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第49話『海と星空と彼女-後編-』
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――1年生のときから明日香のことが好きです。あたしと恋人として付き合ってくれませんか。
常盤さんは明日香に好きだと告白をして、キスを交わした。さっきよりも強く明日香のことを抱きしめているように見える。
明日香はそれに驚いてしまったのか、目を見開いて固まってしまっている。
入学してから明日香とは最も一緒にいて、とても仲がいいけど……まさか、常盤さんが明日香のことを恋愛的な意味で好きだとは。
告白だけじゃなくて、キスまで見てしまうと、胸が痛んで冷静じゃいられなくなる。でも、気持ちを落ち着かせなくちゃ。
やがて、常盤さんの方から唇を離す。
「ずっと明日香とこういうことをしたかったの。だから、唇は明日香のために取っておいたんだよ。あたしのファーストキスをあげることができて嬉しい。……好き。大好き」
常盤さんは明日香に何度もキスする。それほどに明日香へ強い好意を抱いていたのか。
ただ、明日香はすぐに常盤さんの抱擁を解いた。
「ごめん、突然のことだったからかビックリしちゃって。ドキドキもしちゃって。ちょっと落ち着かせてくれないかな」
「……うん。あたしが一方的に気持ちを伝えちゃっていたね、ごめん。明日香の気持ちも考えずにたくさんキスしちゃって」
「……ううん、気にしないで。嫌じゃなかったし」
「そう言ってくれると嬉しい。明日香のことが好きで。でも、明日香には蓮見君っていう好きな人がいて。応援しようと決めたんだ。でも、どこか諦めきれない気持ちがあって、昨日の明日香の水着姿が凄く可愛くて。この旅行中に告白しようと思ったの。……って、また自分の気持ちばかり言っちゃったね」
さっきキスしたこともあってか、常盤さんは照れくさそうに笑っていた。
「……明日香はあたしのことをどう思っているかな。明日香の口から聞かせてほしい」
告白したんだから、明日香から返事を聞きたいよな。それはきっと、明日香も咲希も同じ……なんだよな。
再び、波の音や風の吹く音だけが聞こえる時間が続き、
「……ごめんね。みなみんの気持ちは嬉しいけど、みなみんとは恋人として付き合うことはできないよ」
「……蓮見君が好きだから?」
「うん。つーちゃんのことが大好きだし、まだつーちゃんから返事をもらっていない。それに、恋人として付き合うのはつーちゃん以外に考えられないの」
「……やっぱり、そうなんだね」
さすがに常盤さんも肩を落としていた。そんな彼女に対して、明日香は優しい笑みを浮かべて頭を撫でている。
常盤さんには申し訳ないけど、明日香が「ごめんね」と言った瞬間、それまでの胸の苦しみがすっと無くなったんだ。たぶん、僕は常盤さんと同じような想いを抱いているのだと想う。本当に僕は――。
「でもさ、蓮見君も早く決断して2人に伝えてあげればいいのに。明日香と咲希の気持ちが分かっているくせに、どうして決断できないんだろうね。あたしには分からない」
常盤さんのその言葉はまるで、何度も針で刺すかのように胸にチクチクと連続して痛みを与えていく。
「きっと、つーちゃんもしっかりと考えてくれているんだよ。それに、受験勉強で忙しいだろうから、もしかしたら考える時間さえも……」
「でも、咲希が告白して2ヶ月以上も経っているし、明日香がはっきりと好きだって言ってからも1ヶ月以上も経っているんでしょう? それなのに、蓮見君は何も答えを出していない。あたしから見れば、ほっといているようにしか思えないよ」
常盤さんにはそう見えているのか。僕の中では明日香や咲希に対する意識は変わった。ただ、みんなの前では以前とあまり変わらず接するのが一番だと思って過ごしてきたけど、もしかしたらそれは間違っていたのかもしれない。
