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第2話『ディケイドメモリーズ』
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咲希が転入してきたこともあって、午前中はどの授業も最初の10分くらいは先生の自己紹介の時間が設けられた。それに対して咲希は明るく対応していた。そんな彼女に「さすがは、東京で10年過ごしただけある」などと言う生徒もいて。転入初日ということもあってか、他の生徒とは何か違う雰囲気を感じるのは確かかな。
咲希がいてくれたおかげなのか、今日はあっという間に昼休みになった。
「ねえねえ」
後ろから咲希のそんな声が聞こえ、背中をツンツンされる。これまで後ろに席がなかったので何だか違和感があるな。
ゆっくりと振り返ると、そこには笑顔で僕のことを見てくる咲希の姿が。
「翼、一緒にお昼ご飯を食べようよ」
「もちろんいいよ」
「明日香や美波も一緒にいいかな?」
「もちろんだよ、さっちゃん!」
「喜んで。明日香や蓮見君の昔話を聞かせてよ」
今日は4人でお昼ご飯を食べることに。机を動かし、僕は咲希や常盤さんと向かい合うようにして座る。ちなみに、隣には明日香が座っている。
10年前の引越しの夢を何度も見てきただけあって、咲希がすぐ側にいるのが今も信じられない気分だ。10年ぶりということもあって、咲希も綺麗な女性に成長したけど、昔のおもかげが残っていることに嬉しさを感じる。
「すまん、俺も一緒に昼飯を食べてもいいだろうか」
「うん、いいよ。確か……羽村君だよね」
「お見事だ、有村。生徒会長の羽村だ。蓮見達とはここに入学したときから仲良くしているよ。俺はもちろんのこと蓮見や朝霧、常盤でもいいから、学校のことで分からないことがあったら、遠慮なく訊いてくれ」
「うん、分かったよ。ありがとう」
羽村は近くにあった椅子を持ってきて、明日香や常盤さんの近くに座った。
「懐かしい光景だなぁ。翼と明日香が隣り合って座っているのを見たのは」
「10年前だっけ、知り合ったのは。そのときから明日香と蓮見君ってこんな感じで仲が良かったの?」
「うん、そうだよ。凄く仲が良かった。当時から翼は落ち着いていて優しいし、明日香はおっとりしていて可愛かったな」
「それは納得だね。蓮見君は物腰が柔らかくて面倒見いいし、明日香は特に部活だとおっとりしているよね」
「そうかなぁ。これでも、小さいときに比べればしっかりしてきていると思うんだけどな」
明日香の言うことも常盤さんの言うことも頷ける。年相応にしっかりとしてきたけど、基本的にはおっとりとしていると思っている。美術部で活動しているときの明日香の様子はあまり分からないけれど。
「そういえば、部活といえば……さっちゃんって水泳部に入っていたんだね」
「うん。中学高校とね。泳ぐのが好きだから」
「へえ……凄いなぁ。私なんて、中学生のときにようやくクロールで25mを泳げるようになってさ」
中学では実力テストがあるから、明日香の練習に付き合ったっけ。僕もクロールだとそれなりに泳げるけれど、平泳ぎや背泳ぎだとちょっとしか泳げない。
「25mも十分に凄いと思うよ」
「そうかな? さっちゃんって昔から運動神経がいいよね。もしかして、大会とかに出たりした?」
「何度か出場したことがあるけど、同じ部活のライバルの子や、他の学校にたくさん速く泳ぐことができる選手がいてね。表彰台に上がったことは一度もなかったよ」
「そっかぁ……日本は広いもんね。凄い人はたくさんいるよね」
明日香のコメントがツボにハマったのか、咲希はクスクスと笑い始めた。それにつられてか常盤さんも笑い始めて。そんな2人のことを明日香はきょとんした様子で見ている。
「世の中、凄い人はたくさんいるよな。今日だって、有村のことをさすが東京人と言っていた生徒もいるくらいだ。朝霧の言うように日本はとても広いんだろう。さあ、お昼ご飯を食べよう。いただきます!」
『いただきまーす』
僕達は昼食を食べ始める。まさか、咲希とまたこうして机をくっつけて昼食を食べることになるとは。今も夢を見ているんじゃないかと思ってしまうよ。
「そういえば、翼って部活はやっているの?」
「ううん、中学から一度も入ったことはないよ。面白そうな部活がなくて。ただ、高校に入学した直後から喫茶店でバイトしてる」
「へえ、何だか意外。翼ならどこでもやっていけると思っていたから。でも、受験勉強もあるのにバイトって大変じゃない?」
「そのことについてはマスターと相談して、前に比べたらあまりシフトは入れてないから大丈夫だよ。実のところ、本来なら今くらいの時期に辞めるつもりだったんだけど、新しくバイトを始めた人に色々と仕事を教えることになって。それでも、6月末には辞めることにはなったよ」
「へえ、そうなんだ。お仕事を教えるなんて凄いね、翼」
「コーヒーや紅茶を淹れるのも、料理を作るも楽しくて好きだからね。新しくバイトを始めた人とも上手くやっているよ」
その人は大学1年生だけど、素直で可愛らしい女性だ。あと、教育代ということで、バイト代が上がったので、辞めるのが先延ばしになったことは嫌だと思っていない。
「つーちゃんなら、本番直前までバイトをやり続けても大丈夫そうだけれどね。だって、1年生のときから、定期試験はずっと羽村君と1位と2位を独占しているから」
「翼も羽村君も頭いいんだ。凄いなぁ」
もちろん、羽村が1位で僕が2位だけれど。
「つーちゃんに定期試験前は勉強を教えてもらうことが多いよ。あと、つーちゃん……中学のときからゲームを作っていたよね」
「うん。高校に進学してからは羽村と一緒にいくつか作ったよ」
「蓮見と一緒に作ったゲームは結構面白かったし、近いうちにまたやらせてくれないか?」
「うん、いいよ」
元々、ゲームは好きだし中学のときは暇な時間もあったから、プログラミングの勉強をして自分で作ったっけ。背景やキャラクターを描いたり、簡単な音楽とかも作ったな。
この桜海高校に進学してからは、羽村と一緒にいくつかのゲームを作った。
「翼って結構多趣味なんだね」
「そう言われたのは初めてだなぁ。まあ、好きなことだからやれているし、楽しい時間を送ることはできたよ」
「そっか。じゃあ、あたしにも今度遊ばせてね」
「うん」
最近、全然触ってなかったから、ちゃんと動くかどうか確かめておこう。
「話は変わるけど、咲希が前に言っていた高校ってどんな高校だったの? やっぱり、東京の高校って凄い?」
常盤さん、興味津々だな。僕も、咲希がこれまでにどんな学校生活を送っていたのかは気になる。
「凄いかどうかは分からないけれど……私立の高校だったから敷地はかなり広かったし、校舎も立派だったよ。天羽女子っていう女子校ね。あと、そこはギリギリ神奈川県だけど。あたしを含めて東京から通う子も多かったよ」
「天羽女子って聞いたことある! 陸上とか声楽で凄い人がいたんだよね!」
陸上と声楽……か。運動部も文化部もかなりの実績を上げている高校なんだな。ただ、咲希が女子校に通っていたのは意外だ。
「陸上の凄い人はあたしが入学する前に卒業したけど、声楽で凄い子はクラスメイトで友達だよ。美波みたいに金色の髪が綺麗な素敵な子でね。あたしにとっては明日香と同じくらいに天使に見えた」
「なるほどね。東京には明日香みたいに可愛い子がいるんだ」
天羽女子高校はギリギリ神奈川県であると咲希が言っているけれど……地方の桜海市からみたら、東京とまとめてしまっても問題ないか。
「……そうか。有村は女子校に通っていたのか。ということは、生徒同士で付き合っているというのはあるのだろうか? 俺はそのことについて物凄く知りたいのだっ!」
羽村は席から立ち上がり大きな声でそう言った。女子校に通っていたと咲希が口にしてから、羽村が興味を持ちそうだと思ったけど、やっぱり。
「うん、生徒同士のカップルは何組もいたよ。同級生と付き合っている友達もいれば、後輩と付き合っている子もいるし。あたしも、天羽女子の生徒に何度か告白されたことがあってね。あたしは翼が好きだから、その告白は丁寧に断ってきたけど……」
そのときのことを思い出しているのか、咲希は照れ笑い。背も高いし、美人だし、明るくて気さくな人だから、そんな彼女に恋心を抱く女子もいるか。
「おおっ、そうなのか。とてもいい話が聞けた、ありがとう」
よし、と羽村はガッツポーズ。女子校に通う生徒同士の恋愛漫画が好きだもんな。羽村からたまに借りるけれど、咲希のような女の子が告白されるシーンはたまにある。
「そっか。女の子同士で付き合うことってあるんだ……」
「女子校特有かもしれないけれどね、美波。もしかして、気になる女の子がいるの?」
「いや、そういうわけじゃなくて……あたしも、羽村君の影響でガールズラブの作品が好きになったから興味を持っただけで……」
「ははっ、なるほどね。前の学校の友達にもそういう子がいたよ」
僕や羽村では入学することのできない学校だけれど、実際の女子校には色々とあるのかもしれない。
「やっぱり、日本って広いね、つーちゃん。知らないことばかりだよ」
「……お勉強できて良かったね、明日香」
東京や神奈川の話をしているんだけどね、咲希は。ただ、明日香がそう言いたくなる気持ちも分かる。
その後も、5人で楽しく昼食を食べながら昼休みを過ごすのであった。
咲希がいてくれたおかげなのか、今日はあっという間に昼休みになった。
「ねえねえ」
後ろから咲希のそんな声が聞こえ、背中をツンツンされる。これまで後ろに席がなかったので何だか違和感があるな。
ゆっくりと振り返ると、そこには笑顔で僕のことを見てくる咲希の姿が。
「翼、一緒にお昼ご飯を食べようよ」
「もちろんいいよ」
「明日香や美波も一緒にいいかな?」
「もちろんだよ、さっちゃん!」
「喜んで。明日香や蓮見君の昔話を聞かせてよ」
今日は4人でお昼ご飯を食べることに。机を動かし、僕は咲希や常盤さんと向かい合うようにして座る。ちなみに、隣には明日香が座っている。
10年前の引越しの夢を何度も見てきただけあって、咲希がすぐ側にいるのが今も信じられない気分だ。10年ぶりということもあって、咲希も綺麗な女性に成長したけど、昔のおもかげが残っていることに嬉しさを感じる。
「すまん、俺も一緒に昼飯を食べてもいいだろうか」
「うん、いいよ。確か……羽村君だよね」
「お見事だ、有村。生徒会長の羽村だ。蓮見達とはここに入学したときから仲良くしているよ。俺はもちろんのこと蓮見や朝霧、常盤でもいいから、学校のことで分からないことがあったら、遠慮なく訊いてくれ」
「うん、分かったよ。ありがとう」
羽村は近くにあった椅子を持ってきて、明日香や常盤さんの近くに座った。
「懐かしい光景だなぁ。翼と明日香が隣り合って座っているのを見たのは」
「10年前だっけ、知り合ったのは。そのときから明日香と蓮見君ってこんな感じで仲が良かったの?」
「うん、そうだよ。凄く仲が良かった。当時から翼は落ち着いていて優しいし、明日香はおっとりしていて可愛かったな」
「それは納得だね。蓮見君は物腰が柔らかくて面倒見いいし、明日香は特に部活だとおっとりしているよね」
「そうかなぁ。これでも、小さいときに比べればしっかりしてきていると思うんだけどな」
明日香の言うことも常盤さんの言うことも頷ける。年相応にしっかりとしてきたけど、基本的にはおっとりとしていると思っている。美術部で活動しているときの明日香の様子はあまり分からないけれど。
「そういえば、部活といえば……さっちゃんって水泳部に入っていたんだね」
「うん。中学高校とね。泳ぐのが好きだから」
「へえ……凄いなぁ。私なんて、中学生のときにようやくクロールで25mを泳げるようになってさ」
中学では実力テストがあるから、明日香の練習に付き合ったっけ。僕もクロールだとそれなりに泳げるけれど、平泳ぎや背泳ぎだとちょっとしか泳げない。
「25mも十分に凄いと思うよ」
「そうかな? さっちゃんって昔から運動神経がいいよね。もしかして、大会とかに出たりした?」
「何度か出場したことがあるけど、同じ部活のライバルの子や、他の学校にたくさん速く泳ぐことができる選手がいてね。表彰台に上がったことは一度もなかったよ」
「そっかぁ……日本は広いもんね。凄い人はたくさんいるよね」
明日香のコメントがツボにハマったのか、咲希はクスクスと笑い始めた。それにつられてか常盤さんも笑い始めて。そんな2人のことを明日香はきょとんした様子で見ている。
「世の中、凄い人はたくさんいるよな。今日だって、有村のことをさすが東京人と言っていた生徒もいるくらいだ。朝霧の言うように日本はとても広いんだろう。さあ、お昼ご飯を食べよう。いただきます!」
『いただきまーす』
僕達は昼食を食べ始める。まさか、咲希とまたこうして机をくっつけて昼食を食べることになるとは。今も夢を見ているんじゃないかと思ってしまうよ。
「そういえば、翼って部活はやっているの?」
「ううん、中学から一度も入ったことはないよ。面白そうな部活がなくて。ただ、高校に入学した直後から喫茶店でバイトしてる」
「へえ、何だか意外。翼ならどこでもやっていけると思っていたから。でも、受験勉強もあるのにバイトって大変じゃない?」
「そのことについてはマスターと相談して、前に比べたらあまりシフトは入れてないから大丈夫だよ。実のところ、本来なら今くらいの時期に辞めるつもりだったんだけど、新しくバイトを始めた人に色々と仕事を教えることになって。それでも、6月末には辞めることにはなったよ」
「へえ、そうなんだ。お仕事を教えるなんて凄いね、翼」
