桜庭かなめ

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特別編-Green Days-

第8話『コスプレ-前編-』

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 さすがに、7人全員のコスプレ衣装を副会長さん1人に持っていかせるわけにはいかないので、琴葉以外は自分の着る衣装は自分で持っていくことにした。有村さんはこういうことに慣れているのか、衣装を入れるためのバッグを持ってきていた。
 ただ、さすがは副会長さんと言うべきか、コスプレ衣装を運ぶためのバッグをいくつもあった。それにコスプレ衣装を入れて今日は各自の家に持ち帰ることにした。変に皺ができたり、破れたりしないように気を付けないと。


 5月13日、日曜日。
 今日も天気は快晴。雨が降る心配もなく、そこまで暑くもないのでまさにお出かけ日和と言えるだろう。
 僕、姉さん、沙奈会長、真奈ちゃんは月野駅で落ち合った。みんな、しっかりと眠ることができたそうで良かった。副会長さんと有村さんとは乗っている電車を教えてもらい、無事に車内で会うことができた。

「いやぁ、昨日は楽しみ過ぎてあまり眠れなかったよ」
「咲希は昔からそうだよね。遠足や修学旅行とかの前の日って……」
「うん。去年の修学旅行も眠れなかった。大きくなっても変わらないね。まあ、眠れなくても大丈夫だけれど。沙奈ちゃん達はしっかりと眠れた?」
「はい! 私を含めてみんなしっかりと眠ることができました」
「それなら良かった。そういえば、樹里から聞いたけれど、今日はあたし達だけじゃなくて、もう1人加わるんだよね。確か、恩田琴葉ちゃんだったっけ?」
「そうです。琴葉ちゃんは玲人君の幼なじみで。彼女とは会場の最寄り駅の改札口で会う約束をしています。琴葉ちゃんの衣装は樹里先輩が持っていくことになってます」
「なるほどね。樹里は可愛いって言っていたし、会うのが楽しみだな」
「琴葉も楽しみにしているそうです。仲良くしてくれると嬉しいです」
「……きっとなれるよ、逢坂君」

 有村さんはそう言ってにっこりと笑みを浮かべてくれる。それを見た瞬間にきっと大丈夫だろうと思えた。


 午前10時半過ぎ。
 月野駅を出発してから小一時間ほどで、イベント会場の最寄り駅に到着した。それを琴葉に伝えると、彼女も数分くらい前に到着して、今は改札口を出たところにいるという。

「あっ、レイ君! みなさんも!」

 改札のところまで来るとロングスカートにブラウス姿の琴葉が、僕達に向かって元気に手を振っていた。そんな彼女の姿を見ると、未だに夢じゃないかと思うほどだ。
 改札を出て、琴葉のところに向かうと彼女は真奈ちゃんとぎゅっと抱きしめ合った。ゴールデンウィークでの旅行を通じて、本当に仲良くなったんだなと思わせてくれる。2人のコスプレは作中で恋人同士になるキャラクターなので、これは期待できそうだ。

「こんなに早くまた琴葉さんと会えるなんて嬉しいです!」
「あたしも嬉しいよ、真奈ちゃん! レイ君や沙奈さん達も今日は誘ってくれてありがとうございます。旅行から帰ってくるときにコスプレとかイベントの話はしましたけど、1週間でそれが実現するなんて」
「そうだね。旅行での話も誘った理由の1つなんだけど、一番はこちらの有村咲希先輩が今月末で引っ越すから、東京での思い出を作ろうってことになって」
「そうなんですね。初めまして、恩田琴葉です。レイ君と幼なじみで同い年なんですけど、色々とあって、来年の高校受験に向けて勉強を頑張っています」
「そうなんだね。あたしも自己紹介しないと。初めまして、有村咲希です。高校3年です。あたしは大学だけど、琴葉ちゃんと同じ受験生だね。樹里とは小学校のときからの幼なじみで。沙奈ちゃんや真奈ちゃんとは去年から、一緒に遊んだり、今日みたいにイベントでコスプレしたりしているの。これからよろしくね、琴葉ちゃん」
「こちらこそよろしくお願いします! 咲希さん」

 琴葉は有村さんと握手を交わして、連絡先を交換する。有村さんが気さくな方で良かったなと思う。
 僕ら7人は駅から徒歩数分のところにあるイベント会場へと向かう。副会長さん曰く、会場となる産業振興センターは、今日のように作家や作品が限定されるイベントなどによく使われるとのこと。沙奈会長、真奈ちゃん、有村さんもこれまでに何度か来たことがあるそうだ。
 会場に到着し、コスプレ参加として無事に手続きをすることができた。
 衣装に着替えるので当然、沙奈会長達は一旦ここで別れることに。副会長さんが要してくれた化粧道具を受け取って、僕は男性用の更衣室に入っていく。

「何か、人少ないな……」

 更衣室の中には数えるくらいの男性しかいなかった。草原めなか先生の作品はどちらかといえば女性ファンが多いらしいし、女性キャラクターの方が圧倒的に多い。あとは……元々、コスプレをするのは女性の方が多かったりするのだろうか。
 入って早々、僕と目が合った若そうな男性に会釈されたけど、その方は人気な男性キャラクターのコスプレをしていた。僕のように女性キャラクターにコスプレする男性は数えるほどしかいないのかもしれない。アリシアに限定したら、僕だけかもしれないとも思った。
 人が少ないけど、その分落ち着いて衣装に着替られる。そうポジティブに捉え、僕はアリシアのコスプレ衣装に着替えていく。鏡やドレッサーもあったので、スマホにアリシアの画像を表示させながら、丁寧に化粧をする。

