推しカプの皇太子夫妻に挟まれ推し返されてしんどい

小島秋人

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第二十七話

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 ~第二十七話~

 「…正直、自信が無いよ」
 出立の前、自室を出る直前になって押し込めていた弱音もが顔を出した。

 「別に『一緒に前線で剣を振るえ』なんて言わねぇよ、そりゃ俺らの仕事だ」
 乱暴な物言いに反した優しい声色で告げながらユーリが背中から抱き締めてくれた。甲冑の角が当たってちょっと痛い。「あ、すまん」

 「…そっちの心配じゃないのはわかってるでしょ?」
 胸の前に回された手を握り締めながら見上げるように振り向いた。…あぁ、またあの目をしている。

 「…苦労を掛ける度合いで言えば、これからは俺が1等賞だな?」
 悪戯っぽく笑って見せてくれるけれど、目の光だけは変わる気配が無い。

 「僕だけのことなら、こんな風に悩んだりしないさ」
 そう、自分だけが負う荷ならどれ程の重圧にだって耐えたさ。三人で分け合う方が余程…

 「昨日リズにも言った事だけど…もうやめにしようぜ、そーゆーの」
 片手で僕の頭を掻き抱き、頬を寄せたユーリは観念した様に囁く。

 「肚が決まらねぇなら…『今度は俺が振り回す番』、そう思ってくれてれば良いさ」
 いつの間にか手甲を外していた掌が頬を撫ぜ、指先が唇をなぞる。まるで"それ以上何も言わなくて良い"と宥めるような触れ方に、今この時だけは全て委ねてしまおうと思った。

 ―――

 「率直に言って貴軍の練度は驚嘆の一語に尽きますね、新設軍とはとても思えぬ程です」
 「恐れ入ります、この度の事は実戦に赴く兵たちにも良い経験となった事でしょう」
 幾度かの衝突の後、先方が用意していたらしい統裁官が『攻撃側の別働騎兵中隊壊滅』の裁定を下した時点で敵陣から白旗が上がった。今はアレクのお供をしながらご別家様の講評を拝聴している所だ。

 「完全に虚を突いた心算でいましたのに…素早い陣地転換と警戒網の構築、その後の用兵も巧妙かつ苛烈…まるでガイウス殿とオクタウィウス殿の両人を同時に相手にしているようでした」
 「それはそれは、両氏の血縁である彼には何よりの賛辞と言えましょう」
 いやぁ…言われた孫からしてみると割と複雑な心境だぞ…特に前者は『似てるって言われたくない身内ランキング』ぶっちぎりでトップだからね?(厳密には血縁無いし)

 「後方警戒に騎兵を回したのは確認していましたがまさか魔導竜騎兵を混成していたとは思いませんでした、火力を考えれば正面に回すべき戦力の筈ですが…今次の戦闘に於いては寧ろ結果的に最適解だったと言えますね」
 「その辺りの判断は私も気になっていた所で、是非当人からの説明をお聞き頂きたく…ユリウス?」
 お二人から数歩離れた位置で控えていた俺は主人の呼びかけに応じて前に出る。その場で跪こうと腰を屈めかけた所でご別家様が"不要である"との手振りを見せたので黙礼に留めて顔を上げた。まぁそんな手放しで褒めて貰える程のタネは無ぇんだが…

 ―――

 「…成程、つまり此方の領内に入った頃から徐々に行軍速度を遅らせて丘陵地の隘路に陣取っていた事が既に誘いであった訳ですね」
 「後方に騎兵を回り込ませた上で挟撃に絶好の潮と見れば一当てしたくなるのは当然の心理ですからね、一方こちらは護衛対象を死守しつつ退路に潜む脅威が排除できれば実質的に戦略目標は達したと断じて良い…まぁ楽な立場ですよ」
 「他の人が言ったら顰蹙買うよ、その台詞」
 「しかし実際には軍団長も副団長も肩を並べて最前線で身を危険に晒しているのですからその心配は無いでしょう…何より兵の士気高揚に多大な効果を与えていたようですし」
 「加護持ちの特殊技能と駆動鎧の存在感は威圧に最適ですからね、指一本触れちゃいないのに何人か腰引けてんのが丸見えでしたよ」
 「私も少し空気に圧倒されてしまいました…恥ずかしい限りです…ユーリちゃん、母様怖いから今夜は一緒に寝てくれないでしょうか」
 「揶揄ったのは謝るので勘弁してください」
 「お義母さん、因みにこの会話水晶でリズに中継してます」
 「やっべ、帰りますね」
 『お母さま、領主館に戻ったらお話しましょうね?』
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