高嶺の花の高嶺さんに好かれまして。

桜庭かなめ

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本編

第73話『はじめて』

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 お風呂から出た後、俺達は芹花姉さんにお風呂が空いたことを伝え、俺の部屋に戻った。
 結衣にお願いされたので、俺はドライヤーを使って結衣の髪を乾かしていく。

「あぁ、気持ちいい……」
「良かった。結衣の髪って本当に綺麗だよな。サラサラしていて、ツヤもあって」
「悠真君にそう言ってもらえて嬉しい。……あとで悠真君の髪を乾かしたいな」
「分かった。お願いするよ」
「任せて!」

 鏡には自信満々そうな結衣の顔が映る。この様子なら任せても大丈夫そうかな。
 それにしても、結衣の髪からはシャンプーの甘い匂いが香ってくる。
 数分ほどで結衣の髪を乾かし終わり、今度は俺が髪を乾かしてもらう番に。誰かにやってもらうのは気持ちがいいな。

「どうかな、悠真君」
「気持ちいいよ。結衣の髪はいつもサラサラで綺麗だから、上手だろうとは思っていたけど。あと、柚月ちゃんの髪を乾かしてあげているのか?」
「一緒にお風呂に入ったときは、お互いの髪を乾かしているよ。柚月の髪もサラサラしていていいけど、悠真君の髪も綺麗で好きだなぁ。サラサラしているし、いい匂いがするから顔を埋めたいくらい」
「小さい頃、芹花姉さんによく顔を埋められていたなぁ。結衣ならやってもいいよ」
「じゃあ、お言葉に甘えさせてもらうね!」

 そう言った瞬間、ブラシでの髪のとかし方が強くなったような。
 数分で髪を乾かすのが終わった。ドライヤーの温かい風が止まった代わりに、後頭部に生温かい吐息を定期的に感じるように。

「悠真君の髪……サラサラしていて気持ちいいな。いい匂いもするし。ここに住みたいくらいだよ」
「ははっ、大げさだな。でも、気に入ってくれて嬉しいよ。あと、俺の髪を乾かしてくれてありがとう」
「いえいえ。……そういえば、『鬼刈剣』って土曜日放送だよね」
「ああ。午後10時半からだったかな」

 今は午後9時近くだから、放送までは残り1時間半くらいか。

「そうだよね! 悠真君と一緒にリアルタイムで観たいなぁ。ここに来る途中にコンビニで買ったお菓子を食べながら。マシュマロやチョコレートを買ったじゃない」
「結衣は『鬼刈剣』の大ファンだもんね。お菓子もまだまだ残っているし、それを食べながら一緒に観るか」

 もちろん、録画予約をしているけど。好きな漫画を読んだり、曲の制作をしていたりしたから、『鬼刈剣』をリアルタイムで観たことがなかったな。

「じゃあ、お姉様も誘って3人で観ない? お姉様も『鬼刈剣』が大好きだし」
「そうだな。風呂から出てきたら、姉さんを誘ってみるか」
「うん!」

 結衣と2人きりの時間を過ごすのもいいかなと思うけど、結衣も芹花姉さんも大好きな『鬼刈剣』が放送されるんだ。3人で楽しく過ごすのもいいだろう。
 それから20分ほどで芹花姉さんが戻ってきたので、『鬼刈剣』を一緒に観ようと誘ってみる。すると、姉さんは喜んで「一緒に観る!」と言ってくれた。
 それから、『鬼刈剣』が始まるまでは、結衣が習慣であるマッサージを一緒にやってみたり、結衣も好きな美少女日常アニメのBlu-rayを一緒に観たりした。
 そして、午後10時半。
 コンビニで買ったお菓子を食べたり、俺の淹れた紅茶を飲んだりしながら、芹花姉さんと3人で『鬼刈剣』を観始める。

「おおっ、やっぱり戦闘シーンの迫力は凄いですね!」
「そうだね!」

 結衣と芹花姉さんは戦闘シーン中心に盛り上がっていた。本当にこの作品の大ファンなのだと分かる。そんな2人と一緒に観たからか、30分があっという間に過ぎていった。

「ユウちゃんと結衣ちゃんと一緒に観られて楽しかった! 2人とも、おやすみ」
「おやすみ、芹花姉さん」
「おやすみなさい、お姉様」

 芹花姉さんは俺達に笑顔で手を振り、部屋を後にした。また、その際に俺達に向けてウインクをしていった。
 扉が閉まって、結衣の方を見ると急にドキドキしてくるな。2人きりになったし、時刻も午後11時過ぎだからかな。結衣も色々と考えているのか、頬を赤くしながら俺のことをチラチラ見てくる。

「……こ、これからどうしよっか、悠真君。確か、『俺達、受験に勝ってみせます!』のアニメも土曜日放送だよね」
「ああ。ただ、放送は午前0時半からだし、録画予約しているからリアルタイムじゃなくても大丈夫だよ」
「そ、そっか。あと1時間半くらいもあるもんね。録画予約しているなら……まあいいか」

 それから少しの間、俺達は何も言葉を交わさず、お互いにチラチラと見合うだけに。何も話さないと変に緊張するな。
 いい時間だし、さ、誘うか? 必要なものはコンビニでお菓子と一緒に買ったし。

「ゆ、悠真君!」
「な、何でしょうか!」

 ビックリしてしまい、普段よりも甲高い声で返事をしてしまった。
 結衣のことをしっかり見ると、結衣は優しい笑顔で俺を見つめてくる。手に温もりを感じた瞬間、結衣は俺にキスをしてきた。紅茶の香りとマシュマロやチョコレートの甘い匂いが感じられる。
 結衣の方から唇を離すと、結衣はうっとりとした表情に。

「恋人になってからの初めての夜を、もっと素敵な時間にしたいな。もし、悠真君さえ良ければ……最後までしたいです。悠真君をもっと感じたいの」

 はにかみながらそう言うと、結衣は俺をぎゅっと抱きしめてくる。お風呂に入ってから結構な時間が経っているけど、結衣の体はとても温かくて、シャンプーとボディーソープの甘い匂いがしっかり感じられた。湯船で抱きしめ合ったときほどではないけど、いつもよりもドキドキするな。
 俺は結衣に長めのキスをする。

「……俺も同じ気持ちだよ。気付いているかもしれないけど、家に来る途中のコンビニでお菓子と一緒に買ったんだ。その……さ、最後までするときに必要なもの」

 正直に言うと、結衣は「ふふっ」と声に出して笑った。

「……そうかもしれないとは思ってた。悠真君がお菓子を奢るって言った後、お菓子コーナーじゃない方に歩いて行ったから」
「そうだったのか」
「ちなみに、私も持ってきたよ!」

 結衣は部屋の端に置いてあるバッグを開けると、中から茶色い紙袋を取り出す。そして、その紙袋から桃色の箱を取り出した。

「100個入りのお徳用パックを買ったんだ!」
「どんだけするつもりなんだ……」
「多いに越したことはないでしょ? 余ったら、お互いの部屋に置いておこうよ」
「確実にそうなるだろうな」

 もし、一夜にして100個使い切ったら、お互いに体のどこかがおかしくなってしまうだろう。

「こういうことは初めてだから、最初は上手くできないかもしれない」
「私も未経験だよ。妄想では悠真君とたくさんしているし、1人でもしているけどね。悠真君が好きになってからは、しない日が珍しいくらいに」
「ははっ、そっか」

 凄いことを告白してくれたけど、結衣らしいと思える。なので、思わず声に出して笑ってしまった。

「じゃあ、お互いに初めてをプレゼントし合うってことで。お姉様がまだ起きているかもしれないし、あまり大きな声を出さないように気を付けないと。初めてだから無理かもしれないけど」
「そこは気を付けよう。じゃあ……よろしくお願いします」
「うん、よろしくお願いします。優しくしてくれると嬉しいな」
「心がけるよ」

