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第28話『第三者として』
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あれから、2人は陽が大分傾くまでぐっすりと眠っていた。
2人のうち、三宅さんの方が先に起きたため、咲希は三宅さんに寝姿を見られてしまう結果に。起きてそのことに気付いたときの咲希の悶える様子はとても可愛らしかった。
三宅さんはそんな咲希の姿を見て声を挙げて笑った。そのことと、ぐっすりと眠ることができたのが功を奏したのか、家を後にするときには大分明るい表情になっていた。家に帰ってゆっくりと考えるそうだ。
駅まで送ると言ったら遠慮されてしまったので、せめてもの気持ちで玄関に出て三宅さんを見送ることに。
「少しは元気になったようで良かったね」
「そうだね」
「……ねえ、翼。あれ、明日香じゃない?」
「本当だ」
家の玄関に入ろうとした明日香を三宅さんが見つけた形だ。楽しそうに何か話しているようだけど。僕の家に行ったことでも話しているのかな。たまに僕らの方を見ているからきっとそうだろう。
話し終わったのか三宅さんは明日香と僕らにお辞儀をして歩き始める。
そして、三宅さんと入れ替わるようにして、明日香がこちらに向かって全速力で走ってきた。
「どうしたんだろうね、明日香」
「羽村君のことでも訊きたいのかな。あと、胸がよく揺れていて羨ましい」
どんなところに羨ましさを抱いているのか。咲希の胸も……僕から見れば普通にあると思うけど、本人はそれじゃ満足できないのだろう。あと、胸が揺れたらそれはそれで大変そうだ。
「つ、つーちゃん! はるちゃんがベッドで気持ちいい想いをして、さっちゃんがつーちゃんの胸の中に飛び込んでいたって本当なの?」
明日香はあたふたした様子で僕や咲希にそんなことを訊いてくる。
「明日香の言ったこと自体は合っているんだけど、絶対に勘違いしている気がするよね、翼」
「咲希も同じことを思った?」
「うん。……明日香が想像しているようなことはしていないよ。陽乃ちゃんは寝不足で疲れが溜まっていたから翼のベッドで寝て、あたしは……そんな陽乃ちゃんが羨ましくて翼の胸の中で寝ただけだよ」
「……そ、そういえば、はるちゃんもそんなことを言ってた気がする」
勘違いしちゃった、と明日香は恥ずかしそうに笑った。
きっと、三宅さんはちゃんと事実を言っただろうけど「ベッド」とか「胸の中」という言葉で、明日香が変な方向に勘違いしちゃったんだと思う。
「明日香も翼の胸の中に飛び込んでみる? 眠たくなっちゃうくらいに気持ちいいよ」
「えっ、いや、その……眠たくなるのはさっちゃんだけかもしれないけれど、どんな感じなのか確かめてみたいし……お言葉に甘えて」
そう言うと、明日香は僕のことをぎゅっと抱きしめ、胸の中に頭を埋めた。何か、咲希よりもはっきりと柔らかいものを感じるし、玄関前だからかドキドキしてくる。
「つーちゃんの匂いだけじゃなくて、さっちゃんの匂いも感じられるね。でも、2人の匂いは好きだから……うん、確かに気持ちよくて眠くなっちゃうね」
「でしょ?」
「……うん。今日の疲れが取れていくよ。だからこそ……さっちゃんとはるちゃんが羨ましいかな」
そう言うと、明日香は顔を僕の胸から離し、僕のことを見上げながら、いつもの優しい笑みを浮かべる。
「そういえば、はるちゃん、何だか明るそうに見えたよ。つーちゃんやさっちゃんと羽村君のことで話したって言っていたから、そのおかげかな」
「……少しでも気持ちが軽くなったら何よりだよ。三宅さんも羽村のことが大好きなようだから、いつかは気持ちを理解し合って、2人にとって最良の道が見つかるって僕は信じているよ」
僕も……見つけていかないとな。進路もそうだし、咲希と付き合うかどうかも。
「きっと見つかると思うよ、つーちゃん」
「……うん。あっ、三宅さんの想いは羽村に言わないでね。彼女からのお願いだから」
「分かった」
咲希が寝る前に話したように、羽村と三宅さんの想いはそれぞれ聞いて僕らの想うことは伝えたから、あと2人次第かな。もちろん、いつでも協力するつもりではいる。
羽村は今も体調不良だし、三宅さんもきっと羽村のことについてゆっくりと考えているのだろう。
今日は2人から連絡が来ることはなかったのであった。
7月13日、金曜日。
昨日のようなどんよりとした雲は東の方へと去っていき、今日は青空が広がっている。強い陽差しが照り付けていて暑いけど、曇ってジメジメしているよりはマシだ。
