ラストグリーン

桜庭かなめ

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第66話『幸せに向かうルート』

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 昨日、好きなものを挙げてみたので、今日は特に好きなことや興味があることは何なのかを絞り込んでみた。教科だと国語、日本史、英語、数学、物理、情報。趣味だと小説とイラスト製作、音楽製作、プログラミング。
 ただ、これが一番いいとか、これなら絶対にやれそうだというところまでは絞れなかった。未来が見えないし、マスターのようにふいに自信が湧くようなこともなくて。
 土曜日が近づいてきて焦りも出てきたけど、これでも一歩前進したということで考えるのは一旦止めよう。また頭が痛くなったり、体が熱っぽくなったりするのは嫌だから。


 8月17日、金曜日。
 今日も咲希と一緒に夕方まで夏期講習を受けた。昨日と同じくらいにはしっかりと講義を受けられたと思う。

「今日も終わったぁ」
「お疲れ様、咲希」
「うん、お疲れ様。再開して3日目だから段々慣れてきたけど、朝から夕方までずっと勉強だと疲れるね」
「そうだね。咲希は旅行を思いっきり楽しんでいたもんね」
「あの日々が遠い昔のように思えてくるよ……」

 夏期講習を中心にした受験勉強という現実を味わっているからかもしれないな。それに、僕から告白を断られてしまったし。色々な意味で旅行での日々が遠く思えるのだろう。

「そういえば、翼。進路の方はどうかな? 少しでも考えは纏まってきた?」
「そう……だね。特に好きなことや興味があることまでは整理できたんだけど、これがいいとか、これならやれそうだっていう段階までは行けていない感じかな」
「そっか。でも、何日か前に比べたら何歩も前進しているね。良かった。真面目に考えるのもいいけれど、たまには気分転換もした方がいいよ。もしかしたら、そういうときにふと閃くこともあるかもしれないし」
「うん。実は一昨日は考えすぎて頭が痛くなっちゃって。今日は家に帰ったらリフレッシュしようかな」
「それがいいよ。そういえば、明日だよね。桜海川の花火大会」
「そうだよ。午後6時に桜海駅に集合っていう話だったね」

 旅行から帰ってきたから、たまに連絡を取り合って明日の花火大会に旅行メンバー10人で行くことになった。
 明日香以外の人には僕が明日香に告白の返事をするつもりであることも伝えている。お願いしてそのことを明日香には内緒にしているけど、大丈夫かな。

「楽しみだね、翼。あと、ちゃんと明日香に伝えられるように頑張ってね」
「うん」
「そういえば、明日香に返事するときってあたしはいた方がいい? あたしに返事してくれたときは2人きりだったけれど」
「……2人きりの方がいいかな。咲希達は近くから見守ってくれると嬉しい」
「了解」

