高嶺の花の高嶺さんに好かれまして。

桜庭かなめ

文字の大きさ
19 / 279
本編

第18話『高嶺さんの家族』

しおりを挟む
 午後1時過ぎ。
 今日のバイトも無事に終わり、俺は中野先輩と一緒に従業員用の出入口から外に出る。そこには高嶺さんが待ってくれており、

「悠真君、千佳先輩、お疲れ様でした!」

 笑顔で労いの言葉をかけてくれた。そのおかげで、バイトの疲れが少し取れた気がする。ムーンバックスの紙の手提げを持っているので、母の日のプレゼントを買ったのかな。華頂姉妹と話しているとき、高嶺さんも母親にスイーツを買おうかと言っていたし。

「ありがとう、高嶺さん」
「ありがとね、高嶺ちゃん。その手提げ……うちで買い物してくれたんだね」
「はいっ! 母の日のプレゼントでバームクーヘンを」
「そうなんだ。これから、あたしも母の日のプレゼントにスイーツを買うつもり。だから、2人とはここでお別れだね」
「ええ。中野先輩、今日もお疲れ様でした」
「お疲れ様でした! 素敵な母の日になるといいですね!」
「ありがとう。高嶺ちゃんの方もね。じゃあ、またね」

 ムーンバックスの入口前で中野先輩と別れ、俺は高嶺さんと一緒に高嶺さんの自宅に向かって歩き始める。もちろん、手を繋ぎながら。だからなのか、高嶺さんはとても嬉しそうだ。

「これから、私の家でお家デートだね!」
「お家デート? ……ああ、家で一緒に過ごすからか。じゃあ、昨日もお家デートしたことになるのかな」
「そうだねっ! 家に帰ったらまずは私の作ったお昼ご飯を一緒に食べて、その後に私の部屋に連れ込んで……えへへっ」

 厭らしさも感じられる笑い声と「連れ込む」という単語で、これから高嶺さんの家で過ごすことがちょっと不安になる。
 俺達は武蔵金井駅の構内を通って、駅の南口に出る。
 高校もエオンもムーンバックスも北口にあるから、こちら側に来るのは久しぶりだ。高嶺さん曰く、駅からだと歩いて数分で自宅に到着するらしい。
 それにしても、休日でも高嶺さんは周りの人からよく見られるんだな。俺と手を繋いでいるからか、声をかけてくる人はいないけど。

「昨日も思ったけど、お休みの日に私服姿で悠真君と歩くと、特別な時間を過ごせている気がして幸せだな」
「……そうか。俺も想像できなかった時間を過ごさせてもらっているよ。まあ……悪くないな」
「ふふっ。悪くないって言ってくれて嬉しい。いつかは楽しいとか幸せだって言ってくれるよう頑張らないと」

 そう言ってニッコリと笑う高嶺さんはとても可愛らしくて。不覚にもキュンとなった自分がいた。頬が熱く感じるのはそのせいなのだろうか。いや、直射日光を浴びながら何分も歩いているからだろう、きっと。

「そういえば、高嶺さんのご家族は家にいるのか?」
「うん。両親も妹も家にいるよ。午後1時も過ぎているし、お昼ご飯を食べて終えてゆっくりしていると思う。なあに? 私と2人きりが良かったの?」
「いいや、むしろご家族がいて良かったと思ってるよ」

 家に誰かがいれば、いくら高嶺さんでも変なことはできないと思うし。万が一、何かあったときは大声で助けを呼べばいいからな。
 ただ、高嶺さんは頬をほんのりと赤くして、

「もう、悠真君ったら……」

 と、甘い声で呟いた。きっと、俺がご家族の前で告白して、自分と恋人として付き合うことの許しを得るつもりなんじゃないか……とか考えていそうだ。

「ご家族にはきちんと挨拶するけど、それは友人としてだからな」
「そ、そうなんだね……」

 はああっ、と深いため息をつく高嶺さん。どうやら、俺の推測が当たっていたようだ。
 高嶺さんと話していたら、気付けば閑静な住宅街に入っていた。雰囲気は家の近所と変わりないな。

「ここだよ、悠真君」
「……おおっ」

 白を基調とした立派な家の外観を目の前にしたので、思わず声が出てしまった。ぱっと見、俺の家の1.5倍から2倍くらいの大きさがある。近所にある家と比べても大きい。
 どうやら、一般家庭よりはお金持ちっぽいな。さすがは高嶺という苗字だけある。家の前まで来たら急に緊張してきた。
 俺は高嶺さんについて行く形で高嶺さんの家の中へ。

「ただいま~」
「お邪魔します」

 俺達がそれぞれ言うと、ロングスカートに七分袖のTシャツ姿の女性が姿を現した。黒光る長い髪が特徴的で、とても優しく柔らかい雰囲気を持った方だ。あと、高嶺さん以上の大きなものを2つお持ちで。この方が高嶺さんのお母様なのかな。

