14 / 29
第十四話
しおりを挟む
第十四話
最近星の巡りが悪いのかやる事為すこと悉く裏目に出ている気がする。まぁ公に奉仕する身分を考えると行動の結果が後の自分に与える影響を考えられる程選択の余地自体もそう多くは無いんだが。
同郷連中に散々責められた上に件の聖女殿下にも謁見するや早々にキツめのお叱言を賜った。消沈した心持ちで進む道中は足取り軽くとは到底行かず、衆目が無いのを良いことにリズの膝枕で散々に不貞腐れて過ごしたのだった。
___
「なんじゃい、着くなり無愛想にしとったのはそれが原因か」
「…それだけでもねぇよ、つーか油売ってて良いわけ?」
「曾孫との語らいに勝る用事は心当たりが無いのう、お前さんこそ警護の仕事は良いんか?」
「一体聖域の最奥で何から警護しろってんだ…」
木神べトールの座す聖域最深部は広大な森林を定められた道順で進まなければ決して辿り着けない。森で生まれたもの、或いはそれらと深く縁を結んだものでなければ立ち並ぶ木々に知れず五感を惑わされ緑の大海を彷徨う羽目になる。
「先の討伐での次第は噂にも聞いとるよ、大層な活躍だったそうではないか」
「…一体誰からどんな顛末を聞いたらそんな結論になるってんだ」
「デメテルのやつが『麓の様子を見に行くと良い』と強く勧めるものでな、ついでに陛下のご様子伺いに城下で仕入れた酒瓶を提て行ったらそれはもう雄弁に語って下さったわい」
「…うちとこの王族がたは何方様も酒精に魅入られ易くって困るぜ」
その癖イイ所で寝落ちするもんだから俺は何回お預け食らったか知れねぇ。
「なぁに、人死にを出さなんだなら大金星だろうて」
「さっすが、大侵攻を食い止めるのに友好国の砦一つ丸ごとぶっ潰した『壊し屋ガイウス』のお言葉は説得力が有らぁな」
「おうとも、『人命の為に使える物は何でもぶっ壊せ』は我が家の家訓ぞ」
「いや聞いたことねぇよ!言ってる事もだいぶ滅茶苦茶だよ!」
___
「まぁお前さんの事だ、自分に向けられる悪口雑言よりも大きな気掛かりが有るのだろうが」
「…わかってて聞くのは野暮ってもんだぜオジイチャン」
そう、平民上がりの近衛副長に対する木っ端文民どものやっかみなどは全く取るに足らない。道理の分かる連中には間違い無く実力で築いた地位だと理解も得ていよう。結局のところ、そんな俺に寵愛を向ける二人に対しての風聞のみが唯一の懸念だった。
「まぁ儂が総隊長の時分にもそんな輩は少なからず居ったが…背負うものが自分以外にも有ると中々なぁ」
「あんまり気にしない様に私達も言い含めているのだけれど…愛の深さが仇になってしまうのでしょうね」
「いやそれもちょっと違…ってなにしれっと参加してんの」
「形式に則った請願の儀は済んだわ、御歓談の邪魔になってはいけないと思って抜け出して来ちゃった」
どうせ何を話しているか私にはわからないし、と付け加えたリズはそのまま膝上に滑り込んでくる。バランスを崩さぬよう横抱きに支えながら眉間に寄った皺を揉み解していると隣の曾祖父は堪えきれぬと言った様子で吹き出した。
「おい爺ぃ…何が面白いか言ってみろ」
「いや、何、悩み相談に真剣に取り合ってやろうと思っていた自分が阿呆らしくなってな…幸せそうで何よりだよ、坊や」
「やめろぃ!正しく『年配者特有の生暖かい目』で見るんじゃねぇ小っ恥ずかしい!」
その後、リズの後を追う様にしてやってきた義妹友人たちにさんざ囃し立てられた俺は曾祖父同様全く悩むのが馬鹿らしくなってしまった…
___
「あっ、ひいさまズルい、私も義兄さんのお膝乗りたい」
「アンタ…公衆の面前で堂々と複数の女性侍らせて恥ずかしくないワケ?」
「かーっ!これだから出世頭はなぁー!」
「…な?儂があれこれ言うてやるでもなく人には恵まれ取るじゃあないか」
「この扱いでか!?この言い種をして『恵まれてる』と抜かすか!?」
最近星の巡りが悪いのかやる事為すこと悉く裏目に出ている気がする。まぁ公に奉仕する身分を考えると行動の結果が後の自分に与える影響を考えられる程選択の余地自体もそう多くは無いんだが。