 明日、明日香に想いを伝えると思うと、段々と緊張してきた。まだはっきりと進路が決まっていないことに焦りも出てくる。できれば、花火大会までに決めたい。

「翼と明日香なら大丈夫だよ。きっと、想いは伝わるし、2人で楽しい未来を描けるって」

 咲希らしい爽やかな笑みを浮かべながらそう言ってくれた。そのことで心がすっと軽くなって。

「……ありがとう」

 僕は咲希と一緒に予備校を後にする。
 今日はどこかお店に寄ったり、咲希の家にお邪魔したりすることはせずに、真っ直ぐ自宅へと帰っていくのであった。


 家ではリフレッシュすると咲希に言ったし、今夜は好きなことをしよう。どうせなら最近はやっていないものがいいな。

「あっ、これは……」

 パソコンのデスクを漁っていると、僕が描いたイラストを纏めたファイルを見つけた。
 そういえば、2年生までに羽村監修のギャルゲーをいくつか作ったなぁ。コンセプトやシナリオ、キャラクター設定は羽村が作って、キャラクターデザインや背景、音楽制作、プログラミングは僕が担当した。
 僕の一番のお気に入りは、高校1年のときに初めて作った『茜色の告白』という学園恋愛ゲームだ。
 最初に攻略したいヒロインを選び、告白する卒業式の日までの間に、様々なイベントを通してヒロインの好感度を上げていく。一定の好感度以上の状態で告白すると成功するという本当に単純なもの。あと、告白は必ず夕暮れの校舎のどこか。また、好感度が低い状態が続くと、物語の途中でバッドエンドになる。
 気分転換になるかもしれないし、久しぶりにやってみるか。
 パソコンの電源を入れて、僕は『茜色の告白』をプレイし始める。
 プレイヤーが選ぶことのできるヒロインは穏やかな大和撫子、活発なスポーツ少女、金髪のクーデレお嬢様、不思議ちゃんな後輩、しっかり者の先輩の5人か。最初の3人に似た女の子は僕の身近にいるかな。
 僕が選ぶのは……やっぱり、穏やかな大和撫子の女の子かな。明日香に似ているし。この子をヒロインにしてゲームをやってみよう。

「懐かしいな……」

 最後にプレイしてから1年半くらいしか経っていないけれど、この女の子のイラストも、音楽も、背景も全てが懐かしく思える。何度も羽村に試作段階のものを見せたり、聞かせたりしたっけ。
 そんなことを思い出しながら僕はゲームを進めていく。告白を成功させたいので、所々で出てくるイベントでは最も好感度が上がりそうな選択肢を選ぶことに。ヒロインも喜んでいるし、これならきっと告白は成功するはずだ。
 告白の日となる卒業式。夕暮れの2人きりの教室でいざ、告白。

『好きです。僕と付き合ってください!』

『……ごめんなさい。あなたとは恋人として付き合うことはできません。さようなら』

「……あれ?」

 フラれてしまってバッドエンド。ヒロインの悲しげな表情を最後にブラックアウト。おかしいなぁ。好感度が上がりそうな選択肢を選んだつもりだったけれど違うのかな。
 棚からゲームの仕様書を取り出して、僕が選んだ選択肢と告白成功の条件を照らし合わせてみると……告白は成功するはずだ。ということは、ゲームのプログラムにバグがあるのか。

「どれどれ……」

 仕様書や製作した当時のメモ帳を見ながら、プログラムのソースコードを見ていくと、いくつか間違っている箇所があった。中には重要とも言える要素にも間違いがあって。製作した当時はこんなことに全然気付かなかったな。
 これは初めて作ったものだし、最後までプレイできる「ゲーム」を作ることができただけで、羽村と一緒に喜んでいたことを思い出す。
 一通り修正したので、最初にプレイしたときと同じプレイヤー、イベントでは同じ選択肢を選んでテストすることに。

『好きです。僕と付き合ってください!』

『……はい。私もあなたと付き合いたいとずっと前から思っていました。これからは恋人としてよろしくお願いします』

「やった! 成功した……」

 ヒロインが笑顔になり、エンディングを見ることができて、達成感と安心感が同時に僕の体を包み込んだ。バグが見つかったときはがっかりするけれど、それを修正してきちんと動くことを確認できるととても嬉しい。
 気付けば、時刻も午前0時近くになっていた。最初にゲームを始めたのは、確か午後8時過ぎだから、およそ4時間も経っていたのか。
 そういえば、ゲームを作っていた当時も気付けば日付が過ぎていたことが何度もあったな。酷いと空が明るくなっていたなんてことも。
 この『茜色の告白』は製作段階から明日香や常盤さん、芽依も知っていたので、できたときに3人にプレイさせたっけ。3人とも楽しそうにやっていたな。ヒロインが可愛いとか、音楽がいいとか言ってくれたっけ。特に明日香は熱心に遊んでいた。そんな3人の姿を見て、僕は羽村と喜び合ったな。

「……ああ、これだ……」

 すると、急に体が軽くなった気がした。今は真夜中なはずなのに、世界がぱあっと明るくなったように思えて。

「明日香達が僕を導いてくれるなんて」

 ただ、僕の心に広がっていく未来は、しっかりとやってみたいと強く思えるものだった。これに似たことを明日香や咲希、常盤さん、羽村は経験したのかな。

「ありがとう、みんな。そして……明日香」

 明日香の楽しそうで可愛らしい笑みが頭の中に次々と浮かんでくるよ。
 僕の歩んでいきたい道がようやく決まった。そのことと、恋人として付き合っていくことを決めたと明日の花火大会で明日香に言おう。明日香と僕の大切な未来のために。
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