推しカプの皇太子夫妻に挟まれ推し返されてしんどい

小島秋人

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第二十八話

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  ~第二十八話~

 物心つくか否か程度の年の頃、流行病で両親を亡くしてからこっち不足する母親の情を代わりと言うには充分以上に注いでくれた御別家さまには今もって頭が上がらない。

 あのリズの実母である以上やはりと言うべきなのか、御別家さまは王家の係累としての品位を確と保ちながらもどこか市井の少女の様な奔放さを残した女性だった。

 嘗ては曾祖父の下で一隊を率いた女傑だったそうで、無論その才覚は今なお衰えを知らないのだろうが、俺に接する時の慈母と形容するより他ない懐の深さには変に照れで返すより甘えてしまった方が楽であることも経験上弁えている。

 …とは言え、だ

 「風呂ぐらいは一人でゆっくり入らせてくんねぇか…」
 「え?何か言いました?…あぁ、背中を流して下さるなら石鹸はいつものを使って下さいな」
 本気で聞こえていないらしいかあさまは文字通り一糸纏わぬ姿で洗い場の椅子に腰掛けると腰ほどまで伸びた髪を器用に纏め上げ始めた。

 「「"い つ も の "?」」
 「…お前らもたまには夫婦水入らずで過ごしてきたらどうだ」
 「人の母親と水場で不貞行為を働こうとしている分際で言えた立場かしら?」
 「さすがにマザコンまではフォローできないよ?」
 「冤罪ってこうやって生まれるんだよなぁ」
 最後に一緒に風呂に入った記憶は男女の身体的差異なんざこれっぽっちも認識してねぇガキの時分の話だっつうの。

 「まぁまぁ、今日は家族水入らずって事で良いじゃありませんか」
 「シレッと俺を家族認定して下さるのは非常に有難いんだけど現状の立場だとギリしんどさが勝つわ」
 つくづく出自の背景を知っちゃった事が仇になってんなぁ…

 ―――

 「それにしても…何度検討しても連携の高さが目につきますね、本当にまだ設立から半月も経たないのですか?」
 その後もそこそこの悶着を起こしかけながら何とか浴室を後にした俺はそのまま寝室に引き摺り込もうとする御別家さまを何とか宥めて談話室にて先の演習の感想戦を願うに漕ぎ着けた。

 「まぁ各中隊長から小隊長の半分までは勝手の分かってる連中で固めましたからね、"王太子軍設立"のふかしが思った以上に効力を持ちまして」
 実際は上が詰まり過ぎてて昇進の遅れてる連中の受け皿に体よく使われた側面が大きいんだが、訓練隊の昇格時期も迫ってるのにポストの空きが無いってのはある種平時の弊害だわな。

 「"それにしても連隊規模の引き抜きはやりすぎだったんじゃないか"ってこっちはヒヤヒヤしてたけど…」
 長椅子の隣に腰掛けたアレクがやれやれといった様子で溜め息混じりにぼやいた。因みに当然ながら反対隣はリズがしっかりとガードしている…お前実の母親に威嚇の目線を向けるのはやめときなさいよ。

 「その類いの文句はエウリィの奴に言ってくれよ?"駆動鎧・騎兵の混成大隊を寄越せ"って最初に無茶言ったのはアイツだからな」
 まぁ実際として俺は歩兵の運用に経験が片寄ってたから有難い申し出でもあったんだが、総隊長の裁可もすぐ下りたし。
 結果として独立の増強大隊の予定が更にかさ増しされちゃってまさかの連隊規模。俺も出世したもんだ、全く嬉しくねぇ。
 
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