高嶺の花の高嶺さんに好かれまして。

桜庭かなめ

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夏休み編2

第3話『キスマークを付け合って』

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 キスマークを隠すために貼ってあった絆創膏に結衣が気づいた。なので、俺は左の首筋に貼ってある絆創膏を剥がす。すると、結衣は「あっ」と声を漏らした。

「赤くなってるね。剥がして大丈夫なの?」
「大丈夫だよ。治すためじゃなくて、隠すために貼っていたからさ。実はこれ……キスマークで」
「……えっ? キスマーク?」

 そう言う結衣の声は、普段よりもかなり低くなっている。
 結衣は俺の両肩をしっかりと掴み、俺の目をじっと見つめてくる。

「どういうことか説明してくれるかな? 悠真君?」

 さっき以上に低い声色で話されるので、全身に悪寒が走る。口元では笑っているけど、目つきはかなり真剣だ。さっき、赤い痕のことを『キスマーク』としか言わなかったからな。それじゃ、結衣もこういう反応を示すのも当然だろう。「芹花姉さんに付けられた」って言葉を付け足せば良かったと後悔している。

「このキスマークは芹花姉さんに付けられたものなんだ」
「……えっ? お姉様が?」
「そうだよ。昨日は一緒に寝てさ。姉さん曰く、寝ている間に付けたものらしくて。俺の頬にキスする夢を見たらしい」
「海水浴のとき、お姉様は悠真君の頬にキスしていたもんね。そのことと悠真君と一緒に寝たこともあって、そんな夢を見たんだろうね。その夢に体を動かされて、悠真君にキスしちゃったと。実際は首だったけど」
「俺もそう考えてるよ。さすがは結衣。今の話だけでそこまで推理できるなんて。目を覚ましたとき、芹花姉さんはこの赤くなっている部分を咥えていたらしい。俺が起きたらすぐに謝ってくれたよ」
「なるほどね。……悠真君を大好きなお姉様ならあり得る話か」

 納得した様子でそう言うと、結衣は俺の両肩から手を離してくれた。どうやら、俺の話を信じてくれたみたいだ。

「悠真君の話し方からして、今の話は本当だと思う。ただ、キスマークだし、一応お姉様にも確認を取らせて。電話するから」
「分かった。でも、今はバイト中だから出られない可能性もある」
「うん」

 必要なときにはちゃんと説明すると芹花姉さんが言っていたから、電話が繋がればすぐに解決するだろう。
 結衣はローテーブルの上にある自分のスマホを手に取り、芹花姉さんに電話を掛ける。

「お姉様。結衣です。こんにちは」

 ちょうど休憩中なのかな。芹花姉さんが電話に出たようだ。
 それから少しの間、結衣は俺の首に付いているキスマークのことについて話す。
 スピーカーホンにしていないので、芹花姉さんの声は聞こえないけど……申し訳なさそうに話していそうだな。今朝、結衣に申し訳ないと言っていたし。
 結衣は芹花姉さんが電話に出た直後から、基本的にはずっと微笑んでいる。たまに「ふふっ、そうだったんですね」と笑いながら話す場面もあって。

「この後もバイトを頑張ってください。失礼します」

 通話が終わったのだろうか。結衣は軽く頭を下げると、自分のスマホをローテーブルに置き、アイスコーヒーを一口飲んだ。

「お姉様からも、悠真君と同じ内容を話してくれたよ」
「そうか。じゃあ……」
「うん。キスマークを付けたのがお姉様だから許すよ」
「……ありがとう」

 芹花姉さんがキスマークを付けた犯人だと分かれば、結衣は許してくれるんじゃないかと思ってはいたけど……実際に許してもらうと安心感が凄い。良かった。心の広い結衣に感謝だ。
 それにしても……俺の両肩をガッチリと掴んで、説明を要求するときの結衣はとても怖かった。怒りを顔に出さず、口元は笑っていたから尚更に。浮気を疑われる行為をしたらああいう反応になるのだと覚えておかなければ。

「ただ、たとえお姉様のものでも、悠真君の体に私以外の女性から付けられたキスマークしかないのはちょっと複雑な気分。だから、私も悠真君の首にキスマーク付けてみたいなぁ。今まで付けたことないし」

