であることをメッセージで送る。電車の遅延や運転見合わせさえなければ、7時までには家に帰れそうだ。
――プルルッ。
すぐに美来から返信が届く。
『お仕事お疲れ様でした。すき焼きを作って、智也さんが帰ってくるのを待っていますね!』
おおっ、今夜はすき焼きか。寒くなってきたし、鍋物が美味しい季節になってきた。とても楽しみだ。
車窓からの景色を見てみるけど、もうこの時間だとすっかりと暗くなっている。家やビルなどの明かりしか見えない。定時に帰ってもすっかりと暗いというのも、季節が進んでいる証拠だな。
電車の中の広告を見ると……ああ、テーマパークでのハロウィンイベントの宣伝広告がある。そういえば、来週はハロウィンだったな。
好きな音楽を聴いて、これまでスマホで撮ってきた写真を見ていると、あっという間に桜花駅に到着した。
「ああっ、寒いな……」
そこまで強くない風だけど、結構寒く感じる。来週には11月になるんだもんな。そろそろコートを出しておいた方がいいかな。
ハロウィンが近いこともあるし、途中、コンビニでスイートポテトを買って、僕は美来の待つ自宅へと帰る。
「ただいま~」
「おかえりなさい、智也さん!」
家に帰ってくるや否や、メイド服姿の美来がリビングから駆け寄ってきて僕のことを抱きしめてくる。この瞬間、今日は本当に仕事が終わったんだなと実感できる。
「今週も、お仕事お疲れ様でした!」
「ありがとう、美来。美来も今日まで中間試験お疲れ様。それもあって、コンビニでスイートポテトを買ってきたよ。夕ご飯の後にでも食べよう」
「ありがとうございます!」
すると、美来は嬉しそうな表情を浮かべて僕にキスしてきた。温もりが恋しくなってきたこともあり、これまで以上にキスがいいなと思えてくる。
「夕ご飯の用意をしますから、智也さんは部屋着にお着替えしてきてください」
「うん、分かった」
この時点ですき焼きのいい匂いがしてきて、お腹がより空いてきた。
僕は寝室でスーツから部屋着へと着替えて、美来の待つリビングへと向かう。食卓にはグツグツと煮えた美味しそうなすき焼きが。
「すき焼き美味しそうだね」
「寒くなってきましたし、近くのスーパーで牛肉が安かったですから。今日はすき焼きにしました」
「とってもいい選択だと思うよ。じゃあ、さっそく食べようか」
「はい! いただきます」
「いただきます」
そして、僕らは夕食のすき焼きを食べ始める。
金曜夜に食べる温かいすき焼き。あぁ、たまらん。
「うん、美味しい。この肉柔らかくて美味しいよ」
「特売だったんですけど、なかなかいいお肉でしたね。本当に美味しいです。実家では今ぐらいの時期から、4月くらいまで特に週末は鍋が多かったですね」
「僕の実家もそうだったな。ただ、すき焼きだけは1年中あったかな。去年、1人暮らししていたときは……温かい麺類ばかり食べていた気がする」
「美味しいですもんね。あっ、今日の締めにはうどんがありますからね!」
「おっ、いいね。締めがあると豪華な感じがするよ」
すき焼きではうどんだったけど、鍋ではスープの味次第でラーメンやそば、雑炊にすることもあったな。
2人でもこうして鍋に箸をつつくのっていいな。その相手が同棲している美来だからかもしれないけれど。
「話が変わってしまうのですが、智也さんって何かほしいものってありますか?」
「えっ、ほしいもの? どうしたの、急に。誕生日は7月だからもう過ぎちゃったし。あっ、もしかして……クリスマス?」
「はい、そうです。智也さんと一緒に過ごすクリスマスは今年が初めてですから、できるだけお互いにとって素敵な日にしたいと思いまして。それで、智也さんはほしいものがあるかどうか気になって」
「そういうことか」
その気持ちがとても嬉しくて、既にクリスマスプレゼントをもらっている気分になる。
そういえば、美来と過ごすクリスマスは今年が初めてなのか。それはもちろん、恋人と一緒に過ごす初めてのクリスマスでもある。美来の言うように、できるだけ素敵な日にしたい。
「何かありますか? 智也さん」
「突然言われるとなかなか思いつかないなぁ。ただ、今年は美来と10年ぶりに再会して、恋人として付き合うようになって、こうして一緒に過ごすことができて。クリスマスってわけじゃないけれど、素敵なプレゼントを美来からたくさん受け取ったなって」
「智也さん……!」
僕の言ったことがとても嬉しかったのか、頬を赤くして嬉しそうな笑みを浮かべる。そして、ゆっくりと席から立ち上がり、僕のことをぎゅっと抱きしめる流れで口づけをしてきた。舌を絡ませてきたので、すき焼きの甘辛い味がしてきて。
唇を離すと、美来はうっとりとした表情で僕のことを見つめてきた。
「もう、智也さんったら。プレゼントに何がいいのかって訊いたのに、素敵な言葉のプレゼントをくださるなんて。ずるいですよ」
「それだけ、美来のおかげで特別な1年になりそうだと思ってさ」
「……私もです。今年は決していいことばかりではありませんでした。それでも、智也さんと再会できて、智也さんと付き合うことになって、智也さんと一緒に過ごし始めて。その中で数え切れないほどに口づけをして、婚約指輪を受け取って、色々な思い出を作って。私こそ智也さんからたくさんプレゼントをいただいています。ありがとうございます」
「こちらこそ、どうもありがとう」
僕は美来のことを抱きしめて、そっと彼女にキスする。
美来の言うとおり、今年は決していいことばかりではなかった。美来はいじめられ、僕は誤認逮捕を経験した。それでも、今のような時間が過ごすことができているのは、美来が側にいたからだと思う。
「……また一つ、プレゼントを受け取りました」
「うん。クリスマスに何がほしいかはちょっと考えさせて。ちなみに、美来がほしいものって何かあるかな?」
「そうですね。やっぱり……智也さんとの子供でしょうか」
えへへっ、と美来はデレデレした様子に。
「何だか美来らしい答えだね」
「そうですか? ……あっ、でも、今からでは今年のクリスマスには間に合いませんね。来年のクリスマスまでおあずけですね」
「子供がほしい気持ちは分かるけど、とりあえず美来が高校生の間はおあずけね」
「……妊娠は高校生活はおろか、人生においても大きな出来事ですもんね。経産婦JKもありかと思いましたが、それは止めておきましょう」
「そうだね」
経産婦JKって凄い響きだな。
ただ、僕も気を付けないといけないな。対策はしているけれど、美来とは営み行為をたくさんしているから。
「子供以外だと……なかなか思いつきませんね。今は智也さんと楽しいクリスマスを送りたいとしか」
「僕も今は同じような感じだよ。あと2ヶ月近くあるし、ほしいものが思いついたら言ってもいいし、これをあげたら喜ぶかなって想像しながらプレゼントを決めるっていうのもいいかもね」
「それは言えてますね。分かりました。……そういえば、今は食事中でしたね。食べましょうか」
「そうだね」
その後も僕は美来と一緒にすき焼きを食べる。プレゼントの話をしたり、キスしたりしたこともあってか、さっきよりも美味しく感じたのであった。
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