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第1話『転入少女』
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別れ際にキスをされてからおよそ10年。
転入してきたことで再会した咲希は、再び僕の頬にキスをした。その瞬間、10年前で途切れていた彼女との思い出が今に繋がったような気がして。
「さ、さっちゃん……」
明日香は戸惑った様子で僕達のことを見ている。
「あっ、もしかして……翼って明日香と付き合ってる? それなら本当にごめん! 翼と久しぶりに会えたのがあまりにも嬉しくて、つい……」
ごめんね、と咲希が謝ると、明日香は顔を真っ赤にして首を激しく横に振り、
「ううん、つーちゃんと付き合ってないよ。夫婦とか呼ばれるときはあるけどね。ただ、その……さっちゃんがつーちゃんの頬にいきなりキスしたから驚いちゃっただけで」
「……そっか」
僕と明日香が付き合っていないと知ったからか、咲希はほっと胸を撫で下ろす。そして、明日香のことをそっと抱きしめる。
「じゃあ、あたしにもチャンスがあるんだね、明日香」
「えっ?」
「……あたし、翼のことが好きなんだ。今はそのことを覚えていてくれると嬉しいな、翼」
「う、うん……」
もしかしたら、10年前の去り際に大好きだって言ったのも、恋をしているという意味での告白だったのかもしれない。告白されたことは全然ないけれど、ここまで爽やかにさらっと告白されることはそうそうないだろう。
咲希は黒板の方に戻り、黒板に自分の名前を書く。とても綺麗な字だ。
「友人との久しぶりの再会で嬉しくなっちゃいました、すみません。えっと、東京から来ました有村咲希です。親の仕事の都合で、約10年ぶりに桜海市に帰ってきました。部活は中学からずっと水泳部に入っていました。残り10ヶ月ですが、故郷である桜海の高校でみなさんと楽しく過ごすことができればいいなと思っています。これからよろしくお願いします!」
明るい笑顔でそう挨拶するとみんなから拍手が贈られる。こういった快活なところは10年前と全然変わっていないな。
「これからよろしくね、有村さん。ところで、先生から1つ質問してもいいかな」
「もちろんです。何ですか?」
「……蓮見君とはどんな関係なの?」
真剣な表情で何を訊くのかと思えば僕のことか。まあ、自己紹介もせずに僕のところへ向かい、頬にキスをしたらそりゃ訊きたくなるか。
「さっきも言ったように、翼はあたしの大好きな大切な人です。もちろん、明日香にも言えることです。2人と一緒だったのは小学1年生のときだけだったんですけど、いつも遊んでいたんです」
「なるほどね。そういえば、ひさしぶりに桜海に帰ってきたって言っていたわね。有村さんは幼ながらに蓮見君に恋心を抱いたと」
「ええ。10年以上その想いを持ち続けていました」
それを爽やかな笑顔でさらりと言えるところが凄い。そんな咲希の言葉に「おおっ」という声が響く。
「それで、10年ぶりに再会してキスですかぁ。はぁ……青春だねぇ。10年前っていうと先生はみんなと同じくらいの年齢で……当時付き合っていた彼氏の浮気が発覚したから、ブン殴って別れたんだっけ……」
あははっ……と、松雪先生の乾いた笑い声が切なく響く。3年連続で彼女が担任ということもあってか、このエピソードは何度も聞いている。先生、男女問わず人気があるから、きっと……恋人ができる日も遠くないと思いますよ。
「どんな結果になろうと、いつかは笑って話せるような恋をするように。じゃあ、そんな期するほどに恋する有村さんの席は蓮見君の後ろね」
「分かりました」
咲希は嬉しそうな笑みを浮かべて僕の後ろの席に向かう。
「よろしくね、翼。明日香」
「ああ、よろしくね、咲希」
「また一緒にお勉強できて嬉しいよ、さっちゃん」
そういえば、小学生のときも今のように明日香や咲希との席が近かったことがあったな。みんな大きくなったけど、ちょっと懐かしい感じ。
「これからよろしくね、有村さん。あたし、クラス委員長の常盤美波。明日香と一緒に美術部にも入っているんだ」
「うん、よろしく、美波。あたしのことも下の名前で呼んでいいよ」
「分かったよ。……咲希」
咲希は常盤さんと握手を交わすと、スマホを取り出してさっそく彼女と連絡先を交換している。僕もあとで交換しよう。