今日も明日香や咲希と一緒に登校するけれど、教室には羽村の姿はない。
「みんな、おはよう。今日も羽村君は来ていないよ」
「そっか。まだ体調が戻らないのかな。羽村からはまだ連絡はないんだけど」
「大事を取って、このまま週末まで休むかもね。今日も暑いし、油断したらまた体調が悪くなっちゃうかも」
「みなみんの言う通りかもね」
「こういうときは無理しない方がいいよね。……そういえば、咲希に蓮見君。あの後、陽乃ちゃんと会って話したそうだけれどどうだった? 昨日の夜、明日香が帰りに陽乃ちゃんと会ったときは、思ったよりも元気そうにだったらしいけど」
「うん。僕の家で話したんだけれど、帰るときは割と元気になっていたかな。実は……」
昨日、学校を後にしてからの話を常盤さんに話す。
「……なるほどね。陽乃ちゃんは、羽村君への好意が彼の将来を阻むかもしれないと思ったんだ。だから、彼からの告白を断ったってわけか。難しいところだね……」
常盤さんも、三宅さんが告白を断ったことについては何とも言えない感じか。
「陽乃ちゃんの気持ちも分かるな。ただ、羽村君……次元を問わず、好きな人への愛情の注ぎ方は凄いと思うし、陽乃ちゃんのことを諦められないって言っているから、それでも彼女の側にいたいとか会いたいとか思って、東京の大学へ進学するのを止めちゃう可能性はあるよね。彼の場合、頭が凄くいいから、桜海大学だって余裕で合格できると思うし」
「それも……羽村ならあり得そうな気がするな」
三宅さんへの好意もより強くなったそうだし。きっと、告白を断れば自分のことを諦めて、今までの関係のままでいられると思った三宅さんにとっては誤算だったのだろう。
「みなみんの話を聞くと、2人には本当の気持ちを伝え合う必要があると思う。お互いのことを想っているけど、告白したことですれ違っちゃったというか。ボタンを掛け違えちゃったっていうか。ううっ、なかなか上手く言えない」
「あたしは明日香の言っていることは分かる気がするな。もう一度、互いの気持ちや考えを確認し合って、2人にとって最善の道を見つけた方がいいってことだよね」
「うん、そういうことだよ、さっちゃん。……って、私達がそう考えるけど、最終的には2人が決めることなんだよね。何かしたいとは思っているけど……もどかしいね」
「僕達が助けることも大切だと思うけど、羽村と三宅さんのことだし、今はそれぞれがゆっくりと考える時期ってことでいいんじゃないかな。もちろん、2人から助けを求められたときには協力する。それでいいんだと思うよ、明日香」
「……そうだね、つーちゃん」
うん、と明日香は自分を納得させているようだった。何もせずに見守るということも、2人に対してできることなんじゃないだろうか。
――プルルッ。
ここ数日の傾向からして、この時間にスマートフォンが鳴るってことは……やっぱり。
『喉や鼻は治ったのだが、まだ熱とだるさが残っているから、今日も欠席するよ。週末も静養して来週は出席できるようにする』
羽村からそんなメッセージが送られてきた。まだ学校に来られるほどじゃないか。快復の方向に向かっているだけいいか。
『分かった。急がずゆっくりと休んで。お大事に』
きっと、三宅さんにもこのことは伝わっているはず。変に責任を感じてしまわないかどうか心配だ。
そして、今日も授業を受ける。羽村が休んでから3日目になると、彼がいないことに慣れ始めてしまうな。それが何とも虚しく思えた。
何事もなく今日の授業が全て終わり、終礼のために松雪先生が来るのを待っていたときだった。
――プルルッ。
うん? スマートフォンが鳴っているな。
確認してみると、三宅さんからの新着メッセージが届いたという通知が。
『今日の授業、お疲れ様でした。午後に羽村会長のお見舞いに行きたいのですが、一緒に行ってもらっても大丈夫ですか?』
おっ、三宅さん……羽村に会おうと決意したんだ。1日経って、自分の気持ちに整理が付いたのかな。
「どうしたの? 翼」
「三宅さんが羽村の家にお見舞いに行くからついてきてほしいってさ」
「そうなの? じゃあ、あたし達でついて行こうよ」
「そうだね」
やっぱり、咲希もついて行くつもりか。
『分かった。咲希もついて行くって言うから、3人でお見舞いに行こうか』
羽村も水曜日に比べれば体調も良くはなっているそうだし、3人行っても大丈夫だろう。三宅さん次第では一気に治るかもしれないな。
『ありがとうございます! 今日も生徒会のお仕事が少ないので、昨日と同じ2時過ぎにくらいに終わると思います。また連絡しますね』