 猫なで声でそう言ってくると、結衣は俺のすぐ近くまでやってきて、俺を上目遣いで見てくる。キスマークを付けたいとおねだりしているのもあってかなり可愛いぞ。

「もちろんいいよ」
「ありがとう。じゃあ、私は右の首筋に付けるね!」

 ワクワクした様子でそう言うと、結衣は左手で俺の右首にかかっている部分の髪をかき上げて、右首にキスをしてきた。
 ――ちゅーっ。
 という可愛い効果音と共に、俺の右首は吸われていく。今までに体験したことがない感覚なので、体がピクッとなってしまう。芹花姉さんにキスマークを付けられたとき、よく起きなかったと思うよ。
 少しして、吸われる感覚がなくなった。

「……うん。バッチリ赤く付いた。あと、お姉様のキスマークよりもちょっと大きい」

 満足げに言う結衣。お気に召したキスマークを付けられたようだ。

「悠真君はバイトもあるし、髪で隠れやすい襟足近くに付けたよ」
「……お気遣いありがとうございます」
「いえいえ。どんな感じに付いたのか確認するために写真撮るね」

 結衣はローテーブルに置いてある自分のスマホを手に取り、俺にレンズを向ける。その際、『カシャッ』という音が聞こえた。

「こういう感じだよ」

 そう言って、結衣は俺のスマホの画面を俺に見せてくる。画面には赤いキスマークが付けられた俺の右の首筋が映されている。結衣の言う通り、芹花姉さんに付けられたキスマークよりも大きいな。

「立派なキスマークが付いたな」
「ふふっ。私のキスマークが悠真君の体に刻まれて満足です」
「そりゃ良かった」
「ねえ、悠真君。今撮ったのは首だけの写真だから、悠真君の顔も入っているキスマークの写真を撮りたいな」
「ああ、いいよ」
「ありがとう! じゃあ、髪をかき上げて、こっちを見てくれないかな? 流し目で」
「分かった」

 大好きな恋人の希望はなるべく叶えさせてあげたい。
 俺は左手で、右側の襟足の髪をかき上げ、スマホを持っている結衣のことを流し目で見る。すると、結衣は「きゃあっ!」と黄色い声を上げる。

「悠真君いいよ! キスマークがあるからセクシーでかっこいいよ! 悠真君好きだよー!」

 と、興奮して話しながら、結衣は俺の写真を撮っていく。カシャカシャとシャッター音がたくさん聞こえてくるんだけど、君はいったい何枚撮っているんですか。

「はあっ、はあっ……いいよぉ、悠真君。今の姿を見て思ったんだけど、眼鏡を外したらまたいい姿が見られそうな気がするの。だから、眼鏡……外してみませんか?」
「いいよ」

 眼鏡を外してローテーブルに置き、さっきと同じポーズをとる。すると、結衣は再び「きゃあっ!」と黄色い声を出す。

「私の予想通りだよ! 眼鏡を外すと、さっきとはまた違った雰囲気のセクシーなイケメンさんだよ! 裸眼悠真君も好きだよー!」

 さっき以上に興奮して話すと、結衣はスマホで今の俺の姿を撮っていく。また、カシャカシャとシャッター音がたくさん聞こえるのですが。君のスマホのアルバムには、今のポーズの俺の写真がいったい何枚入っているのですか。

「……ふう、これだけ撮れば満足だね」
「それは何よりだ」
「ありがとう、悠真君。じゃあ、今度は悠真君の番だよ!」
「……うん? 俺の番って何のこと?」
「キスマークだよ! 私の体をちゅーって吸って『こいつは俺のだぜ』っていう熱い痕を刻みつけてほしいの!」
「なるほどね。そういうことか」

 恋人の体に自分によって付けられた痕があるっていうのは……想像してみるといいなって思う。もしかしたら、結衣はそういう状況に興奮して、流し目で見る俺の写真をたくさん撮ったのかもしれない。
 あと、『こいつは俺のだぜ』って言うときの結衣の声がイケメンボイスだった。福王寺先生がいたら悶絶していたかも。先生なら、キスマークを付けるシーンも、すぐ近くで興奮しながら見ていそう。

「どこにキスマークを付けてほしい? 俺とお揃いで右の首筋がいい?」
「そうだね。右の首筋がいいな。お揃いっていうところに惹かれる。直接か鏡で見える場所ならどこでも嬉しいけどね」
「ははっ、そうか」