「コーヒーや紅茶を淹れるのも、料理を作るも楽しくて好きだからね。新しくバイトを始めた人とも上手くやっているよ」
その人は大学1年生だけど、素直で可愛らしい女性だ。あと、教育代ということで、バイト代が上がったので、辞めるのが先延ばしになったことは嫌だと思っていない。
「つーちゃんなら、本番直前までバイトをやり続けても大丈夫そうだけれどね。だって、1年生のときから、定期試験はずっと羽村君と1位と2位を独占しているから」
「翼も羽村君も頭いいんだ。凄いなぁ」
もちろん、羽村が1位で僕が2位だけれど。
「つーちゃんに定期試験前は勉強を教えてもらうことが多いよ。あと、つーちゃん……中学のときからゲームを作っていたよね」
「うん。高校に進学してからは羽村と一緒にいくつか作ったよ」
「蓮見と一緒に作ったゲームは結構面白かったし、近いうちにまたやらせてくれないか?」
「うん、いいよ」
元々、ゲームは好きだし中学のときは暇な時間もあったから、プログラミングの勉強をして自分で作ったっけ。背景やキャラクターを描いたり、簡単な音楽とかも作ったな。
この桜海高校に進学してからは、羽村と一緒にいくつかのゲームを作った。
「翼って結構多趣味なんだね」
「そう言われたのは初めてだなぁ。まあ、好きなことだからやれているし、楽しい時間を送ることはできたよ」
「そっか。じゃあ、あたしにも今度遊ばせてね」
「うん」
最近、全然触ってなかったから、ちゃんと動くかどうか確かめておこう。
「話は変わるけど、咲希が前に言っていた高校ってどんな高校だったの? やっぱり、東京の高校って凄い?」
常盤さん、興味津々だな。僕も、咲希がこれまでにどんな学校生活を送っていたのかは気になる。
「凄いかどうかは分からないけれど……私立の高校だったから敷地はかなり広かったし、校舎も立派だったよ。天羽女子っていう女子校ね。あと、そこはギリギリ神奈川県だけど。あたしを含めて東京から通う子も多かったよ」
「天羽女子って聞いたことある! 陸上とか声楽で凄い人がいたんだよね!」
陸上と声楽……か。運動部も文化部もかなりの実績を上げている高校なんだな。ただ、咲希が女子校に通っていたのは意外だ。
「陸上の凄い人はあたしが入学する前に卒業したけど、声楽で凄い子はクラスメイトで友達だよ。美波みたいに金色の髪が綺麗な素敵な子でね。あたしにとっては明日香と同じくらいに天使に見えた」
「なるほどね。東京には明日香みたいに可愛い子がいるんだ」
天羽女子高校はギリギリ神奈川県であると咲希が言っているけれど……地方の桜海市からみたら、東京とまとめてしまっても問題ないか。
「……そうか。有村は女子校に通っていたのか。ということは、生徒同士で付き合っているというのはあるのだろうか? 俺はそのことについて物凄く知りたいのだっ!」
羽村は席から立ち上がり大きな声でそう言った。女子校に通っていたと咲希が口にしてから、羽村が興味を持ちそうだと思ったけど、やっぱり。
「うん、生徒同士のカップルは何組もいたよ。同級生と付き合っている友達もいれば、後輩と付き合っている子もいるし。あたしも、天羽女子の生徒に何度か告白されたことがあってね。あたしは翼が好きだから、その告白は丁寧に断ってきたけど……」
そのときのことを思い出しているのか、咲希は照れ笑い。背も高いし、美人だし、明るくて気さくな人だから、そんな彼女に恋心を抱く女子もいるか。
「おおっ、そうなのか。とてもいい話が聞けた、ありがとう」
よし、と羽村はガッツポーズ。女子校に通う生徒同士の恋愛漫画が好きだもんな。羽村からたまに借りるけれど、咲希のような女の子が告白されるシーンはたまにある。
「そっか。女の子同士で付き合うことってあるんだ……」
「女子校特有かもしれないけれどね、美波。もしかして、気になる女の子がいるの?」
「いや、そういうわけじゃなくて……あたしも、羽村君の影響でガールズラブの作品が好きになったから興味を持っただけで……」
「ははっ、なるほどね。前の学校の友達にもそういう子がいたよ」
僕や羽村では入学することのできない学校だけれど、実際の女子校には色々とあるのかもしれない。
「やっぱり、日本って広いね、つーちゃん。知らないことばかりだよ」
「……お勉強できて良かったね、明日香」
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その後も、5人で楽しく昼食を食べながら昼休みを過ごすのであった。
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