今日も生徒会の仕事はあまり多くないんだな。それなら、羽村もあまり責任を感じずに済みそうだ。
それからすぐに松雪先生がやってきて、今週最後の終礼をするのであった。
2人のうち、三宅さんの方が先に起きたため、咲希は三宅さんに寝姿を見られてしまう結果に。起きてそのことに気付いたときの咲希の悶える様子はとても可愛らしかった。
三宅さんはそんな咲希の姿を見て声を挙げて笑った。そのことと、ぐっすりと眠ることができたのが功を奏したのか、家を後にするときには大分明るい表情になっていた。家に帰ってゆっくりと考えるそうだ。
駅まで送ると言ったら遠慮されてしまったので、せめてもの気持ちで玄関に出て三宅さんを見送ることに。
「少しは元気になったようで良かったね」
「そうだね」
「……ねえ、翼。あれ、明日香じゃない?」
「本当だ」
家の玄関に入ろうとした明日香を三宅さんが見つけた形だ。楽しそうに何か話しているようだけど。僕の家に行ったことでも話しているのかな。たまに僕らの方を見ているからきっとそうだろう。
話し終わったのか三宅さんは明日香と僕らにお辞儀をして歩き始める。
そして、三宅さんと入れ替わるようにして、明日香がこちらに向かって全速力で走ってきた。
「どうしたんだろうね、明日香」
「羽村君のことでも訊きたいのかな。あと、胸がよく揺れていて羨ましい」
どんなところに羨ましさを抱いているのか。咲希の胸も……僕から見れば普通にあると思うけど、本人はそれじゃ満足できないのだろう。あと、胸が揺れたらそれはそれで大変そうだ。
「つ、つーちゃん! はるちゃんがベッドで気持ちいい想いをして、さっちゃんがつーちゃんの胸の中に飛び込んでいたって本当なの?」
明日香はあたふたした様子で僕や咲希にそんなことを訊いてくる。
「明日香の言ったこと自体は合っているんだけど、絶対に勘違いしている気がするよね、翼」
「咲希も同じことを思った?」
「うん。……明日香が想像しているようなことはしていないよ。陽乃ちゃんは寝不足で疲れが溜まっていたから翼のベッドで寝て、あたしは……そんな陽乃ちゃんが羨ましくて翼の胸の中で寝ただけだよ」
「……そ、そういえば、はるちゃんもそんなことを言ってた気がする」
勘違いしちゃった、と明日香は恥ずかしそうに笑った。
きっと、三宅さんはちゃんと事実を言っただろうけど「ベッド」とか「胸の中」という言葉で、明日香が変な方向に勘違いしちゃったんだと思う。
「明日香も翼の胸の中に飛び込んでみる? 眠たくなっちゃうくらいに気持ちいいよ」
「えっ、いや、その……眠たくなるのはさっちゃんだけかもしれないけれど、どんな感じなのか確かめてみたいし……お言葉に甘えて」
そう言うと、明日香は僕のことをぎゅっと抱きしめ、胸の中に頭を埋めた。何か、咲希よりもはっきりと柔らかいものを感じるし、玄関前だからかドキドキしてくる。
「つーちゃんの匂いだけじゃなくて、さっちゃんの匂いも感じられるね。でも、2人の匂いは好きだから……うん、確かに気持ちよくて眠くなっちゃうね」
「でしょ?」
「……うん。今日の疲れが取れていくよ。だからこそ……さっちゃんとはるちゃんが羨ましいかな」
そう言うと、明日香は顔を僕の胸から離し、僕のことを見上げながら、いつもの優しい笑みを浮かべる。
「そういえば、はるちゃん、何だか明るそうに見えたよ。つーちゃんやさっちゃんと羽村君のことで話したって言っていたから、そのおかげかな」
「……少しでも気持ちが軽くなったら何よりだよ。三宅さんも羽村のことが大好きなようだから、いつかは気持ちを理解し合って、2人にとって最良の道が見つかるって僕は信じているよ」
僕も……見つけていかないとな。進路もそうだし、咲希と付き合うかどうかも。
「きっと見つかると思うよ、つーちゃん」
「……うん。あっ、三宅さんの想いは羽村に言わないでね。彼女からのお願いだから」
「分かった」
咲希が寝る前に話したように、羽村と三宅さんの想いはそれぞれ聞いて僕らの想うことは伝えたから、あと2人次第かな。もちろん、いつでも協力するつもりではいる。
羽村は今も体調不良だし、三宅さんもきっと羽村のことについてゆっくりと考えているのだろう。
今日は2人から連絡が来ることはなかったのであった。
7月13日、金曜日。
昨日のようなどんよりとした雲は東の方へと去っていき、今日は青空が広がっている。強い陽差しが照り付けていて暑いけど、曇ってジメジメしているよりはマシだ。
今日も明日香や咲希と一緒に登校するけれど、教室には羽村の姿はない。
