あざとい妹、これ如何に。

桜庭かなめ

文字の大きさ
2 / 8

第1話『お風呂に入ろう?-前編-』

しおりを挟む
 栞奈に奢ってもらった缶コーヒーは、やっぱりいつもよりも美味しかった。それを栞奈に伝えたら、ジト目で見られながらも笑ってくれた。
 その後は自分の部屋でゆっくりと1人の時間を過ごしている。今日は特に宿題はないから、自分の趣味に充てることができている。

「……あっ」

 もう、午後10時過ぎか。楽しいことをしていたら、あっという間に時間が経ってしまった。いつも、このくらいの時間には両親も栞奈もお風呂から出ているので、俺もそろそろ入るか。

「ううっ、寒いなぁ」

 さっきまでふとんに入っていたからか、廊下に出ると結構寒く感じる。10月になると日によってはかなり寒いときもあるから、油断して風邪を引いてしまわないよう気を付けないと。
 ただ、そういった時期になってきたからこそ、お風呂が気持ち良く感じられる。今日はゆっくりとお風呂を楽しもうっと。

「あっ、やっと来たよ、お兄ちゃん。一緒に入ろう!」

 洗面所の扉を開けたら、そこにはバスタオルを巻いた栞奈の姿が。

「……俺、リビングにいるから着替え終わったら一声掛けてくれ」

 俺は静かに扉を閉めた。まったく、今みたいに間違えて入っちゃうかもしれないから、鍵をちゃんと掛けてほしいよ。
 そういえば、扉を開けたとき……あいつ、何て言っていたっけ?

「もう、どうしてリビングに行こうとするの? ずっと待っていたんだから! 一緒に入ろうよ!」

 俺は栞奈によって強引に洗面所に引きずり込まれる。

「私と入るの……そんなに嫌なの?」
「嫌じゃないけど、お互いに高校生にもなって兄妹で一緒に風呂に入っていいものなのか不安で」
「大丈夫だよ。だって、私も嫌じゃない。お互いに嫌じゃないんだから、兄妹で入ったって何の問題もないよ。それに、昔みたいに一緒に入りたいと思って……さ」

 栞奈はニコッと笑った。本人が嫌がっていないのが幸いだけど。

「……妹と風呂に入るのは、俺が小学生の間に卒業したんだけどな」

 あの頃に比べるともちろん、栞奈の体も俺の体も成長しているわけで。そんな2人が裸のお付き合いをしたらどうなるか……。

「そういうことを言うから、彼女も一切できないし、童貞も卒業できないんだよ」
「うるせえ」

 彼女ができないことも、童貞を卒業できないことも気にしていないけど、栞奈にそのことで馬鹿にされることは本当にむかつく。ウインクまでしやがって。

「ひさしぶりに入ってもいいかなって思ったけれど、お前がそういう態度を取るんだったら絶対に入らない」
「ごめんなさいごめんなさい!」

 栞奈は俺の手をぎゅっと握ってきた。手がかなり温かいってことは、もしかして、栞奈は既にお風呂に入ったんだろうな。よく見てみると髪も湿っているようだし。

「お前、一度入ったんだな」
「髪と体を洗って、湯船には浸からずにお兄ちゃんのことをずっとここで待ってた。お兄ちゃん、毎日だいたい10時くらいに入るから……」
「へえ、俺のことを結構気に掛けているんだな」
「……え、えっと、その……」

 そう言うと、栞奈は顔を真っ赤にして視線をちらつかせる。

「ド、ドアの開く音が大体その時間に聞こえるから! 別にお兄ちゃんのことが気になって仕方ないとか……そういうわけじゃないんだからね!」
「はいはい」

 理由は特に何でもいいけれどさ。それにしても、ツンデレな妹もかわいいな。
 考えてみれば、部屋の中が静かなら、栞奈の部屋の扉が開く音は聞こえる。毎日同じくらいの時間に扉が開く音が聞こえれば、風呂に入るのはいつもこのくらいの時間なのかもって推測できるか。