 そして、結衣は俺にキスをし、そのまま押し倒したのであった。


 その後は主にベッドの中で結衣と肌を重ねた。
 笑顔を見せることの多い結衣がたまらなく愛おしくて。だから、たくさん抱きしめ合って、キスして、好きだと言い合った。そうすると、結衣は幸せそうな様子になって。
 そういえば、告白されたときから、結衣は時折、厭らしいことを言って、激しいスキンシップをしていたな。そんな結衣の願望を叶えられたのかと思うと、とても嬉しい気持ちにもなった。


「心身共に悠真君と相性がいいんだって分かったよ」
「……俺もだよ。結衣の笑顔がたくさん見られて良かった」
「それは悠真君のおかげだよ。凄く幸せ」

 ベッドで寄り添い合いながらそんなことを喋っていると、結衣は俺の胸に頭をすりすりしてくる。地肌に直接してくるのでちょっとくすぐったい。

「……とても思い出深い一日になったな」

 結衣は再び俺を見て、優しい笑みを浮かべながらそう言ってきた。

「昨日、胡桃ちゃんのメッセージを受け取ったときは、本当にどうなるんだろうって思ったよ。胡桃ちゃんは悠真君の初恋の人だから、2人が付き合うことも覚悟してた。もしそうなったら悔しいけど、胡桃ちゃんが相手なら応援できそうだって思った」
「……そうか」
「でも、実際には、悠真君は私が好きだから胡桃ちゃんの告白を断って、私に告白してくれた。悠真君と恋人になれた。キスもできた。一緒にお風呂にも入れた。最後までできた。そのどれもが、私に幸せな気持ちをもたらしてくれて。胡桃ちゃんや姫奈ちゃん達もお祝いしてくれて。本当に……私は幸せ者だなって思うよ」

 その言葉通りの幸せそうな笑みを浮かべると、結衣は俺にキスしてきた。今のことを言ってくれる結衣と恋人になれた俺も幸せ者だと思う。

「悠真君に恋心を抱いたときの夢が、今日になって一気に叶った気がする。でも、お風呂で話したように、これからも悠真君と素敵な時間を過ごしたいと思ってるよ」
「……嬉しいな。俺も今日を通して、結衣のことが凄く好きなんだって分かった。これからも、ずっと一緒に生きていきたいって強く思っているよ」

 告白された直後の俺に今日のことを話したら、どんな反応をするだろうな。納得するのか。それとも、1ヶ月も経たないうちに、結衣と恋人同士になるわけがないだろうって怒られるのか。

「改めて、これからもずっとよろしくお願いします」
「こちらこそずっとよろしくお願いします! 今は恋人だけど、いずれは結婚して夫婦になろうね!」
「そうだな」

 交際初日にプロポーズしてくるとは。ただ、それも結衣らしい。微笑ましくて、愛おしく思える。いつかは俺からもちゃんとプロポーズしたい。
 俺は結衣を抱きしめ、キスをした。これまでたくさんキスしたから、気持ちが安らいでくる。

「たくさんしたから、結構遅い時間になっちゃったね。明日のバイトに影響が出たらごめんね」
「きっと大丈夫さ。明日は昼過ぎからだし、目覚ましも掛けておくから。結衣はお店に来てくれるのか?」
「もちろんだよ! あぁ、早く悠真君と一緒にブラックコーヒーを飲めるようになりたいな」
「そのときを楽しみにしているよ。……じゃあ、そろそろ寝るか」
「うんっ! おやすみなさい」
「おやすみ」

 ちゅっ、と結衣は俺にキスすると、俺の腕を抱きしめながら目を瞑った。
 休日にいつも起きるくらいの時間にスマホの目覚ましをセットする。これで寝坊してしまう心配もないだろう。
 結衣はさっそく気持ち良さそうな寝息を立てている。可愛いな。いつかは結衣の眠る姿をいつでも見られるようになりたい。

「おやすみ、結衣」

 結衣の額にキスして、俺も眠りにつくのであった。
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