「おかえり、結衣。そちらの男の子が例の低田悠真君ね」
「初めまして。低田悠真といいます。結衣さんとは同じクラスの友人です」
「初めまして。結衣の母の裕子ひろこといいます。低田君のことは結衣からたくさん話を聞いて、写真も見ているけど、実際に会うととても素敵な男性ね。お母さんドキドキしてきちゃう!」

 高嶺さんのお母さんだけど、見た目がとても若くて美人なのもあって、褒められるとちょっとドキッとするな。
 ドキドキしている裕子さんを見ると、高嶺さんの性格は母親譲りなのかなと思う。
 あと、やっぱり、高嶺さんは家で俺のことをたくさん話しているのか。そして写真まで見せていたのか。

「あっ、お姉ちゃん帰ってきていたんだ。おかえり」

 玄関の近くにある階段から、キュロットスカートにパーカー姿の女の子が降りてくる。とても可愛らしい子だな。ショートヘアの黒髪がよく似合っていて。彼女が3歳年下の妹さんなのかな。
 ショートヘアの女の子は興味津々な様子で俺達の前まで来た。

「お姉ちゃん、こちらの男性が、例の低田悠真さんかな? 綺麗な金髪だぁ。あと、お父さんよりも背が高い。何よりも優しそう」
「お姉ちゃんが好きになるのも納得でしょ? こちら、妹の柚月」
「初めまして! 高嶺柚月たかねゆづきといいます! 中学1年生で女子テニス部に入っています!」
「テニス部に入っているんだね。初めまして、低田悠真といいます。部活には入っていないけど、ムーンバックスっていう喫茶店でバイトをしています。よろしくね」
「はい! よろしくお願いします!」

 柚月ちゃんが右手を差し出してきたので、俺は柚月ちゃんと握手を交わす。すると、柚月ちゃんは顔に笑みを浮かべる。その笑顔はとても可愛く、さすがは姉妹だなって思わせてくれる。

「お姉ちゃん、スイーツ買えた?」
「うん。ムーンバックスでバームクーヘンを買ってきたよ。後で半分お金出してね」
「分かった!」
「お母さん! ……はい、これ。お母さんはスイーツが大好きだから、ムーンバックスでバームクーヘンを買ってきました! 柚月と2人での母の日のプレゼントです」
「いつもありがとう、お母さん!」
「あらあら、ありがとう」

 高嶺さんからムーンバックスの紙袋を受け取った裕子さんはとても嬉しそう。華頂姉妹に倣って、高嶺姉妹も一緒にスイーツをプレゼントすることにしたのか。こんなに間近で感動的なワンシーンを見ることができるとは。

「バイトを始めてから日は浅いですが、バームクーヘンは当店で大人気のスイーツです。俺も以前に食べたことがありますけど、とても美味しかったです」
「そうなの! 現役の店員さんがそう言うんだから、きっと美味しいんでしょうね」
「さすがは悠真君! さあ、いつまでもここで話すのは何だから、上がって。お昼ご飯の焼きそばを作るから」 
「ありがとう。お邪魔します」

 俺は高嶺さん達の案内でリビングに通される。
 リビングにはコーヒーを淹れているワイシャツ姿の男性が。スラッとしていて、落ち着いた雰囲気の方だ。高嶺さんのお父様かな。

「結衣、おかえり」
「ただいま、お父さん」
「お父さん、結衣と柚月に母の日のプレゼントにバームクーヘンをもらったの!」

 裕子さんが嬉しそうに話すと、高嶺さんのお父様は静かに笑い、

「良かったな、母さん」

 裕子さんの頭を優しく撫でた。そして、その笑みを浮かべたまま俺のことを見て、

「君が低田悠真君だね。ゴールデンウィークの直前くらいから、結衣から君の話を聞くようになったよ。連休明けからはそれに拍車がかかっているけど」
「そうですか。初めまして、低田悠真といいます。結衣さんとは連休明けからよく話すようになりました」
「……そうか。僕は結衣の父の高嶺卓哉たかねたくやといいます。特に連休明けから娘が本当にお世話になっています」

 卓哉さんは微笑みながら俺と握手を交わす。

「お互いに御両親への挨拶が済んだから一歩前進だね。じゃあ、私はお昼ご飯の焼きそばを作るから、悠真君はソファーでも食卓でもいいから適当にくつろいで」
「ありがとう、高嶺さん」