「そんなわけで、新たな仲間が加わって高校最後の夏が始まります。さすがに3年生だけあって、冬服を今日も着てきちゃった子はいないね。9月末までなので、最後の夏服を堪能してください。あと、中間試験が終わって間もないですが、1ヶ月もすれば期末試験もあります。各自、充実した夏の生活を送ってください。じゃあ……蓮見君にキスした転入生の有村さんのことが気になるのは仕方ないと思いますが、今日もしっかりと授業を受けるように。以上!」
そう言って、松雪先生は教室を後にした。何度もキスのことを言うなんて……相当衝撃を受けたんだな。
「有村さん!」
「蓮見君のことはどのくらい好きなの?」
女子生徒を中心に多くのクラスメイトが咲希のところにやってくる。そういえば、小学生の頃もクラスの女子の中心になっていたっけ。しばらくの間は、咲希のことで懐かしく思うことがありそうだ。
「何だか、小学生の頃に戻った感じだよね、つーちゃん」
「うん。僕も同じようなことを思っていたよ。まさか、咲希とまた一緒のクラスになるなんてね」
「そうだね。受験生だけれど、何だか楽しくなりそうだよ」
明日香は楽しげな笑みを浮かべる。今朝、また会いたいと言っていただけある。
──プルルッ。
うん? スマートフォンが鳴っているな。
確認してみると、松雪先生からLIMEというSNSアプリを通じてメッセージが1件。
『まさか、有村さんがあなたと親しい子だったなんて。キスいいなぁ、青春だなぁ。あと、明日香ちゃんのことも気にかけるようにしてね』
キスいいなぁ……って教師として問題なのでは。1年生のときに連絡先を交換してから、松雪先生とは時折こうしてメッセージを送り合ったりしている。明るくて気さくな人なので、3年連続で松雪先生が担任で良かったと思っている。
あと、明日香のことについては……高校に入学してからもずっと同じクラスだし、部活以外では一緒にいるときが多いからかな。一部の生徒からは夫婦なんて呼ばれているし。
『咲希が転入してきて本当に驚きましたよ。彼女はもちろん、明日香のことも気にかけるようにします』
こんな感じでいいかな。
高校最後の夏は、まさかの咲希の転入から始まった。いったい、どんな夏になるのか。明日香の言うように、受験生だけれど楽しい夏になりそうな気がするのであった。
転入してきたことで再会した咲希は、再び僕の頬にキスをした。その瞬間、10年前で途切れていた彼女との思い出が今に繋がったような気がして。
「さ、さっちゃん……」
明日香は戸惑った様子で僕達のことを見ている。
「あっ、もしかして……翼って明日香と付き合ってる? それなら本当にごめん! 翼と久しぶりに会えたのがあまりにも嬉しくて、つい……」
ごめんね、と咲希が謝ると、明日香は顔を真っ赤にして首を激しく横に振り、
「ううん、つーちゃんと付き合ってないよ。夫婦とか呼ばれるときはあるけどね。ただ、その……さっちゃんがつーちゃんの頬にいきなりキスしたから驚いちゃっただけで」
「……そっか」
僕と明日香が付き合っていないと知ったからか、咲希はほっと胸を撫で下ろす。そして、明日香のことをそっと抱きしめる。
「じゃあ、あたしにもチャンスがあるんだね、明日香」
「えっ?」
「……あたし、翼のことが好きなんだ。今はそのことを覚えていてくれると嬉しいな、翼」
「う、うん……」
もしかしたら、10年前の去り際に大好きだって言ったのも、恋をしているという意味での告白だったのかもしれない。告白されたことは全然ないけれど、ここまで爽やかにさらっと告白されることはそうそうないだろう。
咲希は黒板の方に戻り、黒板に自分の名前を書く。とても綺麗な字だ。
「友人との久しぶりの再会で嬉しくなっちゃいました、すみません。えっと、東京から来ました有村咲希です。親の仕事の都合で、約10年ぶりに桜海市に帰ってきました。部活は中学からずっと水泳部に入っていました。残り10ヶ月ですが、故郷である桜海の高校でみなさんと楽しく過ごすことができればいいなと思っています。これからよろしくお願いします!」
明るい笑顔でそう挨拶するとみんなから拍手が贈られる。こういった快活なところは10年前と全然変わっていないな。
「これからよろしくね、有村さん。ところで、先生から1つ質問してもいいかな」