「それよりも訊きたいことがあるんだけどさ」
「な、なに?」
「……どうして今になって一緒にお風呂に入りたいだなんて思ったんだよ。こんなこと、今までにもできただろう? 単にそんな気分になったから?」
「ひさしぶりに入ってもいいかなって思ったし、でも……普通に誘ってもお兄ちゃんは一緒に入ってくれないじゃん」
「いや、今も栞奈と一緒に入ろうと思ってないよ」
「……だから、さっきの……宿題を手伝ってくれたお礼に、一緒にお風呂に入ろうと思ったの。髪と体を洗ってあげよっかな……って何言わせてるの! 恥ずかしいよ……」

 笑顔になったり、怒ったり、恥ずかしがったり……感情豊かな妹だな。それらも可愛く思えてしまうんだけど。

「ねえ、お兄ちゃん」
「うん?」

 すると、栞奈は俺のことをじっと見つめてきて、

「……一緒に入りたくないの? 私はお兄ちゃんと一緒に入りたいよ」

 甘い声でそう言ってくる。まったく、あざとい妹だ。
 栞奈がお礼をしたいという気持ちは嬉しい。そんなことをしてくれるのはこの先あまりないかもしれないから、ここはたった1人の妹のご厚意に甘えるとするか。

「分かった分かった。一緒に入って栞奈のご厚意に甘えるとするよ。ええと……俺の髪と体をできる範囲でいいから洗ってください」

 流れで言っちゃったけれど、どうして俺の方からお願いしているんだろう。
 栞奈はとても可愛らしい笑みを浮かべて、

「分かったよ、お兄ちゃん! 私がお兄ちゃんのことを気持ち良くさせてあげるね!」

 誰かが聞いていたら誤解されそうな言葉を使ってきやがる。微妙に上から目線の物言いがちょっとイラッとさせるけど、可愛らしい笑顔と髪や体を洗うことが宿題のお礼とのことなので今は何も言わないでおこう。
 それにしても、俺と栞奈が数年ぶりに一緒に入ったことを両親が知ったらどう思うかな。仲がいいんだね、って終わればいいけど。

「……それじゃ、よろしくお願いします」
「うん! 私に任せて! じゃあ、さっそく服を脱いで……」
「脱ぐことくらいは1人でやらせてくれ。それに、ここは寒いから浴室の中で待ってろ」
「はいはい。もう、恥ずかしがり屋さんなんだから、お兄ちゃんは……」

 既に何度も恥ずかしがっているお前には言われたくない。

「あっ、そうだ。私の服とか下着の匂いを嗅がないこと!」
「……そんなことするわけないだろ」

 どれだけ変態だと思われているんだ、俺は。まさか、彼女が一度もできず、童貞が卒業できないのは異常なシスコンが原因とか考えているんじゃないだろうな。

「ふふっ、そんなことしないよね。ちょっとからかってみただけ」

 栞奈は浴室の中に入っていった。
 浴室と脱衣所の扉がしっかりと閉まっていることを確認して、俺は服を脱いでいく。すると、ちょっと寒く感じられた。栞奈の奴……風邪を引いていなければいいけれど。
 1人でゆっくりと入りたかったのが本音だけれど、小さい頃に栞奈と一緒に入ったときは楽しかったので、きっと同じような気持ちになれるのだろうと信じ、俺は栞奈が待つ浴室へと入っていくのであった。
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

『お兄ちゃんのオタクを卒業させてみせるんだからね❤ ~ブラコン妹と幼馴染オタク姫の果てしなき戦い~』

本能寺から始める常陸之介寛浩
青春
「大好きなはずなのに……! 兄の『推し活』が止まらない!?」 かつて、私は信じていた。 優しくて、頼もしくて、ちょっと恥ずかしがり屋な── そんな普通のお兄ちゃんを。 でも── 中学卒業の春、 帰ってきた幼馴染みの“オタク姫”に染められて、 私のお兄ちゃんは**「推し活命」**な存在になってしまった! 家では「戦利品だー!」と絶叫し、 年末には「聖戦(コミケ)」に旅立ち、 さらには幼馴染みと「同人誌合宿」まで!? ……ちがう。 こんなの、私の知ってるお兄ちゃんじゃない! たとえ、世界中がオタクを称えたって、 私は、絶対に── お兄ちゃんを“元に戻して”みせる! これは、 ブラコン妹と 中二病オタク姫が、 一人の「兄」をめぐって 全力でぶつかり合う、果てしなき戦いの物語──! そしていつしか、 誰も予想できなかった 本当の「大好き」のカタチを探す、 壮大な青春ストーリーへと変わっていく──。

