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プロローグ『ゆめ』
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『ラストグリーン』
「じゃあ……またね。つばさくん。あすかちゃん」
もう、何年前のことだろうか。
僕の友達が遠いところへ引っ越してしまったのは。あのときの彼女の悲しげな顔はよく覚えている。そして、
「……つばさくん、だいすき」
彼女から頬にキスされたことも。そのときの彼女のはにかみもよく覚えている。柔らかい感触に優しい温もり、甘い匂いも。
車に乗ってゆっくりと去っていくときも、彼女は涙を流しながら僕達にずっと手を振っていた。
それ以降、彼女とは一度も会っていない。
彼女は今、どんな生活を送っているのだろうか。そんなことを考えながら、僕は今日も目を覚ました。
「つーちゃん、あのときの夢、また見たんだね」
「うん。これで何度目だろう。定期的に見るんだ」
6月1日、金曜日。
今日から2018年の夏がスタートした。それは僕・蓮見翼や、一緒に登校している幼なじみの朝霧明日香にとって高校最後の夏のスタートとも言える。
それでも、春の空気が残っているからか、晴れていてもさほど暑くなく、穏やかに吹く風が爽やかに感じられる。
「でも、私もたまに見るよ。さっちゃんの夢」
「明日香もか。あれ以来、咲希とは会っていないもんね」
「うん」
明日香がさっちゃんと言うのは、有村咲希という同い年の女の子のこと。小学校に入学したときに同じクラスになったことで出会った。
穏やかな性格の明日香とは対照的で、咲希は元気いっぱいの気さくな女の子。出席番号順の関係で明日香と仲良くなって、その後すぐに僕とも仲良くなった。当たり前とも思えるくらいに3人一緒にたくさん遊んだ。
しかし、2年生になる直前、親の転勤による都合で東京の方へ引っ越してしまった。それ以降、咲希の家族と年賀状でやり取りはするものの、再会を果たすことはできていない。
「確か、転校したのは小学2年生になる直前だから、もう10年前になるんだね。さっちゃん、今ごろどんな生活を送っているのかな」
「高校に通っているなら、僕らと同じように受験勉強を頑張っているんじゃないかな」
「きっと、頑張っているだろうね。また会いたいなぁ」
あの頃の性格のままだったら、咲希はどんな場所でも上手くやっていると思っている。
咲希のことを話したら、ひさしぶりに彼女に会いたくなってきたな。彼女の家の住所は分かっているし、1年生のときからしているバイトのお金もあるので、進路が決まったら考えてみようかな。
「ねえ、つーちゃん。話は変わるけれど、今日からの夏服……どうかな? 似合ってる?」
「本当に話が変わったね、明日香。一昨年や去年以上に似合っていると思うよ」
「……ありがとう」
明日香、とても嬉しそうだな。
僕達が通っている桜海市立桜海高等学校では、今日から9月末まで夏服で登校することになっている。今、明日香は黒いベストを着ているけれど、爽やかな感じがしていいと思う。彼女の髪が黒いミディアムヘアだからかもしれないけども。
「今年の夏も楽しい夏にしたいね」
「今年は受験生だけど、何かできるといいね」
1年生と2年生のときは、明日香を含めてクラスメイトの何人かで旅行に行ったな。今年も同じようなことをするか分からないけれど、何か楽しい思い出を作ることができればいいなと思う。
そんなことを話しているうちに桜海高校に到着する。桜海高校は僕や明日香の自宅から徒歩で10分ほどの公立高校だ。地元にあるため、同じ中学から進学した生徒も多い。
僕と明日香は同じ文系クラスの3年1組。教室に向かうと、もう既に多くのクラスメイトが登校していた。
「やあやあ、蓮見と朝霧。今日も一緒に登校か。今日もおはよう」
「おはよう、明日香、蓮見君」
羽村宗久と常盤美波が僕らのところにやってきた。彼らは高校入学のときに出会い、1年生から3年連続で同じクラス。ちなみに、羽村は生徒会長で、常盤さんはクラス委員長だ。
「おはよう、羽村、常盤さん」
「おはよう、みなみん、羽村君」
「やっぱり、明日香は夏服の方が可愛いなぁ」
常盤さんは満足そうな様子で明日香の頭を優しく撫でている。2人とも同じ美術部ということもあってか、入学直後からずっと仲がいい。2人を見ていると微笑ましい気分になる。
「微笑ましい光景だな、蓮見」
「そうだな」
「……金髪ロングヘアの美女と黒髪セミロング少女の組み合わせ。うん、俺好みであり尊い」
うんうん、と羽村も満足した様子で2人のことを見ている。ガールズラブ作品が大好きな彼の頭の中では、今ごろどんな物語が繰り広げられているのか。本人曰く、妄想だけで満足らしいので僕を含めて誰も止めようとはしない。