 俺がお礼を言うと、高嶺さんはニッコリと頷いてキッチンへ向かう。赤いエプロンを着ると、高嶺さんはお昼ご飯の焼きそば作りに取りかかった。

「低田君」
「は、はい!」

 卓哉さんに呼ばれると緊張するな。高嶺さんと恋人として付き合っているわけじゃないのに。

「君に恋をしたからか、結衣は中学生のとき以上に笑顔を見せるようになってね。ただ、あまりにも結衣が君のことをたくさん話すから、父親として心配で。大げさかもしれないけど、君と離れると精神的にかなり不安定になりそうな気がしてね。恋人になってくれるのが一番だけど、友人でもいいから結衣と末永く仲良くしてくれると嬉しい」

 父親にここまで言わせるとは。好きであることを含め、高嶺さんはご家族に俺のことをたくさん話してきたのだろう。あと、俺と離れると精神的に不安定になりそうなのは当たっている気がします。

「結衣さんの好意の深さや行動力には驚かされることがあります。今の時点では……友人としてなら末永く仲良く付き合っていけそうです」
「……そうか。結衣のことをよろしくお願いします」
「こちらこそよろしくお願いします」

 高嶺さんと一緒に過ごして楽しいと思えたり、安らいだりするときがあるからな。少なくとも、友人としては今後もいい付き合いができるだろう。焼きそばを作っている高嶺さんを見ながらそう思った。
しおりを挟む
感想 6

あなたにおすすめの小説

クラスメイトの王子様系女子をナンパから助けたら。

桜庭かなめ
恋愛
 高校2年生の白石洋平のクラスには、藤原千弦という女子生徒がいる。千弦は美人でスタイルが良く、凛々しく落ち着いた雰囲気もあるため「王子様」と言われて人気が高い。千弦とは教室で挨拶したり、バイト先で接客したりする程度の関わりだった。  とある日の放課後。バイトから帰る洋平は、駅前で男2人にナンパされている千弦を見つける。普段は落ち着いている千弦が脚を震わせていることに気付き、洋平は千弦をナンパから助けた。そのときに洋平に見せた笑顔は普段みんなに見せる美しいものではなく、とても可愛らしいものだった。  ナンパから助けたことをきっかけに、洋平は千弦との関わりが増えていく。  お礼にと放課後にアイスを食べたり、昼休みに一緒にお昼ご飯を食べたり、お互いの家に遊びに行ったり。クラスメイトの王子様系女子との温かくて甘い青春ラブコメディ!  ※特別編3が完結しました!(2025.12.18)  ※小説家になろうとカクヨムでも公開しています。  ※お気に入り登録、いいね、感想などお待ちしております。

俺を振ったはずの腐れ縁幼馴染が、俺に告白してきました。

true177
恋愛
一年前、伊藤 健介(いとう けんすけ)は幼馴染の多田 悠奈(ただ ゆうな)に振られた。それも、心無い手紙を下駄箱に入れられて。 それ以来悠奈を避けるようになっていた健介だが、二年生に進級した春になって悠奈がいきなり告白を仕掛けてきた。 これはハニートラップか、一年前の出来事を忘れてしまっているのか……。ともかく、健介は断った。 日常が一変したのは、それからである。やたらと悠奈が絡んでくるようになったのだ。 彼女の狙いは、いったい何なのだろうか……。 ※小説家になろう、ハーメルンにも同一作品を投稿しています。 ※内部進行完結済みです。毎日連載です。

天才天然天使様こと『三天美女』の汐崎真凜に勝手に婚姻届を出され、いつの間にか天使の旦那になったのだが...。【動画投稿】

田中又雄
恋愛
18の誕生日を迎えたその翌日のこと。 俺は分籍届を出すべく役所に来ていた...のだが。 「えっと...結論から申し上げますと...こちらの手続きは不要ですね」「...え?どういうことですか?」「昨日、婚姻届を出されているので親御様とは別の戸籍が作られていますので...」「...はい?」 そうやら俺は知らないうちに結婚していたようだった。 「あの...相手の人の名前は?」 「...汐崎真凛様...という方ですね」 その名前には心当たりがあった。 天才的な頭脳、マイペースで天然な性格、天使のような見た目から『三天美女』なんて呼ばれているうちの高校のアイドル的存在。 こうして俺は天使との-1日婚がスタートしたのだった。