フラレたばかりのダメヒロインを応援したら修羅場が発生してしまった件

遊馬友仁
青春
校内ぼっちの立花宗重は、クラス委員の上坂部葉月が幼馴染にフラれる場面を目撃してしまう。さらに、葉月の恋敵である転校生・名和リッカの思惑を知った宗重は、葉月に想いを諦めるな、と助言し、叔母のワカ姉やクラスメートの大島睦月たちの協力を得ながら、葉月と幼馴染との仲を取りもつべく行動しはじめる。 一方、宗重と葉月の行動に気付いたリッカは、「私から彼を奪えるもの奪ってみれば?」と、挑発してきた! 宗重の前では、態度を豹変させる転校生の真意は、はたして―――!? ※本作は、2024年に投稿した『負けヒロインに花束を』を大幅にリニューアルした作品です。

アルファポリスとカクヨムってどっちが稼げるの?

無責任
エッセイ・ノンフィクション
基本的にはアルファポリスとカクヨムで執筆活動をしています。 どっちが稼げるのだろう? いろんな方の想いがあるのかと・・・。 2021年4月からカクヨムで、2021年5月からアルファポリスで執筆を開始しました。 あくまで、僕の場合ですが、実データを元に・・・。

妹の仇 兄の復讐

MisakiNonagase
青春
神奈川県の海に近い住宅街。夏の終わりが、夕焼けに溶けていく季節だった。 僕、寺内勇人は高校三年生。妹の茜は高校一年生。父と母との四人暮らし。ごく普通の家庭で、僕と茜は、ブラコンやシスコンと騒がれるほどではないが、それなりに仲の良い兄妹だった。茜は少し内気で、真面目な顔をしているが、家族の前ではよく笑う。特に、幼馴染で僕の交際相手でもある佑香が来ると、姉のように慕って明るくなる。 その平穏が、ほんの些細な噂によって、静かに、しかし深く切り裂かれようとは、その時はまだ知らなかった。

二重のカーテン (スカートの下の黒い意志)

MisakiNonagase
青春
洗濯物の隙間に隠したのは、母としての祈りと、娘のプライド。 かつて、女子高生という生き物はもっと無防備で、自由だった。 44歳の主婦、愛子が朝のベランダで手にするのは、娘たちが毎日履き替える漆黒のオーバーパンツ、通称「黒パン」。それは、令和を生きる娘たちが自らの尊厳を守るために身に着ける、鉄壁の「鎧」だった。 小学校時代のママ友たちとのランチ会。そこで語られるのは、ブルセラショップに下着を売っていた奔放な50代、無防備なまま凛と歩くしかなかった40代、そして「見せないこと」に命を懸ける10代の、あまりに深い断絶。さらには、階段で石像のように固まる父、生徒の背後に立たないよう神経を削る教師……。 一枚の黒い布を通して浮き彫りになる、現代社会の歪さと、その根底にある不器用なまでの「優しさ」。 ベランダに干された黒いカーテンの向こう側に、あなたは何を見ますか?

わたしの下着 母の私をBBA~と呼ぶことのある息子がまさか...

MisakiNonagase
青春
39才の母・真知子は息子が私の下着を持ち出していることに気づいた。 ネットで同様の事象がないか調べると、案外多いようだ。 さて、真知子は息子を問い詰める? それとも気づかないふりを続けてあげるか? そのほかに外伝も綴りました。

小学生をもう一度

廣瀬純七
青春
大学生の松岡翔太が小学生の女の子の松岡翔子になって二度目の人生を始める話

陰キャの俺が学園のアイドルがびしょびしょに濡れているのを見てしまった件

暁ノ鳥
キャラ文芸
陰キャの俺は見てしまった。雨の日、校舎裏で制服を濡らし恍惚とする学園アイドルの姿を。「見ちゃったのね」――その日から俺は彼女の“秘密の共犯者”に!? 特殊な性癖を持つ彼女の無茶な「実験」に振り回され、身も心も支配される日々の始まり。二人の禁断の関係の行方は?。二人の禁断の関係が今、始まる!

処理中です...