推しカプの皇太子夫妻に挟まれ推し返されてしんどい

小島秋人

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第十三話

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 ~第十三話~

 婚礼の日からこちら、共に過ごせぬ日の方が少なかった事もあって失念していた。抑々にして、彼とは離れて暮らす方が今まで自然だったのである。
 三人ともが比較的自由に関わり合えた幼少期は瞬く間に過ぎ、やがて各々が定められた勤めを全うする為の教育に追われるようになった。それについて不満を覚えなかったと言えば嘘になるが、少なくとも立場上の必要は理解できていた。
 それでも、二人には僕よりももう少し行動を選択する余地は有ったのだろうと思う。全く幸いな事だ。そうでなければ、今もって三人の絆を保てていたか定かではない。

 事実、妻は妃教育を施される傍ら療婦の資格を得るため寸暇も惜しんで学業に励んでいた。特にその兆候が極まったのは、彼が従士を志す旨を聞いてからの事だったと思う。団長職を二人も輩出した名家の出、下賜された領地の広さは国内でも五指に入る大地主の子ともなれば自適に生きる事もできた筈なのに。

 「僕たちが巻き込んだのだろう」と、どうしても自責が湧いてしまう。穏やかに過ごす選択が彼の人生には確かに存在した筈であって、そんな未来を僕たちの想いが摘んでしまったと言う事実に思う所は大きい。

 蓋を開ければ互いに望む関係であったと知れた今でこそ心の枷は殆ど外れたと言って良い心境にあるわけだが、そうなると今度は抑えていた恋慕が箍の外れた我儘を呼び起こすのだから再び自省する事しきりである。

 「結構なことだな…まぁ今少し行動が伴っても良いとは思うが」
 「あら?珍しく当たりが優しいのね」
 「あっ…気を遣わせちゃったかな?大丈夫だよ、『甘えられるの満更でもない』ってわかってるから!」
 「毎度おたくらの極端な言動にぶん回されてツッこむ気力も萎えてんだよ…」
 「えっ!?…なんだ、元気じゃないの」
 「本っ当すぐそっちの話に持ってくなぁこの女ぁよぉ!?」
 「傍で話してるだけで溌剌としちゃうユーリも正直どうかと思うよ…」

 ―――

 「『巡礼の警護』ね…まぁこちらから人を出さなければならない理由もわかったよ、納得できるかは別にして」
 「私に言われましても…」
 然したる説明も無く半ば誘拐の様に護衛の一人を引き抜かれ、自身は連行されるのに近い形で支城に戻された。自責の念と鳩尾の鈍痛で道中は思考も儘ならない有り様だったが、執務室で待っていた政務官から事の経緯を聞かされた時には状況が俯瞰できる程度には回復していた。

 「『自前の人員で賄え』と苦情の一つも入れたい所だが…状況を生んだ責任に言及されれば押し負けるな?」
 「一端が当人にも大いに有るとなれば恐らく、大隊長は先方との合流後すぐに帰還が許されるでしょうからこちらに生じ得る防衛上の問題は少なく見積もって良いかと」
 「立場上はそれで安心すべき、か…個人的な感想としては不憫でならないよ、ユーリにしてみれば状況で最善を打った結果なのに」
 「彼も事の発端を引き合いに出されれば否とは言わないでしょう、それに長くとも一週間は掛からない行程かと」
 「一週間もリズに独占を許せって言うのかい!」
 「いや『先に抜け駆けして摘み食いした罰かな』って自分で白状してたじゃないですか」

―――
 
 「で、『第三大隊における前代未聞の損害が生じた事に対する諸侯の動揺を事実が拡散する前に鎮めたい』ってぇ目的で聖女殿下に御出で頂いたワケ、要するにアタシらはアンタの尻拭いで休暇返上してンだけど…なんか言う事ある?」
 「その…この度は…誠に申し訳なく…」
 「まぁまぁヴィッキー、久々に四人集まったんだからその辺で…あれぇ?でもおかしいなぁ?俺の記憶が正しければ昨日の夜にも皆で集まる機会が有った筈なんだけどなぁ?」
 「その節につきましても…お三方には…お詫びのしようも無く…」
 「あぁ、泣かないで義兄さん…でもね、わたしも『久しぶりに会える!』って、ちょっと楽しみにしてたから、さみしかった、かも」
 「ちょっと待って優しげなお前の言葉が一番心に刺さるんだけど」
 「「おい!」」

 合流地点に到達するや否や三方塞がれての集中砲火に見舞われる羽目となった。主力が正面からぶつかり、頃合いを見て右後方から伏兵が奇襲、逆側面から本命がトドメを刺す。変則的だが見事な釣野伏だ、いや冷静に分析してる場合ではないんだけども。
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