同郷連中に散々責められた上に件の聖女殿下にも謁見するや早々にキツめのお叱言を賜った。消沈した心持ちで進む道中は足取り軽くとは到底行かず、衆目が無いのを良いことにリズの膝枕で散々に不貞腐れて過ごしたのだった。
___
「なんじゃい、着くなり無愛想にしとったのはそれが原因か」
「…それだけでもねぇよ、つーか油売ってて良いわけ?」
「曾孫との語らいに勝る用事は心当たりが無いのう、お前さんこそ警護の仕事は良いんか?」
「一体聖域の最奥で何から警護しろってんだ…」
木神べトールの座す聖域最深部は広大な森林を定められた道順で進まなければ決して辿り着けない。森で生まれたもの、或いはそれらと深く縁を結んだものでなければ立ち並ぶ木々に知れず五感を惑わされ緑の大海を彷徨う羽目になる。
「先の討伐での次第は噂にも聞いとるよ、大層な活躍だったそうではないか」
「…一体誰からどんな顛末を聞いたらそんな結論になるってんだ」
「デメテルのやつが『麓の様子を見に行くと良い』と強く勧めるものでな、ついでに陛下のご様子伺いに城下で仕入れた酒瓶を提て行ったらそれはもう雄弁に語って下さったわい」
「…うちとこの王族がたは何方様も酒精に魅入られ易くって困るぜ」
その癖イイ所で寝落ちするもんだから俺は何回お預け食らったか知れねぇ。
「なぁに、人死にを出さなんだなら大金星だろうて」
「さっすが、大侵攻を食い止めるのに友好国の砦一つ丸ごとぶっ潰した『壊し屋ガイウス』のお言葉は説得力が有らぁな」
「おうとも、『人命の為に使える物は何でもぶっ壊せ』は我が家の家訓ぞ」
「いや聞いたことねぇよ!言ってる事もだいぶ滅茶苦茶だよ!」
___
「まぁお前さんの事だ、自分に向けられる悪口雑言よりも大きな気掛かりが有るのだろうが」
「…わかってて聞くのは野暮ってもんだぜオジイチャン」
そう、平民上がりの近衛副長に対する木っ端文民どものやっかみなどは全く取るに足らない。道理の分かる連中には間違い無く実力で築いた地位だと理解も得ていよう。結局のところ、そんな俺に寵愛を向ける二人に対しての風聞のみが唯一の懸念だった。
「まぁ儂が総隊長の時分にもそんな輩は少なからず居ったが…背負うものが自分以外にも有ると中々なぁ」
「あんまり気にしない様に私達も言い含めているのだけれど…愛の深さが仇になってしまうのでしょうね」
「いやそれもちょっと違…ってなにしれっと参加してんの」
「形式に則った請願の儀は済んだわ、御歓談の邪魔になってはいけないと思って抜け出して来ちゃった」
どうせ何を話しているか私にはわからないし、と付け加えたリズはそのまま膝上に滑り込んでくる。バランスを崩さぬよう横抱きに支えながら眉間に寄った皺を揉み解していると隣の曾祖父は堪えきれぬと言った様子で吹き出した。
「おい爺ぃ…何が面白いか言ってみろ」
「いや、何、悩み相談に真剣に取り合ってやろうと思っていた自分が阿呆らしくなってな…幸せそうで何よりだよ、坊や」
「やめろぃ!正しく『年配者特有の生暖かい目』で見るんじゃねぇ小っ恥ずかしい!」
その後、リズの後を追う様にしてやってきた義妹友人たちにさんざ囃し立てられた俺は曾祖父同様全く悩むのが馬鹿らしくなってしまった…
___
「あっ、ひいさまズルい、私も義兄さんのお膝乗りたい」
「アンタ…公衆の面前で堂々と複数の女性侍らせて恥ずかしくないワケ?」
「かーっ!これだから出世頭はなぁー!」
「…な?儂があれこれ言うてやるでもなく人には恵まれ取るじゃあないか」
「この扱いでか!?この言い種をして『恵まれてる』と抜かすか!?」
0
あなたにおすすめの小説
どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~
さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」
あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。
弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。
弟とは凄く仲が良いの!