漫画やアニメ、ゲーム好きということもあって、1年生のときから羽村とはそのことでよく話しており、休日に開催されるイベントへ一緒に参加したこともある。僕にとってよき親友であり、同時に仲間でもある。
「蓮見」
「うん?」
「……今年の夏は受験の夏でもあるが、何だか頑張れそうな気がしてきたぞ」
「そ、そうか。羽村は生徒会の方もあるんだから、無理せずに頑張れよ」
それに、羽村は国内トップの東京国立大学志望だからな。ただ、1年生のときから定期試験は常に学年1番を維持しており、統一模試でもかなり優秀な成績だったから、余裕で合格できそうな気がする。
「そういえば、ついさっき……里奈先生から聞いたんだけれど、今日、女子生徒が1人うちのクラスに転入してくるんだってさ」
「そうなの? みなみん」
今の時期に転入してくるなんて珍しい。よほどの事情があったんだろうな。きっと、転勤とかなんだろうけど。
「転入生か。温かく迎えようではないか。その生徒にとって、桜海高校では10ヶ月のみの学校生活ではあるが、楽しい時間になれば幸いだ」
さすがは生徒会長。言うことが違うな。こういった真面目な性格なので生徒からの信頼は厚い。嬉しそうにしているのはクラスの仲間が増えるのが最もな理由だろうけど、妄想の幅が広がるからでもあるんだろうな。
「はーい、みんな席に着きなさい」
担任の松雪里奈先生が教室の中に入ってきたので、自分の席に座る。窓側の一番後ろの席なので、授業中、たまに外を眺めたりする。ちなみに、隣には明日香が座っていて、明日香の後ろに常盤さんが座っている。
「転入生、どんな子か楽しみだね、つーちゃん」
「そうだね」
そういえば、僕の後ろに一つ座席が追加されているな。転入してくる女子生徒はそこに座るのか。いい子であってほしい。
「何人かの子は知っていると思いますが、今日から3年1組にクラスメイトが1人増えます。しかも、美人の女子生徒です!」
松雪先生のその言葉にクラスは大盛り上がり。特に男子生徒。美人の女子生徒が転入してくると聞けばそりゃ喜ぶか。
「そうです、先生は美人だと思っています。ちなみに、その子は東京から引っ越してきましたが、小さい頃はこの桜海市に住んでいたそうです。じゃあ、有村さん。教室の中に入ってきて」
「はーい」
えっ、東京から引っ越してきた? 小さい頃はこの桜海市に住んでた? しかも、その女子生徒の苗字は有村さん? まさかとは思うけれど。明日香の方を見たとき、同じことを思ったのか彼女と目が合った。
返事をしてすぐ、その有村さんという女の子が教室の中に入ってくる。その瞬間、主に男子生徒から「おおっ」という声が上がる。
松雪先生の言うように綺麗な顔立ちで、背も高く、茶髪のポニーテールが特徴的で――。
「やっぱり! さっちゃん!」
「明日香! やっぱり、明日香のクラスだったんだね!」
やっぱり、転入生は咲希だったのか。明日香を見つけて嬉しそうだ。
小さい頃のおもかげもあるって、ポニーテールの髪型も変わっていないけれど、あれから10年経って綺麗な女子高生になったんだなぁ。
「明日香がいるってことは……あっ! やっぱり翼もいた!」
「ひさしぶり、咲希」
「……もう、これは運命としか思えないよ」
「えっ?」
すると、咲希は自己紹介もせずに嬉しそうな様子のまま、僕のところまでやってきて、
「10年前からずっと、翼が大好きだっていう気持ちは変わらなかったよ」
咲希はあの日の別れ際のように、僕の頬にキスをして満面の笑みを見せてくれる。
ただ、あの日と違うのは、その様子を見ている人がたくさんいて、大騒ぎになってしまったこと……かな。
「じゃあ……またね。つばさくん。あすかちゃん」
もう、何年前のことだろうか。
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「でも、私もたまに見るよ。さっちゃんの夢」
「明日香もか。あれ以来、咲希とは会っていないもんね」
「うん」
明日香がさっちゃんと言うのは、有村咲希という同い年の女の子のこと。小学校に入学したときに同じクラスになったことで出会った。
穏やかな性格の明日香とは対照的で、咲希は元気いっぱいの気さくな女の子。出席番号順の関係で明日香と仲良くなって、その後すぐに僕とも仲良くなった。当たり前とも思えるくらいに3人一緒にたくさん遊んだ。
しかし、2年生になる直前、親の転勤による都合で東京の方へ引っ越してしまった。それ以降、咲希の家族と年賀状でやり取りはするものの、再会を果たすことはできていない。
「確か、転校したのは小学2年生になる直前だから、もう10年前になるんだね。さっちゃん、今ごろどんな生活を送っているのかな」
