ラストグリーン

桜庭かなめ

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第3話『校内デート』

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 咲希が転入してきて、金曜日ということもあってか、午後の授業もあっという間に終わった気がする。

「うぅん、終わったぁ!」
「お疲れ様、咲希。どう? 桜海高校の授業は」
「何とかやっていけそうかな。少なくとも文系科目と英語は。それに、翼達と一緒に授業を受けたからか楽しかったよ」
「そっか。僕も楽しかったよ」

 昨日までは窓側の一番後ろだったのでそれも良かったけど、後ろに咲希がいるっていうのもいいな。勉強の内容は高校生だけど、気分は小学1年生の頃に帰った感じがして。

「さっちゃん。ひさしぶりに家へ遊びに行きたいんだけど、今日は部活があって」
「ううん、気にしないで。部活も大事だし、美波と一緒に頑張ってね、明日香」
「ありがとう、さっちゃん。土日に会いたいから、そのときは連絡していい?」
「うん。特に予定はないからね。受験勉強もしなきゃだけど、10年ぶりに2人と再会できたんだし遊んでもいいよね。いつでも連絡してきて」

 咲希がそう言うと、明日香はとても嬉しそうな笑みを浮かべる。

「……うん。いいね、いつでも連絡できるって。今までも、やろうと思えばできたんだろうけど」
「……そうだね、明日香」

 毎年やり取りしている年賀状にはもちろん住所が書いてあったからな。
 ただ、東京は遠いし、僕の場合は頬にされたキスが忘れられず、照れくさくもあって。会いたい気持ちはもちろんあったけど、これまで行動には移せなかった。

「明日香、そろそろ行こっか」
「そうだね。じゃあ、またね、つーちゃん、さっちゃん」
「うん、またね、明日香」
「部活頑張れよ」

 明日香は常盤さんと一緒に教室を後にした。基本的には明日香とは今のように教室で別れる。

「有村、桜海高での初日はどうだった?」
「うん、楽しかったよ。あと、まだ学校の中があまり分かっていないから、これから翼に案内してもらおうかなって思ってる。翼、この後大丈夫?」
「いいよ。バイトは明日だし」
「じゃあ、蓮見と校内探検をして学校のことを知ってくれ。放課後は基本的に生徒会室にいるから、何か学校のことで分からないことがあったらいつでも来てくれよ」
「分かった。じゃあね、羽村君」
「ああ、またな」

 羽村も教室を後にした。9月の終わり頃に文化祭や体育祭がある。生徒会は今ぐらいの時期から、2大イベントに向けて準備を始めるそうだ。受験勉強もあって大変だろうけど、無理をしない程度に頑張ってほしい。

「じゃあ、今後授業とかで使いそうなところから回ろっか」
「お願いします、翼先輩!」
「あははっ、咲希に先輩って呼ばれるとは思わなかったなぁ。じゃあ、行こうか」

 咲希と一緒に教室を出た瞬間だった。

「お兄ちゃん!」
「おう、芽依」

 教室の側にバッグを持った妹の芽依めいが立っていた。今週も終わったからか元気そうな様子。

「明日香ちゃんや美波先輩や里奈先生から、咲希ちゃん……咲希先輩が転入してきたってメッセージをもらったから会いたくて」

 芽依は松雪先生が顧問である茶道部に入部しているから、明日香や常盤さんだけじゃなくて、先生からも咲希が転入してきたというメッセージをもらったのか。そういえば、10年前に何度か遊んだことがあるのに、芽依にこのことを伝えるのをすっかりと忘れてた。

「芽依ちゃん、ひさしぶりだね。覚えていてくれたんだ」
「ちょっとだけですけど。でも、4人で遊んだことは覚えています」
「そっかぁ。芽依ちゃん、10年経ってさすがに大きくなったけど、変わらず可愛いね。ショートボブの髪、とてもよく似合ってるよ。あと、あたしのことは先輩って呼ばなくていいんだよ。敬語を使わなくてもいいし」