それはそれはものすごく‥‥‥
「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」
そんな関係のあたしたち。
でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥
「うそっ! お腹が出て来てる!?」
お姉ちゃんの秘密の悩みです。
私が王子との結婚式の日に、妹に毒を盛られ、公衆の面前で辱められた。でも今、私は時を戻し、運命を変えに来た。
MayonakaTsuki
恋愛
王子との結婚式の日、私は最も信頼していた人物――自分の妹――に裏切られた。毒を盛られ、公開の場で辱められ、未来の王に拒絶され、私の人生は血と侮辱の中でそこで終わったかのように思えた。しかし、死が私を迎えたとき、不可能なことが起きた――私は同じ回廊で、祭壇の前で目を覚まし、あらゆる涙、嘘、そして一撃の記憶をそのまま覚えていた。今、二度目のチャンスを得た私は、ただ一つの使命を持つ――真実を突き止め、奪われたものを取り戻し、私を破滅させた者たちにその代償を払わせる。もはや、何も以前のままではない。何も許されない。
悪役令嬢が美形すぎるせいで話が進まない
陽炎氷柱
恋愛
「傾国の美女になってしまったんだが」
デブス系悪役令嬢に生まれた私は、とにかく美しい悪の華になろうとがんばった。賢くて美しい令嬢なら、だとえ断罪されてもまだ未来がある。
そう思って、前世の知識を活用してダイエットに励んだのだが。
いつの間にかパトロンが大量発生していた。
ところでヒロインさん、そんなにハンカチを強く嚙んだら歯並びが悪くなりますよ?
敵に貞操を奪われて癒しの力を失うはずだった聖女ですが、なぜか前より漲っています
藤谷 要
恋愛
サルサン国の聖女たちは、隣国に征服される際に自国の王の命で殺されそうになった。ところが、侵略軍将帥のマトルヘル侯爵に助けられた。それから聖女たちは侵略国に仕えるようになったが、一か月後に筆頭聖女だったルミネラは命の恩人の侯爵へ嫁ぐように国王から命じられる。
結婚披露宴では、陛下に側妃として嫁いだ旧サルサン国王女が出席していたが、彼女は侯爵に腕を絡めて「陛下の手がつかなかったら一年後に妻にしてほしい」と頼んでいた。しかも、侯爵はその手を振り払いもしない。
聖女は愛のない交わりで神の加護を失うとされているので、当然白い結婚だと思っていたが、初夜に侯爵のメイアスから体の関係を迫られる。彼は命の恩人だったので、ルミネラはそのまま彼を受け入れた。
侯爵がかつての恋人に似ていたとはいえ、侯爵と孤児だった彼は全く別人。愛のない交わりだったので、当然力を失うと思っていたが、なぜか以前よりも力が漲っていた。
※全11話 2万字程度の話です。
婚約破棄された令嬢が記憶を消され、それを望んだ王子は後悔することになりました
kieiku
恋愛
「では、記憶消去の魔法を執行します」
王子に婚約破棄された公爵令嬢は、王子妃教育の知識を消し去るため、10歳以降の記憶を奪われることになった。そして記憶を失い、退行した令嬢の言葉が王子を後悔に突き落とす。
男として王宮に仕えていた私、正体がバレた瞬間、冷酷宰相が豹変して溺愛してきました
春夜夢
恋愛
貧乏伯爵家の令嬢である私は、家を救うために男装して王宮に潜り込んだ。
名を「レオン」と偽り、文官見習いとして働く毎日。
誰よりも厳しく私を鍛えたのは、氷の宰相と呼ばれる男――ジークフリード。
ある日、ひょんなことから女であることがバレてしまった瞬間、
あの冷酷な宰相が……私を押し倒して言った。
「ずっと我慢していた。君が女じゃないと、自分に言い聞かせてきた」
「……もう限界だ」
私は知らなかった。
宰相は、私の正体を“最初から”見抜いていて――
ずっと、ずっと、私を手に入れる機会を待っていたことを。
大丈夫のその先は…
水姫
恋愛
実来はシングルマザーの母が再婚すると聞いた。母が嬉しそうにしているのを見るとこれまで苦労かけた分幸せになって欲しいと思う。
新しくできた父はよりにもよって医者だった。新しくできた兄たちも同様で…。
バレないように、バレないように。
「大丈夫だよ」
すいません。ゆっくりお待ち下さい。m(_ _)m
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる