推しカプの皇太子夫妻に挟まれ推し返されてしんどい

小島秋人

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第十五話

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 ~第十五話~

 『あぁ!私ってなんてひどい女!』

 此れ程に陳腐な悲嘆が有るものかしら。思わず頁を捲る手を止めてしまう程、その文言は本当に文字通り酷い物に感じた。普段とは趣の異なる、滑稽じみた展開を楽しめると噂の書を手に取ってみたは良いものの、正直に言って自分の好みには合わなかった。

 寝台に仰向けに寝返りを打ち、栞も挟まずに閉じたそれを胸に当てた。なぜかしら、先程目に留まった言葉が繰り返し脳裏を過る。

 『わたしって、なんてひどいおんな』

 声には出さず、唇だけを動かし唱えてみる。陳腐と一蹴した筈の言葉は、意外な程容易く胸に落ちてきた。


 旧友から送られてきた手紙には私達の間にだけ通じる符丁が其処彼処に鏤められていた。曰く、彼女は人知れず周囲を敵に囲まれるような窮地に在るらしい。

そして

 『貴女の天使をきっと連れてきて下さい。ただの道案内としてではなく、噂に聞くマグニシアの勇士の姿をしかと目に焼き付けたいと望んでいるのです。』

 あの子に、勇士たらんとする"なにか"を求める心算でいる。

 あの子はきっと断らない。
『友の望みは私の望み』
 そう言って、私の制止すら振り切って事を成すだろう。

 『私ってなんてひどい女』
 私もこの悪女の様に、主観でしか見ない自分の有り様に酔えてしまえれば楽になれるのかしら。

 ―――

 「…話は概ね理解した、要は獅子身中の虫を払って欲しいってぇ『お願い』なわけだ?」
 "なにか"について皇女から説明を受けたユーリは凡そ友好国の皇族に向ける物ではない含意を隠すことなくマギーを睨み付けた。

 「『払う』と言う表現は此方の意図に沿いませんね…より明確に言うなら彼奴めらを『潰し』たいのです」
 対するマギーは視線に臆する様子もなく、それでいて語気を強めるでもなく淡々と言葉を返す。

 「言うは易いがな…」
 「重ねて言うなら『お願い』ではありません、連合に属する貴国に対する『要請』です」
  「そらそうだろうよ、態と言い換えたんだが聖女サマは存外抜け目無ぇじゃねぇか」
 「余計な問答をする気は有りません、貴方が聖地に戦力を抱えていることも把握した上での要請であると申し沿えておきます」

 思わずと言った様子でユーリが腰を上げかける。そのわずかな動きを見逃さず、呼応するようにマギーの傍らに控えていた聖騎士が前に歩み出た。右手は腰に下げた剣の柄に添えられている。

 「…そこまで調べがついてんなら、反抗の意思の有無にも当然見当がついてらぁな」
 「無論です、でなければ…」
 「あぁあぁ分かった、無駄な問答はしたくねぇんだろ?」
 もう結構と言わんばかり手を振りながらユーリが座り直すのを見て聖騎士も先程までの立ち位置にピタリと戻った。

 傍らで会話を聞いていた私自身、刹那に悪寒が走りこそしたがすぐに杞憂と思い直した。疑いを持つ相手に対しておいそれとこのような案件を持ち掛ける彼女ではないのだ。ところで…

 「あの…腰を折って申し訳ないのだけれど…ユーリ?」
 「あぁ、いや、彼処に居るのは戦力って言うかなんて言うか…」
 「『森の賢人』、そう呼ばれる亜人種の戦士たちに一方的に忠誠を誓われているのですよね?」
 「本当に良く調べてらぁ…」
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