「これでいいかな」

 化粧もしたし、ウィッグも付けたし、靴もちゃんと履いたし……うん、大丈夫そうだ。これで、少しはアリシアになることができたのだろうか。
 更衣室を出ると、コスプレ衣装に着替えた沙奈会長達が会場の展示室の入り口に立っていた。中にはウィッグを付けて髪の色が変わっているけど、ちゃんと女性陣全員いるのは分かった。可愛い子や美人な子ばかりなので、周りの人から注目されているな。
 また、こういう場所でのコスプレ慣れしているのか、副会長さんや有村さんは笑顔で手を振ったり、写真撮影に応じたりしている。そういえば、イベントのホームページに、許可を取った上でコスプレした人を写真撮影してもOKだと書いてあったな。
 彼女達の中でいち早く気付いたのは沙奈会長。僕の方を見て、笑顔で手を振ってくる。

「玲人君!」
「えっ、この方がレイ君なの?」
「そうだよ、琴葉」
「あっ、声はレイ君だ」
「この姿に僕の声は合わないかもね。……お待たせしました。みんな、似合っていますね。沙奈会長はセクシーなクレアです」
「ありがとう。玲人君は背が高くて、かっこよくて、美しいアリシアちゃんになっているよ。クレアちゃんがアリシアちゃんを好きになった気持ちが分かる気がする。2人きりだったら、押し倒して色々としちゃいたい」
「その妙な積極的な姿勢はクレアとは全く違いますね。ところで、沙奈会長はこの姿でも僕だってすぐに分かったようですけど」
「目を見たら玲人君だってすぐに分かったよ。あと、微かにだけれど玲人君の匂いも感じたし」
「そ、そういうことですか」

 さすがは沙奈会長と言うべきか。これなら、会場でも沙奈会長とはぐれる心配は全くなさそうだ。

「綺麗な女性の姿になっているのに、レイ君だって分かるなんて凄いですね。……レイ君、どうかな。このセーラー服姿」

 そう言うと、琴葉はクルッと一回転して、可愛らしい笑みを見せてくる。

「とっても可愛いよ、琴葉。高校生になったらこういう感じなのかなって思うよ」
「琴葉さん、とても可愛いですよね! 玲人さんは美しいです! 喋らなければ男性だとは分からないですよ」
「確かに真奈ちゃんの言うとおり、綺麗な女性になっているね、玲人。久しぶりなはずなのに化粧も凄く上手だし。そうなったのも琴葉ちゃんやあたしのおかげだね」
「まあ、今回はそういうことにしておくよ、姉さん」

 手に技術は持っておくものだな。
 それにしても、こうして同じ制服姿で3人一緒にいると、真奈ちゃんが一番年上に見える。見た目の年齢順と実年齢順が逆に感じるよ。

「逢坂君、よく似合っているじゃない。自分でやるって言っただけあって、化粧も上手だね。アリシアちゃんになってる」
「ありがとうございます。副会長さんもメイド服姿、よく似合っていますよ。エトーレになっていますよ」
「ふふっ、ありがとう。あたしはアリシアのメイドのエトーレだから、今日はずっと逢坂君のすぐ側にいようかな」
「コスプレ経験豊富な副会長さんが側にいてくれるとより心強いですね」

 初めてということもあるし、1人でも多く経験者が一緒にいてくれると嬉しい。
 副会長さん、ロングスカートに長袖のメイド服だからか、一昨日の沙奈会長のメイド服姿よりもお淑やかな雰囲気がある。エトーレもアリシアの前では落ち着いているメイドさんなので合っていると思う。

「昨日のドレス姿を見てなかったら、今の君が逢坂君だって分からなかったよ。あたし、化粧はあまりやったことがないけれど、凄く上手なんだなってことは分かるよ。今の逢坂君の写真を撮って、知らない人に見せたら10人中10人が女性だって言うんじゃないかな。ちゃんと胸もあるし」
「胸はパッドですけどね。ちゃんとアリシアという女性になれていますか?」
「もちろんなれているよ。アニメから飛び出た感じ」
「そう言ってくれると嬉しいですね。有村さんも銀髪のウィッグを付けたからか、アンナになりきっていますね。綺麗ですよ」
「ありがとう、逢坂君」

 容姿端麗なアンナの雰囲気が見事に再現できていると思う。
 みんなコスプレのレベルが高いな。僕もスマートフォンやデジカメで、コスプレした沙奈会長達のことを撮影する。
 僕のコスプレも沙奈会長達に好評で良かった。イベント中、このコスプレについてどんなことを言われても大丈夫な気がする。
 そんなことを考えていると、沙奈会長が僕と腕を絡ませてきた。

「さあ、玲人君。会場に行こう!」
「ええ、そうですね」

 クレアやアリシアも、僕や沙奈会長のように寄り添って楽しく歩いているのだろうか。
 僕らはイベントの会場に足を踏み入れるのであった。
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