「そんなことないよ。ちゃんと、さっちゃんや私のことを考えてくれているって」
「蓮見君はそれを言葉にして伝えてくれているの? 彼は優しく明日香や咲希と接しているけど、あたしにはそれまでの蓮見君と変わらないような気がするよ。それに、特に夏休みに入ってからは、明日香は部活中にため息をつくことが多くなったじゃない。元気そうな笑顔を見せることも少なくなったし。それって、蓮見君が毎日ずっと咲希と一緒にいることが気になるからなんでしょ?」
明日香と頻繁に連絡は取るようにしていて、コンクールに向けた作品作りは楽しくやっていると聞いていた。
でも、そうだよな。明日香が学校で部活をしている中、僕は咲希と一緒に夏期講習を受けているんだから、僕らのことが気になって、きっと不安になることもなってため息が出てしまうこともあるんだ。
「……そうだよ。今、つーちゃんとさっちゃんはどうしているんだろうって気になる。夏期講習で一緒にいる時間の多いさっちゃんが羨ましいって思ってるよ」
「でも、蓮見君が2人の想いに対して何かしらの決断をしてそれを伝えていれば、明日香が辛そうな様子まで見せることはないんじゃないかって思う」
「……もちろん、羨ましい気持ちだけじゃなくて、もしかしたら咲希ちゃんとこのまま関係が深まって、付き合っちゃうかもしれないっていう不安もあるよ。だけど……」
「明日香は優しすぎるよ! いつでもいいから返事は待っているって! それは咲希にも言えることだけど。きっと、蓮見君はそんな2人の優しさに甘えて、決断するのを先延ばしにしているだけなんだよ! 選ばれなかった人の悲しい姿を見たくないから! もしそうだとしたら、蓮見君は最低だよ!」
大声で常盤さんがそう放った言葉に、人生の中で一番胸が苦しませられる。多分、そうってしまうのは常盤さんの言った言葉が本当だからだろう。
どちらかを恋人に選んでも、どちらも選ばなくても誰かが悲しんで泣いてしまう。そうなるんじゃないかと思って。それが怖くて……僕の心が傷付くことを恐れて踏み出せずにいるんだ。
「こうなったらあたしが――」
「いい加減にして!」
明日香がそう言った直後、鈍い音が響き渡った。そのときに見えた明日香の怒った表情は、小さい頃に僕と喧嘩したときの比ではなかった。
常盤さんは目を見開いて、左の頬を押さえる。
「確かに、みなみんの言う通り、2人のことが気になって胸が苦しくなるときだってあるよ。早く答えを言ってくれないかなって思うときもあるよ。でも、私はつーちゃんがしっかりと考えて、決断できる人だって信じてる。それはさっちゃんも同じじゃないかな。ただ、みなみんには、つーちゃんが私達のことを放っていたり、甘えたり見えてしまう。それはまだ分かるよ。でも、それで自分が傷付きたくないから決断したくないっていう憶測を立てて、つーちゃんのことを最低だって言うのは別! そんなことを言うみなみんのことは絶対に許せない! 大嫌い!」
明日香は激怒したままサマーベッドから立ち上がって、足早にこちらの方に向かって歩いてくる。
明日香に見つからないように、僕は慌てて更衣室の中に隠れた。その後すぐに扉の閉まる音が聞こえたから、明日香は別荘に戻ったんだろうな。
「……何やっているんだろうな、僕は。本当に……悪い人間だ」
僕の優柔不断さのせいで、明日香や咲希だけじゃなくて多くの人に迷惑を掛けて、ついには明日香と常盤さんの関係に溝ができてしまった。
常盤さんはどんな様子か気になってそっと外を見てみると、彼女はサマーベッドに座ったまま1人で泣いていた。好きな人に告白を断られた上に嫌いって言われたんだから、泣いてしまうのも仕方ないか。しかも、その相手が滅多に怒ることのない明日香だから。彼女が怒ったこと自体にも、常盤さんはショックを受けたんじゃないかと思う。