 咲希は芽依の頭を優しく撫でている。ただ、なぜだか小動物を愛でているようにしか見えない。

「あぁ、可愛いから芽依ちゃんを妹にしたいなぁ。でも、翼と結婚すれば義理だけれど妹になるんだよね」

 もしかしたら、芽依を義理の妹にしたいというのも、僕に告白した理由の一つかもしれないな。

「咲希ちゃん、これからよろしくね」
「うん、よろしくね。芽依ちゃんはこれからどうするの? あたしは翼に学校の中を案内してもらうんだけど」
「そうなんだ。あたしはこれから部活。茶道部なんだ。月水金の週3日やっているの。その顧問は里奈先生なんだよ」
「へえ、そうなんだね! じゃあ、芽依ちゃんも部活を頑張ってね」
「頑張れよ、芽依」
「うん! じゃあまたね!」

 芽依は茶道室の方へと向かっていった。芽依にとっては幼稚園の頃のことだけれど、しっかりと覚えていたんだな。

「芽依ちゃんが覚えていてくれて嬉しいな。あたし達も行こうよ」
「そうだね」

 僕は咲希と一緒に校内探検をする。さっき言ったように、今後利用するかもしれない場所を中心に回っていく。といっても、3年生ということで教室を移動して授業することがほぼないので、意外と早く終わりそうだ。
 僕に好きだと告白した咲希は、手を繋ぐのは恥ずかしいのか、僕のワイシャツの裾をそっと掴んでいた。

「今後行くところはだいたいこんな感じかな」
「ありがとう、翼。結構立派だね。天羽女子比べたらこじんまりしている感じがするけど、すぐに色々なところに行けるからいいよ」

 爽やかな笑みを浮かべながら咲希はそう言った。私立校って校舎や施設などがかなり充実しているイメージがある。あと、敷地がとても広いとか。男子禁制だけど、咲希が通っていた天羽女子がどんなところなのか一度行ってみたいな。

「今回は今後行きそうなところだけに絞ったけど、気になる場所とか、こういう場所はあるの……っていうのはある?」
「今のところはないかな。また気になることがあったら訊くよ」
「うん、分かった。いつでも訊いてきてね」
「ありがとう、翼。……何だか、翼と校内デートをしているみたいで楽しかったよ。また、翼と一緒に歩くことができたことがとても嬉しくて」

 そういえば、校内を歩いているときは笑みをずっと絶やさなかったもんな。あと、校内デートという言葉は初めて聞いた。

「小学生のときは明日香と3人一緒だったのが基本だったでしょ? もちろん、明日香が嫌だってわけじゃないけど、翼と2人で行動できたのがとても嬉しいんだ」
「……そっか。小学生のときは、体調が悪くなったりしない限りは基本的に3人行動だったもんね」

 それが当たり前となって1年間も過ごしていたからこそ、咲希が転校すると知ったときはショックだった。

「僕も咲希と一緒に学校の中を歩くことができて嬉しいよ」
「……あたしのこと、ちょっとは好きになった?」
「何て言えばいいのか分からないけど、今はとにかく咲希とまた一緒に学校生活を送ることができることが嬉しくて。あと、子供の10年だから、さすがに変わるだろうって思っていたけれど、咲希は素敵な女性になったね」
「……あ、ありがと。凄く嬉しい……です……」

 気付けば、咲希の顔はとても赤くなっていて、さっきよりも緩んだ笑みになっていた。そんな顔を見られるのが恥ずかしいのか咲希は両手で隠す。こういう姿はさすがに10年前には見られなかったので新鮮であり、可愛らしい。

「ねえ、翼。これから……あたしの家に来ない? 昔はあたしの家でも遊んだし。といっても、あのときの家とは違うんだけれどね」
「じゃあ、お言葉に甘えて。お邪魔するね」

 そっか。昔の家とは違うんだ。それは寂しいけど、今の家がどんな感じのか気になるな。
 咲希の新しい家に向かうため、僕らは学校を後にするのであった。
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