まずはお嫁さんからお願いします。

桜庭かなめ
恋愛
 高校3年生の長瀬和真のクラスには、有栖川優奈という女子生徒がいる。優奈は成績優秀で容姿端麗、温厚な性格と誰にでも敬語で話すことから、学年や性別を問わず人気を集めている。和真は優奈とはこの2年間で挨拶や、バイト先のドーナッツ屋で接客する程度の関わりだった。  4月の終わり頃。バイト中に店舗の入口前の掃除をしているとき、和真は老齢の男性のスマホを見つける。その男性は優奈の祖父であり、日本有数の企業グループである有栖川グループの会長・有栖川総一郎だった。  総一郎は自分のスマホを見つけてくれた和真をとても気に入り、孫娘の優奈とクラスメイトであること、優奈も和真も18歳であることから優奈との結婚を申し出る。  いきなりの結婚打診に和真は困惑する。ただ、有栖川家の説得や、優奈が和真の印象が良く「結婚していい」「いつかは両親や祖父母のような好き合える夫婦になりたい」と思っていることを知り、和真は結婚を受け入れる。  デート、学校生活、新居での2人での新婚生活などを経て、和真と優奈の距離が近づいていく。交際なしで結婚した高校生の男女が、好き合える夫婦になるまでの温かくて甘いラブコメディ!  ※特別編6が完結しました!(2025.11.25)  ※小説家になろうとカクヨムでも公開しています。  ※お気に入り登録、感想をお待ちしております。

【完結】育てた後輩を送り出したらハイスペになって戻ってきました

藤浪保
恋愛
大手IT会社に勤める早苗は会社の歓迎会でかつての後輩の桜木と再会した。酔っ払った桜木を家に送った早苗は押し倒され、キスに翻弄されてそのまま関係を持ってしまう。 次の朝目覚めた早苗は前夜の記憶をなくし、関係を持った事しか覚えていなかった。

ルピナス

桜庭かなめ
恋愛
 高校2年生の藍沢直人は後輩の宮原彩花と一緒に、学校の寮の2人部屋で暮らしている。彩花にとって直人は不良達から救ってくれた大好きな先輩。しかし、直人にとって彩花は不良達から救ったことを機に一緒に住んでいる後輩の女の子。直人が一定の距離を保とうとすることに耐えられなくなった彩花は、ある日の夜、手錠を使って直人を束縛しようとする。  そして、直人のクラスメイトである吉岡渚からの告白をきっかけに直人、彩花、渚の恋物語が激しく動き始める。  物語の鍵は、人の心とルピナスの花。たくさんの人達の気持ちが温かく、甘く、そして切なく交錯する青春ラブストーリーシリーズ。 ※特別編-入れ替わりの夏-は『ハナノカオリ』のキャラクターが登場しています。  ※1日3話ずつ更新する予定です。

恋人、はじめました。

桜庭かなめ
恋愛
 紙透明斗のクラスには、青山氷織という女子生徒がいる。才色兼備な氷織は男子中心にたくさん告白されているが、全て断っている。クールで笑顔を全然見せないことや銀髪であること。「氷織」という名前から『絶対零嬢』と呼ぶ人も。  明斗は半年ほど前に一目惚れしてから、氷織に恋心を抱き続けている。しかし、フラれるかもしれないと恐れ、告白できずにいた。  ある春の日の放課後。ゴミを散らしてしまう氷織を見つけ、明斗は彼女のことを助ける。その際、明斗は勇気を出して氷織に告白する。 「これまでの告白とは違い、胸がほんのり温かくなりました。好意からかは分かりませんが。断る気にはなれません」 「……それなら、俺とお試しで付き合ってみるのはどうだろう?」  明斗からのそんな提案を氷織が受け入れ、2人のお試しの恋人関係が始まった。  一緒にお昼ご飯を食べたり、放課後デートしたり、氷織が明斗のバイト先に来たり、お互いの家に行ったり。そんな日々を重ねるうちに、距離が縮み、氷織の表情も少しずつ豊かになっていく。告白、そして、お試しの恋人関係から始まる甘くて爽やかな学園青春ラブコメディ!  ※夏休み小話編2が完結しました!(2025.10.16)  ※小説家になろう(N6867GW)、カクヨムでも公開しています。  ※お気に入り登録、感想などお待ちしています。

イケボすぎる兄が、『義妹の中の人』をやったらバズった件について

のびすけ。
恋愛
春から一人暮らしを始めた大学一年生、天城コウは――ただの一般人だった。 だが、再会した義妹・ひよりのひと言で、そんな日常は吹き飛ぶ。 「お兄ちゃんにしか頼めないの、私の“中の人”になって!」 ひよりはフォロワー20万人超えの人気Vtuber《ひよこまる♪》。 だが突然の喉の不調で、配信ができなくなったらしい。 その代役に選ばれたのが、イケボだけが取り柄のコウ――つまり俺!? 仕方なく始めた“妹の中の人”としての活動だったが、 「え、ひよこまるの声、なんか色っぽくない!?」 「中の人、彼氏か?」 視聴者の反応は想定外。まさかのバズり現象が発生!? しかも、ひよりはそのまま「兄妹ユニット結成♡」を言い出して―― 同居、配信、秘密の関係……って、これほぼ恋人同棲じゃん!? 「お兄ちゃんの声、独り占めしたいのに……他の女と絡まないでよっ!」 代役から始まる、妹と秘密の“中の人”Vライフ×甘々ハーレムラブコメ、ここに開幕!

処理中です...