ここで僕が常盤さんに話しかけても、きっと彼女の気持ちを乱してしまうだけだろう。誰にも気付かれないように僕は静かに別荘の中に入り、自分の部屋へと戻るのであった。
常盤さんは明日香に好きだと告白をして、キスを交わした。さっきよりも強く明日香のことを抱きしめているように見える。
明日香はそれに驚いてしまったのか、目を見開いて固まってしまっている。
入学してから明日香とは最も一緒にいて、とても仲がいいけど……まさか、常盤さんが明日香のことを恋愛的な意味で好きだとは。
告白だけじゃなくて、キスまで見てしまうと、胸が痛んで冷静じゃいられなくなる。でも、気持ちを落ち着かせなくちゃ。
やがて、常盤さんの方から唇を離す。
「ずっと明日香とこういうことをしたかったの。だから、唇は明日香のために取っておいたんだよ。あたしのファーストキスをあげることができて嬉しい。……好き。大好き」
常盤さんは明日香に何度もキスする。それほどに明日香へ強い好意を抱いていたのか。
ただ、明日香はすぐに常盤さんの抱擁を解いた。
「ごめん、突然のことだったからかビックリしちゃって。ドキドキもしちゃって。ちょっと落ち着かせてくれないかな」
「……うん。あたしが一方的に気持ちを伝えちゃっていたね、ごめん。明日香の気持ちも考えずにたくさんキスしちゃって」
「……ううん、気にしないで。嫌じゃなかったし」
「そう言ってくれると嬉しい。明日香のことが好きで。でも、明日香には蓮見君っていう好きな人がいて。応援しようと決めたんだ。でも、どこか諦めきれない気持ちがあって、昨日の明日香の水着姿が凄く可愛くて。この旅行中に告白しようと思ったの。……って、また自分の気持ちばかり言っちゃったね」
さっきキスしたこともあってか、常盤さんは照れくさそうに笑っていた。
「……明日香はあたしのことをどう思っているかな。明日香の口から聞かせてほしい」
告白したんだから、明日香から返事を聞きたいよな。それはきっと、明日香も咲希も同じ……なんだよな。
再び、波の音や風の吹く音だけが聞こえる時間が続き、
「……ごめんね。みなみんの気持ちは嬉しいけど、みなみんとは恋人として付き合うことはできないよ」
「……蓮見君が好きだから?」
「うん。つーちゃんのことが大好きだし、まだつーちゃんから返事をもらっていない。それに、恋人として付き合うのはつーちゃん以外に考えられないの」
「……やっぱり、そうなんだね」
さすがに常盤さんも肩を落としていた。そんな彼女に対して、明日香は優しい笑みを浮かべて頭を撫でている。
常盤さんには申し訳ないけど、明日香が「ごめんね」と言った瞬間、それまでの胸の苦しみがすっと無くなったんだ。たぶん、僕は常盤さんと同じような想いを抱いているのだと想う。本当に僕は――。
「でもさ、蓮見君も早く決断して2人に伝えてあげればいいのに。明日香と咲希の気持ちが分かっているくせに、どうして決断できないんだろうね。あたしには分からない」
常盤さんのその言葉はまるで、何度も針で刺すかのように胸にチクチクと連続して痛みを与えていく。
「きっと、つーちゃんもしっかりと考えてくれているんだよ。それに、受験勉強で忙しいだろうから、もしかしたら考える時間さえも……」
「でも、咲希が告白して2ヶ月以上も経っているし、明日香がはっきりと好きだって言ってからも1ヶ月以上も経っているんでしょう? それなのに、蓮見君は何も答えを出していない。あたしから見れば、ほっといているようにしか思えないよ」
常盤さんにはそう見えているのか。僕の中では明日香や咲希に対する意識は変わった。ただ、みんなの前では以前とあまり変わらず接するのが一番だと思って過ごしてきたけど、もしかしたらそれは間違っていたのかもしれない。
「そんなことないよ。ちゃんと、さっちゃんや私のことを考えてくれているって」
