天使は誰

玄糸雨楽

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狂い出す歯車

ー晴ーいつまで居てくれる?

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俺の家に真希が居る。

土曜日で仕事が休みだから。

どうしよう夢みたい。いや、夢じゃ嫌だ。

なんか、同棲してるみたいって勝手に思ってテンションが上がりっぱなし。

まあ彼女が家に来るのは初めてじゃない。
でも久しぶり過ぎて、喜ぶしかない。


彼女が手料理を作ってくれている。

料理は苦手な方だと言っていたが、好きな人が作ってくれたなら全部食べられる。

仮に失敗したとしても大丈夫だよ。真希。
笑顔で食べ切る自信しかない。

俺は料理なんて全く駄目で、いつも出前を取っていたから、手料理なんて滅多に食べられないんだ。
身体に気を遣うなら自炊しなければなんだけどね。
前に自分でハンバーグを作ったら不味すぎて吐いた。


気分が舞い上がってる自分の顔、凄いにやけてる。

一生懸命に料理をしている姿を見ていると、
お腹が鳴ってしまった。多分、聞こえてない。良かった。

さっきから美味しそうな匂いがするもんだからさ。


出来上がったのはオムライス。
実はあまり食べたことないんだよね。

俺は結構、同じものを食べてしまう。
何故か飽きなくてね。身体にはやっぱり良くないよな。
そんな食生活をしてるくせに、あまり太らない。
きっとそういう体質だろう。

あったかいオムライス。キラキラしてるように見えるのは、絶対に美味しいからだ。

好きな人が作ってくれたものを食べられるなんて、凄くありがたい。



手を合わせて頂きますをして、直ぐに口に入れた。

やばい、めちゃくちゃ美味しい!

卵がふわふわで、チキンライスも鶏肉がごろごろしてて、食べごたえがある。

オムライス大好物になりそう。いや、今なった。

藍来の記憶なんて思い出す。何気に母親以外の人の手作り料理を食べたことない気が。

今まで付き合ってた女性は料理なんて、誰も作らなかったしな。

昔を思い出して嫌な気分になりかけた。忘れてしまおう。

今の俺は真希しか、心の中心にいてほしくない。
頭の中だって彼女でいっぱいにしたい。

他の人間なんて、どうだっていいんだ。
真希以外の記憶は全て消えてしまえ。


あっという間に全部平らげた。

幸せな気分に浸りつつも、メモ帳にお礼を書く。


『真希 美味しかった ありがとう ごちそうさま 良ければこれからも作ってほしい』

「ふふっ、ハル君ったらもう食べちゃったの」

食後のカフェオレまで用意してくれた。
俺の好きな飲み物。
ちゃんと覚えててくれたんだね。

きっと、素敵な奥さんになれるよ。

……誰の?

優大さんだったら、辛い。

俺のお嫁さんになってほしいなんて言えるはずもないが、言葉を飲み込んだ。

どうしようもなく寂しい。

だって真希は彼女じゃないから。
声が出なくて心配だから、家に来てくれたんだ。

好きだから一緒に居てくれてる訳じゃない。

頭では分かってるけれど、理解なんてしたくない。
直ぐに諦めたら、本当にほしいものを手に入れることなんて、出来ないから。

もうすぐ帰ってしまう。
まだ居てほしい。なんなら、ずっとが良い。

1人だと怖い。

思い出してしまう藍来の記憶。真希とケンカして距離を置かれた、あの果てしない苦しい時間。

また、俺を1人にしないで。


そんなの、いくらなんでも我儘過ぎるって。ただでさえ迷惑かけてるのに甘えきって負担になりたくない。

我慢しろ、俺。男なんだから。

でも、いつまで居てくれるのかな。

声が出るようになったら、離れてしまうのか?

最低だけどずっと一緒に居られるなら、もう声なんて要らないと思ってしまった。

ボーカリスト失格じゃないか。
プロなのに歌えなくてもいいだなんて。

だって声が出ないままで良いと思わずにはいられないんだ。

真希が大好きだから。

俺はミュージシャンである前に1人の男だ。
たった1人の女性にどうしようもなく惚れこんでる、しょうもない男。

嫌われてるのに諦め悪いよな。

そもそも、本気で嫌われてたら家に来て料理まで作ったりしないか。

そう思うと期待してしまう。また好きになってもらえるんじゃないかって。

だからといって無理やり好きにさせるのは違う。
あの時みたいに拒絶されるのはもう、嫌だ。

そう思ってるはずなのに。

独占欲がふつふつと湧き上がってくる。

またおかしくなりそう。真希を傷つけたくなんかないのに。
声が出ないのを良いことに縛り付けていたい。
本当に最低だ。

声にしてはならない内容を思ってしまう。

ねえ、帰らないで。ずっと居てよ。愛してるんだ、少しでも離れるのが嫌だ。   
なんなら、優大さんと別れてよ。真希を大切にするから。お願い、大好きだから俺だけを見て。
 

全部言ってしまいたい。


声が出なくて良かった。だって、そう言ってしまうと、凄く困らせてしまうから。




ねえ、真希。俺は一体どうしたらいい?

優大さんを好きなんでしょう?
それなのに、何で俺と居るの。

罪悪感だけでそうしてるなら、止めて。

真希が悪いんじゃないんだ。
責任感じる必要なんてないよ。


情緒不安定になる、思えば思うほど空回りする。

凄く病んできた、辛い。

もうこれ以上、俺と関わらない方が良い。

何もかも取り返しがつかなくなるくらい、めちゃくちゃにしたくなるから。

……俺に出来ることはただ1つだけ。

こうするしかないんだ、もう自分をとめないと。






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