「高校に通っているなら、僕らと同じように受験勉強を頑張っているんじゃないかな」
「きっと、頑張っているだろうね。また会いたいなぁ」
あの頃の性格のままだったら、咲希はどんな場所でも上手くやっていると思っている。
咲希のことを話したら、ひさしぶりに彼女に会いたくなってきたな。彼女の家の住所は分かっているし、1年生のときからしているバイトのお金もあるので、進路が決まったら考えてみようかな。
「ねえ、つーちゃん。話は変わるけれど、今日からの夏服……どうかな? 似合ってる?」
「本当に話が変わったね、明日香。一昨年や去年以上に似合っていると思うよ」
「……ありがとう」
明日香、とても嬉しそうだな。
僕達が通っている桜海市立桜海高等学校では、今日から9月末まで夏服で登校することになっている。今、明日香は黒いベストを着ているけれど、爽やかな感じがしていいと思う。彼女の髪が黒いミディアムヘアだからかもしれないけども。
「今年の夏も楽しい夏にしたいね」
「今年は受験生だけど、何かできるといいね」
1年生と2年生のときは、明日香を含めてクラスメイトの何人かで旅行に行ったな。今年も同じようなことをするか分からないけれど、何か楽しい思い出を作ることができればいいなと思う。
そんなことを話しているうちに桜海高校に到着する。桜海高校は僕や明日香の自宅から徒歩で10分ほどの公立高校だ。地元にあるため、同じ中学から進学した生徒も多い。
僕と明日香は同じ文系クラスの3年1組。教室に向かうと、もう既に多くのクラスメイトが登校していた。
「やあやあ、蓮見と朝霧。今日も一緒に登校か。今日もおはよう」
「おはよう、明日香、蓮見君」
羽村宗久と常盤美波が僕らのところにやってきた。彼らは高校入学のときに出会い、1年生から3年連続で同じクラス。ちなみに、羽村は生徒会長で、常盤さんはクラス委員長だ。
「おはよう、羽村、常盤さん」
「おはよう、みなみん、羽村君」
「やっぱり、明日香は夏服の方が可愛いなぁ」
常盤さんは満足そうな様子で明日香の頭を優しく撫でている。2人とも同じ美術部ということもあってか、入学直後からずっと仲がいい。2人を見ていると微笑ましい気分になる。
「微笑ましい光景だな、蓮見」
「そうだな」
「……金髪ロングヘアの美女と黒髪セミロング少女の組み合わせ。うん、俺好みであり尊い」
うんうん、と羽村も満足した様子で2人のことを見ている。ガールズラブ作品が大好きな彼の頭の中では、今ごろどんな物語が繰り広げられているのか。本人曰く、妄想だけで満足らしいので僕を含めて誰も止めようとはしない。
漫画やアニメ、ゲーム好きということもあって、1年生のときから羽村とはそのことでよく話しており、休日に開催されるイベントへ一緒に参加したこともある。僕にとってよき親友であり、同時に仲間でもある。
「蓮見」
「うん?」
「……今年の夏は受験の夏でもあるが、何だか頑張れそうな気がしてきたぞ」
「そ、そうか。羽村は生徒会の方もあるんだから、無理せずに頑張れよ」
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「そういえば、ついさっき……里奈先生から聞いたんだけれど、今日、女子生徒が1人うちのクラスに転入してくるんだってさ」
「そうなの? みなみん」
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「はーい」
えっ、東京から引っ越してきた? 小さい頃はこの桜海市に住んでた? しかも、その女子生徒の苗字は有村さん? まさかとは思うけれど。明日香の方を見たとき、同じことを思ったのか彼女と目が合った。
返事をしてすぐ、その有村さんという女の子が教室の中に入ってくる。その瞬間、主に男子生徒から「おおっ」という声が上がる。
松雪先生の言うように綺麗な顔立ちで、背も高く、茶髪のポニーテールが特徴的で――。
「やっぱり! さっちゃん!」
「明日香! やっぱり、明日香のクラスだったんだね!」
やっぱり、転入生は咲希だったのか。明日香を見つけて嬉しそうだ。
小さい頃のおもかげもあるって、ポニーテールの髪型も変わっていないけれど、あれから10年経って綺麗な女子高生になったんだなぁ。
「明日香がいるってことは……あっ! やっぱり翼もいた!」
「ひさしぶり、咲希」
「……もう、これは運命としか思えないよ」
「えっ?」
すると、咲希は自己紹介もせずに嬉しそうな様子のまま、僕のところまでやってきて、
「10年前からずっと、翼が大好きだっていう気持ちは変わらなかったよ」
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