「もちろんです。何ですか?」
「……蓮見君とはどんな関係なの?」
真剣な表情で何を訊くのかと思えば僕のことか。まあ、自己紹介もせずに僕のところへ向かい、頬にキスをしたらそりゃ訊きたくなるか。
「さっきも言ったように、翼はあたしの大好きな大切な人です。もちろん、明日香にも言えることです。2人と一緒だったのは小学1年生のときだけだったんですけど、いつも遊んでいたんです」
「なるほどね。そういえば、ひさしぶりに桜海に帰ってきたって言っていたわね。有村さんは幼ながらに蓮見君に恋心を抱いたと」
「ええ。10年以上その想いを持ち続けていました」
それを爽やかな笑顔でさらりと言えるところが凄い。そんな咲希の言葉に「おおっ」という声が響く。
「それで、10年ぶりに再会してキスですかぁ。はぁ……青春だねぇ。10年前っていうと先生はみんなと同じくらいの年齢で……当時付き合っていた彼氏の浮気が発覚したから、ブン殴って別れたんだっけ……」
あははっ……と、松雪先生の乾いた笑い声が切なく響く。3年連続で彼女が担任ということもあってか、このエピソードは何度も聞いている。先生、男女問わず人気があるから、きっと……恋人ができる日も遠くないと思いますよ。
「どんな結果になろうと、いつかは笑って話せるような恋をするように。じゃあ、そんな期するほどに恋する有村さんの席は蓮見君の後ろね」
「分かりました」
咲希は嬉しそうな笑みを浮かべて僕の後ろの席に向かう。
「よろしくね、翼。明日香」
「ああ、よろしくね、咲希」
「また一緒にお勉強できて嬉しいよ、さっちゃん」
そういえば、小学生のときも今のように明日香や咲希との席が近かったことがあったな。みんな大きくなったけど、ちょっと懐かしい感じ。
「これからよろしくね、有村さん。あたし、クラス委員長の常盤美波。明日香と一緒に美術部にも入っているんだ」
「うん、よろしく、美波。あたしのことも下の名前で呼んでいいよ」
「分かったよ。……咲希」
咲希は常盤さんと握手を交わすと、スマホを取り出してさっそく彼女と連絡先を交換している。僕もあとで交換しよう。
「そんなわけで、新たな仲間が加わって高校最後の夏が始まります。さすがに3年生だけあって、冬服を今日も着てきちゃった子はいないね。9月末までなので、最後の夏服を堪能してください。あと、中間試験が終わって間もないですが、1ヶ月もすれば期末試験もあります。各自、充実した夏の生活を送ってください。じゃあ……蓮見君にキスした転入生の有村さんのことが気になるのは仕方ないと思いますが、今日もしっかりと授業を受けるように。以上!」
そう言って、松雪先生は教室を後にした。何度もキスのことを言うなんて……相当衝撃を受けたんだな。
「有村さん!」
「蓮見君のことはどのくらい好きなの?」
女子生徒を中心に多くのクラスメイトが咲希のところにやってくる。そういえば、小学生の頃もクラスの女子の中心になっていたっけ。しばらくの間は、咲希のことで懐かしく思うことがありそうだ。
「何だか、小学生の頃に戻った感じだよね、つーちゃん」
「うん。僕も同じようなことを思っていたよ。まさか、咲希とまた一緒のクラスになるなんてね」
「そうだね。受験生だけれど、何だか楽しくなりそうだよ」
明日香は楽しげな笑みを浮かべる。今朝、また会いたいと言っていただけある。
──プルルッ。
うん? スマートフォンが鳴っているな。
確認してみると、松雪先生からLIMEというSNSアプリを通じてメッセージが1件。
『まさか、有村さんがあなたと親しい子だったなんて。キスいいなぁ、青春だなぁ。あと、明日香ちゃんのことも気にかけるようにしてね』
キスいいなぁ……って教師として問題なのでは。1年生のときに連絡先を交換してから、松雪先生とは時折こうしてメッセージを送り合ったりしている。明るくて気さくな人なので、3年連続で松雪先生が担任で良かったと思っている。
あと、明日香のことについては……高校に入学してからもずっと同じクラスだし、部活以外では一緒にいるときが多いからかな。一部の生徒からは夫婦なんて呼ばれているし。
『咲希が転入してきて本当に驚きましたよ。彼女はもちろん、明日香のことも気にかけるようにします』
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