霧開けて、明暗

小島秋人

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2020/06/03

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2020/06/03

 人生のうち半分とまでは言わないまでも、三分の一は疾うに越して思いが募れば時折には拗らせる事も間々ある物で

 「手の内に在った内に死んでくれたのは僥倖じゃあないか」などと

 我ながらマントル堀り抜ける程低俗な下卑た人非人じみた悪意が思考の隅で首を擡げる有様に脱力し自己嫌悪すら失せ果てる頃合いがまぁ少なくない。

 「綺麗な内に」と付け加えないだけマシかと思い直してもみる物の、抑容姿に惹かれたのは出会った当初の事であったと記憶している。

 無論、繰り言にはなるけれど贔屓目を抜きに容姿端麗な点に文句の付け様もない。それにしても、加齢による変化を受け入れ楽しむだけの愛情は持ち合わせていた筈だった。

 ビール腹に禿げ散らかした加齢臭漂う中年になろうが、老いさらばえ皺の寄った爺になろうが、変わらず愛を囁ける自負は有るんでなかろうか。確証の持ちようさえ今はない当たり我ながら狡猾。

 「後出しでなら何とでも言えるもんねぇ」
 「お前が真っ先に口撃すんのかい」

 茶化してお茶を濁す腹積もりで居るのだろうけれど、そんな遠回しな救済すら手緩いと横槍を差し挟まずには居られない。

 「“もっと口汚く罵られたい”っていうお前の望みはそうそう叶わないと思うべきだね」
 「…何奴も此奴も揃って甘やかしやがる」

 斯様に扱われる内は自傷すら躊躇う小心ぶりを体良く転がされている気がしてならない。

 「へぇ、そんなのが余所にも居るわけ」
 南無三宝、口が滑った。いや、今はそんな悋気に付き合える心境では凡そないんだが。

 「被虐趣味に付き合う奇特な輩もそうそう居るまいよ」
 あぁ我ながら言い訳じみている。
 「それを“甘やかす”って言い回しするわけ?」
 ほれ見ろ通じやしねぇ。

 「一度っきりの話だ、相手も忘れてる」
 そうであって欲しいと言う願望を乗せているのは否定しきれないにせよ、深く関わる気も早々に仕舞い込みたいのだから忘れるに限るのもまた違いない。叶うなら今は未だ殻を閉じて彼への想いを熟れさせておきたい、未だ当分はそれで良い。

 「当分って具体的に何時までさ?」
 「独白に絡むんじゃねぇ、お前が迎えに来るまでだよ」
 「其れ生涯にも成り得るって分かって言ってんのかな?」

 葛藤にも値しない愚問に応える気も起きず不貞寝を決め込む事とした。そんな事に思い悩むくらいならこんなに思慕が根腐れ起こすわけねぇだろうが。
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