「蓮見君はそれを言葉にして伝えてくれているの? 彼は優しく明日香や咲希と接しているけど、あたしにはそれまでの蓮見君と変わらないような気がするよ。それに、特に夏休みに入ってからは、明日香は部活中にため息をつくことが多くなったじゃない。元気そうな笑顔を見せることも少なくなったし。それって、蓮見君が毎日ずっと咲希と一緒にいることが気になるからなんでしょ?」
明日香と頻繁に連絡は取るようにしていて、コンクールに向けた作品作りは楽しくやっていると聞いていた。
でも、そうだよな。明日香が学校で部活をしている中、僕は咲希と一緒に夏期講習を受けているんだから、僕らのことが気になって、きっと不安になることもなってため息が出てしまうこともあるんだ。
「……そうだよ。今、つーちゃんとさっちゃんはどうしているんだろうって気になる。夏期講習で一緒にいる時間の多いさっちゃんが羨ましいって思ってるよ」
「でも、蓮見君が2人の想いに対して何かしらの決断をしてそれを伝えていれば、明日香が辛そうな様子まで見せることはないんじゃないかって思う」
「……もちろん、羨ましい気持ちだけじゃなくて、もしかしたら咲希ちゃんとこのまま関係が深まって、付き合っちゃうかもしれないっていう不安もあるよ。だけど……」
「明日香は優しすぎるよ! いつでもいいから返事は待っているって! それは咲希にも言えることだけど。きっと、蓮見君はそんな2人の優しさに甘えて、決断するのを先延ばしにしているだけなんだよ! 選ばれなかった人の悲しい姿を見たくないから! もしそうだとしたら、蓮見君は最低だよ!」
大声で常盤さんがそう放った言葉に、人生の中で一番胸が苦しませられる。多分、そうってしまうのは常盤さんの言った言葉が本当だからだろう。
どちらかを恋人に選んでも、どちらも選ばなくても誰かが悲しんで泣いてしまう。そうなるんじゃないかと思って。それが怖くて……僕の心が傷付くことを恐れて踏み出せずにいるんだ。
「こうなったらあたしが――」
「いい加減にして!」
明日香がそう言った直後、鈍い音が響き渡った。そのときに見えた明日香の怒った表情は、小さい頃に僕と喧嘩したときの比ではなかった。
常盤さんは目を見開いて、左の頬を押さえる。
「確かに、みなみんの言う通り、2人のことが気になって胸が苦しくなるときだってあるよ。早く答えを言ってくれないかなって思うときもあるよ。でも、私はつーちゃんがしっかりと考えて、決断できる人だって信じてる。それはさっちゃんも同じじゃないかな。ただ、みなみんには、つーちゃんが私達のことを放っていたり、甘えたり見えてしまう。それはまだ分かるよ。でも、それで自分が傷付きたくないから決断したくないっていう憶測を立てて、つーちゃんのことを最低だって言うのは別! そんなことを言うみなみんのことは絶対に許せない! 大嫌い!」
明日香は激怒したままサマーベッドから立ち上がって、足早にこちらの方に向かって歩いてくる。
明日香に見つからないように、僕は慌てて更衣室の中に隠れた。その後すぐに扉の閉まる音が聞こえたから、明日香は別荘に戻ったんだろうな。
「……何やっているんだろうな、僕は。本当に……悪い人間だ」
僕の優柔不断さのせいで、明日香や咲希だけじゃなくて多くの人に迷惑を掛けて、ついには明日香と常盤さんの関係に溝ができてしまった。
常盤さんはどんな様子か気になってそっと外を見てみると、彼女はサマーベッドに座ったまま1人で泣いていた。好きな人に告白を断られた上に嫌いって言われたんだから、泣いてしまうのも仕方ないか。しかも、その相手が滅多に怒ることのない明日香だから。彼女が怒ったこと自体にも、常盤さんはショックを受けたんじゃないかと思う。
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