「みんな、おはよう。今日も羽村君は来ていないよ」
「そっか。まだ体調が戻らないのかな。羽村からはまだ連絡はないんだけど」
「大事を取って、このまま週末まで休むかもね。今日も暑いし、油断したらまた体調が悪くなっちゃうかも」
「みなみんの言う通りかもね」
「こういうときは無理しない方がいいよね。……そういえば、咲希に蓮見君。あの後、陽乃ちゃんと会って話したそうだけれどどうだった? 昨日の夜、明日香が帰りに陽乃ちゃんと会ったときは、思ったよりも元気そうにだったらしいけど」
「うん。僕の家で話したんだけれど、帰るときは割と元気になっていたかな。実は……」
昨日、学校を後にしてからの話を常盤さんに話す。
「……なるほどね。陽乃ちゃんは、羽村君への好意が彼の将来を阻むかもしれないと思ったんだ。だから、彼からの告白を断ったってわけか。難しいところだね……」
常盤さんも、三宅さんが告白を断ったことについては何とも言えない感じか。
「陽乃ちゃんの気持ちも分かるな。ただ、羽村君……次元を問わず、好きな人への愛情の注ぎ方は凄いと思うし、陽乃ちゃんのことを諦められないって言っているから、それでも彼女の側にいたいとか会いたいとか思って、東京の大学へ進学するのを止めちゃう可能性はあるよね。彼の場合、頭が凄くいいから、桜海大学だって余裕で合格できると思うし」
「それも……羽村ならあり得そうな気がするな」
三宅さんへの好意もより強くなったそうだし。きっと、告白を断れば自分のことを諦めて、今までの関係のままでいられると思った三宅さんにとっては誤算だったのだろう。
「みなみんの話を聞くと、2人には本当の気持ちを伝え合う必要があると思う。お互いのことを想っているけど、告白したことですれ違っちゃったというか。ボタンを掛け違えちゃったっていうか。ううっ、なかなか上手く言えない」
「あたしは明日香の言っていることは分かる気がするな。もう一度、互いの気持ちや考えを確認し合って、2人にとって最善の道を見つけた方がいいってことだよね」
「うん、そういうことだよ、さっちゃん。……って、私達がそう考えるけど、最終的には2人が決めることなんだよね。何かしたいとは思っているけど……もどかしいね」
「僕達が助けることも大切だと思うけど、羽村と三宅さんのことだし、今はそれぞれがゆっくりと考える時期ってことでいいんじゃないかな。もちろん、2人から助けを求められたときには協力する。それでいいんだと思うよ、明日香」
「……そうだね、つーちゃん」
うん、と明日香は自分を納得させているようだった。何もせずに見守るということも、2人に対してできることなんじゃないだろうか。
――プルルッ。
ここ数日の傾向からして、この時間にスマートフォンが鳴るってことは……やっぱり。
『喉や鼻は治ったのだが、まだ熱とだるさが残っているから、今日も欠席するよ。週末も静養して来週は出席できるようにする』
羽村からそんなメッセージが送られてきた。まだ学校に来られるほどじゃないか。快復の方向に向かっているだけいいか。
『分かった。急がずゆっくりと休んで。お大事に』
きっと、三宅さんにもこのことは伝わっているはず。変に責任を感じてしまわないかどうか心配だ。
そして、今日も授業を受ける。羽村が休んでから3日目になると、彼がいないことに慣れ始めてしまうな。それが何とも虚しく思えた。
何事もなく今日の授業が全て終わり、終礼のために松雪先生が来るのを待っていたときだった。
――プルルッ。
うん? スマートフォンが鳴っているな。
確認してみると、三宅さんからの新着メッセージが届いたという通知が。
『今日の授業、お疲れ様でした。午後に羽村会長のお見舞いに行きたいのですが、一緒に行ってもらっても大丈夫ですか?』
おっ、三宅さん……羽村に会おうと決意したんだ。1日経って、自分の気持ちに整理が付いたのかな。
「どうしたの? 翼」
「三宅さんが羽村の家にお見舞いに行くからついてきてほしいってさ」
「そうなの? じゃあ、あたし達でついて行こうよ」
「そうだね」
やっぱり、咲希もついて行くつもりか。
『分かった。咲希もついて行くって言うから、3人でお見舞いに行こうか』
羽村も水曜日に比べれば体調も良くはなっているそうだし、3人行っても大丈夫だろう。三宅さん次第では一気に治るかもしれないな。
『ありがとうございます! 今日も生徒会のお仕事が少ないので、昨日と同じ2時過ぎにくらいに終わると思います。また連絡しますね』
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