 結衣らしい。あと、結衣は下着で隠れそうなところにキスマーク付けてって言いそうなイメージがあったけど、お揃いの魅力には敵わなかったか。

「じゃあ、右の首筋にキスマークを付けるよ」
「うん、お願いします」

 結衣は俺の目の前で正座する。これから首筋にキスマークを付けられるからか、目が輝いているな。
 さっきの結衣に倣って、左手で結衣の右の首筋にかかっている髪をかきあげる。結衣が着ている縦ニットはデコルテまで隠れている仕様だから、ニットを下げなくても大丈夫かな。

「じゃあ、キスマーク付けるよ。痛かったら遠慮なく言って」
「……うん」

 小さくて可愛らしい声でそう返事すると、結衣は首肯する。
 俺は少し口を開いて、結衣の右の首筋の襟足近くをそっと咥える。そして、ちゅーっ、と結衣の首筋を吸う。

「あっ……」

 吸い始めた瞬間、結衣はそんな可愛い声を漏らして、体をビクつかせる。
 今の結衣の反応にドキッとして、もっと強く吸いたくなってしまう。ただ、それだと結衣が痛みを感じるかもしれないし、とりあえずは今の強さを保とう。

「首を吸われるのも……いいっ……」

 普段よりもかなり甘い声で呟く結衣。痛がったり、気持ち悪がったりしないで良かった。
 キスマークが付いているかどうか確かめるため、一度、結衣の首筋から口を離す。すると、俺の吸ったところには赤くキスマークが付いていた。さっき、結衣が俺に付けたほどの強い赤みではないけど。

「結衣、キスマーク付けられたよ。俺に付けてくれたのと同じく襟足近くに。写真撮るからちょっと待ってね」
「うん」

 俺はスラックスのポケットから自分のスマホを取り出し、結衣に付けたキスマークを撮影する。その写真を画面に表示させて、結衣に見せる。

「赤いキスマークが付いてるね! 可愛い」
「こんな感じでいいかな」
「うんっ!」

 いつもの明るい笑顔でそう返事してくれる結衣。どうやらお気に召したようだ。そういうキスマークを付けられて彼氏として嬉しく思う。

「じゃあ、キスマークを付けられた私の写真を撮っていいよ」
「ありがとう。では、お言葉に甘えて。さっきの俺みたいに、髪をかき上げて流し目で俺を見てくれる?」
「分かった!」

 結衣は左手で右の襟足部分をかきあげて、流し目で俺のことを見てくる。口角を僅かに上げて微笑むので、クールビューティーなイメージを抱かせる。そんな結衣の美しい姿をスマホで写真に収めた。

「いい写真が撮れたよ。ありがとう」
「いえいえ。せっかくだから、キスマークを付けたツーショットの自撮り写真を撮ろうよ。キスマーク記念に」
「キスマーク記念って。でも、面白そうだ。撮ってみようか」
「うんっ」

 俺は結衣と隣同士に並んで座る。その際、結衣が俺の右の襟足部分を耳に引っかけてくれる。そのおかげで、結衣に付けられたキスマークが見えそうかな。
 スマホのインカメラを使って画面を見ると……うん、俺も結衣も右の首筋にあるキスマークが映っているな。それを確認して、俺は結衣とのツーショット写真を撮影した。

「うん、いい感じに撮れた。ほら」
「……いいね! 右の首筋にお揃いのキスマークが付いてる。嬉しいな」
「こうして写真で見ると俺も嬉しくなるな。LIMEで送っておくよ」
「ありがとう。写真といえば、旅行のアルバムを現像してもらったよ。そのときに買ったフォトアルバムに入れたの。一緒に見よう!」
「ああ、見よう!」

 それから、俺は結衣とベッドの側に隣同士に座って、結衣が現像してくれた旅行の写真を見ていく。
 午前中に結衣が言っていたように、結衣と俺が一緒に写っている写真が中心だ。どの写真に写っている結衣は可愛いし、俺も……結構いい笑顔で写っている。それはきっと結衣達と一緒だったからだろう。
 海水浴、泊まった部屋、食事、観光地の恋人岬、行き帰りの車の中……様々な場面での写真がアルバムに収められていて。時には潮風見や梅崎町の海など風景の写真も。これらの写真を見ると、旅行の思い出が鮮明に蘇ってくる。もちろん、旅行の話で盛り上がり、楽しい時間になった。
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